ベトナムビジネスならLAI VIENにお任せください!入国許可、労働許可証、法人設立、現地調査、工業団地紹介などあらゆる業務に対応します!お気軽にご相談ください!

ベトナムビジネス情報 Vol.188|報道から探る最新EV事情

報道から探る最新EV事情

ベトナムではEV(電気自動車・電動バイク)市場が急速に拡大中だ。VinFastを中心としたEVの販売増、都市部の交通政策、国民の環境意識の高さも後押ししている。その最新事情をベトナムのメディアから探った。

※記事の内容は執筆時の報道情報を元にしており、現在と異なる場合があります。

急激に伸びる販売台数

 ベトナム自動車工業会(VAMA)によれば2025年1~9月の累計新車販売台数は前年同期比11.5%増の25万1421台。メーカー別ではToyotaが4万8126台とトップで、シェアは24%だ。

 ただ、この統計にはベトナムEV大手のVinFastや韓国のHyundai、中国系や欧州系企業は含まれていない。VinFastによれば、同期の累計新車販売台数は10万3884台で、Toyotaの2倍以上。そして、ベトナムで第3四半期までの販売台数が10万台を突破した、初めての自動車メーカーとなった。

 中でも一番売れたのがZ世代に人気の「VF3」で3万1386台、次がVF5で3万956台、3位がVF6の1万4425台だった。

 BYD、MG、Mercedes-Benzなど電気自動車の販売台数を公表していない企業もあり、ベトナムの販売実績は10万4000程度あるはず。一方、同じ2025年1~9月のタイのEV累計新規登録台数は前年同期比38.3%増の10万4482台、しかしこれにはバイクも含まれており、乗用車は8万6727台。ベトナムはタイを越える電気自動車市場なのだ。

ビンファストのVF3

 また、調査会社Motorcycles Dataによれば、2025年1~9月におけるベトナムの二輪車総販売台数は約240万台で、前年同期比15.1%の増加。中でも電動バイクが非常に好調で、50cc未満のエンジンに相当するL1カテゴリーが89%、それ以上のL3カテゴリーは178%増加した。VinFastは売上高が354%増加して、ホンダとヤマハに次ぐ第3位となったという。

 前期分の数字だが、ベトナムの2025年1~6月期の電動バイク販売台数は20万9000台で、前年同期比99.2%増。実はこの時点で中国とインドに次いで世界3位の市場となっている。

ベトナムで人気の電動バイク

南北両都市でノーガソリン

 EV激増の背景には大都市の交通政策がある。ハノイでは2026年7月から、市内中心部を囲む環状1号線内でのガソリンバイクの通行を全面禁止に。2028年1月からは規制区域を環状2号線まで拡大して、自家用ガソリン車も対象とする計画だ。

 ホーチミン市では、15の橋と20の主要道路で囲まれた中心部などに低排出区域(LEZ)を設ける予定。2026年からは排出ガス基準を満たさないガソリンとディーゼル燃料の営業車と配車サービスの進入を制限し、2027~2030年にはバイクの排ガス検査を全面展開し、基準未達の車両は中心部への進入を段階的に制限する計画を発表した。

 その一方、電動バイク購入の補助金として、一般世帯は費用の10%(最大500万VND)、準貧困世帯は80%(最大1600万VND)、貧困世帯は100%(最大2000万VND)を支給し、登録料とナンバープレートの費用の減額やローンの利子補助なども提案されている。

 さらにホーチミン市は、個人が所有する土地への依存を減らすべく、EV充電ステーション整備のため公共用地の優先利用を指示した。これはEV普及への最重要課題とも呼べる充電設備への対策だ。

 同市は現在の市内のEV充電インフラが初期段階で需要を満たせないこと、中心部に集中して郊外のカバー率が低いこと、長距離ドライバーに航続距離の不安が残ることを認めている。

 また、充電中のEVが原因とされる火災事故でEVの駐車を認めないマンションが現れたり、EV充電ステーションが少ない・遠いなどの理由で「充電カフェ」が流行するなど、課題はまだ多い。

EVの充電スタンド

カギは航続距離の確保

 この対策に熱心なのはやはりVinFastだ。EV充電インフラを整備する子会社のV-Green Global Charging Station Development(V-Green)は、全国に15万ヶ所のEV用充電ポートを持つとされ、国内でダントツの施設を持つ。

 加えて大手家電チェーンのMobile Worldと提携して各店舗に充電スタンドを設置したり、電動バイク用のバッテリー交換ロッカーをフランチャイズ展開するなど、他社を巻き込んだ充電ネットワークの拡充にも努めている。

マンション内の電動バイク充電設備

 また、VinFastはバッテリー交換式の電動バイクと、バッテリーを交換できる設備の設置を発表している。2025年10月に1000ヶ所、2025年末までに5万ヶ所、今後3年間で全国に15万ヶ所のバッテリー交換ステーションと作るというハイピッチだ。

 数時間必要な充電に比べて数分で済むバッテリー交換は有望市場のようで、地場電動バイク製造スタートアップのSelex MotorsやTMT Motorsの他、韓国LG傘下のバッテリー大手LG Energy Solutionも参入しそうだ。

 長距離運航の別のアプローチとしては、VinFastが着脱式の補助バッテリーを搭載した電動バイクを発表した。固定式と着脱式の2つのバッテリーを利用できるため、フル充電後の走行距離がバッテリー1個の134kmから2個の262kmへと2倍になるという。

ビンファストの充電スタンドの看板

VinFastのライバルたち

 VinFastの一強が続きそうなベトナムのEV市場だが、もちろん競合がいないわけではない。まずは電動バイク。ベトナムは約5000万台という世界第4位のバイク市場であり、電動バイクのシェアが急速に上がりつつある。

 HondaとYamahaも電動バイクを発売しており、中国からはDibaoとYadea、地場なら上記のSelex MotorsやTMT Motorsに加えてPega、Dat Bike、Anbico、NIU、DK Bikeと群雄割拠。中でもVinFastに次ぐシェアを持つのは、Pega(ベトナム)、Yadea(中国)、Dat Bike(ベトナム)当たりのようだ。

 電気自動車でもVinFastが圧倒的首位だが、中国EV大手のBYD、Hyundai、MG、Mercedes-Benz、BMWなど普段使いからプレミアムまで複数のセグメントが販売されている。

 また、具体的な発表ではないが、チェコのSkodaが電気自動車のベトナム販売を検討しているという報道もあった。Skodaの電気自動車は欧州市場で2位となったこともあり、意外な強敵になるかもしれない。

 二輪と四輪で日本のメーカーが存在感を築いてきたベトナム市場は、既に大きな波乱が起こり始めている。

MGのEVカー
Skodaの電気自動車

商業利用でも進むEV化

 バス、タクシー、配送といった商業利用でもEV化が加速している。ホーチミン市は2025年8月に35の新たなバス路線の開設を発表し、このうち27路線は電気バスの路線だった。これまで電気バス路線は21で170台の車両で運行、全車両数の7.3%だった。それが新しく27路線に443台が追加され、電気バスの総数は613台、バス車両の26.2%と増加した。

 これは2030年までに公​​共バスを100%グリーンエネルギーで稼働させるという政府の目標に沿ったもので、ハノイでは同市18番目の電気バス路線を8月から運行させている。主要な観光地を結んでいることが特徴で、2025年末まで無料で乗車できる。

ベトナムの電気バス

 大手EVタクシー事業といえば、VinFast傘下のGreen and Smart Mobility(GSM)が運営するXanh SMが有名だ。VinFastの電気自動車と電動バイクを使用しており、2024年第4四半期にはGrabを抜いて市場シェアトップになったと発表された。

 そのGrabは10月からハノイでの電気自動車配車サービスを開始した。その理由を同社のプラットフォーム上での電気自動車の増加に影響されたと語っているが、意識しているのはその先のユーザーだろう。

 ベトナム人の環境意識は高く、一方で金銭感覚はシビアだ。そのため、「同じ価格か少し高い程度なら環境に良いものを選ぶ」人が多い。GrabでEVは選べないがXanh SMなら確実、という人たちを振り向かせるためと思われ、今後はホーチミン市でも同じサービスを始めるそうだ。

 一方、Xanh SMは全国へとネットワークを広げており、同時にインドネシアやラオスでもEVタクシーサービスを展開している。

Xanh SMの電気自動車

EV立国への課題

 短中期の見通しとしては、二輪大国として電動バイクを中心としたEV化がさらに進む公算が強い。

 自治体による規制や補助、商用車や配達車の電動化で需要は下支えされる一方、供給サイドは国産・海外ブランドの双方が競争を激化させ、プロモーションを含めた価格の下方圧力さえ起るかもしれない。

駐車場に並ぶビンファストのEVカー

 ただ、EV充電ステーションやバッテリー交換ステーションはどれほど設置されるのか。都市部だけでなく地方へ、全国まで行き渡るロードマップはあるのか。

 前述のV-Greenの試算によれば、国内8000万台のガソリンバイクをすべて電動に置き換えた場合、約3億個のバッテリーと50万ヶ所のバッテリー交換所が必要になるそうだ。今後はEVならではのアフターサービス、修理・回収、バッテリーのリサイクルなども重視されてくるだろう。

 それでも、世界に先駆けてベトナムがEV立国になれば、国際的なプレゼンスは相当高まるはずだ。そんな未来が3年後、5年後に実現するかもしれない。

プレゼントとして納車されるビンファストのEVカー
執筆者紹介

取材・執筆:高橋正志(ACCESS編集長)
ベトナム在住11年。日本とベトナムで約25年の編集者とライターの経験を持つ。
専門はビジネス全般。