ベトナム人にますます高まる美容と健康への意識。美容分野では、スキンケア、スパ、美容機器、健康分野はジム、健康食品、サプリメントなど商品・サービスは多彩で、どちらも今後10%前後の成長が見込まれる。日本企業にチャンスはあるのか?

家庭用から業務用へシフト
ブランドの知名度を上げる
美容機器メーカーのヤーマンが2024年11月、海外初となる常設の大型路面店をホーチミン市にオープンした。日本の旗艦店である銀座店をモチーフにした贅沢な店舗で、同社のハイブランド機器を試用・購入できる。

精密電子機器メーカーを母体とするヤーマンは、1985年に日本で初めて体脂肪計を開発。2006年には美容ローラーがヒットして美容機器に本格参入し、2013年には業務用をコンパクトにまとめた家庭用RF美顔器が話題を呼ぶ。
「一昔前には美顔器も美容機器の市場もほぼなく、弊社がこの市場を牽引してきたと自負しています」
海外販売は2012年の香港に始まり、2025年1月のサウジアラビアで15ヶ国となった。中国とアメリカには現地法人があるが、ほかはスピード感の出せる代理店販売。ベトナムも同様で、シンガポール、インドネシアに続く東南アジア3ヶ国目として、2018年に家庭用美容機器を販売した。
進出の理由は経済成長、女性の美容意識の高さ、エステサロンの増加に加えて、銀座に開業した「YA-MAN the store GINZA」を訪れるベトナム人客も好印象だという。
ただ、当初導入した家庭用機器は時期尚早なこともあって一部の展開に留まり、2024年7月に現地サロン向けに業務用フェイシャルマシン「クイーンリフト for Pro クリアプラス」を販売。業務用に販路の舵を切った。
「サロンに通う富裕層から知名度を上げて、若い世代に家庭用を広げる戦略にしました」
上記のクイーンリフトは、毛穴汚れや顔のもたつきなどほぼすべての分野をカバーできる業務用フェイシャルマシンで、現在はサロン20店舗ほどで使用されている。一方の家庭用はECで販売しており、路面店のオープンが後押しをする。
「ここはお客様に最新の美容技術をご体感いただく場であり、日本発のグローバルブランドとして情報を発信する拠点でもあります」
こうした路面店は他国にはなく、例外は中国での百貨店内の店舗。中国の主たる販路はECだが、偽造品が多いので、信頼される百貨店で実機を見せているそうだ。
リフトアップとスキンケア
セレブ推しのLEDマスク
ヤーマンの売れ筋は日越で異なる。日本は乾燥を気にして肌のうるおいを重視したり、フェイスラインのたるみを改善するリフトアップが中心。最近の一番のヒット商品もリフトケア特化型美顔器の「リフトロジー SP」だ。
ベトナムは大気汚染や排気ガスを気にしているのか、毛穴の汚れを落とすピーリング(クレンジング)機などスキンケアが中心。路面店でも「ヒートソニックピーリング for Salon」が良く売れる。日本で売れ筋の美顔器は6~7万円程度だが、これは2万4200円とお手頃で若い女性に人気だ。

また、LEDライトで美肌にする「ブルーグリーンマスク」は日本ではあまり馴染みがないが、実はLEDマスク自体は全世界で売れており、ベトナムでも同様だそうだ。
「Netflixの大ヒット映画『エミリー、パリに行く』の中で、主人公がLEDマスクを使ったことが理由です。海外のセレブが火をつけて、ベトナムでも観た人が多いのでしょう」
路面店での人気商品には「フォトプラス プレステージ SP」もある。リフトケアと美白浸透ができるRF美顔器で、ベトナム女性誌の「DEP Awards 2024」において、新設されたBEST BEAUTY DEVICE部門を受賞した。
日越で似た傾向もある。日本ではスキンケアに物足りなくなった30代後半からの女性に複合美顔器の購入が多く、若い世代はピーリング機で汚れを落とす人が多い。ベトナムも同様で、上の年代の富裕層はサロンで体験し、若い世代はスキンケアを重視している。
「母親世代から娘世代にYA-MANが伝わり、路面店でもブランドを知ってもらう流れが作れればと思います」

中国で著名になった「雅萌」
市場開拓のリーダーになる
美容機器市場は世界的に右肩上がりで伸びているが、ずば抜けたトップメーカーなどはおらず、市場は形成前だそうだ。また、日本で数少ない成長市場でもある。
島田氏によれば、新型コロナ前は「美顔器に3万円は高い」が一般的だった。しかし、コロナ禍で自宅美容が流行って5万円程度が普通になり、その後も平均価格が上昇している。購入するなら効果の高い機器というニーズや、美顔器にデファクトスタンダードがないことも背景にあるようだ。
「ドライヤーも以前は1万円以上が高価格帯でしたが、英国のメーカーが4万5000円の高級ドライヤーを販売したことから、今では3万円以上が主流になりました」
市場拡大は銀座の旗艦店からも伝わる。来店客のほぼ半分はインバウンドの外国人で、彼らが売上の約8割を支払っている。ダントツで一番売れているのは最高峰の美顔器と誇る「YA-MAN THE MIYABI」で、税込価格は38万5000円!
「購入者で多いのは中華系の人たちです。中国では日本以上にヤーマンが有名なんです」
2015年に中国本土で展開を開始。この時期はスキンケアの3ステップ「洗顔→化粧水→乳液」の習慣が普及しておらず、同社はこのステップの中に美顔器を組み込んで紹介した。このスタイルが評判となって美顔器のリーダー的な存在となり、現地では「雅萌」として知られている。
美容機器業界には小さなメーカーが多く、ヤーマンは技術力や研究力の独自性が高いため、ベトナムに競合他社は見当たらないという。美容大国の韓国企業は機器よりコスメがメイン。ヤーマンは主力が機器でより良い効果のためにコスメを提供している。

「市場ができていない国で市場を作りたいです。ベトナムはこれからの国。路面店で知名度を広げながら、まずはサロンへの導入を増やします」

タイを撤退、ベトナムに進出
コロナ禍に受注して現法設立
ソフト・ハードタイプなどカプセルの生産を得意とし、カプセル本体だけでなくサプリメントのOEM生産を主事業とする中日本カプセル。顧客は大手食品メーカーからECサイトで販売するサプリ専門会社まで様々だ。
同社の海外進出は2007年のタイに始まる。タイ企業からの依頼でサプリメントをOEM生産し、現地のコンビニに商品が並んだ。ただ、消費者までの間に多くの企業が入って赤字となり、1ロットの輸出で終了した。
次は2015~2020年。間接輸出の案件が増加し、同業他社の海外売上比率が伸び始めた。タイの経験から「日本製は好まれる」との実感もあり、第2の海外進出へと2019年から社長と柳瀬氏が視察を始めた。
「社長がベトナムの各都市、私が東南アジア3ヶ国を回り、最終的にベトナムに決めました」
豚由来原料を使うためインドネシアなどハラル認証が必要な国は無理、シンガポールは参入企業が多く、フィリピンは治安が悪い。一方、人口1億人のベトナムで根付けば、次のASEAN諸国も狙える。
2020年5月に駐在員事務所を設立。しかし、新型コロナが流行したため、現地の企業と提携して営業先をリストアップし、オンラインやメールでやり取りして、市場開拓を進めた。その結果、数社が受注できた。
「翌年も渡航できませんでしたが、現地のベトナム人社員が主力となったことで、営業先の企業が広がりました」
2023年10月に現地法人となるCJT VIETNAMをハノイに設立。事業はベトナム企業からのOEMで、商品は健康食品のサプリメントだ。日本でグルコサミンやコンドロイチンなどの原料を調達し、混合後にカプセルにして、ボトルなどに詰める。顧客からラベルデザインを得て印刷し、店頭に並ぶ状態で輸出する。

ナットウキナーゼが大人気
中上流層を狙う企業と組む
使用する原料で圧倒的に多いのは健康的な毎日をサポートするナットウキナーゼで、美容系やアイケア系もある。サプリメントは1日3粒など1ヶ月で90粒を飲用するケースが多く、90粒のボトルで1000本が最小ロットとなっている。
顧客が原料や配合を指定、ベトナムで人気の日本のサプリメントをベンチマークとした発注、CJT VIETNAMからの提案などあり、中日本カプセルは原料や配合、最新情報にも詳しく、カプセルの製法特許を多数取得しているのが強みだ。
「ボトルの中でカプセルを付着しにくくしたり、腸で溶けるカプセルなど、ネガティブな部分を解消する技術が多いです。ベトナムでも2つを特許申請しています」
顧客はローカル企業で、ドラッグチェーンへの卸企業、ECサイトで販売する企業、サロンへ直接卸す企業などあり、現在の取引先は約15社、商談を含めると30社以上、累計商品数は登録申請中を入れて約50種類にもなる。
リピーターも多い。ドラッグストアに卸す企業ならチェーン店が増えれば再注文もあり、キャンペーン期間となれば売行きが伸びる。こうした「売り先」のある企業、日本製品を扱った経験や他国のサプリを販売したなど「他社にない特徴」を持つ企業が成長するという。
「弊社が選ばれる理由の一つは、ターゲット先を選んでいるからです。中流層以上を対象にしたお客様を中心に開拓しないと、低価格競争に巻き込まれてしまって難しいです」
サプリ購入者には上流層も多く、できる限り高品質な健康食品を摂取したい、日本製に興味があるというニーズもある。そんな層にどんな付加価値を届けるかを考える企業と組みたいという。

包装資材の生産委託も考慮
サプリメントは根付くはず
ベトナム進出のもうひとつの目的は、日本でできなかった自社ブランド品の販売。中日本カプセルでは知名度がないため、CJT VIETNAMとして育てたい思いがあった。
念願の自社ブランドはナットウキナーゼ、オメガ3、スクワレンを使った3商品。昨年12月~今年1月に掛けて発売し、約2ヶ月で数千個の販売と好調だ。代理店向け卸販売がメイン販路で、マーケティングをさらに注力する予定だ。
「美容系、医療系、食品系などベトナムの展示会への出展が有効な手段と考えています。リストを作っての電話営業は難しいですが、忘れたころに問合せがあります」
健康食品の商品登録にはある程度の期間が必要となるため、日本企業の進出サポートも事業としている。自社商品については2つが認可待ちの状態で、今後は10、20と増やして、OEMと共にサプリメンの新製品開発・販売を主軸としていく計画だ。

また、CJT VIETNAMを通じて、化粧箱やラベルなどの包装資材をベトナムで作れないかと考えている。日本に輸出して、日本で組み立て、OEM商品を包装して輸出する。運賃を含めてもかなりのコストダウンができるそうだ。
「日本と同等の品質になるか、不良品がきちんとチェックされるかなどが課題です。将来的にはベトナムでの包装も考えたいです」
日本でのサプリメント購入者は高齢層が多いため、日本の売上は伸びている。今後も微増が見込めるため成熟期としてしばらく続くだろうが、減少に向かうのは確実と言える。原材料や資材などの値上げを価格に転嫁しにくい不安材料もある。

一方のベトナムはコロナ禍のロックダウンを経験して「自分の身体は自分で守る」といった健康意識が上昇し、運動や食事と共に多彩なサプリメントが注目されてきた。所得の増加による中間層増での利用も伸びている。
「ベトナムでのビジネスの相手は30代前半や女性も多く、若い人がスピード感を持って進めています。消費はぶれても市場は成長し、サプリメントは根付いていくと思います」

地場の美容健康系企業が注目
法人ニーズでOEMが始まる
医薬品の原薬(有効成分)を研究開発・製造する白鳥製薬は、主な顧客が製薬メーカーになる。この事業と特許使用料などを含めた医薬部門が売上の約90%を占め、残りの約10%が健康食品の開発・製造・販売だ。後者は他社から受託するOEM生産と自社ブランドの卸と直販に分かれ、どちらもオリジナルの完成品になる。

ベトナムとの関係は、約10年前に医薬品の工場建設を計画したことに始まる。進出地域を決める際には社長以下主要メンバー3人が東南アジア各地を回り、「どの国よりも最も活力がある」、「この活力を日本法人に与えたい」という全員一致でベトナムに決まった。
「残念ながら為替の問題などで工場は保留となりましたが、ベトナムで何かできないかと思い、健康食品での進出を考えました」
2017年6月にベトナムの日系企業に委託して、健康食品のテスト販売を始めた。ベトナム人に合わせたニキビケアや美白用など美容系のサプリメントを開発してトライアル。平均年齢の若さ、女性活躍社会などからターゲットは若い女性とした。
「知名度がない中で地道に販売を続けていたら、地場の美容・健康系のアイテムを扱う会社からOEMの相談があったのです」
OEMはサプリメントの配合企画から開発、製造、包装までを自社工場で一貫して行い、販売できる完成品の状態にして、輸出入までサポートする。よって、ベトナムの顧客はラベル貼りなど最小限の手間で現地販売できる。また、同時期にはベトナムのスパやクリニックからも注文が入った。対象と考えた個人のニーズより先に、法人のニーズが拡大したのだ。
ベトナム初となったOEM生産の受注金額は数千万円。当時の感覚でベトナムと日本の価格は1:4の差ほどと考えていたので、ベトナムでは4倍の1億円以上という規模感になる。
「弊社の工場を見学してもらい、日本本社の社長も膝を突き合わせて商談したことが、信頼につながったのだと思います」

自社ブランドで相乗効果
OEMではニーズが拡大
現地法人のShiratori Vietnamを2020年11月にホーチミン市に設立。しかし、既に新型コロナの時期だったこともあり、実質的に動き出せたのは2023年後半からとなった。
現在はローカル企業を対象としたOEMが売上の約80%を占める。残りの20%は自社ブランド品の販売で、Shiratori Vietnamが販売ライセンスを持つ。このうち10%がスパやクリニックなど店舗向けの卸、10%が個人向けのEC販売だ。
自社ブランド品は7商品ほどあり、ニキビケアや美肌用は価格が安いこともあって売れ筋に。最近はオメガ3のサプリメントも人気で、一般的はに魚の油を使うがオキアミから抽出していることが特徴という。
「ベトナム向けに開発した商品を日本でも扱うようになったり、日本の高齢者向け商品をベトナムで販売するなど、日越での相乗効果も生まれています」
日本で生産してベトナムに輸出するOEMは、輸出まで白鳥製薬グループが担当し、Shiratori Vietnamは仲介という形で顧客との間に入っている。顧客は累計20社程度でリピーターもおり、商談を含めれば合計80社を超えるという。
これまで生産してきた商品は約60アイテムで、同じような効能であっても原料や配合が違えば、顧客同士のバッティングはないそうだ。
「当初は若い女性向けの美容系商品がほとんどでしたが、最近は子ども用や膝や関節をケアする高齢者用などニーズが広がっています」
OEMを依頼する顧客の意識も変化している。当初は細かい指示のない「丸投げ状態」に近い依頼もあったが、最近では知識量が増えていると感じる。また、良くも悪くも流行に敏感だそうだ。

競合が増えた成長市場で
価値を出せる場が広がる
白鳥製薬がOEM生産を受注した当時は、ベトナムに日系の同業他社は少なく、OEMという言葉自体あまり知られていなかったという。米国や韓国、オーストラリアから買い付けて販売する会社も多かった。
「そのため、以前は積極的に動かず、待ちの姿勢でも仕事が入ってきました。近年は市場拡大と競合他社の増加で、新規獲得のセールスが必要だと感じます」
リピートの依頼はあっても、1商品の販売数はいずれ落ちるので、新規案件がなければじり貧になる。一方、衛生面や品質に課題はあるものの、ローカル工場も70~80社ほど存在する。価格面で勝負できない一方、メイドインジャパンの品質と培ってきた提案力で対抗している。
日本とベトナムでの実績に基づく安心感、じっくりと丁寧に商談する信頼感、製薬会社ならではのエビデンスある学術論文などをすぐ提出できる情報量なども強みだ。
「今後は自社の価値を出せる場が広がるとも考えています。日本の自社工場は何社にも見学してもらっています」

自社商品では個人客の見方も変えようとしている。当初のターゲットは月収1000USD以上の20~30代と考えており、個人でなく家族でまとめ買いするなども想定していた。ベトナムの平均月収から考えた中間層だったが、この層は意外に厚くないと思うようになった。
「購買層は絞らず、富裕層向け、低所得者層向けの商品を別々に用意しても良いと思っています」
一度は断念した医薬品のベトナム工場も再考の余地があるという。ベトナムの製薬メーカーから打診があったり、当地の製薬関連の日系企業も顧客候補となるからだ。元々は日本への輸出を想定していたが、ベトナムで国内販売ができれば懸念だった為替のリスクがなくなる。
「ただ、健康食品のベトナム工場は難しいと思います。ベトナムのお客さんは『メイドインジャパン』にこだわりますから」