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リーダーたちの構想 第36回
日越大学

日越両国政府の協力の下、ベトナム国家大学ハノイ校の7番目の大学として、2016年9月に日越大学が開学した。文理横断型の修士課程でスタートし、昨年からは学部のプログラムが始まった。初代学長の古田元夫氏が語る。

必然から起こったドイモイ政策

―― ベトナム研究者になった経緯を聞かせてください。

古田 私の高校時代はベトナム戦争の激しかったころで、ベトナムを中心に世界が回っているように見えました。大学ではそのベトナムを研究したいと思い、東京大学教養学部教養学科でベトナムを専攻したのです。研究してきたのは主にベトナムの1930年代以降の現代史、政治、社会、外交です。

 ベトナム戦争終結直後の1977年と1980年には、ハノイ貿易大学で日本語の講師をしました。当時既に日本語のクラスが2つあり、学生に日本語を教えながら大学でベトナムを研究し、ベトナム語を習う毎日でした。

 当時のハノイは色々なものが不足していて、今とは別世界。民族解放運動の旗手としてのベトナムにも憧れていたので、日本での想像と暮らしてわかった実際の差が大きすぎて衝撃でした。ただ、人々が明るく、街が活気にあふれているのは、今も昔も変わりません。

 その後ドイモイ政策が始まりますが、私はベトナムが改革に向かったのは必然だと思います。それは、ベトナム人の日々の行動のバックボーンには、「暮らしを良くしたい」という気持ちが強くあるからです。

 大局的に見るとドイモイは、旧ソ連のペレストロイカや中国の改革開放は追い風にはなったものの、その物まねではなかった。ベトナム内部の要請から、改革せざるを得ない理由が、1970年代後半のベトナムにあったということです。

―― 日越大学はどのように設立されたのでしょうか?

古田 日越両国政府による2010年の日越共同声明に、「日本の協力でベトナムに質の高い大学を設立する」が検討案として盛り込まれたのがきっかけです。日本ベトナム経済フォーラムで日本の大学関係者による議論が始まり、私は当初から参加して、グループのまとめ役でした。

 2014年にベトナム政府が設置を認可し、2016年に開学します。私が初代学長に推薦されたのは、ベトナムとの関係が深く、ベトナムの大学関係者と交流しており、日本の大学での管理職経験があったからでしょう。

 ベトナムとの付合いは長くても、腰を落ち着けて管理職の立場で事業に関わるのは初めてです。不安もありましたが、日越が協力して新しい大学を作るなんて、面白そうじゃないですか。私の締めくくりの仕事としてお受けしました。

 日越大学の特徴のひとつは、ベトナム国家大学ハノイ校を構成する公立大学であること。日本政府の支援を受けており、理事長はベトナム国家大学ハノイ校の総長が務めています。

 また、理科と文科を持つ総合大学であること。マレーシアやエジプトにも日本政府の協力で大学を設立していますが、どちらも工科大学です。その意味で日越大学は新しい取組みと言えるでしょう。

 ベトナムの大学は旧ソ連の影響で、狭い専門性を重視する傾向があります。強みもありますが、幅広い視野を持った人材、大きな変化に対応できる人材の育成のため、本学ではリベラルアーツと21世紀にマッチしたサステイナビリティ・サイエンスの2つを理念としました。

将来は学生を6000人規模に

―― 修士課程には8つのプログラムがあります。

古田 「地域研究」、「企業管理」、「公共政策」、「ナノテクノロジー」、「社会基盤」、「環境工学」、「気候変動・開発」、「グローバル・リーダーシップ」です。プログラム単位で日本の7大学が幹事大学となり、ベトナム側のスタッフと共にカリキュラムの設計や教員の派遣をしています。

 2020年10月には初めての学部として「日本学」を開設し、今年9月に「コンピュータサイエンス&エンジニアリング」を始める予定です。現在の学生は学部と修士で約200人、教員は日本側が約10人、ベトナム側が20人強です。

 リベラルアーツ教育の一番の要は学習の選択肢が多く、自分で選べるカリキュラムであること。最初は選択肢が多すぎるという声もありましたが、今では自分の勉強を自分で決められることを喜んでくれています。

 日越大学の入試は、実はそんなに難しくありません。修士課程は資格要件があり、面接で一定の学力と専門分野への熱意が認められれば合格できます。ただ、ベトナムの修士課程は社会人が中心で、授業は土日や夜間が多い。日越大学の授業は平日の昼間で、修士課程の教育言語が英語なので、そこがハードルかもしれません。

―― 卒業生の進路を教えてください。

古田 学部はまだいませんが、修士課程の学生は毎年60~70人卒業しています。そのうち10人強が日本を中心とした海外の大学の博士課程に進学、15人程度が日本やベトナムの日本企業に就職、他はベトナムの研究・教育機関が多く、官公庁や民間企業もあります。

 学生の質は概ね高い評価を得ています。ただ、日本語を初めて学ぶ人が多いため、「日本語人材」としてはフィットしません。グローバル人材の技術職なので日本語は必須でないとする企業もありますが、やはり日本企業では日本語能力が重視されます。これから理系のプログラムを充実させていく中で、日本語能力の位置付けは検討課題です。

 2025年までに学部の理系、特に工学系のプログラムを増やす予定です。来年は「シビルエンジニアリング」と「サステイナブル農業」、再来年は「材料工学」と「精密工学」、その次は修士課程にもある「環境工学」を開設するつもりです。

 リベラルアーツの理念は定着したと思いますので、期待と注目が集まる日本の先端技術の技術移転の場を作りたいのです。

―― とても積極的ですね。他の計画も教えてください。

古田 2025年までに理科系学部のプログラムを作ると同時に、「日本学」の規模を拡大して、学部の入学定員を現在の100人から1000人にするつもりです。

 また、日本のODAによる円借款で、ハノイ近郊のホアラック・ハイテクパークがあるホアラックに、キャンパスを作ります。今は仮校舎でして、本校舎の建設になります。ベトナム政府の承認が下り、フィージビリティスタディ(実現可能性の調査)の最中で、2027年に完成予定です。そして2030年には、学生の数を全体で6000人規模にしたい。夢物語に聞こえるかもしれませんね(笑)。

 日越大学はようやく基礎ができた程度で、大学としてのガバナンスがうまく機能するまでに至っていません。両国のスタッフが分け隔てなく、協力してガバナンスを作ってほしい。また、今後は円借款の計画もあり、組織として動ける大学でないと大きな計画に対応できません。今はその基盤を作っている最中です。

Vietnam Japan University
古田元夫 Motoo Furuta
東京大学大学院社会学研究科博士課程中途退学。東京大学教養学部教授、東京大学大学院総合文化研究科科長・教養学部長、東京大学副学長を経て2015年に退職。東京大学名誉教授。2016年に日越大学の学長に就任。