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【社会】ベトナム人のミドルネームの変遷

(C) VNEXPRESS

マイさんは娘の出生証明書に”グエン・ティ・ホアン・アイン”という文字が記載されているのを見て、怒りのあまり涙が出た。

ニンビン省に住むマイさん(32歳)は、自分の娘に”グエン・ホアン・アイン”という名前をつけるつもりだった。出産後にマイさんが病院にいる間にマイさんの夫と義理の母親は、出征証明書の名前に勝手にティ(Thi)という文字を付け加えていた。出生届を提出する際、マイさんの夫は妻に相談することもなく書き換えた名前を提出した。

「この時代に”ティ”をミドルネームに入れてる人なんていないでしょ。古臭いし田舎臭いもん」とマイさんは夫に怒って言った。

義理の娘の怒りを前に義母は、”男性はバン(Van)、女性はティ(Thi)”がベトナム人の伝統的なミドルネームだと説得してきた。さらにホアン・アインと言う名前だと男と間違えられやすいのでティを入れた方が分かりやすと義母は説明した。それを聞いてマイさんは押し黙った。

マイさんが”ティ”というミドルネームに不快感を抱くのは、学生時代にファン・ティ・マイと言う名前のことでよくからかわれたからだ。当時は友達から何度も”ティ・マイ”と呼ばれ、ときには侮蔑の意味を込めて”ティ・メット”と呼ばれた。

義母と口論したくなかったので、マイさんは黙って子供の出生証明書の名前を変更しようと考えたが、変更手続きが非常に複雑であることを知り、やむなくそのままの名前とすることにした。

バクザン省に住むフーン・タインさんは、子供の名前をブー・トゥアン・トゥにしたいと考えた。義理の父に相談したところ、ミドルネームには、”知識人、成功者”の意味があるバン(Van)を入れたいと言われた。しかし、ブー・バン・トゥアン・トゥでは名前が長くなりすぎるという理由で、義父はタインさん夫妻にハンサムで才能があるという意味のブー・バン・トゥアンという名前を提案してきた。

義父の気持ちはありがたく感じたものの、タインさんはこの時代にバンをミドルネームに使う人なんていませんと即座に反論した。タインさんによれば、”トゥアン・トゥ”という名前には既に十分な素晴らしい意味があり、あえて時代遅れで田舎臭いミドルネームを入れる必要がない。

ハノイ国家大学の元講師でベトナム文化の専門家であるグエン・フン・ヴィー氏によれば、男のに”バン”、女の子に”ティ”というミドルネームをつけるのは、ベトナム文化の象徴的な特徴の一つだった。

ヴィー氏によれば”ティ”とは元々”氏”で一族を示す言葉として封建時代に使用されていた。”ティ”は、名前ではなく姓のすぐ後ろに入る。例えば”チャン・ティ”とあれば女性で性はチャンとすぐわかる。

もう一つの別の派生的な意味として、女性は一人称として”ティ”を使用していた時代もある。その頃から名前を名乗る時には”父親の姓+ティ(Thi)+名前という表記が社会習慣となっていった。”ティ”は、名前で女性だと識別できる重要なミドルネームとして定着したのだ。

「ベトナム社会で儒教が普及するにつれて、ミドルネームの”ティ”が日常生活で性別を区別するのに便利な言葉として広がりました」とヴィー氏は説明する。

一方で、封建時代には勉強や受験のために学校に通うことが許されていたのは男子だけだった。そのため、男の子に名前をつける際には、子供の順調な出世を願ってミドルネームにバン(Van)を使う家庭が多かった。時が経つにつれて両親の願いを実現するために”バン”という言葉がますます人気となっていった。

2021年にハノイオープン大学、社会労働大学、労働安全衛生科学研究所が共同研究をおこなった”ベトナム人の名前におけるジェンダー問題”では、最近ではベトナム人は女性のミドルネームで”ティ”を省略する傾向にあることが分かっている

その主な理由としては、”ティ”という言葉が有名な文学に登場する”ティ・マウ”(クアン・アム・ティ・キン)や”ティ・ニョー”(短編小説チーフェオ)など良くないイメージの女性を彷彿とさせるからという説がある。また、”ティ”には、3人称で使用した時に軽蔑や侮蔑の意味で用いられたり、”ティ・メット(Thi Met)”という言葉が男尊女卑の思想を表す場合もあるため避けられるとの説もある。

男性のミドルネームである”バン”も同様に避けられている。社会の発展に伴い名前をつける際の美意識も変化し、必ずしも伝統的な決まりに従うことなく、自由に親の意思が反映されるようになっているのだ。

ミドルネームは”男ならバン、女ならティ”という伝統が続いていたが、最近ではこのミドルネームを名づけられる子供の数はどんどん減っている。2021年の調査では、ミドルネームに”ティ”が入る女性は18%しかおらず、ミドルネームに”バン”が入る男性も24%しかいない。

SNS上では、多くの人がミドルネームに”ティ”や”バン”を入れる人はいなくなったと考えている。「私は2006年生まれですが、クラスメイトに”バン”や”ティ”のミドルネームがついている人はいませんでした。うちの母親の家系では、おじいちゃんとおばあちゃんの代から子供のミドルネームに”バン”や”ティ”は使われなくなりましたよ」とある若者は話す。

VnExpressが最近実施した読者アンケートでは、「子供のミドルネームに”バン”や”ティ”を使うつもりがありますか?」という質問に対して88%の人が”いいえ”と回答している。

しかし、専門家のフン・ヴィー氏によれば、女性のミドルネームから”ティ”が消えたのは新しいことではない。100年以上前、フエの貴族の女性たちは”ティ”をやめて”トン・ヌー”を使用していた。なぜなら”ヌー”という言葉には女性と言う意味が含まれているからだ。1940年代以降に生まれた女性は、出生証明省の名前には”ティ”という言葉が入っている人が多いかもしれないが、手紙や日記などを書くとき、ミドルネームは省略して書かれたりする。革命運動における女性解放運動でもこれが奨励されていた。

ハノイ市に住むトゥー・リーさんは、学生時代に両親にミドルネームを”ティ”から”トゥー”に変えてほしいと頼んだことがある。「私のようにミドルネームが”ティ”の人はきまりが悪くて、外部の人とコミュニケーションするときにミドルネームを敢えて外します。やり方としては、一つはミドルネームを外して姓名だけを名乗るか、もう一つの方法としては、自分で勝手にミドルネームをつけるんです」とリーさんは話す。

心理学者のチン・チュン・ホア氏は”バン”や”ティ”というミドルネームには、独特の利点もあると述べる。しかし、現代社会では個性がより重視されることが多く、多くの親は型にはまったり、他人と被ったりする名前でなく、より意味や個性のある名前を子供につけたいと考えるようになっている。

「文明は名前に依存するわけではありませんから、”バン”や”ティ”というミドルネームを持つ人が時代遅れや田舎っぽいなどと言うのは言いがかりに過ぎません」とホア氏は話す。

「このようなミドルネームは、この国の歴史と文化の一部であり否定したからと言ってなかったことになるわけではありません」とホア氏は話す。ホア氏は全ての子供の名前には両親の子供に対する期待や願いが込められており、大切に誇りをもって名乗るべきだと指摘する。ミドルネーム以外の全ての流行りものも多くの人がその美しさを感じられなくなったときに廃れていく。

ホア氏は、個人に才能があり成功すれば、どんな名前であったとしても、その名前は美しい名前になると断言した。「名前は、単に人を呼ぶときの呼称であり、その名前を名乗った人の価値が評価の対象になるのです」とホア氏は指摘する。

出典:2024/11/22 VNEXPRESS提供
上記記事を許可を得て翻訳・編集して掲載