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ベトナムビジネス特集Vol119|
“和ビジネス”の挑戦者たち

日本製品に憧れを持つベトナム人はいても、実際に購入する人は多くない。しかしそれでも日本の「和」を大切にして、勝負を掛ける日系企業がある。彼らの戦略、モチーフ、悩みとは何か。モノづくりを本業とする企業に本音を取材した。

暮らしを豊かにする「香り」 EPEから国内市場に参入

NIPPON KODO VIETNAM

General Director

阿部 健氏

原産国で工場を設立 2017年から国内販売

 線香やお香の製造販売で日本でトップシェアを誇る日本香堂。その海外生産拠点が、2003年にハイフォンに設立された日本香堂ベトナムだ。ベトナムでは賃金の安さや勤勉な国民性などが進出理由に挙げられるが、同社の場合は「原料があること」も重視された。

「線香やお香の原料は『タブ粉』といって、タブの木の樹皮を粉末にしたものです。ベトナムはこのタブの木の産地なのです。他の原産国には中国やインドネシアなどがあり、日本本社はこれらの国からも輸入しています」

 タブ粉と白檀(びゃくだん)や沈香(じんこう)などの香材料に、水を加えて練り機に入れ、練った後に射出成型する。それをカットして、乾燥させ、束にしたものが線香になる。香りを出すノウハウは日本本社が長けているため、香材料は日本から輸入している。

 ベトナムで生産している商品は約200種類で、主力は日本向けの線香の束。月産量は20フィートコンテナで4~5台。このように日本香堂ベトナムはEPEであり、輸出先は主に日本だが、アメリカ、ヨーロッパ諸国、中国、韓国、インドネシア、マレーシアなどと幅広い。

 そんな同社がベトナムでの国内販売をスタートしたのが2017年。経済が伸びて所得が増え、ベトナム人の生活が豊かになったことが理由だ。

「日本でもそうですが、生活に余裕が生まれると香りの商品が売れる傾向があります。ベトナムにも香りを楽しむニーズが来ると感じましたし、品質の高い日本製品が注目されると思いました」

 そのために同社の子会社として、日本からの輸入品とベトナム生産の商品を扱う、販売会社の日本香堂ベトナムトレーディングを設立。売上は伸び続けており、売れ筋はカーフレグランスの「GONESH」。商品によるが10万~35万VND程度で、カーオーナーなら十分に手の届く価格帯だ。

「安くできる理由は人件費を掛けていないからです。専業の営業部門はありません」

 ベトナムの線香「竹芯香」 ニーズを見込んで発売へ

 阿部氏が社長を兼務する日本香堂ベトナムトレーディングでは、同氏を含めた日本香堂ベトナムの社員が営業と販売も担当。加えて、自社HPやLAZADA、ShopeeなどのECサイトでのオンライン販売を基本としている。マーケティングはFacebookが中心だ。

 代理店は使わずに小売店への卸もしている。同社の商品はベトナムでは馴染みが薄いため、顧客から「これは何か?」と聞かれることが多い。代理店は以前に試したが、こうした問いに答えられないので売行きが伸びなかった。そのためECと小売店での直販になったという。

「ネットでのお客様の8割はホーチミン市内です。洗練されている中間層、富裕層が多いのでしょうか。また、年に数回ですが高額商品も売れています」

 日本製で1束(約60本)約2000USDする「伽羅富嶽」(きゃらふがく)や、約1800ドルの高岡銅器の香炉などだ。日本香堂の主力商品である線香の「毎日香」は、ベトナムでは「Moonig Star」として人気があり、その種類も多い。

 線香は国ごとに好みが分かれるそうだ。日本やヨーロッパでは住環境の気密性が高いので、煙が少ないものが売れる。ベトナムでは逆なので煙の量を気にせず、香りの強いものが好まれる。提案している使い方は眠りにつくとき、皆でお茶を飲むとき、ペットの匂いが気になるとき、変ったところでは鍋料理などで家の匂いが気になるときだ。

 ベトナムに合わせた商品開発も始めた。他の東南アジア諸国でもそうだが、ベトナムの一般的な線香は「竹芯香」(ちくしんこう)と呼ばれる、細くて長い竹の周囲に香料を塗ったもの。販売できれば販路は格段に広がる。

「お寺への販売もできるでしょうし、一般世帯の80~90%には仏壇があります。線香を焚くのは毎日ではなく、旧暦の1日と15日が多いのですが、母数が期待できます」

 日本香堂ベトナムではこうした竹製の長い線香を作るノウハウがあり、製品化してヨーロッパの一部に輸出が予定されている。竹という新しい素材、周囲に香料を塗る作り方などが異なるため、今は新しい生産ラインの準備中だそうだ。

「香りは白檀や沈香が多いですね。ローカル製は値段が安いので、安心・安全をアピールして、少し高くても納得される商品にしたいです。できるだけ早い時期に販売できたらと思っています」

微妙な香りの品質保証 小ロット多種生産の工場へ

 

 日本香堂ベトナムの社員は約70名。商品の生命線である香りを含めた品質は、阿部氏と工場長がチェックしている。例えば、雨季になると含水率が上がるなど、気候によって線香の水分量が5%程度変わるため、粘度を見ながら乾燥時間を調整している。また、グレープフルーツなどの柑橘系は香りがすぐに飛んでしまうので、適宜温度調整を行い生産している。

「社長は私で3代目ですが、先代たちが工場長に教えてくれたこともあり、品質の変化はまずありません」

 今後の計画は、原産地であるベトナムで、あらゆる商品を作れる工場にすること。日本の商品はもちろん、中国の渦巻き香、韓国の長線香、ベトナムの竹芯香など、実は線香やお香の種類は多い。ただ、東南アジアやインドなど竹芯香のニーズは広いが、欧米では大きな展開が望めない。そもそも嗜好品であるために小ロット多種生産が基本であり、それに対応できる工場にするという。

「生活に潤いを与える良い商品を、小ロットで大量生産して販売・輸出し、業務拡大につなげるよう、努力を重ねて参ります」

半生菓子のどら焼きやたい焼き ドラえもん&SGO 48でヒット商品

ICHIOKA SEIKA VIETNAM

General Director

市岡志麻氏

ベトナム初商品は「だいふく」 ホーチミン高島屋に出店

 徳島県の菓子メーカー、市岡製菓株式会社。半生菓子のどら焼き、スイートポテト、きんつば、かりんとうなどが主力商品だ。コンビニやスーパーなどへ卸す他、グループ会社が直販店舗を持つ。

 日本の市場縮小から海外進出を考えたのは15年ほど前。ベトナムは法律やライセンスの壁が高いが、当時はその分だけ同業の日系大手が進出しておらず、中小企業にとってのチャンスと感じたと当時の社長は語る。色々と調査を進めて7年前に具体的に始動。初の海外拠点として2015年8月、合弁会社の市岡ベトナムをホーチミン市に設立した。

 日本本社の会長を父、社長を姉に持つ、市岡志麻氏が社長に就任。「何もわからない中」で、ベトナム人スタッフと会社を立ち上げ、職場環境を整え、原材料を調達して、日本から持ち込んだ半自動の小型菓子製造機でベトナム初製造となる商品の試作を重ねた。

 最初の商品は2016年6月にイオンで発売した「だいふく」。抹茶、イチゴ、チョコレートなどの生地、中身はあんこや抹茶、イチゴ、コーヒーなどのクリームを揃えて15種類を用意。ベトナム人の嗜好を探るために毎月のように種類を増やした。 

「あんこはベトナムの小豆を使って粒あんを炊きました。小豆系は好きでないと聞いていましたが、やはりクリームが人気で、一番売れたのはココナッツ、抹茶、チョコレートです」

 2016年7月にはホーチミン高島屋の開店に合わせて、「Atelier-Ichi」という店舗を「デパ地下」に出店。ベトナム生産の商品はもちろん、日本から輸入したスイートポテト、きんつば、タルトなどの他、桜フェアでの桜饅頭など期間限定商品も多数販売した。

「現在は出店していませんが、高島屋のお店はICHIOKAの名前を広めるフラグシップ店でした。ローカル企業に商談に行っても、私たちに実績がなく、相手には日本の半生菓子の知識がないので、弊社のことがなかなか伝わりません。高島屋への出店でどんな会社か話が伝わりやすくなりました」

ドラえもんと「どら焼き」 SGO 48とは「クッキー」 

 ファミリーマートから打診があったのが2016年末。ドラえもんとのコラボ商品「DORAYAKI」の開発で、ドラえもんの映画が公開する2017年5月頃には発売したいとのことだった。

「間に合わせました(笑)。あんこではなくクリームにしたのですが、売行きは初日の数千個が翌日には倍、3日目にはその倍のオーダー。発売1ヶ月で5万個、約3ヶ月で10万個を達成されたようです」

 卵、小麦粉、砂糖、乳化剤など生地の材料は可能な限りベトナムで調達し、クリームは常温で日持ちする素材をASEANエリアの日系企業から輸入。味は改良を重ねて、現在の味覚はチョコレートクリームとカスタードの2種類。生地はパンケーキ風から日本のどら焼きタイプに変えた。

 これまで販売した商品は100種類ほど。だいふくはその後コンビニでも販売したが、2019年7月末で一旦終了し、現在は他に自社ブランドのたい焼き、どら焼き、シュークリームなどをスーパーやコンビニなどで、業務・飲食店用にはわらび餅を販売している。

「日本製とは材料の品質が違い、水、温度、保管状況も異なるので、全商品でレシピの改良が必要でした。日本では地産地消を心掛けているので、できるだけベトナムの材料を使っています」

 同社はベトナムでの展開を会社のシンボルマークに乗っ取り、ホップ、ステップ、ジャンプで計画。ホップでホーチミン市での菓子製造と販売、ステップでベトナム全土への販売、ジャンプがASEAN諸国への輸出だ。ステップへの一歩として、2017年11月に市岡製菓100%子会社の市岡製菓ベトナムを設立。大量生産での卸の実現に向けて、2018年8月には工場を稼働した。現在、市岡ベトナムは営業拠点となっている。

 直近のヒット商品は、AKB 48のベトナム姉妹グループであるSGO 48のデザインをあしらった「Lucky Cookie」だ。日本の社長がバンコクの商談会でSGO 48の企画者に会い、市岡氏が2019年9月にホーチミン市で商談。SGO 48の「恋するフォーチュンクッキー」の発売にタイミングを合わせた、クッキーの発売が決まった。

 袋の中にはクッキーとメンバーのカードが入っていて、カードの裏は「おみくじ」に。カードはメンバーの写真が50種類あり、光沢のある「キラキラバージョン」もある。10個入りのデザインボックスも作った。

「今年の1月8日にファミリーマートで先行発売したところ、半日で品薄状態になったと伺いました。弊社のFBのアクセス数も急増中です。実はハノイからのアクセスも多くて、『ホーチミン市でしか買えないの?』といったメッセージも届いています」

日本の味をベトナムで 「こしあん」で再挑戦

 今年は全国展開の年。まずは賞味期限が比較的長いLucky Cookieの、北中部での販売を目指す。半生菓子は配送温度帯や賞味期限の長さなどがあり、配送会社との連携や配送コストなど課題は多いが、スピード感を持って取り組んでいくという。

「商品開発も続けます。ベトナムは若い方が多いためか流行に敏感で、目新しいものへの反応が早いですが、ブームが終わるのも早い印象。日本以上にスピード感を意識した企画力、開発力が必要と感じます」

 今後もベトナムに根付いていく商品と合わせて、面白い企画をチャレンジできないかとアイディアを模索中。新商品では、モチモチ生地の白い皮のたい焼きを今春に発売予定。まず最初はチーズクリーム、次はこしあんという。こしあんを作るには一定レベルの設備ときれいな水が必要だそうで、しかもあんこはベトナム人に好まれないはずだ。

「粒あんはあまり受けませんでしたが、調べると粒の触感が苦手という人が多かったのです。実際、こしあんを輸入して作ったどら焼きは評判が良いので、日本の味を残しつつ、ベトナムにマッチする商品にするつもりです」

豊かな実りを日本酒や焼酎に 今年は事業強化の年

サイタホールディングス株式会社

代表取締役社長

才田善之氏

採石業と共に酒造業を 輸出から国内市場へ転換

 福岡県にある建設・砕石業を主体とするサイタホールディングス株式会社。その先代社長である才田善彦氏が、ベトナムを視察したのが1992~1993年。当時の日本人にとってベトナムは決して明るいイメージではなかったが、実はドイモイの効果が出始めて皆が一生懸命に働き、農産物は豊か。先入観と違うことに驚き、この国に興味を持った。

 インフラ整備に必要な砕石事業の可能性を感じ、ハノイ、ダナン、ホーチミン市などを訪ねると、日本企業の誘致に熱心だったのが当時のフエ市長だった。砕石事業と同時に、以前からの夢だった酒造業を近くで始めたいと相談すると、何と了承される。

「砕石事業は投資許可が下りたものの、諸般の事情で中止になりますが、酒造業は順調に進みました。市長は市庁舎内に仮事務所を作ってくれて、ライセンスの申請から許可まで1年ほどいました」

 とはいえ、酒造りは全くの素人。社内もそうだが、息子である現社長の善之氏も反対に回ると、善彦氏は私財でスタート。実はサイタホールディングスの事業となったのは10年前で、それまでは個人資本で運営していたのだ。

 1995年にHue Foods Company, Co .ltdを設立、1998年に工場が稼働。実りの豊かな原材料と安価なコストで、日本への輸出を考えた。しかし、日本の酒類市場は多くの国内メーカーがひしめく激戦地。そこでベトナム市場を一から開拓していく。

「現在、日本酒はベトナム人に浸透しているとは言えませんが、焼酎は飲まれるようになり、およその生産の割合は焼酎が8割で日本酒が2割です。焼酎の飲み方はストレートやロックが多く、ヤギやヘビの血を混ぜて飲む人もいるんです(笑)」

 販路は全国に40弱ある代理店経由で、ローカルの酒店やスーパーなどに卸している。

焼酎「鬼」が北部を席巻 現在は新商品で巻き返し

 日本酒(SAKE)や焼酎の醸造責任者は杜氏の関谷聡氏。京都の酒蔵で20年間働いた後、2002年にHue Foodsの杜氏に就任した。関谷氏曰く、酒は原料が命。就任以来、工夫しながらより良い味に少しずつ高めている。

 関谷氏の右腕が1997年入社のNguyen Thanh Trung氏。杜氏を目指して奮闘中だ。2人を中心に製造スタッフが16名ほどおり、全スタッフは約80名になる。

「特徴は日本と同等以上とも言える品質、ベトナム料理との相性の良さです。ただ、原材料の米は日本産より固いインディカ米を使用しているので一度蒸すところを二度にしたり、銘柄を指定しても品質にバラつき出るなどの苦労は聞いています」

 主力商品は日本酒(SAKE)の「越の一」、焼酎なら「帝王」や「芋一」で、代理店として輸入販売している商品を含めると約30種類になる。「越の一」はインディカ米を使ってベトナムで初めて商品化した純米吟醸酒、「芋一」は最初に製造した芋焼酎だ。居酒屋やコンビニで見かけた読者も多いのではないか。

 焼酎は米焼酎から始めたが、芋焼酎の良質な原材料となるサツマイモ「黄金千貫」と同種のものを発見。「いける!」となって2005年に工場を増設し、それまで1機だった焼酎用の常圧蒸留装置と低圧蒸留装置をそれぞれ1機増やして3機にした。これで芋焼酎を作り始めたのだ。

「サツマイモは現在、契約農家が栽培しています。蒸留装置は日本で図面を描いてもらい、ベトナムで製造しました」

 売れている地域は地元フエを中心とした中部、南部、北部の順。しかし、7~8年前は北部が一番だった。なぜなら、2010年から数年間、ハノイを中心とした北部で焼酎「鬼」が大ヒットしたからだ。当時の北部地方は闇焼酎も多く、飲むと頭痛がすることもあったようだ。そんな中で鬼は、「いくら飲んでも頭が痛くならない高品質の焼酎」として人気になったのだ。

「ピーク時には工場がフル稼働。3交代の24時間体制で生産し、多い時で1ヶ月に50万本作りました」

 しかし競争が激化。低価格も鬼の魅力だったが、同程度の「ハノイウォッカ」などアルコール飲料が増え、鬼の生産量は徐々に減っていった。そこで2015年頃からは梅酒の「うめ一」、コーヒー焼酎「CAFEKO」、これまでの技術を使った「フエフーズの料理酒」など立て続けに新商品を発売。2017年からはアーティチョークを使った「アティソはじめ」も発売した。それぞれ順調に売れており、巻き返しを図っているところだ。

 輸出、新商品、現地化… ベトナムから世界へ 

 現在の出荷量は年間で約30万l。工場の稼働にはまだ余裕があり、稼働率を上げることが目標だ。そこで、今年のできるだけ早い段階で、ハノイかホーチミン市に駐在員事務所を開設する予定。Hue Foodsをサポートして、事業を強化していくためだ。

「ベトナムで日本酒を作っている企業として、日本の食文化を成長するベトナムにもっと広げたいですし、ベトナムから世界にも広げていきたいですね」

 国内販売は約8割で残り2割は輸出。主に日本向けで、主力商品の他に上記の「CAFEKO」やプライベートブランドの芋焼酎「大陸無双」なども輸出し、主にECサイトで販売。量は少ないがタイにも輸出している。

 今後は世界に向けて輸出を拡大し、日本酒や焼酎にこだわらず、上記の料理酒やリキュールなどの新商品も検討している。Hue Foodsの認知度向上のためにHPもリニューアルした。

 進めたいのはさらなるHue Foodsの現地化だ。そのために、将来的には株式を公開する夢も描いている。日本では新たな元号が令和となり、今年を事業強化の年と位置付けている。