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ベトナムビジネス特集Vol145
美味しいスイーツ!
甘くない戦略

プレミアムな美味しさの日本のスイーツ。ベトナムではまだ一般的ではないが、将来性が見込まれる有望市場だ。味覚、価格、原材料の調達などハードルもある中、各社はどんな戦略を進めているのか。日本ブランドは根付くのか?

シャトレーゼの人気商品 横尾氏

海外9ヶ国に126店舗
ベトナムで再スタートを切る

 日本全国に約600店舗をフランチャイズ展開する大手洋菓子メーカーのシャトレーゼ。ケーキなどの生菓子、シュークリームやロールケーキなどのチルドデザート、アイス、焼き菓子、ゼリー、チョコレート、和菓子、パン、ワインなどを幅広く販売しており、商品数は約400に及ぶ。

 商品のほぼ100%を山梨県を中心とした自社工場で一括生産し、食材など原材料の調達、商品開発、各店舗への流通までをシステム化。工場ではオートメーションの機械化が図られ、原料、製法にこだわった高品質の商品をアイス70円、シュークリーム100円、ケーキは200~300円など低価格で販売している。

 海外進出のきっかけはシンガポールの日系デパートからの誘い。2014年12月に日本フェアと称した催事場とは離れた2坪ほどの場所でテスト販売をしたところ、顧客が押し寄せ、20フィートコンテナ1本分が1週間で売り切れた。2015年4月にシンガポールに直営店を出店し、その後フランチャイズとした。

「シンガポール1号店がショールームの役割となり、日系と地場を問わず、各国から出店の問合せが殺到しました」

 シンガポール店は面積が狭いにもかかわらず当時の日本の店舗と同程度の売上となり、海外でのフランチャイズ展開が十分にできると判断。2015年11月に台湾、2016年3月にマレーシア、5月に中国・上海、9月に韓国、10月にUAE、2017年は1月に香港、6月にタイ、11月にインドネシアと出店ラッシュが続き、現在(取材時)では9ヶ国に126店舗がある。

 ベトナムは地場企業とのフランチャイズで2019年にハノイとホーチミン市に計2店舗を出店するが、その後パートナー契約を解消して店舗を閉鎖。しかし、今年1月にホーチミン市のレタントン街に直営1号店をオープンした。再スタートのためのフラッグシップ店という位置付けだ。

「撤退は考えませんでした。昔の日本も同じような状況で、経済発展を遂げて、シャトレーゼも成長できた。過去に遡って同じプロセスを繰り返せば成功できるという、トップの判断です」

ミルクレープ

瞬間冷凍して店舗へ配送
ダラット産の日本品種も使用

 基本的なサプライチェーンは日本も海外も変わらない。本社工場で製造したケーキなどの商品を瞬間冷凍して、店舗まで-20度で保存して配送する。商品により240~365日を賞味期限として、店舗ではオペレーションルールに従って解凍する。

 品揃えは国ごとに異なる。理由のひとつは着色料や甘味料など添加物の基準や、「無添加」の表示が出せないなど、各国で輸入規制が異なるためだ。そのため、商品数はおよそシンガポールで300、タイで200、インドネシアで80、ベトナムではホールケーキ、スライスケーキ、シュークリーム、ロールケーキ、アイス、焼き菓子、アップルパイなどで約200種類となっている。

 また、販売する商品は日本のマーチャンダイジング部門が各国の趣味趣向や売場イメージなどから決めるが、現地のニーズに合わせて調整している。例えば、通常はショーケースの3分の1にホールケーキを置くが、売れている香港ではホールケーキが倍の3分の2を占めている。

「商品は日本から船便で送っていますが、フルーツを空輸する場合もあります。ただ、ベトナムは輸入規制のフルーツが多いため、ダラット産の日本品種のイチゴなどを使っています」

 ベトナムではこうしたフルーツと日本からの半生製品のクリームなどを使い、店舗の工房でデコレーションもしている。調達する原材料の差などから日本と全く同じ商品でない場合もあるが、できるだけ「日本の味」を世界に届けている。

イチゴのショートケーキ

売行きが好調なベトナム
年内に自社工場を稼働へ

 国際輸送などのコストもあり、海外店舗の価格は日本より高くなる。ベトナムではスライスケーキが6万~10万VND程度、ホールケーキは50万VND程度だ。シンガポール、香港、台湾、タイ、マレーシアなどは物価がある程度高く、国によっては割安に感じる商品もあるが、物価の安いベトナムとインドネシアは価格が課題となる。

 そのため、インドネシアでは生産工場が今年4月に稼働予定。30~40店舗分を供給できる生産量で、機械ではなく手作りの工程が多くなる。

「日本からの輸入品と現地での手作り商品のダブルスタンダードとなり、商品も多少変える予定です。初めての試みですので、ドキドキしています」

 ベトナムでの売れ筋はアイス、定番のシュークリーム、ケーキは「イチゴのショートケーキ」と「ミルクレープ」で、東南アジアの他国と同じ傾向。顧客は約40%が日本人、ベトナム人も40%くらいで、日本人より多く買っていくそうだ。

 売上は好調だ。他国の売れている店舗と同レベルで、シンガポールや香港と比べるとトップ店には及ばないが平均的な店舗と同等。客層を広げ、売上を伸ばすためにも、ベトナムでも工場生産を決めた。

「ロンアン省のレンタル工場です。現在はレイアウトを検討中で、今年中に稼働させたいですね。来期はホーチミン市や近郊でのフランチャイズ10店舗が目標で、これら店舗への供給元にもなります」

 現在の悩みはブランドの認知度が低いこと。そのためコンビニやスーパーへの卸も考えている。ベトナムにサプライチェーンが完成すれば、他国への輸出も始めたいという。

日本のヒットアイス「チョコバッキー」

「物価の関係で事業拡大に必要という理由もありますが、現在1店舗しかないベトナムで10店舗のインドネシアと同様に工場を設立するのは、当地を有望市場と見ている証拠です」

STAR KITCHEN 荒島氏

料理教室から小売販売
アッパーミドルを狙って伸び悩みも

 日本のスイーツのベトナムでの先駆けとも呼べるスターキッチン。自社でのケーキ製造と販売、各コンビニやスターバックスへの卸、ホーチミン高島屋への出店と事業を拡大させてきたが、タイバンルン店と高島屋店での洋菓子小売を昨年11月にクローズ。現在は卸業に絞り、主力商品も高級ケーキからローカルスイーツへと大きく転換した。

「『日本にあってベトナムにない商品だから出せば売れる』は都合の良い思い込み。やってみたら売れない。その原因の9割はニーズが元々ないからだと思います。ベトナム人のストライクゾーンは狭い」

 2013年7月に料理教室をホーチミン市にオープンさせたスターキッチン。生徒や周囲から「なぜ売らないの?」との声が多くなり、同年10月にスイーツのオンライン販売を開始し、2014年8月にはカフェを併設した販売店を開店した。小ぶりの誕生日ケーキが50万VNDと当時としては高額だったが、SNSなど口コミで話題になり、じわじわと売上を伸ばしていく。

 市場調査をすると、多くの顧客は一部の富裕層や外資系企業で働くホワイトカラーが中心。もう少し客層を広げたいとアッパーミドルを狙って価格を下げるが、「これが失敗しました」。

 一般的なベトナム人は、甘さは控えめで見た目が派手なケーキが好きだと気が付いた。これをヒントに材料やデザインを「現地化」させたが、常連客には「品質が落ちた」と思われ、狙った層も思ったほど増えなかった。味もデザインも中途半端だったのだ。ベトナム人が日本のケーキブランドに期待することは「現地化」ではなかったという。

桜の花びらを入れたココナッツゼリー

デパートの出店で現状把握
ケーキではなく果物がヒット

 一方、ファミリーマートから声が掛かり、2014年4月には一部店舗での販売を開始した。その後、ホーチミン市の有名なレストランへの提供を始め、2015年にはハーゲンダッツと取引を開始し、2016年7月開店のホーチミン高島屋への出店を果たす。

「各社の品質への要求は厳しく、チャレンジを続けて、振り返る余裕などありませんでした」

 高島屋開店直後は売れたが、約2週間後から止まる。ケーキなどの生菓子もそうだが、特にクッキーなどの焼菓子がそれ以上に出なくなった。工程が多くて賞味期限が1~2日の生菓子に対して、工程が少なく賞味期限は1ヶ月ほどの焼菓子は菓子店の利益の柱だ。その焼き菓子の不振もあって約3ヶ月後からは、主力商品を誕生日用のホールケーキに変えた。

「ベトナムでケーキは食べるよりは行事で写真を撮るための飾り的な意味合いが強い。私は『鏡餅理論』と呼んでいますが、日本の鏡餅と同じく正月になくてはならないが、別に食べなくてもいい(笑)」

 ホールケーキが盛り返す中でさらに売上を伸ばそうと、果物好きのベトナム人に対して果物を使ったケーキを開発中にスタッフのリーダーが一言。「止めたほうがいい」。

 果物はクリームやスポンジなどでゴテゴテさせずにそのまま食べたいし、クリームは太るからという理由だ。そこで思い切って高級果物を売り始めた。

 ダラット産のマスクメロンで1玉約80万VND。誕生日ケーキより高額だが、リピーターが出るほど売れた。スタッフの提案でメロンのジュースを販売すると、約9万VNDという値段にもかかわらず、日本の高級感があふれているとヒット商品となった。

「手間を掛けて丁寧に手作りしたケーキではなく、仕入れたフルーツやジュースのほうが売れる。愕然としました。ヒットを狙ってヒットした商品は、日本人や外国人に人気となった土産商品『バインミー ラスク』です」

潮卵風のシュークリーム

ローカルスイーツに方向転換
競争相手は屋台のおばちゃん

 転機となったのは2017年7月から提携したセブンイレブンとの商品開発。当初発売した日本風のチーズケーキ、シュークリームなどの売行きは伸びず、そんな中で売れていたのはベトナムの伝統的な甘味である「チェー」だった。

「コンビニは日常的に食べるものを買う場所。だからケーキより子どもの時から食べ慣れている味のチェーが売れる。チェーの有名店を食べ歩きました」

 同じスイーツでもケーキとチェーは、同じ球技の野球とサッカーほど違うと荒島氏。販売店舗が増えるタイミングで社内製造からパートナー企業への生産委託に変え、セブンイレブンとの商品開発には1年ほどがかかったが、売上は倍増した。

ココナッツゼリー

 屋台を中心に研究した結果、メニューは定番を選んだ。薬膳効果があるというSam Bo Luong(サンボーロン)のチェー、同じくローカルスイーツのココナッツゼリー、ケーキではクリームに塩卵の風味を混ぜ込んだシュークリームが残った。

 低価格化もヒットの理由だろう。従来のプレミアムスイーツは3万VND代や4万VND代だったが、ローカルスイーツは2万VND程度とした。「コンビニでの売れ筋は2万VND以下」からの値段設定だ。

「この頃から売れるスイーツがわかり、商品開発力も付いてきました。セブンイレブン以外のコンビニでもローカルスイーツを提供し始め、事業も軌道に乗ってきました。ただ、ローカルスイーツも一筋縄ではいきません。なぜって競合が屋台のおばちゃんで、これが強すぎる(笑)」

サンボーロンのチェー

 現在は外国人居住エリアのコンビニやスターバックスにはプレミアム商品、市内全域のコンビニにはローカルスイーツを卸し、また料理教室を継続している。洋菓子市場に将来性はあるが、その拡大はしばらく先と見ている。

「料理教室にはキッズクラスがあり、子どもたちは日本人のようにケーキを食べています。また、大学生を中心にコンビニやカフェでケーキが売れています。市場拡大はおそらく10~20年先の長期戦であり、弊社の事業計画とは一致しないため事業転換しましたが、期が熟せば再勝負の可能性も。自信はもちろんあります(笑)」

エスファイブサイゴン 宮濱氏

2018年に日系小売店で発売
現地向け3種のパウンドケーキ

 パウンドケーキ、スポンジケーキ、ロールケーキ、ベルギーワッフルなどを生産・販売する、岡山県の洋菓子メーカー、サンラヴィアン。ベトナム法人として2017年2月に設立されたのがエスファイブサイゴンだ。

「進出先として東南アジア各国を検討したようですが、ベトナムは国民の人柄が良く、勤勉に働き、購買層となる若い人が多い。こうした理由からベトナムに決めたそうです」

 場所はビンズン省にあるレンタル工場で、工場の稼働や社員研修などを経て、2018年4月に出荷を始めた。

「私は2代目社長ですが、輸出でなく当初から工場を作ったのは思い切った判断だと思いました」

 日系小売店に販路を求めて商品開発を相談し、2018年4月からホーチミン市のイオンモール・タンフーセラドン店で販売。日本の売れ筋商品であるパウンドケーキ「マイケーキ」の「ココナッツ」、「ショコラ」(チョコレート)、「抹茶」の3フレーバーだ。同年7月にファミリーマート、12月にはミニストップでも売り始めた。

 これら3つのフレーバーは日本にはない種類で、ベトナム人向けに開発した商品。特徴は甘さを抑えめにしたこと。

「ベトナム人はドリンクは甘いものを好みますが、固形物はむしろ強い甘みを求めません」

 マイケーキの価格は1万8000VND。ベトナムでは日本の商品を富裕層向けに高く売る場合と一般層向けに低価格とする場合があるが、同社は後者を選んだ。とはいえ、日系コンビニの商品は一般庶民には高価だと語る。

「ベトナムは食料が安いので、それに合わせるとマイケーキは現在の90円程度でなく50円(1万2500VND)くらいにすべきなのでしょう。ただ、材料の質は落としたくないので悩みどころです」

 主なターゲットは10代後半~30代の女性だが、最近は小学生などの子ども世代にも注目している。スーパーでの試食会には子どもたちが集まり、その母親がまとめ買いをしていくからだ。晩婚化と少子化で子どもを大切に育てる風潮が強くなるとも見ている。

企業向けギフトセット

原材料価格や焼むらに苦労
販路拡大には知名度も必要

 その後は徐々に商品数を増やして、ファミリマートミニストップでは各社のプライベートブランドも生産。現在の品揃えはパウンドケーキ、ベルギーワッフル、クッキーなどが12種類とプライベートブランドが8種類に増えた。

 人気の商品はマイケーキのココナッツとショコラ、加えて「パウンドケーキ」の「チーズ」。月産数でもトップ3となる。パウンドケーキも甘さを抑えており、宮浜氏が2019年4月に赴任してからも砂糖の量を2回減らした。

「砂糖はほかに比べると安い原材料なので、70gの重量を維持するとほかの原材料の割合が増えることになって原価が上がります。また、主な原材料である油脂、卵、小麦粉、砂糖は昨年のロックダウン以降値上がりしています。価格は据え置いているので、正直かなり厳しいです。今後は値上げの必要もあると思います」

 原材料や調味料の調達にも苦労する。日本と全く同じものがない場合は代替品を使い、気温、湿度、環境などが異なるためか、同じ配合でも焼きむらが出たりする。日本とは違ったアプローチで解決しているという。

 そんな中、宮浜氏は日系以外のコンビニなどにも販路を広げ、企業向けの販売も模索している。同じ工業団地内など近隣の工場には、少しずつ認知してもらえるようになったそうだ。

「とはいえ、まだまだ販売できている場所は少ないです。今後はもっと露出度を高めていきたいです」

売れ筋のマイケーキのチーズ

カスタマイズできるケーキ?
オリジナル商品の開発も

 赴任して3年が過ぎ、当初は8000~1万VND程度の価格帯が好まれたが、最近は少し高くても美味しいスイーツを望む人が増えてきたと感じる。これまで商品の味は変えてこなかったが、挑戦しても良いかと考えている。

 そのヒントとなるひとつが、手間を掛けたほうが売れるという感触。フルーツを乗せる、クリームをホイップする、トッピングを加えるなどで、ひと手間をかけることで見栄えもよくなり、付加価値が付く。

 もうひとつはベトナム人は単一の味が好きではないということ。例えば果実をミックスしたジュースや、好きな調味料を使って自分用にカスタマイズするフォーなどから感じるという。逆に言えばケーキはカスタマイズできないので、10人中10人に合う商品開発は難しい。

「極論ですが、極力甘さを抑えたケーキに、小分けしたジャムやシュガーバターを付けるという考え方もあります」

 現在のワーカーは6人。これまではサンラヴィアンのレシピをカスタマイズしてきたが、今年はオリジナルの新商品を作りたいと意気込む。そのために商品開発担当のベトナム人を採用した。形やデザインは日本式で、味はベトナム人仕様とするためだ。また、営業担当にはSNSに強いベトナム人を採用しており、外部への発信力を高めていく。

パウンドケーキのチーズとレーズン

 その先には販路の拡大がある。現在はホーチミン市とビンズン省、ドンナイ省とロンアン省の一部が販売先だが、ダナンやハノイ、プノンペンやバンコクも視野に入れる。今は3週間という賞味期限がネックだが解決策を探している。
「今年は新体制でスタートします。期待してください」