「Nhập gia tùy tục」。日本で言うところの「郷に入っては郷に従え」という言葉があります。直訳すると「家に入ったら、その家の風習に従う」となるのですが、ポイントは日本では従う単位が郷=地域コミュニティなのに対してベトナムでは家=家族と表現しているところです。
ご存知のようにベトナム人の気質として家族主義的な傾向が強いと言われています。ではどこでこのような価値観が形成されたのでしょうか。「Nhập gia tùy tục」の語源は定かではありませんが、家族単位で十分に暮らせるほどベトナムは、肥沃な土地に恵まれた環境であったと史実に記されています。
西暦2年の中国とベトナムの地域毎の戸数と人口を調べると、代表的な中国南部地域で11万2294戸、人口62万5944人に対して、現在の紅河デルタに当たる地域では9万2440戸、人口は74万6237人でした。人口ではベトナムが上回っており、かつ一戸当たりの家族数が多い。これら家族の生活が維持できていたと考えられます。
遡ること2000年以上前から連綿と紡がれてきた歴史と伝承が、現代の人々に与える影響が小さいはずはありません。そしてその気質がベトナム人の仕事観や、随所で現れる判断軸の基本となっていることはご想像の通りです。
一例を挙げれば、①クライアントとのネットワークやノウハウ共有への考え方、②キャリア選択時における家族の影響、③冠婚葬祭への対応、④社員旅行への思い…ほかにもありますが、共感を持ってイメージいただけるかと存じます。次回はこの部分について掘り下げたいと思います。