特別便による日本からのビジネスマン入国が始まって半年以上。多くの書類申請、2週間の隔離、相応の費用も必要だが、ベトナム入国を望む日本人は後を絶たない。知っているようで詳しくは知らないその仕組みと実際を、わかりやすく解説する。
(※全ての情報は2021年1月11日現在のものです)
3行政機関へ申請と承認
快適な入国をするために
人材紹介や組織人事コンサルティングを行うアイコニックでは、ベトナム入国の代行業務もしている。入国のためにすべきことを尋ねると下の表を出してくれた。ホーチミン市のプロセスで説明するが、ハノイでは順序が若干異なっている(赤枠の部分)。
新型コロナ禍で必要になったのは、人民委員会、入国管理局、保健所(ハノイは保健局)からの承認だ。まずは人民委員会による入国の承認。必要なのは申請書や企業ライセンスのコピー等の他、専門家であることを証明する書類だ。これは在籍証明書+卒業証明書、専門家証明書、労働許可証のいずれかになる。
「すなわち、労働許可証保有者、もしくは取得できる職務経験を有する人を想定しており、業務経験が3年未満の方などは難しいと思います」
次にフライトの仮予約、現地ホテルなど隔離施設の予約をし、入国管理局の承認(ビザ招聘状)を申請する。既にビザを持っている場合も必要となるので要注意だ。この時に書類の提出者が招聘元企業の社員であることが確認される。
その次がベトナムの保健所による隔離計画書の承認だ。ここで特に必要な書類はいつ、どこで、どのように隔離されるかを記した隔離計画書になる。承認を得てこれまでの書類が揃ったら、航空会社へ書類提出=本予約をする(P4~5参照)。
その後は大使館や領事館からのビザを受け取る。ベトナム到着時にアライバルビザも取得できるが、日本で事前申請してビザを受け取ったほうが良いそうだ。
「夜着の便が多く、空港から出られるのが日を跨いだ深夜1時頃までかかると聞きます。これに加えてアライバルビザを取得するので、空港を出る時間がかなり遅くなってしまうのです」
そして、入国の3~5日前に発行されたPCR検査の陰性証明を用意し、医療申告として入国24時間前までにWebでのアンケートに回答し、QRコードを取得しておく。どちらもベトナム入国時に必要となるものだ。そして空港(現在は羽田か成田)で搭乗して、ベトナムへ。
ハノイとホーチミン市で差
隔離の場所と労働許可証
ベトナムの空港に到着したら、防護服を着て、専用の検疫対応車でホテルに移動する。ここから2週間の隔離生活となるが、隔離の地域は南北で大きな差がある。北部はハノイで隔離できるのに対して、南部は招聘企業がある市や省になる。ハイフォンの企業はハノイのホテルで隔離できるが、ドンナイ省ならホーチミン市での隔離は難しいのだ。
「例えば、ドンナイ省に会社があってホーチミン市で隔離するには、『その必要がある特別な場合』に限られます。これが認められることが稀なのです」
隔離用のホテルは市や省の人民委員会が発表しているが、大都市に比べて地方ではホテルの数もグレードの高いホテルも少ない。部屋から一歩も出られない生活が2週間続くので、ホテルのクオリティは重視されている(P6~7参照)。
ホーチミン市に支社などがあってそこが招聘企業となれば、ホーチミン市で隔離できる。あるいはハノイから入国する。ハノイは企業の所在地によらず隔離を受けられるので、隔離後にドンナイ省などに移動する方法だ。
隔離の後にはコロナ陰性・隔離証明書を取得できる。これから労働許可証を取得する人には必要な書類であり、労働許可証の申請時期でも両市で差がある。ハノイは入国前の日本で申請できるが、ホーチミン市では入国後の申請となるのだ。
「そのため、ハノイでは事前に労働許可証を取得していれば、隔離終了後すぐの有効開始もあります。一方、ホーチミン市では隔離後に健康診断を受け、書類を揃えるのに1ヶ月とすれば、取得まで1ヶ月半~2ヶ月掛かります」
労働許可証を保有していない人が取得できるビザの期間はホーチミン市で3ヶ月まで、ハノイでは1ヶ月と異なる。労働許可証の取得を考慮したものかもしれない。
隔離短縮と短期入国手続き
申請は慎重かつスピーディに
池田氏が良く聞かれるのが、隔離期間の短縮と短期入国者の入国手続きについて。前者では隔離施設で7日間、その後自宅で7日間の隔離ができるようになった。ただ、保健所などが自宅を検疫して、隔離できる状態や食事の調達などをチェックをするそうだ。
「特に家族同居の場合は、当人が1人で隔離できる部屋、浴室、トイレなども確認されます。この審査で承認が下りないケースも多いです」
14日以内の短期出張者の入国も可能となったが、あまり現実的ではないようだ。承認のためには行動計画書が必要で、14日間の滞在場所、移動、行動、対面者などを詳細に記す。当然のことだが制限も多い。
「工場の視察では会う人数が限られ、部屋は入退室前後に消毒し、基本的に会食不可で、移動は全て検疫対応車を使用するなどです。事前承認を得た活動以外はホテルで隔離ですし、労力の割にできることが少ないのです」
最後に、現在のベトナム入国のルールは世界共通であり、かつ状況次第でいつ変更されるかわからない。そのため、表右側の目安期間には余裕が持たれている。
「例えば、人民委員会の入国承認は3週間程度で出ていますが、3週間という規定はありません。また、保健所での隔離計画書の承認は当日に下りることが多いですが、新型コロナの状況で隔離の条件が大きく変わることもあり得ます」
初めての手続きなのでスタッフが戸惑うことも多く、代表者の書類への捺印やサインが遅くなれば、申請自体が遅れていく。下調べを欠かさず、スピーディに、十分に時期を見て準備したい。
必要な書類の手配
特別便の搭乗まで
ANA(全日本空輸)は現在、羽田-ホーチミン路線と成田-ハノイ路線で、通常の定期便と異なる「特別便」を運航している。特別便を利用する際はANAならホーチミン支店かハノイ支店など、航空会社のベトナム支店に問い合わせれば仮予約ができる。
「ご予約の大半は日系企業のベトナム現地法人総務部など、ベトナム人スタッフの方からが多いですね」(上阪氏)
「最近では旅行会社など代行業者からのご連絡も増えてきました。日本からお問い合せいただくこともありますが、書類手配などの実務対応はベトナム語での対応が必要となります」(黒田氏)
仮予約の後、必要書類を手配し、期日までに航空会社に書類一式を提出する。ANAは締切日を出発の約10日前に設定しており、必要書類は以下となる(ホーチミン線の例)
①市・省の人民委員会の入国許可
②入国管理局のビザ発給承認、または入国承認書
③保健省宛ての申請レター、ホテル予約確認書、空港ホテル間の移動手段予約確認書
④PCR検査陽性時の医療費支払いを保証する文書もしくは保険証書のコピー
航空会社は搭乗者から提出された必要書類を事前にチェックし、ベトナム民間航空局(CAAV)に提出、同時に特別便の運航を申請する。そして、CAAVからの承認が下り次第、予約確定となる。
何らかの都合で予約した便を変更した場合は、書類手配はやり直しになるのだろうか。
「必要書類の①と②には渡航便名についての記載がありません。つまり、便の変更時に再取得の必要はないと考えます」(上阪氏)
手続きを一からやり直す必要はないが、到着日が変わるのでホテルや空港ホテル間の移動手段は再予約となり、保健局へは再度の申請となる。ANAでは、便変更によるキャンセルフィー等は発生しない。
その後、搭乗予定者は指定の医療機関でPCR検査を受診し、陰性証明書を取得する必要がある。ベトナム入国の3~5日前に発行された陰性証明書のコピーを事前にANAに提出し、搭乗時にはその原本と上記の必要書類コピーの持参が必要となる。
搭乗当日の注意点
ベトナム到着後の流れ
空港はレストランや免税店の多くがクローズしており閑散としているが、カウンターでのチェックイン、出国審査、搭乗手続き等は通常時と変わらない。機内での過ごし方も常時マスク着用以外には基本的に同じ。また、機内持込み手荷物、預け手荷物、マイル積算なども変わらず、自宅などから荷物を送れるANAの「手ぶら・空港宅配サービス」も利用できる。
「特別便はハノイ線もホーチミン線もボーイング787-9の機材を使用しています。ご搭乗いただける人数は200名強で、現在ホーチミン線で毎便100名程度のお客様にご利用いただいております」(黒田氏)
そしてベトナム到着となるが、入国に際していくつか注意がある。まず、オンラインでの医療申告。入国前24時間以内にWebで実施することがが全ての入国者に求められており、申告番号(QRコード)が表示された画面か、プリントした紙の提示が必要となる。
「オンライン医療申告の未実施、申請内容に不備のある方が一定数いらっしゃいます。お間違えのないようご注意をお願いします」(上阪氏)
加えて、到着後にアライバルビザを取得する人に要注意なのは、4×6センチの写真2枚と、ビザ申請費用としてUSDの現金(クレジットカードは不可)が必要なこと。降機した後、すぐに検疫・入国審査があり、スピード写真機や両替所はないので忘れないように。
ちなみに、ベトナム在住でレジデンスカードや労働許可証を持つ駐在員などが、日本に一時帰国しベトナムに再入国する際にも、②入国管理局の入国承認書は必要となる。ただし、既存のレジデンスカード等が有効の場合は、改めてアライバルビザなどを取得する必要はない。
広がる日本人入国者の層
特別便の今後はどうなる?
実際にベトナムに入国できなかった日本人、あるいは特別便はあるのだろうか。1便の搭乗者数が100名とすると、航空会社は毎便100名分の必用書類をCAAVに提出している。現在日本からベトナムへの定期便はなく、航空会社はこれにより当局への着陸申請をし、毎便許可を得ているのだ。
「つまり、ここで許可が出なければ航空機を飛ばせないわけですが、特別便の運航を始めて以降、ANAではそのようなケースはありません。また、到着後に何らかの不備で入国できなかったお客様も、現在までのところいらっしゃいません」(黒田氏)
ベトナムへの入国は当初、日本商工会議所がバックアップする形でのチャーター便から始まった。ANAも手探りの状態で特別便の運航をスタートした。その後は現在のような仕組みが定着してきたわけだが、搭乗者は徐々に変化してきたという。
「最初は赴任者ご本人のみでしたが、家族帯同のニーズがあって昨年9月頃からご家族様の渡航も実現しました。その後は赴任者だけでなく、3ヶ月など長期プロジェクトの出張者も入国するようになります。そして最近では、日本への一時帰国者の再入国も増えています」(上阪氏)
ANA特別便は今年2月からは運賃が下がってより利用しやすくなる。今後、渡航者がさらに増えてくれば増便も考えられるという。
特別便の認知は広がっているが、上阪氏と黒田氏が口を揃えて言うのは、今まで運航できたからと言って今後も特別便を継続できる保証はないこと。ベトナム側の判断で運航が大きく左右される状況は続いている。
最近ベトナムに入国し、隔離生活を送った日本人に取材した。入国の理由、申請手続き、そして2週間の隔離はどうだったのか。これから入国する人のアドバイスになれば幸いだ。
東京を離れて釣り三昧
隔離中に自叙伝を執筆!
私は新型コロナ感染拡大前に、会社の代表変更などがあり、日本に一時帰国しました。ホーチミン市から成田に着いたのが昨年の3月25日。その翌日に越日の定期便が止まりました(笑)。
東京では感染リスクが高く、リモートワークも始まっていたので、4月に生まれ故郷の広島県に帰りました。海が近いので釣り船を買って、趣味の釣り三昧です。瀬戸内海を遠出して、ホテルに泊まって、船の上で仕事。釣った魚は居酒屋でさばいてもらったりね。
日本で半年以上滞在後、ベトナムの仕事が心配になり、11月中旬に入国しました。各種の申請、また、窓がある角部屋でデリバリー可能なことを条件にした入国後のホテル予約は、ベトナム人スタッフに頼みました。
到着してホテルに着くと、すぐにデリバリーでビールやつまみ、日本食を調達。デリバリーできるホテルの選択は必須です。ただ、都市中心部だったのは失敗でした。窓からルーフトップバーや屋台が見えて、街の自由で陽気な姿に嫉妬しましたから(笑)。
仕事はしましたが、時間が余る。だから、ビールを飲んだり、YouTubeを見ながら運動したり。それと自叙伝を書きました。実家にいたので子どもの頃の思い出が蘇り、幼少期からこれまでの人生を約3万文字の文章にしました。
隔離後は運動の成果もあってなぜか健康的になりましたが、もう隔離は嫌なのでしばらくベトナムにいます。これから来る人は14日間のプログラムを事前に考えて、必要なものを用意してはどうでしょう。
支社設立のために赴任
バルコニーと調味料は大切
ホーチミン市に支社を設立するために赴任しました。一昨年末から話はあり、新型コロナで様子見になったのですが、事業を前に進めようと昨年12月に入国しました。成田からハノイです。
申請、ホテル、フライトはパックで代行業者に頼み、日本で1ヶ月のビザを取得しました。ただ、必要な書類が全て出るまで1ヶ月半~2ヶ月掛かり、結局揃ったのがフライトの3日前。余裕を持ったスケジュールが良いと思います。それと、オンラインの医療申告は簡単ですが、忘れている人が結構多いようです。
空港で荷物を受け取ったら防護服を渡されて、1人1台のバス(検疫対応車)でホテルへ。ホテルでは手荷物と防護服に消毒液を掛けられます(笑)。隔離中は同僚から菓子やカップラーメンを差し入れてもらいましたが、酒は禁止でした。ただ、ルームサービスでビールが頼めました。
日中はリモートワークで、日本でも週に数日はリモートなので慣れていました。それ以外は運動不足になるので筋トレをしたり、ベトナム語の勉強もしました。
私が今回の隔離でこだわったのはバルコニーです。一番の優先事項で、バルコニー付きの部屋にしてもらいました。理由は気晴らしができるからで、その通りになりました。あれば良かったのは日本の調味料で、トンカツにソースが付いてなかったり、醤油が欲しかったりがあるんです。どうしても食事が楽しみになりますし、ホテルについては事前に調べたほうがいいですよ。
チャーター便と特別便の2回
日越を往復する理由とは?
新型コロナ禍で2回目の入国です。初回は昨年5月の、日本からベトナムへの特別チャーター便でした。私は元々日越を頻繁に往復していて、3月に一時帰国してからベトナムに戻れず、お客さんを待たせていたのです。
日本で緊急事態宣言が出た頃ですから、色々と怖かったです。空港ではどこかに触ったらすぐに手を洗いましたし、当時は日本出国時のPCR検査はなかったですし。成田からハロン湾近くのバンドン空港に着いて、ホテルで2週間隔離してから仕事です。
その後、日本にいるお客さんが気になって、8月に定期便で成田へ。家族の身を案じて、空港近くのホテルで2週間の自主隔離をしました。
日本では隔離も公共交通機関を使わないことも、全て「お願い」でしょう。PCR検査も徹底していない。強制力のあるベトナムと比べると、日本人の意識を含めて甘いと思いました。
11月にベトナムに再度入国しました。10月に申請業務とホテル予約を代行業者に頼んで、フライトは自分で予約して、ホーチミン市に到着です。リモートで仕事をしていましたが、弁当がドアの外に置かれるだけの生活なので、だんだん頭が回らなくなってくるんですよ(笑)。
仕事以外はパソコンにダウンロードした映画や、動画配信サービスを見たりです。日本のテレビ番組が見られるチューナーを、スタッフに差し入れてもらった人もいると聞きます。今年も早々に日本に一時帰国する予定で、またホテルで自主隔離ですね。
娘の結婚式で一時帰国
大変だが戻って良かった1ヶ月
昨年10月末に定期便で、ホーチミン市から成田に一時帰国。娘の結婚式のためです。新型コロナ禍ですし、父親も来られないならと延期も考えたようですが、身内だけの少人数で行うことにしました。
再入国のための申請など、手続きは会社のスタッフたちが頑張ってくれました。準備期間を取ったつもりでしたが、それでも約2ヶ月掛かりました。成田に着いて、予約していたレンタカーで福島県の実家までです。
2週間の自宅隔離の後、1週間で結婚式の準備と出席、その後はベトナムに戻る準備で3日間。私は単身赴任なので、隔離中は久しぶりの日本で家族と過ごせて、退屈はしなかったです。こんなに働かないのは社会人になって初めてだったでしょうね(笑)。
手間だったのはPCR検査の陰性証明です。日本語の他にベトナム語版か英語版が必要なようですが、地元の検査所では英語版も出せない。そのため出国の3日前に、確実性を考えて成田空港に車で朝行き、夕方に検査結果をもらって福島に帰りました。
11月下旬に成田からホーチミン市に到着してホテルへ。とにかく暇なので、ネットや読書、スタッフが差し入れたゴルフのパターとパターマットで練習などです。スマホにつなげる小型スピーカーが便利で、音楽を良い音で聞けてで気休めになりました。
一時帰国して楽しかったです。日本ではゴールデンウイークもお盆にも帰省できない人が多く、結婚式で久々に皆と会って盛り上がり、娘夫婦も喜んでいました。