人材紹介会社の中でもマネジャークラスに特化するJACリクルートメントベトナム。日系企業による現地化が始まりつつあリ、多くの業種でベトナム人の採用が伸びているという。2代目社長のウィン氏が語る。
日系企業が現地化をスタート
―― 人材紹介会社として御社の特徴を教えて下さい。
ウィン 管理職などハイポジションの人材を中心にご紹介しています。年齢は30歳以上、社会人経験5年以上のシニアクラスで、ご紹介の割合はベトナム人65%、日本人35%ほどです。
また、通常の人材紹介会社ではクライアント(企業)側と求職者側で対応部署が分かれますが、弊社では基本的に1人が双方を担当しており、「両面コンサルタント」と呼んでいます。他社のコンサルタントからは、「クライアントに会ったことがない」、「求職者との面談に同席できない」などの声も聞きますが、それではベストなマッチングが叶いません。企業が望む本当の人物像や求職者の転職意向など併せて反映できないからです。
そのため、コンサルタント1人が担当するクライアント数は5~10社程度です。事業としては数より単価を重視しており、フィーが高めだと言われることもあります(笑)。未経験などのジュニアクラスは多少弱いので、「ハイクラスならご協力できます」と伝えています。弊社の登録者の約半数はリファラー(紹介)で、登録している方がお知合いを紹介してくれます。クライアントも同じで、新しいお客様を紹介してくれる企業様が多いですね。
―― 業績はいかがでしょうか?
ウィン おかげさまで、売上は毎年15~20%程度上がっています。JACリクルートメントは世界12ヶ国に拠点がありますが、ベトナムは特に伸びています。理由の一つは多くの外資系企業がベトナムの内需を狙い始めたことで、ベトナム人による現地化が進んでいます。ベトナム人スタッフの多くは駐在している外国人のサポート役でしたが、現在は主役にもなり、外国人がサポートに回ることもあります。企業がベトナム市場を注視しているためです。
また、米中貿易摩擦で中国からの工場移転、あるいは現在の工場で、スタッフをベトナム人にする動きがあります。何らかの形で中国に関わっている企業には、ベトナム人採用のニーズがあるように思えます。
以前は語学力がベトナム人採用のポイントでしたが、加えて専門性や人的ネットワークが条件になりつつあります。弊社では日系企業の業界を大きく製造、商社、サービスに分けており、やはり求める人材が異なってきます。
―― 詳しく聞かせてください。
ウィン 製造業では、日系大手企業がCFOや管理職などにベトナム人を採用し始めました。技術のトップは日本人でも、財務などの管理部門はベトナム市場を知るベトナム人に任せたいのだと思います。
日本が人手不足で駐在させる適材がいないことや、コストダウンも理由でしょう。仮に日本人とベトナム人の年収が同じでも、日本人管理職の駐在なら会社は家賃や専用車などを負担するので、年収と同程度の金額になる場合もあります。ベトナム人ならこれらの費用が必要ないうえに、帰任がないため長く働いてくれます。
ただ、求める人材はハイレベルです。例えば、日本に留学して卒業後も日本で10年以上働き、日本の商習慣がわかっている人。日本人同様の語学力かつ高い専門性を持つエリート層ですから、母数は少なくなります。
商社では販売網の開拓など、営業職の採用。もうひとつはソーシングと呼ばれる、取引先を探して購買の条件を交渉する仕事です。ベトナムの内需が大きくなる中で、日本からの輸出品を国内販売する仕事が増え、国内にネットワークを持つベトナム人を探しています。
サービスは大きくコンサル系、銀行系、建築系に分かれます。コンサル系は進出、会計、法律などがありますが、一番求められているのは事業ライセンスの取得ができるビジネスコンサルタントです。高度な専門職で実質的にベトナム人しか資格が取れません。銀行はアシスタント系の仕事が多く、日系デベロッパーからは開発した高級マンションやヴィラなどの、ベトナム人営業職が多いです。
目指してほしいグローバル人材
―― 現地化が進んでいるのがわかりますね。
ウィン 欧米などの外資系企業はもっと早くから進めていました。進出企業にFMCG(日用消費財)系が多いこともあり、ベトナム市場をよく知るベトナム人に、責任あるポジションを与えていました。こうした英語話者の業務スキルは高いと思います。
残念ながら日系企業は違います。元々はEPEなどの輸出がメインでしたから、日本人は日本本社とやり取りをし、ベトナム人はアシスタント。国内市場を知る必要はなく、ベトナム人もその役目に満足していました。それは今もさほど変わらないと思います。
―― 日本人の転職事情はどうですか?
ウィン 現地化が始まったことで日系企業の日本人採用、特に管理職クラスは減っていくかもしれません。そこでアドバイスですが、ベトナム企業で働くのも面白いと思います。先進的な企業は輸出や海外との取引に積極的で、外国の市場を探しています。日本も有望国ですから、日本人に窓口をお願いしたいわけです。
国内業務にもニーズがあります。例えば、パッケージメーカーの品質管理技術者。ベトナムの製品ですから日系企業に比べたら単価は安い。そこに日本式の品質管理手法を導入して品質保証できれば競争力が付きます。
仕事の自由度は高いですし、やりがいも大きく、待遇も良いはずです。グローバル人材になりたいと非日系で働きたい日本人も増えており、そんな人にはベトナム企業が狙い目です。
―― ウィンさんのようなベトナム人が現法社長を務めているのは珍しいですよね。責任者として心掛けていること教えてください。
ウィン 自分で自分を管理できる人を育てたいです。そして、私の立場は管理者でなく相談者でありたいと思っています。特にコンサルタントですから、他人にマネジメントされるのではなく、各自が子会社の社長の立場で自分をマネジメントをしてほしいです。そうすれば人から言われなくても動くようになります。
もちろん全面的に協力します。相談してもらえれば、私は解決方法は伝えます。ただ、それから先は自分で考えて動いてほしい。弊社はオープンな社風で、変な競争意識はなく、情報共有を大切にしています。日本と欧米の社風が程よく融合した外資系だと感じています。
先程グローバル人材の話が出ましたが、自分から率先して行動できる方なら、いくらでもそのような人材になれると思います。