複写機、カメラ、プリンターなど、キヤノンの主力商品のマーケティング会社として設立されたキヤノンマーケティングベトナム。昨年よりB to Bビジネス事業拡大へと転換した。その内容と意気込みを武田暁社長が語る。
産業用3製品、他B to B商材を販売
―― キヤノンのベトナム進出について教えてください。
武田 2001年にキヤノンベトナムがハノイに設立されました。プリンターやスキャナーを製造する生産工場で、現在では約2万人が働いています。2002年には販売拠点となる駐在員事務所が開設。
2008年にはLe Bao Minh(LBM)というベトナム企業が、複写機、カメラ、プリンターなどキヤノン製品の販売総代理店となります。ベトナムでの正規代理店は同社だけで、国内に300以上のディーラーがあります。
その後、地域統括支社であるキヤノンシンガポールの100%出資で、2012年にキヤノンマーケティングベトナムが設立され、現在はホーチミン市に本社、ハノイに支社があります。
当初の進出はEPEの生産拠点という位置付けですが、経済が拡大して市場の成長が見込めることから、主要製品の販売を始めたわけです。
弊社は主にマーケティングを担当し、LBM社との販売促進やシンガポールからの仕入れの調整をしていました。しかし、昨年に事業を大きくシフトしまして、今は構造改革の真っ最中です。
―― どのような事業でしょうか?
武田 先の消費者向け製品の販売は変わらずLBM社が担います。その現行製品群においても、例えばSNSでの情報発信や、日系企業向けビジネスなどは弊社が継続します。それに加えてキヤノンマーケティングベトナムが担う事業として、産業分野のB to B新規ビジネス開拓を開始しました。
この体制は昨年より既にスタートしており、ホーチミン市とハノイで共にオフィスも移転しています。
取り扱っている商品は、現在は主に3つあります。1つ目は工場の生産ラインの自動検査・監査機であるファクトリーオートメーションカメラです。キヤノン製のセンサーが使われている中国製商品です。
2つ目がヘリウムガスディテクターです。キヤノンの関連会社の製品で、対象物の漏れをヘリウムガスで検査します。3つ目は非接触測長計で、生産ラインの搬送物の速度や移動量を高精度に計測します。
こうした産業機器以外にも、企業や政府機関向けB to Bを対象とした、新規ビジネスの開拓を考えています。
―― 産業用製品の販路をどう考えていますか?
武田 昨年の第4四半期から本格的に動き出したばかりなので、まだできていないことは多いのですが、ひとつはキヤノンベトナム(工場)に関連するサプライヤーさんやキヤノンの複写機をお使いの企業様、以前から付き合いがあるディーラーなどを軸にした開拓です。
キヤノンは産業分野の装置や機器を数多く開発していまして、特にアジア地域では、B to Bで得られる収益が約40%を占めています。ただ、カメラやプリンターの知名度は高くても、産業分野でのキヤノンをご存じないお客様もいます。
アジアでの販売数値を押し上げるべく、キヤノンの最先端製品をベトナムの企業に提供したい。当初は日系企業から始めて、将来は外資系やベトナムの企業へも広げたいです。
一方、LBM社との強固なパートナーシップは継続します。これからも互いに協力をして、シンガポールとベトナムとの連携を強めたいと思います。
―― このような改革の実施は良くあることですか?
武田 全体としてそのような新規市場開拓の動きはありますが、もう一歩踏み込んだ動きだと思います。もちろん、現行商品群においてもイノベーションを図った商品を生み出そうとしていますが、その製品を販売し続けるだけでは、バラ色の未来は描けないでしょう。新型コロナ禍もあって先行きが不透明でもあります。
ベトナムはASEAN諸国の中でも最も成長が見込める市場の一つである一方で、強固な販売基盤があり、信頼のおけるLBM社があったからこそ、この方向に踏み切れたものと思います。
そして、経緯はどうであれ、全力を尽くしたいと思っています。
「担当社長」が自ら動く
―― 社内の体制も変わってくるのでしょうか。
武田 はい。新規ビジネスのスタートということもあり、“フェニックスプロジェクト”を立ち上げました。キヤノンの“共生”という理念の元、会社の利益のみならず社会貢献を果たそうというビジョンを掲げ、社内に向けたスローガンは3つあります。
“Together – Go further”。大切なお客様と共に、LBM社、弊社が緊密に連携する。“All Out !”。居心地の良い場所から出て限界を超えて挑戦する。“Stay Safe & Healthy”は身体も精神も健康にして、よく食べてよく眠る、です(笑)。少数精鋭体制の中、それぞれの強みを生かしながらチームを作り、全員で進めていきます。
私はこれまでヨーロッパ、オーストラリア、シンガポールに駐在しており、ベトナムとのお国柄や環境に大きな違いを感じます。私から見るとベトナム人は親しみやすく、義理固いと感じています。
ロックダウンの時に私のような駐在員を心配して食料を送り合ったりするのは、今まで経験した国ではないような気がします。
新型コロナの収束がまだ見えない中、新規ビジネスの立上げには苦労が絶えませんが、そんな仲間と新しい目標に向けて一緒に動けるのは最高の思いです。
―― 武田社長自らが陣頭指揮を執るということですね?
武田 「担当課長」や「担当部長」という肩書があります。いわばプレイングマネジャーですが、私は「担当社長」だと思っています。指示を出すだけでなく自分でも動く社長です。
実は私は、キヤノンに入社した1年目の年は複写機のセールスをしていました。東京の下町が担当の飛込み営業で、競合他社は多かったですし、1日に100件飛び込んだこともあります。今の若い人に言うと驚かれますが(笑)。
これが私の原点ですし、新たなスタートも今回と重なります。シンガポールのチームと連携しつつ先程の日系企業およびベトナム企業を開拓すると同時に、SNSでの情報発信や、商品を展示するイベントへの参加も考えています。やるべきことは盛りだくさんですね!
昨年からの5年間をフェーズ1として、2035年までの長期的な視野の下、2025年までにはある程度の業績を上げたい。ベトナムでは賃金の上昇から工場での自動化や省人化を進める企業が増えており、弊社が扱う製品はまさにその方向性に合致したものと言えます。さらなる成長のチャンスは大いにあると見ています。