Webマーケティングで”心”つかめ!

 SNS、Webサイト、Youtube…若者とスマホユーザーが多いベトナムでは、Webを使ったデジタルマーケティングが盛んだ。商品・サービスの認知を高め、内容を知らせて、ゴールへとつなげる。各社の工夫を参考にしてはいかが?

狙いはタッチポイントの増加 Chibiさんで新戦略をスタート

LOTTE VIETNAM CO., LTD

General Director

山田暁大氏

9月から一気に広告を投下 アイドルでイメージ刷新へ

ロッテベトナムのWebマーケティング(デジタルマーケティング)は2016年に始まった。同社の広告費全体のWebマーケティング比はおよそ、2016年が5%、2017年が14%、2018年が30%弱、2019年が30%と増加中だ。

「それまではテレビCMがほとんどでしたが、製作費や放映料が高額なので、体力と資金があるグローバル企業が圧倒的に強くなります。CMの回数が少ないと視聴者の記憶に残らず、振り返ると費用対効果はさほど良くなかったです」

メインの商品は同社の売上の約6割を稼ぐキシリトールガム。コアターゲットは18~35歳の女性だ。Facebook(FB)のファンページを作り、Youtubeで15秒と40秒の動画を配信し、当然Webサイトも用意。最近では人気アイドルのホアン・イェン・チビ(Hoang Yen Chibi)さんをアンバサダーとして、今年9月1日から一気にFB、Youtube、Webサイト、テレビCMも投下した。彼女のFBのフォロワーは約100万人で、その波及効果にも期待大だ。

広告のピークシーズンには3~5月と9~11月があり、特に後半はテト前の時期でもあり、菓子だけでなく飲料やFMCG商品も良く売れるという。

Chibiさんのキシリトールガムの動画はいくつかあるが、ユニークなのはキシリトールのユニフォームを着て、人の口の中で虫歯菌をやっつけるバージョン。同社のチームが広告代理店のサイバーエージェント(MicroAd Vietnam)を中心に協業し、企画、コンテンツ、デジタル戦略について進めた。

Webマーケティングの第1段階は「認知」と言われるが、同社の調査でキシリトールガムの認知度はハノイとホーチミン市で共に95%。ただ、アカデミックで硬い印象もあるので明るいイメージに変え、同時に虫歯予防という機能性とその信頼性を高めたかった。その結果、口の中を舞台に虫歯菌と戦うコミカルな動画が生まれたという。

「Z世代(15~24歳)用とY世代(25~38歳)用に、2つのバージョンを作りました。音楽、ダンス、表現方法を変えて、登場するベトナム人も各年代に合わせています。こうした撮影がテレビCMより低価格かつ効率よくできることもWebマーケティングの強みです」

検証してPDCAを回す 目標は売上と虫歯予防

同社はWebマーケティングの検証を必ず行う。ピークシーズンの終了後に、認知度、トライアル(喫食経験率)、第1想起率(ガムと聞いて最初に思い浮かぶ物)、1ヶ月以内の購入、3ヶ月以内の購入、虫歯予防のイメージなどについて、ハノイとホーチミン市での調査を依頼している。

2015~2018年の調査ではどれも上昇しており、例えば第1想起率は10%から32%、1ヶ月以内購入は43%から50%、虫歯予防のイメージは37%から46%と変化した。何が、誰に、どのように届いたかを検証して、その要因や今後の施策を考える。いわゆるPDCAを回すのだ。ちなみにキシリトールガムのファンページのフォロワーは、2018年1月の1万4000人弱が2019年10月で10万人以上に増えている。

最終的な目標のひとつは売上を上げること。そのためにユーザーとの「タッチポイント」を増やすことがWebマーケティングの肝であり、そのイメージを残したまま、売場でキシリトールガムを想起してもらう。その工夫としてボトルの上にChibiさんのステッカーを貼った。動画やSNSを思い出させて、商品を手に取ってもらうためだ。

もうひとつの目標は、ベトナムの虫歯罹患率を下げること。キシリトールガムはベトナム歯科医師会が唯一認証しているガムであり、その証明であるRHMのマークを商品やWebマーケティング内で表示している。このマークは多くのベトナム人に知られているそうだ。

「売上はもちろん、虫歯のない社会を作ることも使命と考えます。Webマーケティングでは『虫歯予防になる』と『ベトナム歯科医師会の認証』をシンプルに伝えているつもりです」

最近では、KOL(キーオピニオンリーダー)10人に頼んで、彼らのFBの中でキシリトールガムを宣伝してもらっている。また、オフィスビル、アパート、スーパーマーケット内のモニターで動画を流すことも始めた。

フードデリバリーでも展開 タブレット市場を新規開拓

今後はビジネスパートナーである博報堂ベトナムと協業し、ユニコーン企業のアプリ会社と提携する予定だ。フードの配達サービスと一緒に、キシリトールガム2粒とChibiさんが載ったリーフレットを無料で提供する。知名度があるので安心して受け取って、食後に噛んでもらうためだ。年末からホーチミン市でスタートする予定で、現在は詳細を詰めている段階という。

7月にはキシリトールのタブレットを発売した。子供が飲み込む危険性などでガムにネガティブイメージを持つ人もおり、この2~3年でタブレットの商品数や置かれる棚が増えているという。日本でも20年ほど前にタブレットのブームが始まったそうで、市場の拡大に先手を打った形だ。

「キシリトールのガムを減らさずに、タブレットの新規顧客を増やしたいです。現在はテスト販売で、商品を輸入してパックしていますが、将来的には内製化したいと思っています。日本本社も注目している試みです」

広告費全体のWebマーケティングの割合は来年、30~40%を見込んでいる。キシリトールガムのファンページでは、フォロワーを20万人にすることが目標だ。

「Webマーケティングの進化は日本よりベトナムのほうが速く、既にベトナムのほうが進んでいると思います」


新しいブランドイメージ確立へ こだわりのファンを増やしたい

 

SAPPORO VIETNAM LIMITED

Coporate Strategy Division

Division Director

紺野雅人氏

ビジネスモデルを変更 感度の高いベトナム人男性へ

ベトナムでサッポロプレミアムビールの販売を本格的にスタートさせたのが2012年。当初は無名だった商品の認知度を高めるためにテレビCMを展開し、多くのレストランに大勢の「プロモーションガール」(店頭でサッポロブランドを顧客に推奨する女性)を配した。

しかし、特にホーチミン市での知名度が高まった現在、サッポロベトナムのマーケティングはかなり変化した。既にテレビCMは行っておらず、プロモーションガールのドラスティックな削減も行った。これらの費用に見合うだけの売上が望めないと判断したからだ。代わってPRの主体となったのは、2016年から始めたWebマーケティングである。

「ビジネスモデルを変えて、現在は収益の上昇を優先的に考えています。社内では『リビルド』と呼んでいまして、2018~2019年はその戦略を進めています。ただ、Webマーケティングの効果測定は難しく、今は基盤作りかつトライアルの時期としています」

ターゲットは25~35歳の男性。居酒屋で「モッ・ハイ・バー」を繰り返す層ではなく、ある程度生活に余裕があり、趣味などにこだわりを持つ人。海外の文化に触れていたり、新しもの好きなどの、感度が高い人だ。外資系企業や日系企業で働く人の中にも多いと考えている。

こうした人はSNSのWebマーケティングにぴったりはまるという。日本人のような近況報告だけでなく、C to Cで売買を行うなど、SNSはベトナム人の生活に入り込んでいるからだ。そこでFBを中心にして、紺野氏を含めた社内チームと日系系列のローカル広告会社とで企画を進行している。コンテンツにはサッポロプレミアムが「Celebration beer」と認知されるにふさわしい飲用シーンや、特別な時間・空間という訴求を行っている。

日本ではサッポロの黒ラベルが売れているそうだ。以前から東京都心部では黒ラベルの支持率が高かったのだが、それを支えていたのは「大衆には迎合しない、自分を持った感度の高い人たち」。大人としてのこだわりを訴求し続けたことで、今では若い層にも「自分らしさを表現できるブランド」として広がったという。昨今のベトナムの若者の間にも、同じような考えを持つ感度の高い人たちが広がってきていると強く感じている。

「サッポロプレミアムビールもそのターゲットカスタマーにふさわしいブランドとして訴求し続けていくことで、まずはふさわしいお客様とのエンゲージメントを高めていきたい。それができれば徐々にその他のお客様のファン化も進んでいくと思います。今はサッポロプレミアムビールというと『日本品質のビール』というイメージが強く出てきますが、『サッポロを飲む時代がクールなこと』と思っていただけるようなブランディングを心がけたい」

ポップアップバーと連携 こだわりたいのは「泡」

昨年からホーチミン市内で不定期に、「Sapporo Premium Bar」というポップアップバーを期間限定で開いている。フロアにバーを作って、生ビールとスナックを提供し、その場で最高の状態の生ビールを飲んでもらう。家庭でも同様の美味しさを体験してもらうため、美味しいビールの注ぎ方である「3度注ぎ」も伝えている。

Webマーケティングとも連動しており、約1ヶ月前から告知し、スタートしたらKOLがバーを体験して、その会場の雰囲気やビールのテイストなどを動画で配信している。次回は12月18日~31日に、ホーチミン市のLandmark81で開催する予定だ。

こだわりたいのはビールの「泡」。泡の品質を強調した動画も製作している。未だに大勢のプロモーションガールがビールを注ぐというイメージが根強いようで、それを高品質かつセレブレイティブなビールのイメージに変えたい。ただし、競合が多いベトナムで、マスを狙ってもすぐに購買動機に結び付けるのは難しい。ならば、同じ土俵で戦うよりも、自社ブランドにふさわしい顧客を見つけて、彼らに合った特別な存在としてアプローチする戦略だ。

「認知はあっても、買ってみようと思わせるまでのトリガーがない。レストランやバーのメニュー、スーパーなどの店頭だけでは伝えられない。店に行く前に訴求することが大切です」

FBではFoodyとコラボして作ったデリバリーのコンボセットや、ビングループの店頭キャンペーンなどとのコラボ企画の告知もしており、フォロワーは約34万人に増えた。

また、動画ではユーザーを巻き込むバージョンも試みた。スーパーの中にカメラを入れて、お客さんに「おめでとう!」と言って1ケースをプレゼント。驚く様子や喜ぶ反応を見せるというものだ。ユーザーに自分目線で動画を感じてもらう趣旨である。

イベント開催や社員の配信 プラットフォームを作りたい

ポップアップバーで顧客と接点が生まれても、そこで途切れてはもったいない。そこで永続的な関係を作るためのプラットフォームを、来年から始める予定だ。バーや店舗のリアルな情報、自社社員の顔が見える投稿、顧客同士のコミュニティを作るなどの案もある。

「参考になるのはよなよなビールさんです。SNSなどでファンを集めて軽井沢でツアーを組むなど、バーチャルとリアルをつなげています。私たちもファンの方を呼んで、おいしいビールの注ぎ方を教えるなどしたいですね」

紺野氏はJAL(日本航空)のFBが好きだという。様々な部署の社員が顔を出して、それぞれの活動を明るく投稿しているからだ。顔が見えるので安心感や信頼感があり、きちんと情報を受け取ってもらえる。ここから社員による情報発信を考えたそうだ。

同社ではオフィスビルやショッピングセンターなどのモニターやデジタルサイネージでも広告を出しており、Webマーケティングとそれ以外の割合は半々。来年はWebマーケティングに注力する予定だ。

「リーチやエンゲージメント率などよりも、『誰に刺さっているか』が大切だと考えています。調査では約7割が弊社の望むユーザー層に届いており、今後も色々な施策を打ちたいと思います」


ランディングページで事前登録 FEEL JAPAN 2019の集客法

Kilala Communication Co., Ltd.

Senior PR & Marketing Executive

Ms. To Kim Ngan

ターゲットは会場での購買層 ファンページから特設サイトへ

ベトナム人に日本の文化や観光を伝える人気雑誌『Kilala』。その発行元であるKilala Communicationが毎年開催しているのが「FEEL JAPAN」だ。フード、ショッピング、トラベルの3ゾーンで日本を紹介する大型イベントで、5回めとなる今年8月の来場者は2日間で約3万8000人。そのFEEL JAPAN 2019のWebマーケティングを見てみよう。

目的としたのは無料チケットの登録。当日の入場チケットは5万VNDだが、事前に特設サイトから登録してもらうことで、デジタルチケットが無料で得られる(人数に上限あり)。集客の方法はまずKilalaのファンページ(FB)に人を集めて、そこからランディングページである特設サイトに飛ばせて、無料チケットの登録をしてもらう。

「ファンページでは日本の商品が好きな人、日本に行きたい人を想定して、季節に合わせた日本の観光情報、トレンド、お役立ち情報などを発信しています。フォロワーは約6万人です」

フォロワーには熱心なファンも多いだろうし、5回目となるFEEL JAPANを知る人、来場経験者も少なくない。そこでそれ以外の人向けに、ベトナム各メディアのWebサイトに広告を出した。また、プレスリリースはメディアを含めて100社以上にを送っている。

来場者のターゲット層は、月収1000万VND以上の25~35歳の男女、あるいは家族と一緒に来場する18~25歳の男女。FEEL JAPANの特徴は「その場で買える」ことで、食事はもちろん、旅行のツアーチケット、コスメなどの小物から自動車までが購入できる。

ターゲットの年齢を高めにして月収を設定したり、父母などを含めた家族連れを想定しているのはそのためだ。

成功した動画での集客 登録ボタンはデザイン変更

新規で制作したのはファンページの中に載せるFEEL JAPANの情報と特設サイト。チームはNganさんをリーダーにマーケティング部が5人、デザイン部が2人の合計7人で、開催の2ヶ月前から準備を始めた。昨年は合計6人なのでさほど人員は変わらないが、効果は大きく異なった。

昨年の事前登録者は約2万5000人だったが、今年は約2万8000人に増えた。事前の取材や当日会場で取材するメディアが多くなったためか、来場者数は昨年より約8000人も増加した。なぜこのような結果になったのか。

FBでは15秒の動画を載せて、FEEL JAPANの概要、開催日、開催会場などのシンプルなメッセージで効果を狙った。併せてYoutube用に40秒の「本編」も制作。これが成功したようだ。昨年は15秒の動画のみで再生回数は400回以下だったが、今年は1万回を超えたのだ。多くの人はここから特設サイトへと飛んで行った。

その特設サイトで工夫したことは、まず目的である事前登録の登録ボタンを目立たせること(画面下の「ĐĂNG KÝ NGAY」の部分)。すぐに登録できるとわからせるためだ。実はこの登録ボタンのデザインは、開設時のものと違っている。登録ボタンを押す人の割合が当初の見込みより少なかったので、チームで相談し、より効果的なデザインに変えたのだ。

見比べるとわかるように最初のデザインのほうが派手なのだが、左側の50.000VNDのほうに目が行ってしまうためか、思ったような効果が出なかったようだ。

「このデザイン変更が良かったようで、登録者が増えていきました」

当然だがオフラインを合わせたマーケティングの予算には限りがある。FEEL JAPAN 2019の場合は、「金額は言えませんが、少ないほうだと思います」とのこと。Kilalaという人気メディアを持ち、自社で企画や制作を完結できたのが強みとなったようだ。

予想より若すぎた来場者 データ分析して来年へ

事前登録者も来場者も増加し、Webマーケティングは成功したと言えるが、すべてがうまくいったわけではない。来場者には予想したよりも若者が多く、10代や大学生が目立ったという。アクティブでハングリーな10代の集客はある程度期待できたが、収入が増加している都市部の25~35歳は多趣味になり、会場に足を運ばせるのは簡単ではない。だからこそのターゲティングでもあった。

「来年はオフラインのチャネルを考えて、イベントも30歳前後に合わせた内容に変えるかもしれません」

ただ、若年層は増えたが、売上は昨年よりアップした。全体的に高額所得者層が増加して、単価の高い商品の購入者が増えたためだろうと同社では分析している。メディアとしての『Kilala』が富裕層へもリーチしているのかもしれない。

FEEL JAPANは来年も開催予定。事前登録では個人情報を入力するので、それらをより詳しく分析して役立てるという。1人で5人分までチケットの申込みができるので、2万8000人分はないが、かなりのデータが取得できている。

来年はどのようなアプローチで進めるのかは未定だが、予算があればよいというものでもないらしい。

「予算がいくらでもあったら、ターゲットが喜ぶキラーコンテンツを作ることもできます。有名な歌手や海外のアーティストがステージに出演して、FEEL JAPANをPRしてもらうとか。でも、それでは面白くありませんよね」