11月17日、日本で驚異的な人気のAKB48のベトナム姉妹グループ、「SGO48」の1期生メンバー29名が発表された。これまでの道のりと今後の計画を、YAG ENTERTANMENTの山田浩二副社長に緊急取材した。
7627名から選ばれた29名
ホーチミン市で行われたメンバー発表記者会見。ステージの巨大なモニターに合格者が1人ずつ映し出され、当人が登場すると、その度に会場からは拍手が巻き起こった。集まったメディアは約50社と、ベトナムでの注目度の高さを伺わせた。
彼女たちは厳しいオーディションに勝ち残った女性たちだ。ベトナム全土ならびに他国籍の7627名が応募に殺到。350名が書類審査を通過し、面接とパフォーマンスの2次審査で120名が残った。そしてダンスとパフォーマンスの最終審査で選ばれたのが1期生メンバーの29名だ。
一方、主催者として登壇したのはAKB48グループを運営する株式会社AKS、ベトナムでのパートナー企業であるYeah1 Group、両社の合弁会社であるYAG ENTERTANMENTの代表者たちである。どのような経緯でこの3社が登場したのか、なぜベトナムにAKB48グループの海外姉妹グループが生まれたのか。SGO48の広報活動などを担当するYAG ENTERTANMENT(以下YAG)のDeputy General Director、山田浩二氏が語る。
AKB48グループの海外姉妹グループにはジャカルタのJKT48、バンコクのBNK48、マニラのMNL48、上海のAKB48 Team SH、ムンバイのMUM48、台北のAKB48 Team TPがあり、ベトナム(ホーチミン市)のSGO48は海外7番目の姉妹グループとして誕生した。
「ベトナムには成長する経済、若年層の多さ、親日性などとともに、エンターテインメント業界が活況する直前です。急成長が見込めると感じました」
株式会社AKSは海外展開を加速させており、今年大ブレークをしたBNK48の成功は大変な話題となっている。ファーストシングル(CD)は1万5000枚ほどを販売し、この数字はタイの中では少なくないものの、サードシングルが30万枚以上の大ヒットとなる。音楽ダウンロードなどの影響で世界的にCDの売上が落ちる中、タイでも異例の数字であり、今では一種の「社会現象」とも言われている。
現地パートナー企業の条件
その株式会社AKSが今年3月に新たな海外姉妹グループの展開を検討していたところ、日本とASEAN地域ではベトナム、タイ、インドネシア、フィリピン、カンボジア、ミャンマーに拠点を持ち、日系企業の海外事業支援を展開する株式会社ジオブレインの専務であり、海外事業責任者の山田氏と出会う。同社の拠点がありポテンシャルが高い進出先として、山田氏からベトナムを提案。ジョイントベンチャーを組める企業として株式会社ジオブレインが探し当てたのが、Yeah1 Group(以下Yeah1)だった。
Yeah1はTVチャンネルや映画、YouTube等を活用したデジタルネットワークを数多く保有する、ベトナム最大級のメディア企業。ベトナムの若者の多くが憧れる対象でもあり、世界100以上の国と地域にデジタルプラットフォームを提供している。
「パートナー探しには柱があり、1つはエンターテインメントに精通していること。ただし、柔軟な対応が可能な相手でなければいけません」
日本のコンテンツを海外でカスタマイズやローカライズする際、日本側は事業ノウハウやブランド価値を守りながら、パートナー企業をサポートすることになる。しかし、相手側がローカルの市場や視点にこだわりすぎると衝突が生まれ、事業が進まなくなる。そこで、日本が大事にしているものを理解できる、柔軟な思考のパートナーを探すという。
もう一つ大切なのは、アイドルがメジャーになるための露出の機会の確保。この点ではテレビやネットなどのマルチチャンネルを持ち、コンテンツホルダーでもあるYeah1は最適な相手と言えた。
Yeah1は東南アジア各国に進出しているが日本へはまだで、以前にAKB48グループを研究したことがあったという。このような土壌があったためか、ベトナムにおける同プロジェクトが合意に至るのに長い時間を必要とはしなかった。
今年4月にはYeah1、株式会社AKS、株式会社ジオブレインの3社会合が開かれて合意。そして、話題となった今年6月のホーチミン証券取引所への上場直前、Yeah1は6月21日のサンクスパーティで、SGO48事業のスタートを発表する。その後、3社でSGO48のための合弁会社YAGを設立し、山田氏が現職に就任したのである。
Yeah1のCEOであるMr. Nguyen Ngoc Hungは、記者会見で次のように語っている。
「現在までのベトナムの音楽業界において、歌手の能力を最大限に伸ばすプロフェッショナルなアイドル育成モデルはなかった。アイドルの育成においては、パートナーであるAKSに信頼をおいています」
他国に優るスピード感
ここまでもかなりのスピード感だが、ますます加速する。オーディションを告知して8月10日~9月9日に応募を受け付け、書類審査後の10月20、21日が二次審査、11月10、11日が最終審査で、11月17日に第1期生メンバーが発表。3月の発案からわずか8ヶ月だ。
これは他国の海外姉妹グループと比べても驚異的なスピ―ドであるという。通常であれば、リリースから募集開始までが半年、オーディションの最終審査までが半年、トレーニング後のデビューまでが半年程度と、1年半~2年かかるそうだ。
「Yeah1がスピード感を求めていることと同時に、海外姉妹グループの拡大の波に乗り遅れないようにと考えてのチャレンジでした」
しかも、メンバーの何人かは発表会見後に飛行機でハノイに移動し、翌11月18日の「交通安全・ベトナム絆駅伝2018」に参加している。ベトナム絆駅伝には日本からAKB48の「Team 8」のメンバー6人も参加。Team 8とSGO48から2人ずつのメンバーが4人のチームとなって、駅伝を走った(以下、©YAG Entertainment)。
11月21日からは歌やダンスのトレーニングがスタート。ほぼ休みなく年末のデビューまで続くという。山田氏も心配するほどの超タイトスケジュールだが、女性たちは一生懸命に付いてくるそうだ。
そんな彼女たちを選んだ審査員は、基本的に現地の感覚と日本人の感覚を取り入れるべく、ベトナム人と日本人が参加。山田氏もそのひとりだ。選定に当たっては審査員の合計得点のみならず、議論も行われるのだが、「時にはベトナム人と日本人で見事に意見が分かれ、いい意味で白熱した議論となりました(笑)」と山田氏。
その中でも大切にしたのは最終審査でベトナム人審査員の意見を重要視し、現地の評価が高ければ、日本人がそうでなくても合格させること。株式会社AKSのポリシーとして「現地の人のセンスを尊重する」があるからだ。
CDデビューは来年3月予定
メンバー29人を素人目に見ると、「100年に一度のアイドル」や「絶世の美少女」などは見当たらず、「普通の子」が多い(失礼!)。これは必然のようで、AKB48も結成当初は「未完成」であり、ファンには普通の女の子が成長するプロセスを見せていった。また、知名度と実績がない1期生の募集に来るのは、AKB48や日本が好きなどの、多数派とは呼べない女性たちが中心。既に活動している歌手やモデルは様子見をするだろう。
また、欧米では完成されたアーチストを見せるのが一般的で、韓国などでも同様。その中で日本式の『成長していくプロセス』をファンに見せるのは、チャレンジングだったようだ。
「加えてプロジェクトの開始当初は、短期間でのデビューにベトナム側でも不安に思う部分はあったようです」
しかし、このプロセスをもファンに応援してもらうのがAKB48グループの真骨頂。スピードスケジュールの中でも十分な効果を発揮するトレーニングなどの、ノウハウを着実に実施していくことで、短期間でのデビュー実現を目指す。山田氏は「手前みそになってしまいますが」と前置きしたうえでこう語る。
「歌でもダンスでもSGO48メンバーのスキルは非常に高く、ダンスレッスンでの仕上がり具合も予想以上のスピードです」
こうして選ばれたメンバーの平均年齢は17歳。就学している女性も多く、当人だけでなく親にも活動内容を伝える「親子説明会」を開いた。AKB48だけでなくアジアでのAKB48グループの成功の実績、長年培ってきた独自のアイドル文化をベトナムで展開するなどを丁寧に説明し、納得してもらって契約を結んだ。
「また今回、ホンダベトナム様に第1号のスポンサーになっていただきました。オーディションの段階からスポンサーをいただけたことには、大変感謝しております」
今後はトレーニングを続けて、12月末にデビューイベントを開催予定。その後はショッピングモールなどでのイベントやフェスティバルへの参加など、まずはステージが活動の中心になるようだ。Year1が協力したTVやネットでの活動も十分に考えられる。
「日系企業を中心に多くの問合せをいただいており、とても嬉しく思っています。幅広い年齢層の方々にアピールしたいですね」。
来年3月にはCDデビューし、当面はAKB48グループの楽曲をベトナム語で歌う予定。将来的にはベトナムでのオリジナル曲を検討する可能性もあるという。そして時期は未定ながらも、2期生、3期生の募集も計画している。
SGO48のコンセプトは「サプライズ」だ。私たちは成長を見守っていくので、これからもっともっと驚かせてほしい。