残業時間を増やすことは工場の労働力不足の解決に役立つが、専門家は、働き過ぎによる健康被害が出ることを懸念している。
最近になって労働・傷病兵・社会省は、政府に対して国会常任委員会に今年の残業時間増加に関する決議を提出するよう提案した。この提案によると、1か月の残業時間は現行の最大40時間から72時間に拡大される。年間の総残業時間も、企業と労働者の合意があれば、全ての業種で最大300時間まで拡大される。
ホーチミン市の縫製企業で働くグエン・ティ・タオさんは残業への意見を会社から尋ねられると、女性労働者が収入を増やすためにはこれしか方法がないと考えて同意した。以前の社会隔離期間中、約4か月にわたって工場が生産を停止したためにタオさんは、ほとんど収入がなかった。
同じ会社で6年近く働いているタオさんの基本給は手取りで500万VNDほどだ。タオさんはシングルマザーで、子供はベンチェに住む祖父母に預けており、生活は楽ではない。給料を受け取るとまずやることは、子供を預かってくれている両親への200万VNDの仕送りだ。その後で100万VND以上の家賃を払う。
「食費は1日10万VND以下に制限しています。」とタオサンは話す。もし。午後8時まで残業すると工場の残業食で夕食代を節約できる。労働者にとって残業は、肉体的には疲れるが、金銭的なメリットもある。
タオさんは今月30時間近く残業したので、手取りが100万VND以上増えた。週末にタオサンは近くの市場に出かけて、テトに母親が帰ってくるのを待っている12歳の息子のために新しい服を買う予定だ。
タオさんは残業に同意したが、同じ会社で働くゴック・ビックさんは、家に2人の幼い子供がいるので、残業の話が出るたびに落ち着かない気分になる。「もし、夫も残業になると子供たちは自分でインスタントラーメンを食べて、戸締りをして両親の帰りを待つ必要があります。」とビックさんは話す。ビックさんによると残業は、独身や子供を両親に預けられる人だけが対応できると指摘する。また、年齢が高くなると12時間も連続で仕事を続けるのは肉体的にもつらくなる。
ビックさんは2人の子供を公立の幼稚園に通わせていた時、学費は安いが毎日午後5時までに子供を迎えに行く必要があった。その後、工場からの残業の要請に応えるために、ビックさんは子供を時間外でも預かってくれる私立の幼稚園に転園させた。ただし学費は以前の2倍になっている。「残業は会社の生産計画に基づいているので、やるかかやらないかという話ではなく、やるしかありません。」とビックさんは話す。
労働・傷病兵・社会省の南部駐在事務所の元所長であるグエン・ティ・ザンさんは、労働時間の減少が世界的なトレンドだと指摘する。そんな中で、ベトナムは長年にわたり労働時間が徐々に増加している。例えば、2012年に発行された労働法では1か月の残業時間は30時間を超えてはならないとされていたが、2019年の労働法の改正では、40時間となり、現在は、全ての業種で72時間以内とする案が提案されている。
ザン元所長は、1日の労働時間が8時間と規定されているのは労働者の休息やリラックスする時間を確保するためだと指摘する。労働時間の増加はいずれ労働者の健康と精神を蝕む。しかし、直接生産活動に従事する労働者に意見を聞いてみるといつも「残業したい」という回答が返ってくる。なぜなら、基本給が低く彼らの収入は生活するのに十分とは言えないからだ。
昨年の10月中旬にベトナム労働総同盟が労働者への聞き取り調査を実施したが、80%以上の労働者が1か月の残業時間を40時間に拡大し、年間の残業時間を200~300時間とすることに同意した。彼らが残業に同意するのは、基本給が低く貯蓄もないため生活が苦しいからだ。
労働問題に長年携わっているザン元所長は、労働者が残業しなければならないということは、子供たちと両親が接する時間を減らし、子供たちの世話や保護ができないことを意味すると指摘する。残業時間の拡大は、企業に経済効果をもたらす可能性があり、労働者の収入も多少増加することになるだろう。しかし、それは、次世代の子供たちへの影響を無視することにつながるとザン元所長は警告する。
一方で、企業経営の立場から残業時間の拡大についてハイテクパークに入居するDatalogic Vietnam社のチャン・ティエン・ファット社長は、企業が残業時間の拡大を求めるのは、利益や事業拡大のためではなく、受注のシーズン的な波に対応するためだと話す。
ある時には工場の生産能力を超える急ぎの注文が入り、翌月には注文が減少するということがある。例えば第4四半期は、短納期の注文が殺到して労働者は毎日4時間残業し、日曜出勤まで必要になるが、翌年の第1四半期には、ほぼ元の労働時間に戻る。しかし、企業は忙しいときに労働者を採用し、仕事が減れば解雇するという対応を取ることが出来ない。
「労働者を一人解雇することも容易ではありません。」とファット社長は話し、最も効果的な方法は既存の従業員に残業してもらうことだと説明する。
別の企業のグエン・ティ・リエン副社長も、長年にわたり縫製、皮革、水産加工などの各業種の協会も、受注のオフシーズンとピークシーズンに対応するために、月間の残業時間拡大を要望してきたと指摘する。
ピーク時には工場は作業時間を増やさないと注文通りに生産をおこなうことが出来ないが、残業時間の上限規定は企業の生産活動に困難をもたらす。リエン副社長は、一つの注文は特定の1工場で完了することが要求されると説明する。しかし、その工場がすでに300時間の残業を超えている場合、企業は顧客に対して他の工場で製造することを承認してもらうように交渉する必要がある。
リエン副社長は、残業は必要なことではあるが”自発的な精神”に基づく必要があると考えており、もし労働者が残業をしたくない場合、企業はそれを認める必要があるとしている。なぜなら、丸一ヶ月も残業を続けると労働者には疲労がたまり、労働生産性は下がり、労働者の健康と生活に悪影響が出るようになり、最終的には労働者を退職に追い込むリスクがあるからだ。
前述のファット社長も労働者が残業できるようにするためには、工場側も労働者をサポートする必要があると話す。Datalogic社では、各シフトは12時間労働だが、実際の作業時間は10.5時間で、残りは休憩時間に充てられている。会社は1日3食と残業食1食を提供し、ミルクやビタミンも配布し、残業代も法律の規定より50%高い200%を支払っている。
ザン元所長は、現在の状況下では残業時間の拡大は経済回復に貢献する可能性があるが、長期的には時代に逆行する制度はやめるべきだと指摘する。各工場は、生産性を向上させるために、労働力を再編し、生産ラインを改善して情報技術を活用する必要がある。また政府機関は、安易に労働時間の拡大に賛成するのではなく、規定通り1日8時間の就労による収入で生活が出来るように賃金改革の解決策を検討する必要がある。
出典:19/01/2022 VNEXPRESS
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