7月2~5日にホーチミン市7区のSECCで開催された、製造業の国際な大展示会「MTA Vietnam 2025」。前回よりも多い20を超える国と地域から400社以上が出展し、日本がじわりと注目を集めていた。
2つのパビリオンで24社
毎年恒例のMTA Vietnamは今年で21回目。海外企業で出展数が多いのは恒例の中国、韓国、台湾、欧州ではドイツ。しかし、最も存在感を見せていたのが日本勢だ。
大手製造業ではアマダ、ヤマザキマザック、キーエンス、ソディック、THK、山善といった常連がAホールに出展し、BホールではJETROが主催する「ジャパンパビリオン」と大阪産業局による「大阪パビリオン」が大きなスペースを占めた。前者は16社、後者で8社の中堅中小企業が参加しており、MTA Vietnamで日本・日系企業の数はトップクラスだった。

価格が高いから売れる
Aホールの入口近くで大きく展示していたのが金属加工機メーカーのAMADA VIETNAM。ブース中央にファイバーレーザー加工機を展示し、周囲に広々としたスペースを取った。逆説的な言い方になるが、「価格が高いから売れる」とのことだ。
高価なマシンは機能が優秀で高品質なモノづくりができる。そのため、「世界で戦っているお客さん」がアマダの最高級を求めるからだ。
「エレベーターメーカーなどベトナム企業でも弊社のマシンを好まれるお客様もあります」
中国製の加工機とは金額も納期も差は大きいが、購入したものの要求精度が出ず、アマダ製品に買い替えるケースもあるようだ。また、マシン単体でなくソフトウェアと組み合わせた生産管理などが一気通貫でできることも強みだ。
「日系企業の進出が去年ぐらいから増え、韓国や中国からの進出も増加する中で、ビジネスのチャンスが広がっていると思います」

金型修理のハンディマシン
商社のNARASAKI VIETNAMは日本製の放電被覆・肉盛装置を実演し、多くの見学者を集めていた。初心者でも使えるハンディタイプで、放電によるスパークで金型を修理していた。
「簡単に使える装置を持ってきました。この製品の東南アジアでの代理店をしています」
金型は多少でも損傷すると修復依頼や買換えが必要になるが、この装置を使えば再生させることが可能。この「もったいない需要」を見越して作業の実演に至った。スパークのパチパチという音と飛ぶ火花に来場者は興味津々で、見積りを頼まれたこともあるという。
「先の電極が特殊で特許を取っていますし、ベトナムで類似製品は見ていません」
顧客として想定しているのは金属部品メーカー、プラスチックなどの成形メーカー、金型メーカーなどだ。

高精度な自動化が進む
KEYENCE VIETNAMは主に製造業向けの精密測定器、マイクロスコープ、トレーサビリティ用のレーザーマーカーの3つを展示。キーエンスのユニフォーム姿の女性スタッフが資料を配り、操作方法などを丁寧に説明していた。
マイクロスコープは主に品質保証や品質管理に使われ、レーザーマーカーは製品に不具合が起きた時などにトレースできるようにする装置だ。どれも基本的に新製品を並べた。
「お客様はベトナム企業より韓国系、中華系、米国系のメーカーさんが多いです。どこも品質はかなり気にされていて、手作業から高精度な自動化への興味をお持ちです」
製品のサイズをスケールで測っている現場の来場者で、製品を自動測定するデモを見て感激する人もいるという。
「ベトナムではスマートフォンや自動車関連のサプライヤーさんや食品メーカーさんなど、幅広い製造業でご採用いただいています」

発売前に本音をヒアリング
MITUTOYO VIETNAMは新商品の高性能画像測定機をアピール。日本でも販売していない新機種で、来場者に説明しながらリアルな声をヒアリングし、発売に向けた調整をしていく。東南アジアで初めて展示したそうだ。
「初心者でも簡単に扱えるマシンで、設定や測定のプログラムが簡単に作れます」
ベトナム事業は好調で、日系だけでなく中国系、台湾系、韓国系の企業にも納入しており、性能に優れた高価格帯からリーズナブルな機種まで、要求精度と予算から選んでもらっている。
「厳しい精度であればハイスペックな機種で価格は高くなりますが、アフターケアでも評価をいただいています」
次はインドネシアに持っていき、各国の声を聞きながら改善すべき点を探すそうだ。

メイン商品は「焼きばめ」
マシニングセンタ用のツールホルダー(工具の保持具)を製造するMSTコーポレーション。常連組の同社は今回もバリエーション豊かな製品群を展示しており、女性社員によるデモ説明は人気スポットだ。
「去年は初日3500人でしたが今年は2900人余り。2日目の今日は昨日よりは若干増えているかな」
メインの商品は焼きばめ装置や焼きばめホルダー。焼きばめとは、常温では軸より小さい径を加熱膨張で広げて、軸をはめ入れた後に冷却して固着させる方法だ。先端に締め付け部分がなく、スリムで把握力の強さが特徴になる。
「日系や中華系、ベトナム企業にも広く使っていただいています」

輸出のための検査装置
「多分初めての出展」となるのが商社のTECHNO VIETNAM INDUSTRIESで、品質保証や品質管理に使う精密測定器、耐久試験器、成分分析機などを展示。米国、中国、韓国、スウェーデン製で、代理店であると同時にメンテナンスもサポートする。
「出展の目的は会社を知ってもらうこと。興味持っていただいたらアプローチします」
こうした検査装置は輸出の際の厳しい検査に使われるため、日本、韓国、中国、台湾、欧米などの外資系輸出企業が主な顧客。ベトナム企業では南部の水産加工会社などになる。
「中華系、韓国系、欧米系も進出が続き、一巡したと言われながら日系も増えています。色んなカードを持って、営業を続けて、勝ち続けなきゃいけないですね」

金属加工部品の販路拡大
こちらも初出展となるのがAGENCY ASSIST VIETNAM。親会社が金属加工部品の商社で、同社は品質管理を担当しており、様々な精密部品のサンプルを展示した。
昨年はMETALEX Vietnamに出展しており、目的は同じでベトナムでの顧客獲得と、海外の取引先企業を増やすこと。
「自動車関係や半導体関係の工場で使われる自動機やFA機器の部品が多いです。日系企業のお客様が多いですが、ベトナム企業にも広げたいですね」
加工業者や設計から組立てまでの装置メーカーなど多彩な業種が訪れるそうだ。

スプリング工場で国内販売
Bホールに移動して、最も目を引くのがデザインセンスが光るジャパンパビリオンだ。通常の製造業ブースに13社、製造業DXをテーマにした特設ブースに3社が参加した。製造業の3社を紹介したい。
高橋スプリングは線バネや板バネをはじめとする様々な用途の高精密スプリングを生産している。生産拠点は日本の他にタイとインドネシアにあり、ベトナムでの展示会出展は初めて。
「今後のベトナム進出を検討したいと、市場調査を兼ねて出展しました」
現在想定しているのは、当地に生産拠点を作って、ベトナム国内の企業に供給すること。スプリングは多くの稼動部に使われるので、自動車や電気製品など顧客企業はかなり広く見込める。ベトナムの労働者の質の高さも魅力と感じている。
「お客さんの求める製品を作る自信はあります。タイやインドネシアでお取引のある企業の訪問もありました」

原料を作る粉砕機のニーズ
中央化工機は原料を粉体にする粉砕機や、湿気を含んだ粉体を乾燥させる乾燥機などのメーカーで、日本シェア80%以上という。
「日本では多くの製造業界で使われていて、1番わかりやすいのが抹茶です。抹茶のアイスクリームや飲料を大量生産するための茶葉の粉砕などですね」
2023年にベトナム法人を設立し、設計業務を移管した。その理由はベトナム人の賃金の安さではなく、日本での人材採用が難しいからだ。
「設計が回り始めたので、ベトナムでの販売を考えて出展しました。ただ、市場は難しそうです」
粉体を作る粉砕機や乾燥器はニッチな産業機械であり、来場者もなかなか理解してくれないようだ。原料作りから自社で始めたいとする企業が増えないと直接の受注は難しいため、今回は代理店やパートナー探しに重きを置く。

研磨の技術でベトナムへ
最後は三和精密工業と共同出展した新光ステンレス研磨。社名のようにステンレスやアルミなどの金属研磨加工を専門としており、そのサンプル品が展示された。
例えば、半導体関連装置や医療機器等で使われる金属パイプの内面。パイプ内が奇麗に研磨された様子がくり抜いた窓から見える。あるいは、ステンレス鏡面に特殊研磨で文字盤を製作した壁掛時計。デザイン性を重視した受注生産で、イタリアの展示会に出展したそうだ。
「ベトナムは活気がありますし、これからも多分どんどん伸びていくでしょう。挑戦したいと思って出展しました」
実際の取引となったら日本で研磨して輸出するのか、あるいはメーカーとして生産しているデザイン時計を商材とするのか。自社のアピールから始めたいと語る。


取材・執筆:高橋正志(ACCESS編集長)
ベトナム在住11年。日本とベトナムで約25年の編集者とライターの経験を持つ。
専門はビジネス全般。
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