東急株式会社とBECAMEX IDCの合弁会社として2012年に設立されたベカメックス東急。南部ビンズン省の新都市、総面積約1000haに新しい街を開発中だ。進出当初よりベトナムに赴任し、昨年4代目社長となった呉東建氏が語る。
郊外に近代都市が出現
―― 御社の都市開発について教えてください。
呉 ビンズン省のビンズン新都市(約1000ha)で住宅、商業施設、交通機関などを開発しています。そのうち当社の開発地を東急ビンズンガーデンシティと呼んでいます。
住宅では、2015年3月に完成した高層マンションの「ソラ・ガーデンズI」があります。24階建ての2棟、合計406戸があり、既に完売しています。昨年10月から販売を始めた三菱地所レジデンスとの共同事業「ソラ・ガーデンズII」は24階建ての557戸で、2021年春に竣工の予定です。
最大の住宅街である「ミドリ・パーク」は約60haあり、現在は低層住宅が中心です。川を改良して公園と住宅を一体化させた居住環境で、私はビンズン省で一番、本音を言えばベトナムで一番のランドスケープと自負しています(笑)。ここでは604戸の高級コンドミニアム「The VIEW」が昨年竣工したばかりです。
―― 順調に進んできたようですね。
呉 いいえ、違うのです。ソラ・ガーデンズIは竣工が遅れましたし、何より当初は全く売れませんでした。振り返ると工事の進め方やネゴシエーション、販売方法も未熟だったと思います。物件自体の評価は高かったのですが、その良さが伝わらず、いくら説明しても「なぜ高い?」と言われ続けました。
潮目が変わったのは外国人居住者が増えてからです。同じ金額の住宅手当ならホーチミン市内よりビンズン新都市のほうが広くて良い部屋に住めると、日本人、台湾人、韓国人などの駐在員に選ばれるようになりました。ビンズン省の工業団地などで働く人たちです。
すると、外国人がすぐに借りてくれると物件の購入者が増え、貸した後に次の物件を購入するようなサイクルも生まれました。「どんどん貸せる」と話題になったのです。現在の居住者の約7割は、世界約20ヶ国からの外国人です。
このようにソラ・ガーデンズIは投資で購入する方が多かったのですが、The VIEWは実需がほとんどで、購入者の約7割はビンズン省に住むベトナム人です。ソラ・ガーデンズIで苦労した経験が生きたためか、The VIEWは竣工と同時に完売しました。
日本では35年ローンなどで住宅を購入するのが普通ですが、世界的には特殊なケースなんですね。都合に合わせて物件を買い、必要ならば売って、また新しい物件を買う。こちらが一般的なのだと、私もベトナムに来て気付きました。
―― 商業施設や交通機関も作られた?
呉 商業施設はビンズン省行政センターに隣接する「hikari」です。レストラン、フードコート、コンビニエンスストアなどが入り、これから大きく拡張する予定です。
新都市の内部、それと外をつなぐのが路線バスの「KAZE SHUTTLE」です。現在では6路線11系統に増えました。1日約1000人が利用していて、7月からはホーチミン市との間でチャーター便を開始しました。片道1日6便で、通勤や買物での利用を想定しています。
それ以外にも街を活性化させようと様々な取組みを続けています。例えば、毎年テトの後には日本祭の「JAPAN FESTIVAL」を開催していまして、ステージショー、盆踊り、歌合戦、羽子板や金魚すくい、飲食の出店もあり、2万人以上の方が来場するイベントになりました。
スポーツでは「ベトナム日本国際ユースカップU-13」として、子供たちを中心に日越のサッカー交流試合を開催しています。日本の川崎フロンターレも支援しています。野球では「ベカメックス東急球場」を作りまして、日越野球協会とも協力して野球の普及活動をしています。プロ野球名球会の選手が野球指導にも来ました。
また、ビンズン省には約2万人の台湾人が住んでいるとも言われ、居住者がとても多いんですね。そこで台湾人の有志と共に、台湾系のインターナショナルスクールを設立しました。昨年10月に完成した「越華国際学校」で、幼稚園と小学校があります。
「居住者の幸せ」が本道
―― 都市開発を長いスパンで見ているのでしょうね。
呉 地場大手デベロッパーのBECAMEX IDCはパートナーを探す時に、日本、台湾、韓国で声を掛けたようです。しかし、ホーチミン市から約30㎞離れた郊外にあり、一般的なデベロッパーは数年での投資回収を考えるものですから、二の足を踏んだ企業も多かったでしょう。
一方、東急は多摩田園都市など郊外の不動産開発が得意ですし、30㎞というと東京駅から(東急田園都市線の)たまプラーザ駅くらいの距離です。鉄道系デベロッパーでないと、ビンズン省に有望性を感じなかったかもしれません。私もそうですが、実は当時の社長や会長も乗り気だったのです。
我々は20~30年の期間で都市開発を考えています。日本、あるいは台湾や韓国と同じ成長をベトナムも辿り、郊外への投資はますます増えていくでしょう。
―― 今後の計画を教えてください。
呉 今まで1年におよそ500戸の住宅を供給してきましたが、今後は500~1000戸にしたいと思っています。The VIEWの隣に1000戸のマンションを今年着工する予定で、再来年には「ソラ・ガーデンズⅢ」が着工予定です。
また、今年から来年にかけてhikariの拡張に着工します。PIZZA 4P’s等のレストランが15店舗の他、弊社の本社もここに移す予定です。イベントスペースや、スタートアップ企業を支援する場にもします。賃貸だけでなく許認可の代行やコンサルティング、人材支援も考えています。現在の施設の3倍の規模になるでしょう。
日本では住宅販売や工事などを外部に委託していますが、ベトナムでは色々と苦労したせいもありまして(笑)、自社で物件の販売や管理を行い、工事では社員がプロジェクトマネジャーとして現場に張り付きます。こうしたスタッフ約200名が、全力で臨んでいきます。
―― 大きな仕事になりそうですね。
呉 東急は海外での都市開発経験はありますが、東南アジアの新興国は初めてで、2015年までは苦労が続いた気がします。その後、2016年から軌道に乗り始めて、2017年から2019年は黒字化に成功しました。2020年も黒字の見込みです。
そのおかげか、現在はやりたかったことができていると感じます。それは「街をつくる」ことです。多くの人が住んで、喜んで、訪れたいと思ってもらえる場所にする。売れる商品を作って売ることもビジネスですが、居住者の幸せを考えることが我々の本道だと思います。
私は副社長を3年務めましたが、その頃からやりたいことができる今を考えていました。新都市だけでなくビンズン省には未来へのニーズが多くありますし、一方ではそのニーズを生み出したいと思っています。