大人気店の「Pizza 4P’s」。現在は11店舗に拡大し、チーズの生産販売、食材の宅配、他社との提携なども展開。従業員約1500人の一大企業となった。その成長を支える企業運営を創業者兼CEOの益子陽介氏が語る。
売上げよりも「スマイル指数」
―― 中期目標を教えてください。
益子 2023年に、1000万“スマイルfor Peace”を創出することです。この「スマイル指数」は弊社独自の指標で、「『全店舗の顧客数×顧客満足度』+『従業員数×従業員満足度』×365」で算出します。2018年の170万スマイルから5倍に増やしていくことを目標にしています。
顧客満足度はGoogle、Facebook、TripAdvisorなどネットでのお客様の総合平均評価を、レビュートラッカーというソフトで日々出しています。1店舗当たり1ヶ月で1000~1500のレビューがあり、各メディアソースからのレビューの総数、平均、コメント詳細などの情報をすべてまとめて、ダッシュボードでリアルタイムに確認できるようになっています。
また、各店舗で約20%のお客様にアンケート調査をしています。1日の来客数が600人、1グループを2~3人とすると250グループ程度なので、約50グループに聞いていることになります。
従業員満足度もアンケートです。従業員は約1500人おり、85%が正社員、残りはパートで、全正社員が対象です。アンケート質問項目は総合評価とサラリーや環境などの細かい個別評価に分かれており、こちらも5段階評価で回答してもらっています。スマイル指標に使っているのは総合評価の数字です。
従業員の満足度は各店舗や部署のマネジャー、ダイレクターたちのKPIにもなっており、アンケートの内容から満足度が低い理由や改善点を吸い上げ、会社全体で引き上げていけるよう常に努力しています。
―― 人材育成にも注力しています。
益子 はい。重視しているのはビジョン、ミッション、コアバリューです。これらをどう伝えて、理解してもらうか。そのため、昨年はリーダーポジション以上の200名が参加する、「リーダーサミット」という合宿を実施しました。そこでビジョンに関するワークショップやプレゼン、チーズ作りや契約農家さんを訪ねての農作業体験など、会社のビジョンやミッションが浸透されるようなアクティビティを実施しました。
Pizza 4P’sのTシャツを作って背中にビジョンを入れたり、ムービーを作ったりもしています。四半期に一度は私がプレゼンして、改めて従業員に内容を伝えています。こういったカンパニーカルチャーの強化にはアメリカの企業Zapposの手法を勉強し、参考にしています。
昨年からは従業員の年間MVPを選出していまして、褒賞として2名が日本旅行に行きました。今年は3人を選出する予定です。ピザ職人のための「Master Pizza Chef」というイベントも実施しました。店単位で選んで、地区予選があり、グランドファイナルで最優秀シェフが決まり、賞金が渡されます。その他の一般的な従業員向けの特典としては、店のメニューの50%割引や、従業員専用の相談窓口も設けています。
また、昨年からトレーニングセンターも設置し、入社後に3日のオリエンテーションでミッション、ビジョン、衛生管理など基礎的な要素を教え、その後各部署でのトレーニングに進みます。外部からコンサルタントなどを招いてのコーチングやセミナーも実施しています。
データとITを組織に活用
―― 職級や評価の仕組みとは?
益子 各部署ごとにスタッフ、スーパーバイザー、マネジャー、ダイレクター、エグゼクティブといった階級をつくり(図参照)、それぞれの役割や責任範囲、権限などを具体的に書面化した上で、キャリアパスや昇格制度が明確になるよう制度を整えているところです。エグゼクティブとは経営のボードメンバーで、アドバイザーを含めて6人おり、経営方針や出店計画などを決めています。
従業員の評価については、レストランでのパフォーマンスは見えにくいとつくづく感じます。ピザが作れるなどの技術的な面は比較的わかりやすいのですが、顧客対応は測りづらく、公平なジャッジが何より大切です。
仮に店舗の評価は低くても、「俺はこれだけやっている」という個人の不満は出てきます。そのため、ストア(店舗)では従業員1人に対して上司や同僚など4人が評価しています。約10年続けてきて、職務と職責の明確化がどれだけ難しいかを実感し、パフォーマンスを定量化することが一番のキモだと考えています。
―― 給与にインセンティブがあると。
益子 はい。ここでも顧客満足度を重視しています。例えばストアレベルでは店舗の顧客満足度のスコアに連動してボーナスの金額が変動し、顧客満足度が4.5なら売上げの1%、4.8なら5%のボーナスが出るような形です。1ヶ月の売上げが1000万円なら5%で50万円になり、それを従業員で「山分け」にします。ただ、役職によって配分比率は異なり、店長はスタッフの3倍になるなどの差は付けています。店長は店や顧客満足度を左右する重要な役職と考えているからです。
満足度や評価などを含めてデータとそれを使うITを重視していまして、毎月多くのKPIを出して、店単位で比較しています。ITエンジニアは6名いて、ダッシュボードやSNSなど独自アプリの開発、シフトや在庫の管理、データの分析などをしています。スタッフレベル、マネジャーレベルなどで閲覧権限に差はあっても、データは従業員に公開しています。
―― 採用について聞かせてください。
益子 非常に厳しいです(笑)。新しい店舗を出店する際には、約100人のスタッフが必要になります。募集すると1000人、2000人の応募がありますが、店に立つ(採用後に試用期間に入る)までの確率は4%。しかもそこから3ヶ月で30%しか残りません。
年齢は多少ありますが、その他の条件は特になく、未経験も大歓迎です。Webサイトだけでの採用は難しいと考えて、大学でジョブフェアも開いています。しかし、採用した人たちの約7割が辞めているわけです。
こうした数字は急には変えられませんから、退職を事前に想定するしかありません。逆に活躍してくれる人の特徴は、成長する意欲がある、既存の考え方にとらわれない、ホスピタリティマインドがある、素直な性格、などでしょうか。採用、育成、リテンションと、全て人に紐付いており、強い文化を作って、弊社に合う人を採用し、育成していくしかありません。
―― 出店計画を教えてください。
益子 今年はハノイに2店舗、ホーチミン市に2店舗、ニャチャンに1店舗を予定していて、来年はまだ決まっていませんが、ビンズン省に出店予定です。以前はインドでの出店とチーズ生産を考えていましたが、ベトナム市場が旺盛すぎて手を付けられませんでした。
これまで業績が伸びてきた理由は、顧客満足度と人材育成にフォーカスし、データを元に客観的に分析、改善を進められるように投資をしてきたからだと思います。海外展開は視野に入れており、今後もこのスタンスで続けます。