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ベトナムビジネス情報Vol.177
日本企業が食品市場で勝つために
食品関連ビジネス戦略セミナー

12月6日にホーチミン市のレストランTENKUにて、「日系企業のための食品関連ビジネス戦略セミナー」が開催された。Lotus GroupのCEOレ・バン・メイ氏、NielsenIQ Vietnam顧客行動調査ディレクターのダン・トゥイ・ハ氏が登壇した。

生活コストの上昇圧力

 大手調査会社NielsenIQ Vietnamの顧客行動調査ディレクター、ダン・トゥイ・ハ氏は、ベトナムの経済成長から語り始めた。

 ベトナム経済は輸出と直接投資で回復し、2024年通年でGDP成長率は6.8~7%に達する見込み。ただ、台風YAGIの影響で北部の農業と工業が被害を受け、FMCG関連は今後も影響を受けるかもしれない。

 ベトナム人は生活必需品と非生活必需品の価格上昇を懸念しており、直近6ヶ月で生活必需品は69%、非生活必需品は58%の人が価格が上がったと考えている。特に18~20歳は前者で78%、後者で74%と価格上昇を感じた割合が高い。

 消費者はこうした生活コストの上昇に対し、「家庭での調理」、「無駄を省く」、「贅沢品への支出を控える」などで対処しており、64%が「生活必需品しか買わない」、63%が「量を減らす」と答えている。

「『最安値』を求める消費者は、買い物のチャネルを大型のスーパーマーケットから小規模な伝統市場や食料品店にシフトしています」

 2025年の経済見通しとして3つのシナリオを挙げた。シナリオ1はGDP成長率が6.5%以上の高成長で、その確率は35%。シナリオ2は5~6.5%の低成長で、確率は45%。シナリオ3は5%未満の景気後退だが、確率は20%と下がる。

デジタル経済が拡大中

 次はベトナムのデジタル経済。ECが市場シェアの50%以上を占める柱となり、デジタル経済は2025年までに430億USDと拡大が予想される。

 また、デジタルプラットフォームは若者に関連付けられることが多いが、主要な購買層は平均年齢31歳で既婚、オフィス勤務、世帯月収1500万VND以上。ECを利用する理由のトップ3は、「備蓄」、「即時飲食」、「プロモーション・お得な値段」である。

 こうしたデジタル消費者は平均6.5種類の商品およびサービスを購入しており、「食品」、「飲料」、シャンプーや化粧品などの「パーソナルケア商品」が人気だ。

「消費者は月平均で約4回購入しており、この数字は2023年比でほぼ倍です」

 ECを使うデバイスは94%がスマートフォンだが、35%は依然として複数のデバイスを使っている。

 そして、オンラインショッピングを促進させる理由には、「ユニークなショッピング体験」、「商品の多様性」、「魅力的なプロモーション」の割合が高かった。

「逆に懸念されているのは『品質』、『配達』、『信頼』で、品質と評判を高めることが求められます」

プレミアム商品の数々

 ホームケア商品とタバコを除く多くのカテゴリーで価格の二極化が起きており、これが「プレミアム化」の機会を生み出しているという。

 二極化の一方、高級な商品に消費者が求めるのは、「外出での経験を自宅に持ち帰る」(64%)、「便利・使いやすさ」(62%)、「日常生活で特別な瞬間を演出する」(60%)がベスト3だ。

 具体的に見ていくと、1番目は外出の娯楽を節約する代わりに家庭での経験にお金を使うことで、例として即席めん「Siu Kay」を挙げた。競合商品より価格が1.6倍高いが、チリパウダーの辛さのレベルを調整できる。

 「便利・使いやすさ」では高級なトイレ洗浄剤「Vim」と高級ショーツ型ナプキン「Diana Sensi」を、「特別な瞬間を演出」では、高級グミ「Cokoc」やトッピングができるヨーグルト「TH True Yogurt」を挙げた。

「消費者の50%が健康と健康的なライフスタイルが2024年の優先的な個人目標の1つと考えており、『健康にメリットがある』や『オーガニック・自然の原料』なども好まれています」

 プレミアム商品の対極が、品質を維持しながら支出を抑制する商品だ。調査では消費者が、「大手ブランド」(93%)の、「大容量」(87%)で、「低価格」(87%)の商品を求めているとわかった。また、「割引コードの付いた商品を検討」(74%)や「プロモーションをよく利用」(75%)する人も多い。

 こうした調査結果から2025年の成長を牽引するポイントとして、「FMCG購入の中心は依然として都市部だが、農村部に大きな発展の可能性」、「健康が最優先されれば健康生活がトレンドに」、「価格上昇は戦略だが、それに見合った価値を創造」と締めくくった。

飲食業界は成長と競争へ

 ベトナム人で初めて「日本食普及の親善大使」に任命されたLotus Groupのレ・バン・メイ氏。同社は食品製造、レストラン、流通、小売を事業の柱とし、レストランでは丸亀製麺、CoCo壱番屋、吉野家とのフランチャイズ、ちよだ鮨やコンセルボ(岡野食品)との合弁事業、自社ブランドではUSSINA、Ushi Maniaや会場となったTENKUなどがある。

 ベトナム人の月収から説明する。平均所得は都市部で700万~950VND程度で、日本人の平均賃金の約5分の1になる。顧客と想定しているのは1日当たり11USD以上を支出できる層で、現在は人口の30%程度だが、2030年に70%程度に拡大する見込みだ。

「消費意欲が旺盛なのは20~40代の若者で、人口分布からも消費分布からも中間層の彼らがターゲットになります」

 ベトナムの食品市場は2023~2027年の年平均成長率が8.22%とされており、菓子とスナック類が14.6%の最大シェアを占めている。

 また、2024年上半期のベトナムの飲食業界は、約3万件閉店と店舗数減少にも関わらず業界全体の売上が上昇。つまり、人気の店舗と淘汰される店舗の二極化が起きている。ベトナムの飲食店の市場規模は2024年で227億USDと推計され、2029年には363億USD、年平均成長率で9.81%と予想される。

ソーシャルメディアを活用せよ

 消費者はどう行動しているのか。ベトナムの消費者は飲食費の支出が最も多く約35%、月平均で約360USD。価格に敏感で、品質と価値に対して厳しい要求を持っている。

「コスパが良くないと買ってくれません。飲食業界がプライシングに一番シビアかもしれません」

 鍵となるのがソーシャルメディアで、ベトナムのインターネットユーザーは約7800万人。ソーシャルメディアユーザーは約7300万人で人口の約73%にもなる。その中心は25~34歳のZ世代とX世代だ。

 一番人気のチャネルはFacebookだが、Z世代はTikTokが2番手に上昇。Lotus Groupでも積極的にTikTokを活用している。同社は95%が自社マーケティングで、100人以上のマーケティングスタッフが各営業チームと共に動いている。

 インフルエンサーを使うことも多い。当初はスタッフのインセンティブとして、100万いいね!を獲得したらメイ社長からギフトが贈られたそうだ。

「100万いいね!は既に普通になったので、200万いいね!に上げました(笑)」

 ここで日本企業に話が及ぶ。一般的に高価格な日本製品は高所得者層をターゲットにする。重要なのは「価値」となるが、ベトナム市場を知らない企業は「良い商品だから」、「美味しいから」売れると考えがちだ。

 しかし、日本で1000円で販売しているなら、ベトナムに輸出すると2000円になり、先の5分の1の収入差から、消費者の感覚では5000円になる。5000円の価値を伝えなければ購入されないのだ。

「価値」を伝える大切さ

 ベトナムで成功するにはまず消費者を理解した、現地に合ったローカライズに始まる。例えば、会場となったランドマーク81ビルの67階にあるTENKUは、コンセプト、ストーリー、メニューの開発に50人以上が関わり、懐石に少しフレンチを掛け合わせたフュージョン料理を提供し、「地上360mで、好きな人と一緒に幸せな時間を過ごす」とした。決め手は「ここでプロポーズしたら彼女は必ずYESと言う」との評判だ。

「とても効果がありまして、毎日誰かがプロポーズをしています(笑)」

 そして、品質とブランド構築に注力する。消費者が体験しないと消費につながらないため、まずは体験してもらい、その後リピートをしてもらう。3回の消費がその後の自己消費を促すとも言われ、まずは3回の消費のためのプロモーションを考える。ここで有効となるのが先のデジタルチャネルだ。

 既に「メイドインジャパン」だけで売れる時代ではない。どこと競合して誰に売るのか、自社の商品を買わない人はどんな商品を購入するのかなど、しっかりと市場調査をして、価格に合った価値を提供できるのかを検討する。ストーリーやユニークセリングポイントがあれば、競争優位性が生まれ、リーチした消費者への強い訴求ポイントになる。

 同社がダラットで生産するトマトは一般的なトマトより高い。しかし、北海道品種で糖度が11以上と甘くて美味しいことを訴求した。結果、徐々に売れ始めて今は生産が追い付かない状態だ。

 ベーカリーのコンセルボでは、100人以上の有名インフルエンサーを使って「食パン」を伝えた。ベトナムになかった食パンが流行して、現在では来客が「SHOKU PAN」を一般名詞で使っている。

 吉野家やCoCo壱番屋は日本では手軽なファストフード店だが、ベトナムではお洒落な高級店で、カップルでの来店も多い。

「ベトナム市場は日本とは所得が異なるため簡単ではありませんが、一旦浸透したら大きな市場になります。ここベトナムで日本のブランドが成功するよう一緒に頑張りましょう!」

食品関連セミナーを終えて

 セミナー終了後にメイ氏とハ氏に話を聞いた。2人は大学時代の同級生で、このようなセミナーを以前から考えていたそうだ。

「私は感覚で話しますから、数字を見ながら分析してくれるハさんの助けが必要でした」(メイ氏)

「大好きな日本のために、今の実際のベトナム消費者についてお伝えしました。尊敬する友人と一緒で登壇できて、とてもうれしく思います」(ハ氏)