1995年に駐在員事務所、2004年に現法をベトナムに設立した山九。物流に加えてプラントエンジニアリングや倉庫内作業など幅広い事業を展開し、担当するスタッフを教育する。今年4月に赴任した向坂和敏社長が抱負を語る。
通関代行や自社倉庫が強み
―― 山九さんの事業は独特で、物流とプラントエンジニアリングの一貫サポートと聞きました。
向坂 山九には大きく2つの事業があり、ひとつは物流、もう一つは我々が「機工」と呼ぶプラントエンジニアリングです。
物流は輸送、梱包、在庫管理など、機工はプラントの設計、建設、据付け、メンテナンスなどで、対象が大型プラントであれば、設計して現地へ輸送し、建設して据付け、その後のメンテナンスまでをワンストップで提供できます。こうしたサービスのお客様は製鉄会社や化学メーカーなど重工業の大手企業が中心で、世界でも類を見ない業態だと思います。
事業の割合として以前は物流が大きかったのですが、近年では機工のメンテナンスなどが増えたため、現在は半々です。海外でも同様の事業を展開しています。
―― アジアを中心にかなり早い時期から進出しています。
向坂 東南アジアでは1974年にインドネシア、1979年にマレーシア、1988年にタイに進出しました。ベトナムは1995年に駐在員事務所を開設し、2004年に現地法人化しています。
インドネシアやマレーシア、タイなどの事業が拡大でき、ベトナムに日本でのお客様を含めた日系企業が増えてきたことで事業を本格化させました。最初は物流から始めて、倉庫を使った生産設備の荷物の管理などから拠点を広げて、機工もスタートさせました。
個人客向けの配送はしていませんので、お客様は全て法人で、日系の製造業がほとんどです。電子部品、繊維、化成品など業種は多彩で、日本や他国への輸出用の生産拠点が多いです。
こうしたお客様向けには材料や製品の輸送、保管などのほか、ベトナムは通関や税務が複雑なので、通関の代行サービスを併せて提供しています。北部ハイズン省に約1万㎡、南部ドンナイ省に約2万㎡の大型保税倉庫を自社で所有していること、通関業務をオプションで付けられることが弊社の強みだと思います。
―― 物流には国際と国内輸送があるのですね。
向坂 はい。航空や海上の国際輸送、トラックによる国内輸送、中国やタイへの陸路での国境輸送など様々です。大切なのは「一度運んで終わり」ではなく、お客様のサプライチェーンを線から面に変えていくことです。また、物流の効率を良くするために、共配(共同配送)をしたり、他国や他社のお客様との物流を組み合わせることも欠かせません。
各事業の中にはビジネスソリューションと呼ぶサービスもあります。主に輸送に関連する倉庫内での作業で、例えば製品を袋に詰めてラベルを張り、梱包するなどです。この後でトラックに運んで輸送となりますので、倉庫内での作業とシームレスにつなげられます。
ベトナムでの事業はおよそ物流が7割、ビジネスソリューションが2割、機工が1割となっています。
ベトナムが一番暮らしやすい
―― 機工の割合はなぜ低いのでしょうか?
向坂 対象となるのが製鉄や化学などの大型プラントで、こうした重工業がベトナムではまだ発展途上だからです。国営企業や外資系企業による石油プラントや化学プラントはありますが、国策として地場企業や自国企業への発注が多いため、受注は難しいです。逆に言えば、ベトナムが成長する今後に伸びしろがあるということです。
海外事業の内容は進出国によって異なり、50年近く根付いているインドネシアやマレーシアでは重工業の発展もあって、国営企業やローカル企業からもプラントエンジニアリングを受注できています。機工の売上で言えばベトナムの何十倍という規模になります。
山九には東南アジアのほかに中国の主要都市、韓国、台湾、欧米、中東などに支社があり、海外事業は全般的に成長しています。山九の中長期経営計画でも、海外売上高は2021年度の881億円から2030年度には65%アップさせた約1454億円とするのが目標です。
日本での機工事業はほとんど寡占状態で山九が優位に展開していますが、ニーズと担当できる人財が共に減少しており、海外が注目されています。実はこの中長期経営計画の策定には私も関わっていますので、ベトナムが足を引っ張るわけにはいかないのです(笑)。
―― 事業拡大のために考えていることはありますか?
向坂 山九は人財を重視しており、人のマネジメントや研修・教育が得意です。なぜなら事業が人による作業中心で成り立っているからです。それはベトナムでのエンジニアやオペレーションスタッフなども同様で、雇用の安定とスキルアップが不可欠であり、彼らが生み出す高いサービスにお客様は期待してます。
山九ベトナムは全国に約400人の社員がいますが、離職率は低く、退職者は1ヶ月平均2~3人くらいです。それも給与が原因の転職などではなく納得できる理由で、転職後に戻ってくる社員もいるくらいです。
こうした社員を大切に育てて、スキルアップさせたい。それがサービスを向上させて事業を広げるからです。山九では全世界で溶接やフォークリフトなどの技能競技大会を実施していますが、ベトナムは上位に行けていません。仕事の機会が少ないことはわかりますが、やはり技術力を高めたく、他国や日本で研修を受けさせる計画です。
現在はベトナム南北の主要エリアに11拠点があり、いずれはダナンなど中部にも拠点を持ちたいと思っています。ある程度の規模の仕事が受注できれば倉庫も作り、事業を拡大するつもりです。
機工においてはベトナムは確かに小さい市場ですが、だからこそチャンスはあります。今年4月に赴任したばかりですので、これから市場を分析して顧客に必要とされるサービスを考えるつもりです。
―― ベトナムをどのように感じますか?
向坂 私は14年前に初めてベトナムに来て、出張ベースで合計2年ほど滞在しました。当初は発展途上国の典型で、これほど成長するとは考えませんでした。もっともっと良い国になると思いますし、その頃には出稼ぎ目的で日本に行く人も減っているでしょう。これまで日本は指導する側だったかもしれませんが、今後はベトナムを対等なパートナーとして考えるべきです。
私はこれまでエンジニアとして、約20ヶ国で主に機工の仕事を続けてきました。タイもマレーシアも好きですが、ベトナムが一番暮らしやすい。人柄、価値観、食事などが合うのでしょうけど、私にはベトナムが一番です。
山九のパーパスである『心に「Thank you」を、世界の産業に山九を。』に従い、人を大切にして成長させることでサービスの価値を上げることと、権限をベトナム人に移譲するローカライズも進めたいと思っています。