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ベトナムビジネス特集Vol133
食べたくなるパン! 日系ベーカリーの挑戦

都市部で増加する洗練されたベーカリー。韓国系など外資系もあり、徐々に増えてきたのが日系だ。食パン、菓子パン、総菜パン、デニッシュ……日本の味はどう評価されているのか? パン作りの工夫とは? まだ歴史の浅い彼らの挑戦を追う。

VIETNAM YAMAZAKI
General Director  鈴木 円氏

海外はベーカリー業態で出店
大切なのは商品の「改廃」

 山崎製パンがベトナムに進出したのは2016年。同年7月30日のホーチミン高島屋の開業と同時に、地下2階にベーカリーを出店した。同社の海外進出は1981年の香港に始まりタイ、台湾と続き、現在では10の国と地域に広がっている。

 日本では工場でパンや菓子を作って配送する製造卸売業が主流だが、海外ではベーカリー店の出店が中心だ。店舗で焼立てのパンを作って販売し、複数の店舗を展開した後にセントラル工場を作る。工場では製造の難しい商品や手間のかかる商品を作って各店舗に配送し、店舗ではこれら工場製品と自店製造の商品を組み合わせて販売する。

 ベトナムヤマザキの最近の顧客は約8割がベトナム人で、残りは日本人を含めた外国人。来店客は平日で1日およそ500人、週末には倍程度になるという。

「一番人気はジャガイモを練り込んだ『ハワイブレッド』(ホール4万9000VND)で、他国と比べてもすごい人気です。他には『チーズソフトケーキ』(3万VND)や『あんぱん』(2万3000VND)なども売れています」

人気の「つぶあんぱん」

 開店当初は「ベトナム人は餡とカレーを好まない」という情報から、あんぱんとカレーパンは日本人向けに少量に留め、自家製カスタードを使ったクリームパンを発売した。しかし、ベトナム人に売れたのはあんぱんとカレーパンだった。

「びっくりしました(笑)。クリームパンはしばらく売れませんでしたが、最近では『クリームドーナツ』の売行きがいいんです」

 同店のパンは100種類ほどだが、売行きによって商品を改廃している。売行きが落ちた商品の規格を変更したり、中止して新商品に変えることで、初年度は約50品の新商品を出し、現在でも年間20~30品を変えている。新商品は日本や他国での人気商品や新しく手に入った材料で作る商品、スタッフの提案商品などだ。

 例えば、アップルプレザーブ(リンゴジャムの一種)が入手できるようになって「エンゼルソフト」(3万6000VND)が、スタッフのアイデアから「自家製バジルソースとエビのタルティーヌ」(5万9000VND)が生まれた。

「どちらも人気商品になりました。当店は固定客のお客様が多いので、お客様を飽きさせない工夫が必要であり、商品の入替えはとても大切です」

「自家製バジルソースとエビのタルティーヌ」

食パンとバラエティが突出
日本の味をベトナムに紹介

 ヤマザキパンではパンの種類をスタンダードな「食パン」、「バラエティブレッド」、「菓子パン」、「サンドイッチ」、「ドーナツ」、「惣菜パン」など9種類に分けており、ベトナムでは食パンとバラエティの占める割合が約4割と突出している。

「普通は10~15%程度ですから、日本ではまず考えられません。固定のお客様が増えるのはやはりうれしいですね。スライスサービスをしており、食パン類は1日に600個以上スライスします」

 パン作りに使う材料は特別な物を除いて現地調達。安価で安定的に、いつでも購入できるからだ。しかし、品質選びにはかなり苦労しており、入手できない材料も多く、時々の事情にも左右される。例えば、ハワイブレッドにはジャガイモを乾燥加工したポテトフレークを使っていたが、輸入できなくなって今は生のジャガイモをふかして入れている。

 また、ベトナム独自の商品もあるが、パンの味は基本的に日本と同じだ。つまりは日本人が美味しいと感じる味なのだが、それはベトナムにまだ「我々日本人が考えるパン文化」が育っていないことによる。そこで日本のパンの美味しさを知ってほしいと考えた。最近では、ヤマザキのパンの味を知るスタッフが成長して、少しづつ変わってきた。

「ここ2年ほどはベトナム人スタッフからの新製品の提案が増えてきました。ただ、最終的な決定は私が判断しています」

 スタッフは店舗、オフィス、外販用製造所(後述)を合わせて約50人。店舗スタッフにはパン・洋菓子学校を卒業した者もいるが、実務は初めての人も多く、店舗の厨房で実地に作業しながら仕事を覚えていく。1人前になるのに1年以上はかかるそうだ。

「手に職が付く、独立の夢がある、といった理由もあるでしょうが、パン作りが好きなんでしょうね。平均年齢は25歳くらいで皆若く、真面目で礼儀正しく、一生懸命です」

パンを焼くスタッフ

外販用の製造所をスタート
もっとパン文化を広げたい

 出店して5年。新型コロナ禍前のベトナムの経済成長は毎年6~7%、特に食品小売は12%前後成長しており、ヤマザキの業績も同程度の推移で向上しているという。主な要因は顧客数の増加もあるが、それ以上に1人当たりの客単価の上昇が大きい。

「パンの価格は日本と同じくらいですから、当初はベトナムの方には中々買っていただけませんでした。ベトナムの生活水準の向上に連れてパンの売上も伸びているように思います」

 今年1月にはロンアン省のKIZUNA3工業団地に外販向けの製造所を設立。来店が難しいお客様やコンビニエンスストアからの要望があり、ファミリーマートやミニストップ、レジデンスなどへの配送を始めた。現在では15品ほどを1日1000~1200個作っている。

 鈴木氏によると、日本人が週に平均5~6食のパンを食べるとすると、ベトナム人はバインミーを除いて、週に1回もパンを食べない人もいる。つまり、パンに対する概念が違うし、そもそも我々日本人の言うところのパンを食事代わりにすることは少ない。

VIETNAM YAMAZAKIの店内

「そんな方々がヤマザキのパンを食べて、『こんなに美味しいのか』とほめてくださり、『うちの近くに店を作ってよ』とお願いもされます。今年は広くお取引先やお届け先を増やして、将来は2号店をはじめベトナムの各地に展開したいですね」
店舗情報
Yamazaki Bakery Vietnam
B2, Takashimaya Vietnam, 92-94 Nam Ky Khoi Nghia St., Dist 1, HCMC
028 3925 0373



岡野食品ホールディングス
取締役 経営企画室 室長 改発博信氏

帰国後の実習生のために
アドバイスは2ヶ月の市場調査

 近畿や中国地方を中心に数多くのパンを製造販売する岡野食品は、「コンセルボ」、「ククポーレ」、「石窯パン工房マナレイア」などのベーカリーチェーンを展開する。その総数は直営店とフランチャイズ(FC)店を合わせて約140店、近年注力しているのが「石窯パン工房マナレイア」だ。

 このマナレイアをモデルに、最も古いブランドである「コンセルボ」の名前で出店したのが「Conservo Vietnam」。2020年2月1日にホーチミン市で開店し、同社初の海外事業となった

「石窯は取扱いが難しいなどの理由で用意できませんでしたが、仕込み(生地作り)からこだわって良質の材料を使い、時間と手間を掛けて焼き上げる製法は日本と同じです」

厨房で働くパン職人

 岡野食品はベトナム人の外国人技能実習生(実習生)を6年前から採用しており、現在もベーカリー2店舗で計9人が働く。帰国した実習生の働く場所を作りたいと考えていた頃、イオンモール・ビンタンが2016年に開業するとの情報が入ってきた。改発氏は社長と共にホーチミン市へ行き、出店説明会に参加。すぐにでも契約したかったのだが……。

「振られました(笑)。イオンさんからは自分たちで立ち上げてほしい、まずは2ヶ月間の市場調査をしてはどうかとアドバイスを受けました」。

 改発氏は2回目の渡越で、2015年8月から約2ヶ月間ホーチミン市に滞在。知合いは皆無で英語も話せない中、イオンや日系企業などに助けられながらネットワークを広げていく。その中で出会ったのが、数多くの日系企業を誘致しているロータスグループのLe Van May社長だった。

 独資での出店は難しいと考えていた同社と、日系ベーカリーの誘致を望んでいたMay氏は徐々に話を進めて、2017年にベトナム進出が決定。ただ、ホーチミン市の家賃上昇などで物件探しに時間がかかり、立上げに3年ほどが必要となった。

カフェメニューからヒット商品
売上第2位はカレーパン

 コンセルボベトナムで販売するパンの種類は70弱。日本と同じ品揃えを予定していたが、現地でのマーケティングと材料調達を考えて、7割は日本のレシピ、3割は材料や形の変更といったアレンジレシピとした。

 例えば、ハンバーガー用の冷凍パテがないために生まれたのが「焼肉バーガー」(現在は販売していない)。焼肉好きのベトナム人に合わせて、薄いバラ肉をフライパンで炒め、カフェのセットメニューで売り出した。11万5000VNDと価格は高めだったが話題となった。

 日本の店舗内にカフェはないがベトナムでは併設。売上の半分を目指してカフェメニューを充実させた。その効果からか、トーストメニューとして提供する「食パン」(4万9000VND)が売上げトップとなった。

ビーフや野菜が入った「カレーパン」

 2番人気は「カレーパン」(3万8500VND)。ベトナム人はカレーを食べないとの情報があったが、実は日本の実習生たちの大好物。「ベトナムにないので売れますよ」とのお墨付きをもらっていたのだ。3番目は薄くしたチョコのシートを巻き込んだ「食パンチョコレート」(7万1500VND)。食パンには他にも「ライ麦」、「全粒粉」、「ブリオッシュ」などがあって種類が豊富だ。

「もうひとつ、シフォンケーキ(6万VND)も売れているんです。日本での自信作です」

自信作の「シフォンケーキ」

 商品のトッピングやメニュー開発には現地ベトナム人スタッフの意見も入る。「コショウをもっと効かせたい」、「チーズをたっぷり」、「味付けが甘すぎる」、「塩気が強い」……。ただ、「日本のパン」から外れそうになるとブレーキをかけている。

「ピザの上に青みを付けるため、パクチーを載せたいという提案がありました。強烈な風味で弊社の味が消えてしまうので、却下(笑)」

見えてきた多くのハードル。
カフェやレストランへの卸も

 メインのターゲットはある程度の収入がある20代後半~30代のベトナム人。オープン当初は日本人とベトナム人の比率が半々だったが、現在は日本人40%、ベトナム人55%、韓国や欧米系が5%。

「ベトナム人は初めて見る日本のパンに中々手を伸ばしてくれません。特に具材や中身の見えない商品は難しい」

 そのため、ベトナム人スタッフがパンを切るなどして中身を見せて撮影し、FacebookやポスターでPR。彼らスタッフは約15名で、ベーカリーチームとカフェチームに分かれる。パン作りは日本の店長やマネジャーが開店の前後6週間ほどで教えており、1人で任せられるまで1ヶ月程度かかるそうだ。

 ベトナムでは日本では当たり前に使う半製品や、材料や具材になるフィリングの入手が難しい。上記の冷凍パテや練乳クリームなどで、練乳クリームであれは煉乳、バター、砂糖をミキサーで混ぜて製造している。こうなると下準備の作業が増えて、仕事の効率も落ちてしまうのだ。

 それでも、ベトナムで「食パンの文化を根付かせたい」との思いが強い。カフェに多くのトーストメニューを用意したのもそのためだ。オープントーストの普及に時間は掛かるかもしれないが、喫茶店でトースト、卵料理、コーヒーなどのセットを食べる、日本の喫茶文化を楽しんでほしいと語る。

Conservo Vietnamの店内

 昨年2月の新型コロナ禍で開店し、売上は伸びているが目標には届いていない。イオンへの出店はまだ考えず、4月からはデリバリーを始めた。卸業のライセンスがあるため、今後は同業のカフェやレストランへのパンの卸しも視野に入れる。

「ベトナムでは可能性と同時に難しさを感じました。これからも様々なことを見極めていきます」
店舗情報
Conservo Vietnam
13 Ly Tu Trong St., Dist 1, HCMC
028 7308 8801



Grand Marble Vietnam
Management Director 竹川洋之氏

海外フランチャイズ1号店
マーブルデニッシュを再現

 1996年に京都で創業したグランマーブルが作る「マーブルデニッシュ」。生地を幾層にも重ねて、油脂や食材を織り込んで焼き上げる。切り分けると美しいマーブル模様が現れるのが特徴だ。

 そのベトナム1号店が2019年9月、ホーチミン市で開店した。実は海外フランチャイズ(FC)の第1号店であり、運営会社は大阪のパッケージメーカー、ナガイパッケージ。竹川氏はその営業部本部長を務める。同社は中国、タイに続いてベトナムに進出し、2016年にNAGAI VIET NAM PACKAGEを設立。大手日系メーカーのパッケージを生産している。

「2018年6月にグランマーブルの社長さんと会う機会がありました。国内のリスクヘッジから海外進出を考えていると聞き、ベトナムを推薦したのです」

 ナガイパッケージの業績は順調だが、余裕のあるうちに新規の別事業を始めたいと考えていた。翌7月末に社長をホーチミン市に案内し、意気投合して11月に契約。2019年2月から物件を探し、4月から工事と施工、9月15日にオープンした。

 一方、日本ではデニッシュ作りが伝授されていく。ナガイベトナムの日本人社員が日本のグランマーブルで約2ヶ月の研修。1日16時間でほぼ休みなしだったという。その彼がベトナムに戻って、現地スタッフにノウハウを伝えていった。

 竹川氏は毎月のように日本とベトナムを往復。「優秀な味覚センサーの持ち主」という彼はベトナムと日本のデニッシュを食べ比べ、試作品を日本に運んでグランマーブルに試食を依頼。日越の当事者同士はLINEなどでやり取りして、「再現性」を高めていった。

「パン工房は店舗の裏にあり、グランマーブルに設計図を見せて確認してもらいました。日本と100%同じ衛生管理です」

Grand Marble Vietnamの店内

長時間の手作業が生むもの
中間層に日本の味覚を

 マーブルデニッシュの作り方は独特だ。小麦粉、油脂、卵などで生地を作り、カットして、寝かせて、「三つ折り」にする。三つ折りは生地を折って2枚に重ね、さらに折って4枚に……を繰り返して128枚に重ねる作業だ。時折生地を寝かせるが、その総時間が長いために完成まで2日間。まとまったオーダーに対して「最低で2日前にご注文を」としているのはこのためだ。

工房で働くパン職人

 次に形作り(成形)で、カットして編んでいく。そして金属の型に入れて発酵させる。キャラメルや餡などの材料が入ると時間がかかり、発酵に4時間かかる場合も。そして焼き上げてから自然冷却し、最後にラッピング。発酵からラッピングまで8時間もあり、こうした手間が深い味わいはもちろん、14日間という長い賞味期限を生み出している。

「合成保存料など一切使わずにこれだけ日持ちすることが、デニッシュを選んだ大きな理由です」

 一般的なパンは賞味期限が数日なので多くのロス(廃棄)も出るが、2週間あれば販売予測から製造スケジュールが組みやすく、コストダウンにもつながる。

 ただ、温度や湿度で発酵状態などが1本(1斤)単位で変化し、サイズ、焼き具合、色、形などで細かな品質基準がある。また、仮に味は同じても、「食感」や「ふわふわ感」といった風合いに差が出る。これらを1本1本調整していくのが職人の感覚であり技なのだ。

「味は日本と同じで、ベトナム人に合わせていません。小麦粉などの材料は基本的に日本から輸入しています」

 商品はスタンダードの「プレステージ」で1本22万VND。ダントツ人気の「メイプルキャラメル」は24万VND。30万VNDの商品もあり、購買層は中間層かそれ以上だ。そのため幅広い庶民の味覚は意識せず、世界の美味を知る顧客に日本の味わいを提供している。

焼き上がったばかりのマーブルデニッシュ

数多いベトナムオリジナル
新たなビジネスも計画中

 同店には「ベトナム店限定商品」が多く、アイデアを出すのは主に竹川氏だ。1番の売れ筋商品である「4種バラエティーパック」(25万VND)も同様で、4種類のデニッシュを4分の1ずつ切って包装した。日本では始めていない試みだが、多彩な味が楽しめると好評だ。

 「ペッパーチーズベーコン」はグランマーブルの「チーズ&ベーコン」のレシピを元にした、初めてのベトナム仕様商品だ。固形のコショウが練り込んであって、ピリリとした風味が広がる。

「十分に辛いと思うのですが、ベトナム人のお客様からはもう少し辛さが欲しいという意見も多く、試行錯誤の最中です」

 現在の客層はベトナム人が約半分、残り半分は日本人と台湾人がほぼ同数で、台湾人が多いのは本国でグランマーブルの知名度が高いためだ。2020年2月までは開所式などパーティでの贈答用として、日系企業からの大量注文が多かった。しかし新型コロナで法人需要が減り、現在は個人客が主流となっている。

「販売本数と販売回数を調べると、1人平均で約1.4本購入されています。ご家庭でお子様などと食べているのではと推察しています」

ホーチミン高島屋での販売

 今でも新型コロナの影響は大きいが、2020年12月~2021年2月の売上は前年同期比を上回り、徐々に回復している。不定期で開催するホーチミン高島屋での販売も好調で、中部や北部への遠距離配送もスタートさせた。新しいビジネスも始まりそうだ。

「グランマーブルのプライベートブランドとしてコーヒー、チョコレート、雑貨などをOEMで作り、ベトナムと日本での販売する計画です。先日サンプルが上がってきました。デニッシュが食べられるカフェも出したいのですが、今のところは夢かな(笑)」

店舗情報
Grand Marble Vietnam
The Manor 1 91 Nguyen Huu Canh St., Dist. Binh Thanh, HCMC
028 2250 8087