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特集記事Vol173
ワーカーさん、
長く一緒に働きたい!

ベトナム製造業の担い手は数多くのワーカーたちだ。彼らの成長なくして事業の拡大は難しく、そのマネジメントに各社は頭を悩ませる。そこで社歴が長く、大人数のワーカーが働く企業に、福利厚生などを尋ねた。長く一緒に働こう!

 即席麺やカップ麺の分野でベトナムトップメーカーのエースコックベトナム。1993年に設立、現在は全国7拠点に11工場があり、6200人以上の従業員が働く。そのうち4000人以上が工場で直接生産に携わるワーカーだ。

 彼らの職種は生産作業員(一般的な作業員)とオペレーター(機械の作業員)に大きく分かれ、上長にはラインリーダー(ライン長)、シフトマネージャー(3交代シフトの長)、部門マネージャー(部門長)などがいる。ワーカーには多くの育成制度がある。

「全員が受講できるスキルアップ研修には、労働安全、食品衛生、コンプライアンスなどがあり、リーダーシップや管理スキルを学ぶ管理職向け研修もあります」

 また、生産従業員をオペレーターや技術職(フォークリフト、電気機械、設備運転など)に育てている。専門知識と資格取得が必要なので職業訓練校と提携しており、成績優秀者から選ばれる。

 中でもワーカーのモチベーションを高めているのが日本本社でのインターンシッププログラムだ。2018年に始まった制度で、日本本社に研修生として1年間派遣する。そして、1年の間に在留資格の「特定技能」が取得できれば、さらに5年の勤務が可能となる。社内で応募者を選考後、エースコックベトナムの人事部と日本本社からの社員が面接して人選している。

「これまでに37人が日本本社で研修をしています。応募するのは元気な若い人が多いですね」

 研修ではないが、成績優秀者には海外旅行がプレゼントされる。人事評価で優秀な人には毎月赤い星が贈られ、年間で7~8個を得たワーカーが対象者になる。年間で約50人が選ばれ、韓国や東南アジア諸国への旅行チケットが贈られる。

 各種のイベントも盛んだ。ベトナム恒例の社員旅行では、今年は7月8~9日の一泊旅行で、7拠点がそれぞれの旅行先に向かった。1拠点で1000人近い従業員がいるためホテルやバスの手配だけでも一大事だ。

「今年は初めてチームビルディングを組み込みました。チームの意識を高めるためにチーム単位でゲームや運動会をしました」

 ホーチミン市本社の旅行先はビントゥアン省のファンティエット。ビーチに色々な用具を用意して、全員が楽しみながら体を動かした。

 ほかにもテトフェアやテト前の忘年会パーティといった大型イベント、サッカー大会やバレーボール大会などのスポーツデーがあり、ユニークなのは日本文化フェアだ。日本食の屋台を出して、従業員は和服やコスプレの格好をし、日本の歌を歌うなどする、日本文化に触れてもらうお祭りだ。

「今は本社だけのイベントで、2年に一度のペースで開催しています。ほかの拠点からも始めたいという要望が多いです」

 イベント以外にも「家族の日」を作って、従業員の家族が来社して父母などが働く姿を見てもらったり、「Acecook Home」という従業員専用のモバイルアプリを作るなど、従業員の結束を高める仕組みが多い。

 「Acecook Home」では会社情報や社内活動などが共有でき、ミニゲーム形式で知識を高めるような工夫もある。80%以上の従業員が使っているそうだ。

 ワーカーが期待するのは社員食堂の食事だろう。エースコックベトナムでは食品の安全衛生基準を満たした食事が提供され、4種類のメニューが毎日変わる。その中から2つを選べる。残業、夜勤、重労働に従事するワーカーには追加の食事が提供される。

 従業員の声で現場を改善する、双方向コミュニケーションも重視している。シフトリーダーが月に1回面談するなどのほか、職場環境などの不満や改善点を聞くアンケート調査を1年に1回実施している。

「アンケート結果から、食事の際に飲物を提供したり、食堂に電子レンジを置いたり、駐車場を滑りにくくするなど、できるところから改善しています」

 元旦、テト、祝祭日には、現金や商品が支給される。また、フン王の命日には自社製品、中秋節にも現金か月餅のプレゼントがあり、労働組合と協力した制度もある。

 こちらは社員旅行のための小遣い、産休中の女性従業員へのミルクマネー、誕生日、女性の日、国際子どもの日などにギフトやバウチャーが贈られる。後者は基本的にスーパーマーケットのショッピングバウチャーだ。

「以前はクッキングオイル、砂糖、ケーキなどの現物支給でしたが、好きなものが選べるバウチャーに変えました」

 このように同社にはワーカーのためのスキルアップや労働環境の支援が多く、基本的に上半期に月給の1ヶ月分、下半期に2ヶ月分のボーナスが支給され、業績に応じたボーナスもある。恵まれているように感じるが、それでも離職者は出る。

 そのため同社では毎年、離職理由を分析して、工場の管理者や労働組合を通じて直接ワーカーと対話する機会を設けている。

 エースコックベトナムは2024年3月、南部ビンロン省で12番目となる新工場の建設を開始した。2026年の稼働、約3000人の雇用を予定しており、ワーカーは益々事業のエンジンとして期待される。

「新しい人事トレンドや福利厚生制度を学びながら、精神的にも物質的にも労働者を引き付け、維持する努力を続けます」

 2002年に設立されたTOTOベトナムは主力商品の衛生陶器や水栓金具を生産する。輸出用の出荷拠点としても国内向けの生産拠点としても事業を拡大しており、北部のドンアイン工場、フンイエン工場、今年稼働したビンフック工場で合わせて4000人強が働く。

 ワーカーは単純作業者ではなく、原料を流し込んでの成形やパーツの取付けなど手作業の技能職が多く、職種にもよるが一人前になるまで半年は掛かるという。そのため定着率を高めて長く働いてもらうことが品質の向上に直結し、歩留も上げる。

「給与などの処遇は当然意識しますが、高い水準を追っても切りがありません。楽しく働ける環境を提供し、ロイヤリティを高めることを考えています」

 その一つが表彰制度だ。特に「5S」と「安全活動」を重視しており、部門単位で毎月巡視をしている。5Sと安全性を評価して、成績の良い部門を表彰し、チーム単位で賞金を支給する。

 ベトナム人の技能が光るのは毎年開催される技能選手権だ。各工場での予選に始まり、TOTOベトナムとして1位から3位を決定して、彼らは日本の本大会に出場する。TOTOグループの数多くの国から優秀な技能者が集まるが、ベトナムは毎回のように入賞しているそうだ。

「彼らが帰国したら社内でパーティをしてイベントで盛り上げます。人事部を中心に企画するのですが、ここまでやらないと(笑)」

 このような試みが奏功したのか、同社では長く働くベテランも多い。10年、15年、20年の勤務者を表彰しており、毎年かなりの人数が集まる。社長自らが1人1人と握手して「ありがとう」と伝えて、ツーショット写真を撮影。この制度もロイヤリティを育てそうだ。

 ワーカーの階層は70段階あり、経験年数や技能、上司や人事部の評価などで決定する。15年や20年勤務する者もいるため、職位に細かな差を付けて対応している。

 ワーカーの上位には間接部門のスタッフがおり、その次は初級管理職、上級管理職となっていく。ワーカーで入社しても優秀な人材ならスタッフに昇級できる。ただ、管理職になるには社内資格であるL(レベル)1~4の試験を受ける必要があり、L3なら課長、L4で副部長や部長などの候補となる。

「経験年数や上司の推薦を加味して選ばれ、社長を含めた本部長クラスが審査し、合格後に研修を受けてもらいます」

 このL制度は徐々に従業員が増える中、フンイエン工場を計画していた2015年頃から考えられた。人材を育ててポジションや役職を増やさないと工場運営が立ち行かないという危機感からだ。日本本社の制度を参考に、ベトナムに合わせて設計していった。

「期待した管理職が数年で育って、必要なポジションに必要な人員を当てられました」

 定期的な日本研修はないが、今年立ち上げたビンフック工場はベトナム初の水栓金具工場であり、ワーカーを含めて日本の水栓金具工場で約2ヶ月間技能を習得した。このように必要に応じての日本研修だが、結果的にこの数年は毎年のように実施しているそうだ。

 近年では社会から評価される会社で働きたいとするベトナム人も多く、その意味でも同社は社会貢献活動に力を入れる。ユニークなのは従業員が参加できる仕組みだ。

 同社ではベトナムでの学校の建設やリニューアルのため、約20社の企業と連携して寄付をしている。毎年2校が対象で、今年9月に16と17校目が完成予定だ。従業員はこの費用のために、社員食堂で1食に1パック付く牛乳などの飲物を寄付できる。毎月1日から3日間がその期間で、経済的に困窮している従業員、障がい者施設、孤児院などへの寄付にも使われるCSR活動だ。

「ベトナムの人は困った人を助けたい、社会に役立ちたいという思いが日本人より強く、こうした活動にとても協力的です」

 イベントも欠かせない。大掛かりなのは創立記念日の3月に毎年開催するアニバーサリーイベント。今年は稼働したばかりのビンフック工場のお披露目で、工場内の空地にテントを集めてステージも作り、約3000人が集まった。ほかの工場からはバスで送迎し、食事を用意して、ステージではパフォーマンスやカラオケ大会で盛り上がった。

「新型コロナの時はオンラインで約3000人。日本人OBが参加するなどして、これはこれで楽しくできました」

 毎年の社員旅行は従業員の自主性が重視され、会社は費用をサポートして、企画は部門に任せている。部門単位で旅行先を選定し、旅のプランを考え、バスやホテルも手配する。積み立てた費用を追加するチームもあるそうだ。

 社員の意識調査は毎年実施している。要望で多いのは食事関連で、社員食堂のメニューを変えてほしい、量を増やしてほしいなどだが、全てには対応できない。そこで食堂に厨房を2つ作り、2社の給食業者に委託した。

 従業員はどちらでも選べるので、お客が少ないと売上が下がる。業者は集客のための工夫を始める仕組みなのだが、こうした2社購買は他社も導入しているそうだ。

 売店へのリクエストも高く、飲物や朝食といった商品を充実させたり、工場の広さから売店を増設したり、軽食が食べられる施設を作るなどした。

「離職率は下がっているので効果は出ていると思います。最近は景気動向など環境要因の方が、離職に影響している気もします。今後は3拠点間の従業員同士の接点をもっと作りたいですね」

 1996年11月に設立された古河オートモーティブパーツベトナム(FAPV)はホーチミン市に工場を持ち、約6500人が働く。主に輸出向けの自動車用ワイヤーハーネスを生産しているEPE企業だ。

 2008年にはベンチェ省に系列企業のFurukawa Automotive Systems Vietnam(FASV)、2020年にはビンロン省にFurukawa Automotive Systems Vinh Long Vietnam(FAVV)が設立され、ベトナム南部は親会社である古河ASの主要な海外生産拠点となっている。

「ワイヤーハーネスの生産は装置産業でなく、労働集約型の人手による作業です。従業員のモチベーションを高めるために表彰制度などを設けています」

 毎月あるのが社長賞だ。無遅刻無欠勤、不良品の有無、作業スピードの速さなどで部門長から推薦を受けて、5工場から10人程度が選ばれる。社長と本部長が現場に出向いて表彰し、賞金とワッペンを贈る。ワッペンはユニフォームに縫い付けられるので仲間に自慢もできる。

 1年に1回あるのが優秀従業員の表彰だ。技術系の直接部門はワーカー、サブリーダー、リーダー、スタッフ、課長などのポジションがあるが、ここでは人事や総務など間接部門の従業員を含めて、個人やグループなど約100人が選ばれる。ワーカーは社長賞の受賞者から特に優秀な人が対象となり、表彰状と賞金が贈られる。

「創意工夫の提案も表彰の対象です。これらの提案が作業に組み込まれることもあります」

 ワーカーが品質向上、工数削減、経費削減などのアイデアを出し、課長、部長、本部長などが採点して、合計点の上位者が選ばれる。月平均で約40件が採用され、表彰状と賞金が贈られる。

 毎年開催する技能大会では、ワイヤーハーネスの製造、ワイヤーハーネス部品の成形、パソコン操作など約10種目で技能を競う。このうちワイヤーハーネス製造2種目の優勝者3人が日本のグローバル大会に参加でき、世界約20拠点から集まった仲間と共にトップを目指す。

「安全や品質といったサークル活動報告も評価の対象で、今年は『安全』の部門で金賞を獲得しました」

 日本での本社研修は1年に2回ある。期間は1年間で、渡航前には日本語研修を160時間行う。希望者から1回8人ほどが選ばれ、日本でワイヤーハーネス生産の管理手法など学ぶ。その経験をベトナムで活かすわけだが、監督者候補ともなる。

 イベントのメインは毎年3月頃に開催される全社パーティと慰安旅行(社員旅行)だ。全社パーティは工場敷地内でミスコンテスト、カラオケ大会、抽選会などがあり、人気歌手がステージに登場したり、バイクなどの豪華プレゼントもある。従業員が一堂に参加する。

 慰安旅行は約2000人が参加。日帰りから2泊などタイプは様々で、4ヶ所程度の候補があり、自分の行きたい場所を選べる。

「同じ場所に2000人を行かせると大変ですので、分散させたほうがこちらも助かるのです(笑)」

 ギフトの提供はテト、誕生日、女性の日、子どもの日、中秋節など機会が多く、商品は複数の候補から選べる。3~10歳の子どもがいる従業員が対象の子どもの日であれば、菓子、バッグ、文具などからチョイスできる。

「テトギフトではビールのセット、女性の日はシャンプーなどが人気です」

 従業員へのヒアリングにはQRコードも用いる。社内に貼ったQRコードを従業員がスマートフォンで読み取り、表示された掲示板に書き込む手順だ。意見で多いのは社員食堂に関して。そこで、以前は盛り付けていたご飯やスープを自分で食べたい分だけ取るように変えるなど、都度対応をしている。

「ただ、全員の希望に対して100%は対応できません。弊社では『食事委員会』を設置して、毎月2回食事のチェックをしています」

 離職対策としてのヒアリングもしている。新規採用の1ヶ月後には人事担当者が面接し、仕事や生活での困りごとを聞いて、改善できることはすぐに動く。退職希望者には原因を尋ねてできる限り対応し、複数人が協力して退職を引き止める。全員の離職は防げなくても、一定の効果があるという。

 ワーカーは当然賃金を重視しており、それが理由での退職や転職は多い。企業としては原資が限られており、労働環境を良くしても給料が低ければ人は集めにくく、退職者も増える可能性がある。

 ただ、ワーカーは福利厚生や健康保険なども調べており、特に気にしているのは仕事の安定という。業界や企業によって生産の変動幅は大きく、新型コロナの時期に顕著だったが、減産時にレイオフや契約更新しない会社も少なくない。

「生産に増減があっても継続雇用する会社を選ぶ人も多いです。弊社は女性の比率が約7割と多いのですが、しっかりした産休制度があり、出産後も働ける環境は魅力になります」

 QRコードを活用した意見の収集は、「問題点があればすぐに連絡を」と伝えているが、全社パーティや慰安旅行などポイントを絞った質問も考えている。イベント終了後の感想を聞けば次回にフィードバックもできる。

「限られた原資を、従業員のためにどう割り振っていくのかの参考にしています」