1月26日にJCCH(ホーチミン日本商工会議所)が主催するウェビナー「治安情勢&最新の出入国規制等」が開催された。ここでは第1部の「ベトナム治安情勢と安全対策について」をお伝えする。
被害が多い引ったくりとスリ
第1部の講師は在ホーチミン日本国総領事館(総領事館)の高木陽平領事。講演の内容は「犯罪被害」、「テロの脅威」、「交通事故」、「新型コロナ・病気」で、具体的な事例と被害への対処法が語られた。
最初は「犯罪被害」。ベトナムで多い犯罪は引ったくりとスリで、実際に被害に遭った動画が流された。女性2人の近くに何度も現れる同じバイク。女性が肩から下げたバッグを引ったくり、そのまま逃走。次は夜間の映像で、引ったくられた女性は転倒し、意識を失ってしまう。
「引ったくりは生命や身体に危害が及ぶことが多く、転倒して頭部を打ち付け、死亡する場合もあります。注意が必要です」
次はスリの動画。バイクに乗ったまま路上で買い物をする女性を複数のバイクが取り囲み、バイクを接触させて注意を引き、その隙に別の仲間がバイクに置かれたバッグを奪う。女性は気づかないままだ。
また、ベトナムを初め東南アジアで多いのが抱き付きスリだ。写真が紹介され、女性が男性にすり寄り、男性は押し返そうとするが、女性は無理に近づいてポケットのスマホを抜き取る。
「抱き付きスリには日本人も複数人が被害に遭っています」
犯罪者がよく狙うのは高く売れるiPhoneの最新機種。夜間に1人で歩く人、酒に酔っている人を選ぶ。また、被害者の行動や所持品を事前に確認し、ターゲットを絞って行動を監視し、計画的にチャンスを伺う。
そんな路上犯罪から身を守るには、「所持品から目を離さない」、「ハンドバッグなどは車道と反対側に持つか体の前で抱える」、「移動はなるべくタクシー」、「見知らぬ人やバイクには一定距離を保つ」、「周囲の不審者や不審車両を警戒する」などがある。
「安全な距離は2mと言われます。また、警戒するそぶりを見せるだけでも有効です」
狙われやすいスマホに対しては、路上での使用はできるだけ控えて、操作するときは道路から離れる。操作時はしっかりと手に持ち、飲酒時にはなるべく使わない。日本人男性に多いが、ズボンのポケットは狙われやすい。不審者が来たらとにかく離れることが大切だ。
昨年は住居侵入型犯罪も
総領事館が認知している2021年の在留邦人の被害は17件。2020年の46件よりは減ったが、新型コロナによる外出禁止などの影響は大きく、届け出ていない被害もあると考えられる。
手口は引ったくりとスリで半数以上。強盗や傷害事件も複数発生しており、交通のトラブルで暴行を受けたり、喧嘩の仲裁で暴力を振るわれたなどもある。加えて、住居侵入型の窃盗や強盗が起きたことも特徴だ。
日本人の被害例を2つ。日中に在宅していた主婦の部屋に、エアコンの修理を装った犯人が訪れ、刃物で脅かされて金品を奪われた。逮捕された犯人の供述によると、業者として一度訪ねた際に、お金がありそうだと思ったとのこと。
もう1つは、深夜の就寝中に、アパート3階の無施錠の窓から侵入されて、パソコンなどを盗まれた。犯行時は寝ていて気付かなかったとのことで、犯人は捕まっていない。
住宅侵入の実際の映像も流された。無施錠の窓から一軒家に侵入した泥棒が、寝室に眠る夫婦の横で部屋を物色するシーンだ。1時間以上も室内にいたというから、背筋が寒くなってくる。
身の安全が何より優先
住居侵入型犯罪への対処法は、「不在時や就寝時は戸締りを確実に」、「第三者を部屋に入れる場合は現金や貴金属を目に付く場所に置かない」、「業者などが予約なく訪問してきた場合は、所属する会社やアパートのフロントに確認する」、「第三者を部屋に入れる場合は密室で2人にならず、玄関扉などをある程度開放しておく」などだ。
「最も大事なことは身の安全です。犯人に抵抗しないで、周囲の人に助けを求めてください」
被害に遭ったら、クレジットカードの盗難などは迅速に利用を止め、スマホなら画面のロックやサービス停止の手続きを取る。
警察にも通報して被害を届け出る。緊急通報は113番だ。ベトナム語での対応となるので、アパートの管理人やベトナム人の友人にサポートを求めよう。保険請求をする場合は、届出の証明となる「ポリスレポート」が必要になる場合もある。
総領事館にもぜひ届けたい。再発防止の注意喚起になるし、公安に情報を提供して重点的な警戒の依頼もできるそうだ。
「メールで構いません。氏名などご自身の情報と、被害の内容として日時、場所、被害の品、負傷の有無などをお知らせください」
神奈川県の3倍超の死者数
テロについては割愛して、次は「交通事故」。動画ではトラックの荷台に積んだ長い鉄柱が倒れ、バイクの後ろに乗る人を直撃する。鉄柱の無理な積み方も原因だが、ベトナムでは珍しいことではない。
「日本では、都道府県別で2021年の交通事故死者数が最も多かったのは、神奈川県の142人でした。一方、ホーチミン市では474人です。3倍以上も多いのです」
ベトナムでは歩行者は交通弱者という意識が低く、バスやトラックがバイクをはねることも多い。日本人は毎年のようにバイクで転倒しており、重傷事故も発生している。交通事故は他人事ではない。
対策としては、できるだけバイクや車の運転を避ける。運転する場合はヘルメットやシートベルトを確実に着用し、強制や任意の保険に加入する。信号無視や逆走も多いので、道路の横断時は全方向に注意を払う。
ベトナムでは50cc以上のバイクの運転には免許が必要になる。そんな人はいないと思うが、無免許で事故を起こせば法的に処罰され、被害者が死亡すれば当局に逮捕されて長期間拘留される。各種の保険の適用もされなくなるので、無免許運転は絶対に止めよう。
油断できない新型コロナ
最後は「医療情勢」で、特に新型コロナの話になった。最初に昨年4月以降の感染拡大を契機とした、ホーチミン市の様子が語られた。改めて振り返ると、新規感染者は連日数千人となり、1日の死者数が200人を超える日も多かった。日本人も複数が感染して重症化した人、死亡する人もいた。
当時の無症状や軽症の患者は、いわゆる野戦病院での隔離となった。感染者同士の相部屋が多く、設備や物資は不十分で、外国人にとっては言語の問題も大きかった。その野戦病院で隔離されていた日本人の体験談が写真と共に紹介された。
2021年7月時点の情報で、様々な国籍の人が相部屋となり、シャワーは水だけ、洗濯洗剤やトイレットペーパーは私物を使うなど、自給自足に近い状態だったようだ。その方が強調していたのは「持病薬など薬は必ず持参すること」だった。
ただ、最近のホーチミン市では感染者は減り、重症化や死者もあまり増えていない。懸念事項としては、会社内で感染した親が家族に移すなどの家庭内感染、高齢者や基礎疾患を持つ人の重症化リスク、オミクロン株の拡大、自宅療養中の症状悪化などだ。
「まだまだ油断できません。ホーチミン市から入国して検査で陽性となり、野戦病院での隔離となった日本人もいます。その方は、自分は絶対大丈夫だと思わず、入国直後に陽性・隔離になってもある程度生活できるように、薬や日用品など宿泊時に必要な荷物はある程度備えておくべきだと思った、と話していました」
在留届やたびレジに登録を
新型コロナに感染してしまったらどうすればよいのか。まず、会社やアパートの管理人などに連絡して、居住地を管轄する保健局からの指示を待つ。自宅療養となったら、自分で症状を観察することになる。
「保健局のガイドラインでの重症化の目安は、大人の場合で呼吸数が1分間に25回以上、血中酸素濃度が94%以下となっています」
勤務先に産業医がいる場合、福利厚生でオンライン診断が受けられる場合はぜひ相談したい。当地のクリニックなど医療機関も活用できる。また、病院への搬送となった場合は総領事館にも連絡をしてほしいとのことだ。
考えたいのが健康保険。新型コロナの治療で高額な医療費を請求された日本人や外国人もおり、一時帰国が難しいためベトナムで手術や入院をする人も増えている。高額医療費に対応できる健康保健に加入しておきたい。
2021年に総領事館が取り扱った日本人の死者は10人。毎年10~15人が亡くなっており、死因の多くは病死だが、原因が特定されないケースもある。そんな場合は高血圧や内臓疾患などの持病がある人が多い。
「海外における安全対策の第一歩として、ぜひ在留届やたびレジへの登録をお願いします。注意喚起、新型コロナやワクチンの情報など、最新の情報をタイムリーにお届けします」
届出はオンラインで簡単にできる。緊急事態の際にはここに記載された情報から安否確認が行われるので、忘れている人はぜひ登録を。