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リーダーたちの構想 第17回
フーン・ライ

ホーチミン市1区のトレーニングレストラン「フーン・ライ」を開店して18年。貧困に苦しんだ何十人もの若者がここを巣立っていった。ベトナム人スタッフの人材活用にも役立つ話を、オーナーの白井尋氏が語る。

絶対に伸びるからほっとけない

―― 料理がどれも美味しいですね。

白井 ありがとうございます。最初からメニューはベトナムの家庭料理と決めていました。ベトナムの文化を大切にしたかったからで、メニューの9割は開店時と同じです。10年、20年で家庭料理は変わりませんし、普遍的なベトナムの家庭料理を紹介して、食べていただきたい。そう思ってずっとやってきました。

―― 開店のきっかけを教えてください。

白井 1999年から孤児院でのボランティア活動を始めました。日本の里親への手紙の翻訳や、市内2ヶ所の施設に毎月物資を届けるなどです。徐々に外部からの支援が増えてきた2010年まで続けました。通い始めたころに強く感じたのは、「潜在能力は高そうなのに発揮できていない子ども」が多く、環境とチャンスを与えたら彼らは変わるであろうという思いでした。

 一方で、お世話になり、居させてもらっているベトナムに、小さくてもいいから好きなこと、得意なことで恩返しがしたいという強い気持ちがありました。

 ここで働いているのは家庭に恵まれない、主に10~20代の若者です。最初は孤児院からの受入れが多く、NGOからの紹介が増えて、現在は口コミでの貧困家庭出身者が多いです。私がすべて彼らに英語とレストランでのサービスを教え、必要があれば語学学校や家庭教師を頼んでいます。学費は全額支援しています。

レストランの内部

―― 採用する基準は何でしょうか?

白井 困っている子どもから優先的に採用します。アルバイトをしたい大学生などは採りません。ただ、どんな子どもでも成長しますし、4~6年で卒業していく子が多いです。転職先はホーチミン市中心部の、外国人向け高級店が多いですね。最低限の目的は食いっぱぐれなく、貧困を脱出させて、ベトナム社会で立派に生きていけるようにすることです。

 家族や身寄りのある者は彼らと一緒に住み、それ以外は家賃を補助しています。学費や家賃補助をコストと考える人もいますが、人財育成であり、必ず報われます。電気代は節約したいなどと思っても、教育の費用で無駄と感じたことはありません。

 お客様は観光客が4割、在住外国人が5割、ベトナム人1割で、日本人が半分。ベトナム人があまりいないのは、意識してそうしているからです。外国人への英語での国際的なサービスを教えるのが目的なので、ベトナム人にベトナム語で接してもあまり効果はありません。

 そのため、テレビ、雑誌、新聞などベトナムのメディアからの取材はすべて断ってきました。また、小さなレストランはそのあり方に見合った市場を決めないと、続けられないとも思います。

レストランの様子

ツールでなく「ヒューマン」だ

―― トレーニングの内容を教えてください。

白井 大切なのは「成功体験の設定・演出」と「好意と敬意」です。トレーニングにはメニューを渡す、ドリンクを持っていく、オーダーを取るなど10以上のステップがあり、現在のステップ以外はさせません。お客様を練習台にはできないからです。ただ、時間はかかっても構いませんし、それを苦労とも感じません。まあ、だから休日がないのですが(笑)。

 オーダーを取るまでに1~2年でしょうか。最初のステップは「きれいに立つ」。次が「お手洗いのご案内」で、最後は難しいお客様のオーダー。トレーニングはOJTの個別指導で、営業時間にチェックしたり、休み時間に教えたりで、ベストタイミングで指導しています。グループレッスンでは成果に限りがありますし、座学では効果がありません。

 お客様には出身地域や年齢、来店目的などで特徴があります。それを私が現場で判断し、適したスタッフを行かせます。スタッフの教育と顧客の満足を両立させるわけです。例えば、「3番テーブルのお客様がトイレに行かれたから、今のうちにナプキンを畳んで」などと指示します。

 スタッフは一つ一つのサービスを学んでも抜けてしまうことが多いので、私のちょっとしたフォローで実力より30%増しのサービスができることになり、お客様から30%増しの感謝をいただく。この喜びが成功体験となって人を伸ばします。

 ステップの上のスタッフが下のスタッフを教えることも多いです。教えるほうは自尊心が生まれますし、作業の確認もできます。現場全体の文化も生まれるようになります。

レストランのスタッフ
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―― 「好意と敬意」とは何でしょうか?

白井 接客は1回できて終わりではありません。彼らに続けてもらうためには、好意と敬意をずっと持ち続けて対応します。そうでないとスキルを教えたり、やる気を引き出すなどできないのです。ボスである私に礼儀を欠くような行動を取る者もいますが、好意と敬意で確実に変わります。甘んじて負けるのが勝ちなのです。

 とはいえ、以前はイライラして不機嫌な時期もありました。不機嫌になる理由は理想と現実のギャップで、原因のひとつは自分の能力不足、もうひとつは相手とのギャップで、これを埋めるにはマルチアングルが必要です。

 例えば、「わかるでしょ」、「何度も言ったでしょ」と相手を詰めるのは自分を中心に考えているから。仮に自分にAの知識があり、日本人として当然かもしれないけれど、相手はAの知識がない、またはBが彼らの当たり前かもしれない。相手本位で考えれば納得し、平常心も生まれ、改善策も考えられます。

 好意と敬意は私からスタッフへ、スタッフからお客様へ、お客様からスタッフに返り、それがスタッフ同士、店全体へと広がります。

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―― 企業のスタッフ観にもつながるご意見ですね。

白井 日本の企業は「お客様本位」が得意なのに、なぜ社内で「相手本位」ができないのか。ベトナム人はコスパの良いワーカーではなく、仲間であると気付いてほしい。私は日系企業で働くベトナム人に本音をヒアリングする機会が多くあり、ほぼ全員が共通して感じているのは、ある人のこの言葉でした。

「私たちはツールではなく、ヒューマンだ」

 言葉を介さない非言語的コミュニケーションで、国籍、年齢、ポジションを超えて伝わっているのです。企業側もそうですが、せっかく日系企業に入って日本人のボスができたのに、成長につながらないベトナム人もかわいそうです。私は共存共栄がビジネスの、長期的成功の王道だと思っています。

Huong Lai Restaurant
白井 尋 Jin Shirai
大学卒業後、日本で就職した後にベトナムに留学。ベトナム雑貨の輸出業を経て、ボランティア活動の経験から2001年に「フーン・ライ」を開店。孤児院や貧困家庭出身者の職業訓練の場と、外国人で賑わう繁盛店を両立させている。