ミン・トゥンさんは、ハノイで3ベッドルームの家を借りて2ヶ月が経ち、ルームシェアしてくれる人をようやく集めたが、突然大家から家が高値で売れたので家から立ち退くように要請された。
「その知らせを聞いた時には眩暈がしました。腹も立ちましたし、ルームシェアしてくれた人たちに申し訳いない気持ちにもなりました」と25歳のミン・トゥンさんは話す。
昨年、トゥンさんは同郷の友人たちとシェアするために家を借りた。3か月前に大家から突然、家が高値で売れたので立ち退くようにと言われた。トゥンさんたちは、バラバラになって別の滞在先を探した。トゥンさんは、コウザイ区の小さな路地にあるアパートを1年間の契約で月700万VNDで借りることができた。その後、トゥンさんは、ネットでルームシェアする人を5人募集した。
その家は、長年空き家だったので入居前に数人で手分けして掃除する必要があった。長期滞在の予定だったので、エアコン、ベッド、キャビネット、給湯器などを購入して設備を整えた。しかし、入居してから2か月後に大家が家の前に家を売却するという張り紙を出し、購入を検討する人たちが下見に訪れるようになった。数日後、大家はこの物件を230億VNDで売却し、10年で110億VNDの利益が出たと伝えてきた。そのため、トゥンさんたちは1ヶ月以内に退去しなければならなくなった。
2023年の初めごろ、トゥイ・リンさん(25歳)は、ハノイ市バーディン区にあるマンションの2ベッドルームを年間9600万VNDで借りた。2024年8月になって、リンさんは住んでいる家が売却されたので10月までに退去するように言い渡された。契約に基づき、大家は、リンさんに家賃3か月分と1000万VNDの補償金を支払った。「家が40億VND近くで売れたんですから総額3400万VNDの出費など痛くもかゆくもないのでしょう」とリンさんは話す。
リンさんやトゥンさんのように都心部の賃借人だけが、このような状況に追いやられているわけではなく、ホアイドゥック県アンカイン村のゴック・マイさんとその妹も同じような状況に陥った。「大家さんはお金はそんなに必要ないし、郊外なので簡単には売却できないと話していたので、長期で借りる契約をしました」とマイさんは話す。
しかし、2024年に入って不動産価格が上昇すると、大家は家を買いたいという人を頻繁に連れてくるようになった。その年の6月、大家は物件を25億VNDで売却した。
ハノイで中級賃貸物件の仲介業を務めるグエン・ティ・トゥイさんは、大家がデボジットを補償してでも家を売却するという動きが2024年から急激に増えたと話す。
この現象についてトゥイさんは、住宅価格が継続的に上昇し、投資家が家の購入や売却の動きを活発化させていることが理由だと指摘する。価格上昇を待っている間は家を賃貸に出し、チャンスが来れば即売却する。「運が悪いとそういう物件にあたります。賃借人に対する数百万VNDの補償金など売却益の数十億VNDから見れば微々たるものです」とトゥさんは話す。
年末が近づくと不動産市場がより活発化し、住んでる家が突然売却されて路上に放り出される人々が今後さらに増える可能性がある。「私の顧客の中には1年で3回引っ越した人もいます。住んでから数ヶ月すると大家から売却するので立ち退くように言われるのです」とトゥイさんは話す。
2024年第3四半期のハノイ不動産市場に関するサヴィルズの最新レポートでは、不動産価格は2024年初頭から9か月連続で上昇している。新築物件は前四半期から6%、前年から28%上昇しており、中古マンションの価格も前四半期から10%、前年から41%上昇している。
2020年以降、市場の不動産価格は毎年平均17%上昇している。
不動産専門売買情報サイトのBatdongsan.com.vnによれば、2024年第3四半期にフンイエン省やハノイ市など北部の一部地域で土地と住宅の価格が局地的に上昇した。ハノイ市のドンアイン県、ホアイドゥック県、タインオアイ県などでは土地の価格が53~90%も上昇した。
ベトナム不動産仲介協会(VARS)のグエン・バン・ディン会長は、市場のバランスが崩れ需要が供給を上回るとテナントの立ち退きや突然の家賃値上げなどの問題が発生すると指摘する。
実際のところ、現在の不動産は富裕層や投資家にしか購入できない物件ばかりだ。低所得の労働者は、ハノイやホーチミン市のような大都市で手頃な価格帯の賃貸物件が無くなることで最も大きな影響を受ける。
販売価格の上昇を受けて賃貸相場も上昇している。2024年1月から9月までにハノイのアパート賃貸の利回りは4.6%となり、ホーチミン市は4.1%、全国平均も4.5%となった。
Batdongsanの2024年不動産消費者心理報告書によれば、賃貸住宅の需要がここ数年で急激に増加している。このうちマンション需要が38%でトップとなり、次いで一軒家、下宿となっておりそれぞれ20%と19%となっている。
家賃は日に日に値上がりしており、トゥンさんのような低所得者は悲惨な状況にある。ここ数日、トゥさんたちは、以前と同じくらいの家賃で、購入済みの家具を有効活用できる新たな物件を探している。
「家賃相場は、不動産価格と同様に上昇しています。地下にある30平米のスペースを大家が修理して2部屋に分けた家具なしの物件でも家賃は650万VNDもします」とトゥンさんは話す。
「手ごろな価格の物件は職場から遠く離れています。少し近い物件は価格が高騰しています。私たちはいつも大家が家を売るのを止めてほしいと願っています」とトゥンさんは話す。
リンさんは、新しい住居を見つけるために低価格のアパート物件を探している。リンさんは、ドンダー区、コウザイ区、バーディン区などでは2ベッドルームで1000万VND以下の物件を探すことは難しいと気づいた。リンさんは、家賃が安くあまり買い手がいなさそうで追い出される可能性が低い郊外の物件を探してみるつもりだ。
VARSのグエン・バン・ディン会長は、不動産価格の上昇によって賃借人が賃貸住宅から追い出されることを防ぐためには、当局や管理機関の関与が必要だと指摘する。法律の新たな条文を活用し、公営住宅プロジェクトと手ごろな価格の住宅を促進するための解決策を探す必要がある。
物件の供給を増やせば需要圧力が軽減され、不動産価格のバランスがとれるようになる。一方で、マクロ的な管理方法を検討することも必要であり、正しい方向性で不動産課税をおこなうことは、投機を抑え、社会のとって有益な行動を促進させる。
「賃貸相場を安定させるべきだというスローガンを叫び続けても、目先の利益のことを考えている大家は誰も従わないでしょう」とディン会長は述べた。
トゥンさんたちは、新たに借りる家を見つけるためにあらゆる場所を探している。もし手ごろな価格の物件が見つからなければ、高いとは分かっていても地下の物件を借りるしかない状況だ。
出典:2024/10/11 VNEXPRESS提供
上記記事を許可を得て翻訳・編集して掲載