失業してから直近の3ヶ月でフーン・ニーさんは70通の履歴書を送ったが、未だに仕事が見つからない。
フーン・ニーさんによると、70通送った履歴書のうち35社は返信が無く、17社は結果待ちの状態だ。残りの18社については、面接をしたが不合格だった。「失業してからの10ヶ月で言えば、数え切れないほど履歴書を送りましたよ」とフーン・ニーさん(28歳)は話す。
以前、フーン・ニーさんは、ある製造会社で経理として働いていた。新型コロナの影響で会社が倒産寸前となり、従業員の給料や手当が削減され、多くの従業員が仕事を辞めざるを得なくなった。フーン・ニーさんが職を失ったのは、2022年9月のことだった。
それ以来フーン・ニーさんは毎日求人情報を調べ、採用条件を注意深く確認して条件を80%以上満たしていると思えるところに履歴書を送った。確実に応募するため、フーン・ニーさんは履歴書を直接会社に持参したり、信用できる求人サイトを通じて提出したが、面接までたどり着くことは稀だ。
「今年になれば簡単に仕事が見つかるだろうと思っていましたが、予想以上に採用市場は厳しいです」とフーン・ニーさんは話す。
タイン・ヒエンさん(32歳)は、失業して1ヶ月強だが、「まるで1年経ったかのように感じる」と話す。タイン・ヒエンさんはハノイの会社でカスタマーケアの仕事をしていたが、会社の業績が思わしくなく、思い切って家族のいるホーチミン市で生活することに決めて退職した。「ホーチミン市に行けば簡単に仕事が見つかるだろうと思っていましたが、大間違いでした」とタイン・ヒエンさんは話す。
タイン・ヒエンさんはこれまでに、カスタマーケア、総務、経理などの求人に対してオンラインや郵送で約300社に履歴書を送付したが、一向に返事が来ない。
「普通なら多少なりとも企業から連絡があり、面接をして合否が決まるはずなのに、最近は採用サイトのプロフィールは何度もみられているのに全く企業から連絡が来ず困惑しています」とタイン・ヒエンさんは話す。
就職活動を始めてから3週間たって自信を失ったと感じたタイン・ヒエンさんは、ストレス解消のために旅行に行くことにした。
フーン・ニーさんやタイン・ヒエンさんのケースは、コロナ後に業績が悪化し、生産規模の縮小や人員整理を余儀なくされた企業によって失業した労働者の典型例だ。5月5日に開催された若者の雇用政策フォーラムで、労働・傷病兵・社会省のレ・バン・タイン副大臣は、2023年第1四半期の若者の失業率が7.6%となり、全世代平均失業率の3.4倍に達したと述べた。
統計総局によれば、企業の業績悪化により、2023年第1四半期に製造業だけでも全国で14万9000人の労働者が職を失い、前年同期比で13%も増加している。
一方で人材紹介会社Navigos Groupの調査によると、2023年最初の4ヶ月の各分野の企業の求人需要は前年同期比で16%減少している。最も減少幅が大きかったのは旅行、レストラン、ホテル業界で43%の減少となった。次いで縫製業が39%減、建設業と不動産業が34%減となっている。世界的にもベトナム国内でも”ホット”な市場とみられているIT業界でも20%減を記録した。
民間経済発展研究委員会による2023年末の企業状況と経済見通しに関する報告書によれば、企業による人員整理の波は年末まで継続する可能性がある。調査対象となった約9560社のうち5200社が今年中にさらに5%以上の労働力を削減する見込みだと回答している。
しかし一方で、多くの人が職を見つけられないのは、企業の経営状況や経済状況によるものだけとは言えないようだ。6月24日にハノイ市で開催されたジョブフェアには人材紹介企業36社が参加し、1730件の求人情報をもたらしたが、求職者の参加は殆どなかった。参加した企業の中には、一人の求職者も現れなかったケースもあった。ある縫製関連の大手企業担当者は、エンジニア、経理、ワーカーなど30人を募集していたが、応募してきたのはたった一人だったと話す。
ジョブフェアに応募者の参加が少なかったため、午前10時前には多くの企業が片付けの準備を始めていた。ある化学関連企業の担当者は、最後まで粘ってみたが募集している5つのポジションに一人も応募者が来なかったと話す。「失業者は仕事が見つからないと言い続けているが、企業が採用しようとしても誰も来ません。多分雨が降っていたので、面倒くさくなったんでしょう」とこの担当者は話してくれた。
ハノイ市職業サービスセンターのブー・クアン・タイン副所長は、失業者の多くがSNS上で職探しの難しさや失業期間の長さを嘆いていると指摘する。しかし、タイン副所長によれば実際には、まだ多くの企業で人材採用のニーズがあるという。2023年5月までにハノイ市職業サービスセンターでは100回以上のジョブフェアを開催し、2800社以上が5万人近くの求人登録をおこない、2万人以上が面接を受け、6800人以上が就職した。
履歴書の書き方や企業面接の専門家であるグエン・トゥイ・ズーンさんは、今年の雇用情勢は楽観的とは言えないと認めつつも、未だに多くの企業が求人を出しても採用できずにいると指摘する。
これまで数百件の履歴書審査をサポートしてきたズーンさんは、就職先を見つけられなかった応募者のうち50%以上が書類審査ではねられており、約30%が間違ったポジションに履歴書を提出しており、15%が面接ではねられ、残りの5%は企業が別のより適切な応募者を見つけた場合ために就職できなかったと説明する。
「自分がどれだけ優秀だとしても、CVが採用担当者の目にとまらなければ、担当者の前に立って自分の優秀さを示す機会はやってこないということを理解しなければなりません。応募者と企業にすれ違いが生じてしまうと、企業はいつまでたっても採用できず、応募者もいつまであっても仕事が見つからない状況が続いてしまうでしょう」とズーンさんは指摘する。
あるグループミーティングでフーン・ニーさんが長期にわたる失業について不満を言っているのを聞いて、ズーンさんは履歴書に原因があるのではないかと考えた。フーン・ニーさんにコンタクトをとって確認してみると、履歴書は雑なフォームで目立った個人情報も無く、応募している職位についても記載がなかった。職務経歴欄も長い経験があるにもかかわらず具体的に記載されていなかった。現在、ズーンさんはフーン・ニーさんに履歴書の書き方を指導し、仕事選びや面接対策をサポートしている。
ズーンさんは求職者に対して履歴書を気を付けて作成するようにアドバイスしている。全ての応募先に1つの履歴書を使いまわしたりせず応募する職種に応じて適切な内容に修正する必要がある。例えば、申請する役職に応じて職歴、課外活動、保証人などを変えてみるのだ。また、記載事項は明確で一貫した内容を必要な部分だけ記載する必要がある。
履歴書の作成の後は、応募する会社の業務の平均賃金を調べておく必要がある。もし、求人条件と業務内容が自分の経験やスキルと30%以上一致しているなら、採用される可能性はある。逆に一致率が低ければ、より低い給料での採用を受け入れる必要がある。「このような不況下では妥当な給与額を受け入れるべきでしょう」とズーンさんは話す。
ハノイ市職業サービスセンターのブー・クアン・タイン副所長は、7月以降企業の求人需要は増加傾向にあり、求人件数は4万3000~5万5000件にのぼり、中でも宿泊業、飲食業、情報通信業、小売業などで採用需要が大幅に増加すると予測している。
フーン・ニーさんにとって10か月間の失業期間は地獄のような時間だ。毎日家事を手伝い、なけなしの貯金の中から毎月母親に生活費を渡している。就職活動と並行してフーン・ニーさんは、アフィリエイトなどオンラインでお金を稼ぐ方法を模索している。
しかし、フーン・ニーさんは、家族はあまり同情してくれないと話す。「まるで自分が役立たずの厄介者になったように感じます。失業は犯罪ですか?」とフーン・ニーさんは打ち明けた。
出典:27/06/2023 VNEXPRESS
上記を参考に記事を翻訳・編集・制作