2008年に進出した大成美術プリンティングベトナム。新規顧客開拓も必須となる中ビンズン省内で幅広く営業活動を取り組み、パッケージ印刷に特化。日本同等品質をスローガンに事業を展開してきた初代社長の山本和人氏が語る。
多趣味が新規顧客を開拓
―― 御社設立の経緯を教えてください。
山本 親会社である大成美術プリンティングの主力となる大手文具メーカーのお客様が2007年にベトナムに工場を移転され、仕事が激減する危機感から、お客様に追随させていただく形で設立を決定しました。
第2次ベトナム投資ブームの2007年から印刷工場の立上げに携わり、2008年11月の工場竣工、2009年1月の工場稼働に立ち会ってきました。
初めての海外駐在で相応の不安もありましたが、自分たちの生産技術や品質管理などが新興国でどの程度通用するのか、ベトナムの労働者にどう受け入れられるのか、不安と興味が入り混じっていました。
どのみち言葉も文化もわからないので、この国にどっぷり浸からないと成功は覚束ないと覚悟し、ビンズン省に住まいを構えました。
―― どんなことをされたのですか?
山本 住居を構えたツーヤウモット市はこの省の県庁所在地的な場所で、賑わいと人出の多い街でした。この街の富裕層の方もご多分に漏れずとても健康意識が高く、多くの人がサイゴン川沿いの道路でランニングやウォーキングに勤しみ、その後は川沿いのカフェで通勤前の時間を楽しんでいました。
私のアパートの家主も健康志向で、数人の仲間とウォーキングとコーヒータイムを楽しんでおり、ある日誘ってくれました。早朝のウォーキングとベトナムコーヒー、皆でシェアして食べる焼立てフランスパンの朝飯、私の朝のルーティーンが始まりました。
そんな生活の中で得をしていたのは、私が年長者だったことです。言葉が通じなくても誰かが笑顔で気にかけてくれて、手話も会話も駆使して意思疎通を試みました。また、私の趣味がギターの弾き語りだったことも、友人作りに功を奏したと思います。
最初はベトナム語習得がてらに家でベトナム語の歌を覚えて、ギターで弾き語りの練習していました。仲間内で飲む機会での弾き語りとか、知人のレストランのギターで皆で合唱するとか、私の活躍の場が増えていきました(笑)。一気にビンズン省の地元に馴染んでいったのです。
―― プライベートも仕事も順調な滑り出しだったと。
山本 とんでもない。日本ではお客様だった大手文具メーカーさんもベトナムでは現地調達も視野に生産活動をされ、簡単に仕事には及びませんでした。現地企業との受注価格競争では苦戦を強いられ、材料の品質やデリバリーでも困難を極めました。
新しいお客様開拓も重要案件で、同じミーフック3工業団地内の日系企業に営業活動を始めました。そんな中、ギターに続いて釣り好きの私に1つのアイデアが浮かびました。釣り具メーカーにアプローチを掛けたのです。
最初に訪問した会社の社長は渓流釣りの鮎釣りやヤマメ釣りの話で盛り上がり、営業訪問のきっかけをつかみました。次の釣り仕掛けメーカーでは、海釣りの話からローカル印刷会社の品質の不具合で困っていると知りました。
その後、両釣り具メーカーさんは長いお付き合いの良いお客様になり、ギターでも釣りでも若い時から何かしらやっておくものだと、タイガー瓶ビールでひとり祝杯を挙げた記憶がついこの間のようです。
他省の日系文具メーカーさんからは、海外OEM生産している文具の印刷物も受注に至りました。OEM先は米国の文具メーカーで、競合のローカル印刷会社では安定した印刷ができないとテスト印刷を重ねた結果、弊社に発注が決まりました。
このように焦らず誠心誠意を尽くして、1社のお客様からの継続発注まで3~10年は時間を掛けているように思います。現在ではヘルスケア製品やオーラル製品なども含めて多様な商品のパッケージ関連印刷を得意としています。
また、親会社からも特許を持つ「ななめもーる」やカレンダー、展示会向けの手提げバッグや各種ノベルティ、見本帳冊子製品の生産を請けています。
第三者認証の取組み
―― 御社の特徴とは何でしょうか?
山本 ひとつはデザインやデータ処理、印刷から加工、納品まで、一切外注加工先に頼らず、自社内の設備と人員で一貫生産をしていることです。日本の印刷業界はこれらの分業が多いのですが、ベトナムでは分業化の仕組みはまだ確立されておらず、自社で賄うことで品質管理やデリバリー管理が可能になると考えています。
現在のお客様は大手企業からスタートアップ的な会社まで幅広く、全てが日系企業になります。ベトナム企業、韓国系や台湾系など外資系企業からも引合いがありますが、最終的には自国企業との取引が優先になることが多く、話が進むことは稀です。
もうひとつの特徴と呼べるのが、自社でカスタマイズした機械で生産する壁紙やカーテン生地、屋根鋼板、絨毯等の生地見本帳冊子の制作です。各種の素材原反をサンプル冊子用に断裁して各ページに貼付した冊子は、専門店や販売店、メーカーの営業販促ツールとして重宝され活躍しています。
見本帳制作は一貫して生産すると大掛かりな作業になり、多くの作業員と相応の広い作業場を必要とします。特に重要なのは、小さく断裁された生地を指定場所に貼り間違いなく、歪みもなく貼付することです。最近は独自の機械の改造や工夫で自動化を進めて、半自動機を開発して貼付作業の効率化を図っています。
現在の従業員は約100人程度で、業績は基本的に右肩上がりを続けています。日系企業という限られた顧客層の中で事業を広げるには、新しい技術をどんどん開発して提供し、お客様の問題を解決して満足いただくことだと思っています。
―― ほかに気にしているとこはありますか?
山本 今日、印刷業界も私も敏感になっているのが、各種第三者認証の取組みと運営です。第三者機関である外部機関が審査して認証を与える「JIS」(日本産業規格)や「ISO」(国際標準化機構)に沿った生産です。
印刷業界は、品質マネジメントシステム(ISO9001)のほか、環境マネジメントシステム(ISO14001)、クリオネマークのグリーンプリンティング認証、FSC森林認証、個人情報のPマークなどあり、今後は鉱物オイルインキ規制にも取り組んでいきます。
今後はこれらをクリアした製品でなければお客様のニーズには応えられず、企業として残るのは難しいと思っています。アピールだけの認証取得に終わらず、有益な運営をしていくことが持続可能な取組みだと思います。
顧客獲得による受注拡大は企業の当然の目標ですが、我々は多種の溶剤等の化学物質も多く使用しています。今後は水や空気や生き物の環境を守る取組み、また身近な課題として従業員の労働環境も考えていく企業でありたいと思っています。
当地の従業員と共に発展し成長すること、企業として社会に貢献できることを追い続けること、そんなやり甲斐を感じられる企業になれればと、自利利他を実行していきたいと思っています。