国内市場での存在感、1%未満に低下
ベトナムは世界有数の水産物輸出国であり、欧米市場の厳しい基準を満たす高品質な製品を提供している。しかし、その一方で、国内市場にはほとんど目を向けていないという矛盾が浮き彫りになっている。
かつて「エビの王」と称されたミンフー水産グループのレ・ヴァン・クアン会長は、「以前は国内でも一定のシェアを持っていたが、ここ10年で売上は激減し、今や1%未満です」と語る。
その理由は、輸出規格に準じた製品は価格が通常よりも20~50%高く、伝統的な市場では競争力が乏しいためである。
国産エビの復権へ 新技術「MPBiO」で価格競争力確保
ミンフー社は近年、抗生物質や化学薬品を使わずに育てるバイオ技術「MPBiO」により、安全・高品質かつ価格を抑えたエビの生産に成功。これを基盤に、国内市場でのシェアを5〜10%に引き上げる方針を掲げている。
法規制の空白が国内流通の壁に
価格以外にも、水産企業が国内市場で展開できない理由として法制度の未整備が挙げられる。
ベトナム水産加工・輸出協会(VASEP)のレ・ハン副事務局長によれば、2019年に施行された農業農村開発省の禁止物質の検出限界に関する通知28号が2024年に失効したため、現在は残留農薬などの許容基準(MRPL)に関する法的根拠がなくなり、ゼロでない限りは認められないことになった。
そのため、EUなどの検出許容基準を満たす輸出用水産物であっても、国内スーパーには陳列できないという矛盾が生じている。
安全基準の曖昧さが中小企業の負担に
VASEPは、現在進められている食品安全法改正案への意見書を提出し、水産加工副産物などの用途転換や、中小企業への規制緩和の必要性を訴えている。現在は、用途変更や再流通に関する明確な規定がないため、余剰・副産物が廃棄される事態も発生しており、資源の無駄と企業負担が懸念されている。
国内市場への回帰は容易ではない
サイゴン・コープのヴォー・チャン・ゴック営業部長は、水産物の国内市場、特にスーパーマーケットチャネルには今後大きな成長の可能性があると指摘する。国内の消費需要が年々増加しているためだ。しかし現状では、その潜在力に見合った消費がなされていないという。
その主な理由として、伝統的な市場(いわゆるローカルの生鮮市場)との価格競争がある。これらの市場では、仕入れ経路や品質が不明確なまま流通する水産物が多く、品質管理が徹底されていないがゆえに価格が安く設定されている。一方、スーパーマーケットでは品質が厳しく管理された商品が揃っているにもかかわらず、消費者は依然として「安くて慣れ親しんだ」市場でエビや魚を買う傾向が強い。
さらにゴック氏は、スーパーマーケットにおける水産加工品は、ローカル市場の生鮮品だけでなく、輸入された他の安価なタンパク源、たとえば鶏肉や牛肉などとも競争しなければならないと述べている。実際、Co.opmart全体での水産物の消費量は、通常月で約126トン、旧正月前のピークでも195〜200トンにとどまっているという。
小売各社は拡販に前向き
一方、スーパーマーケットチェーン「バクホアサン(Bách Hóa Xanh)」の担当者は、水産物は今後の消費拡大が期待できる分野だと見ている。特に最近ではアフリカ豚熱(ASF)の流行により豚肉の安全性への懸念が高まり、消費者の関心が水産物へと移ってきているという。
さらに、これまで輸出に特化してきた水産企業は、厳しい海外基準を満たす品質とブランドを既に築いているため、国内市場に転換しても十分に通用すると評価されている。バクホアサンでは現在、そうした信頼できる水産輸出企業と提携し、商品ラインナップを拡充しながら消費者の多様なニーズに応える体制を整えている。
市場転換には制度的支援も不可欠
ベトナム水産加工輸出協会(VASEP)のレ・ハン氏は、「輸出市場が厳しさを増し、技術的障壁や関税障壁が相次ぐ中、水産企業が国内市場へ回帰するのはきわめて重要な戦略だ」と述べる。
しかし、それを実現するには単に商品を切り替えるだけでは不十分であり、消費者の嗜好や味覚を深く理解し、それに合わせた商品開発とマーケティング戦略が求められるという。
同氏はまた、業界全体が国内市場で競争力を高めるためには、「行政による制度の緩和」が必要だと指摘する。これは企業だけでなく、消費者にとっても利点となる。たとえば、加工基準や流通認可、ラベル規制などの見直しが進めば、より多くの企業が参入しやすくなり、消費者も品質の高い水産品を適正な価格で手に入れられるようになる。
※本記事は、各ニュースソースを参考に独自に編集・作成しています。
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