ベトナムビジネスならLAI VIENにお任せください!入国許可、労働許可証、法人設立、現地調査、工業団地紹介などあらゆる業務に対応します!お気軽にご相談ください!

ベトナムビジネス特集Vol154
経済予測2023年
どう動くベトナム?

新型コロナを乗り越えて活力を取り戻したベトナム経済。2022年のGDP成長率は急上昇したが2023年は下降すると見る向きが多い。経済全般、エネルギー、不動産の3分野の専門家に取材した。ベトナムはどうなる?

世界不況が輸出を直撃
M&Aを望む企業が増加

 2022年上期は新型コロナが落ち着いてベトナム経済は成長したが、下期は複数の綻びが起きた。特に経済に影響力が大きかったのが輸出産業の不振と不動産の不況(P6参照)だ。前者では世界的なインフレや利上げから縫製、履物、木材加工など多くの分野で輸出が激減した。

「昨年はどれだけベトナムが輸出産業に頼り、欧米など輸出先の景気に左右されるかがわかった年です」

 値上げや利上げで国内販売も決して好調ではなかった。2022年のベトナムのGDP成長率は7~8%と予測されたため、「経済が良いのになぜ売れない」と本社から詰められた日系企業も。

 ベトナム企業の苦境は2022年後半の、EYベトナムのM&A事例からも見えてくる。幅広い業種のベトナム企業から、出資してくれる日系企業を探してほしいとの依頼が増加した。色々な業界での景気の陰りも大きな要因の一つと見る。

 こうした2022年を踏まえて2023年のベトナム経済はどう動くのか。カギとなるのは輸出先の景気動向だ。小野瀬氏の知人でシンガポールに駐在する、三井住友銀行アジア・大洋州トレジャリー部のエコノミスト、阿部良太氏に話を聞いた。

 輸出主要国の1国であるアメリカ。2022年はインフレとの政策金利の上昇で景気が後退した。ただ、それまでの景気が好調だったので下落幅が大きく見えており、2023年のGDP成長率はプラスになると語る。

「2022年10月の住宅販売では約3割の購入者が現金で支払ったというニュースがありました。アメリカ人には過剰貯蓄があり、利上げは貯蓄にプラスに働きます。現在、米国経済は調整局面に入っていますが、2023年に景気拡大ペースが大きく減速するというネガティブな見方はしていません」(阿部氏)

 2番目は同じく主要貿易国である中国。昨年12月にゼロコロナ政策を止めて感染が拡大、経済も落ち込んだが、今年後半からウィズコロナ政策が順調に働き、経済は戻ると見ている。

 最後は欧州。インフレのピークアウトが見えず、貯蓄を削って生活しており、金利も上昇している。アメリカより景気回復は遅れ、2023年のGDP成長率は0.5~0.6%、マイナス成長となる可能性も指摘する。

「メインの輸出先である米中の景気が徐々に回復する中でベトナム経済も持ち直し、2023年のGDP成長率は6.5%と見ています」(阿部氏)

日系企業にチャンスが到来
50周年でプレゼンス向上も

 2022年は新たに進出を計画する日本企業や日本からの出張者が増加した。円安の影響から円立ての投資金額は上がったものの、思ったほどの悪影響にはならなかったと小野瀬氏は振り返る。

「日本を含めた外資系企業の進出は、製造業もサービス業も2023年に増えると思います」

 製造業ならチャイナプラスワンならぬベトナムプラスワンで、第2工場をベトナムの地方都市に竣工するなどのケースを挙げる。サービス業ではこれまでにない新規のサービスが広がるという。

 一方、2022年のM&Aの傾向は今年も続きそうで、日本が再認識されそうだという。以前から「できれば日本の企業に買ってほしい」というベトナム企業は多かった。しかし、意思決定の遅さや価格面で条件が合わず、ほかの外資系企業に買収されることも少なくなかった。

 ただ、その競合先の多くも業績が悪化している状況下で、内部留保やキャッシュで余力のある日系企業の益々の活躍が期待される。つまり、2023年はM&Aの相手として日本が見直されるチャンスだ。

「M&Aの対象としてベトナム企業は世界中の企業が狙っています。ベトナムは親日国と言われて久しいですが、この10年で日本のプレゼンスは下がり、韓国や台湾に押されていたと思います」

 ブランドは何もしなければ徐々に棄損されていく。例えば韓国は国家ぐるみで常にブランド向上に務めているが、今でも日本に「おしん」のイメージを持つベトナム人は多い。それをひっくり返す絶好のチャンスが、日越外交関係樹立50周年という節目だ。

 今年は50周年記念として様々な事業やイベントが計画されている。JCCH(ホーチミン日本商工会議所)の副会頭でもある小野瀬氏は「50周年ロゴマークでベトナム中をジャックしたいと本気で考えている」とまで語る。

「2023年は日本と日系企業が注目される面白い年になるはず。いえ、そうしなくてはいけないのです」

「全方位」がベトナムの魅力
マインドが上がれば経済も成長

 小野瀬氏はベトナムの投資環境の改善や外国投資の拡大を通じた産業競争力の強化を図る、日越共同イニシアティブにおいて、11あるワーキングチームの中の裾野産業ワーキングチームのリーダーを務めている。

 ここでよく聞かれるのが、「ベトナムはどの産業を柱にしたいのかわからない」という声だ。どの分野に投資を集中したらよいかという質問でもある。これに対して、「ベトナムはその柱を決めておらず、全方位体制を考えていると思う」と割り切っている。

 例えば電子機器の輸出がGDPの大きな割合を占めているが、それはサムスンなど数社の事業による突出。製造業やサービス業をはじめ、DX、エネルギー、農業、漁業などに全方位の柔軟さがベトナムの魅力だという。

 また、2023年の拠り所とするのはベトナム人のマインド。高度成長期の日本のような「明日は今日より良い日になる」というマインドが強いほど経済は成長していく。仮に失業者が増加してマインドが冷えるなどが起これば問題だが、現時点ではそんな様子は感じていない。

 小野瀬氏は2011年6月からEYベトナムで働いており、当時のジャパンデスクは一人だった。今では十数人のチームに成長して、日系企業のみならず、非日系外資やベトナム企業の顧客も大きく増加している。

「全体的なパイがそれほど増えているということ。2022年通年ほどではないにせよ、2023年の成長も確信しています」

脱酸素に舵を切ったベトナム
世界からの支援で資金調達

 ベトナムのエネルギー政策は世界を巻き込みながら大きく変動している。国際力銀行(JBIC)の立場でベトナム電力市場をウォッチし、日越共同イニシアティブでは電力エネルギーワーキングチームの発起人かつリーダーを務める安居院氏は、「電力は経済成長を安定させるベース」と語る。

「ベトナムは年率9~10%で発電容量を増やして、6~7%台の経済成長を支えてきました」

 そのマスタープランが電源開発計画(PDP)だ。第7次となるPDP7(2011~2020年)から現在PDP8(2021~2030年)への変更過程にあり、世界の潮流に合わせて大きく脱炭素へと舵を切る。PDP8草案は最終確定していないが、石炭火力発電を大幅に削減し、特に洋上風力など再エネを増やし、総発電容量を2030年には2倍以上の規模にする計画だ(グラフ参照)。

 2021年11月のCOP26(第26回気候変動枠組条約締約国会議)ではチン首相が、日本と同じく2050年のカーボンニュートラルを表明した。新興国としては意欲的な目標を掲げる一方で、「国際社会から資金や技術の提供を受けながら、排出ゼロに向け強くコミットしていく」と世界の支援を求めた。

 しかし、同じく脱炭素化を目指す日本と比べると、経済成長が続くベトナムは発電容量のさらなる大幅増が必要だ。

「ベトナムは2045年に先進国入りという目標も掲げており、経済成長と脱炭素の両立も重要な課題です。電力部門では、2050年までに最大6280億USDの投資が必要とされています」

 その後の2022年12月、日本を含むG7諸国が、ベトナム向けに今後3~5年で最低155億USDの資金を動員する「公正なエネルギー移行パートナーシップ(JETP)」に合意。ベトナム側が支援の活用方法を検討することになっている。

再エネ、ゼロエミ火力、LNG活用
日本の強みを生かした支援を

 PDP8には多くの国や企業も関わる。例えば欧州勢は得意の洋上風力発電を推進し、自国の事業者を含めた開発を提案。日本は、再エネはもちろん、国内外で実証に注力するゼロエミッション火力、従来から強いLNG火力や高圧送電等の幅広い分野で、ベトナムの脱炭素化に協力できる。安居院氏は「日本とベトナムは課題を共有しており、協力しやすい」と語る。

 欧州では再エネが豊富な一方、石炭火力は老朽化し、さらには低成長下で電力需要も横ばいの状況から、石炭火力廃止による脱炭素化を進めやすい。これに対してベトナム等アジア諸国では、火力発電所は比較的新しく、電力需要が今後も伸びる。従って、再エネや送配電拡充を進める一方、移行期の安定電源を国内ガス・LNG火力で確保しながら、既存火力発電所の燃料転換を進めるのが現実的なアイデアだ。

 ベトナム側は石炭火力を2030年以降は新設しない予定であり、また、稼働中に「中身」を徐々にクリーン化していく方針だ。石炭にバイオマスやアンモニアを混ぜて燃やし、混焼率を上げながらCO2排出を減らし、長期的にはバイオマスやアンモニアだけの燃焼(専焼)への移行を考えている。日本勢はこうした燃料転換を可能とする、ゼロエミッション火力の開発・実証を進めており、ベトナムに対して技術、金融面を含めたサポートができるだろう。

「大型投資が必要なLNG火力でも協力します。再エネは出力が変動しますが、LNGは安定稼働できるためベース電力に使えますし、再エネ整備までの過渡期で重要な移行電源です」

 日本は輸入LNGを使った火力発電所に数多くの経験と技術の蓄積がある。発電所建設に加えLNGタンカーの受入れターミナル建設などでも協力できる。

 こうしたアプローチは、日本政府が提唱する「アジア・ゼロエミッション共同体(AZEC)」構想にも表れている。成長と安全保障を確保しながら、各国の実情を踏まえ、寄り添う形で脱炭素化を支援するのが日本の考え方。JBICもAZEC構想を推進しており、日本企業のビジネス機会作りを後押しする。

「2022年はベトナムが脱炭素に向けて動き出し、国際社会の支援が見えてきた年。2023年はPDP8が確定し、様々なプロジェクトが動く年になることを期待しています」

屋根置き太陽光発電に注目
日本がもう一段踏み出す

 エネルギー関連で2023年のほかの注目分野は、屋根置き太陽光発電だ。特に工場などで導入が増えており、当地の日系企業にも身近となった。JBICも第2タンロン工業団地の屋根置き太陽光発電などを対象に、2022年に総額約2900万USDの協調融資契約をまとめ支援している。

「今やベトナムの総発電容量76GWのうち、屋根置き太陽光発電は7.7GWと約10%を占めます」

 再エネ発電には柔軟な送配電が必要だ。例えば太陽光は日中だけの発電なので、送配電網に電気が一気に流れ込むと吸収しきれず、発電所への出力抑制も発生している。国土が南北に長いベトナムは送配電インフラが弱く、その拡充を進めている。

 その点、屋根置き太陽光発電は工業団地や工場内の自家消費用がメインなので、送配電網に負担がかからない。ベトナム政府も推進する意向であり、安居院氏の電力エネルギーワーキングチーム(WT6)でも、日系企業と共に推進策をベトナム側に提案しているという。

「ベトナム側の制度を、日本企業に利用しやすく改善してもらうには、時間も忍耐強さも必要です。WT6は各メンバーの困りごとを出発点に、ベトナム側に建設的提言を行い、双方にメリットある形で物事を円滑に進めるプラットフォームとなるよう、日々努力しています」

 世界がベトナムの重要性を評価する中、いかにベトナム側と強い関係を作るのかも各国・各社の競争になる。欧州勢はコンセプト作りと相手への浸透が上手で、韓国やシンガポールなどは迅速かつアグレッシブな投資がベトナム側に評価されている。日本も自国の良さをうまくアピールしたい。

「今の良いポジションを維持、改善するには、日本人一人ひとりが、もう一段踏み出すことも大切では。それができれば次の50年も、今以上に日越の素晴らしい関係が続くと思います」

不動産会社の不正が発端
消費者の不信感が拍車

 地場デベロッパーのアンギア社で役員を務め、複数のベトナム企業と住宅開発を進める山口氏は、2014年からベトナムで不動産事業を続けている。

 2022年上半期のベトナム不動産業界は新型コロナが落ち着き、マンションやビルなどの建物も土地も全般的に好調で価格も上昇していた。ただ、2018年から不動産開発の許認可が下りにくくなっており、需要に対して適切な供給が不足している状況は変わらずだった。

「高級なハイエンドマンションの供給ばかりが増えて、一般住宅の開発が少ないとは感じていました。ただ、ベトナムにはこの上がりすぎた価格が調整される時期が来るものとは思っていました」

 その後、3月と4月に株価操作容疑や詐欺容疑などで大手デベロッパーのトップが逮捕され、10月には不動産大手グループが社債の発行・取引の詐欺容疑で逮捕された。これらが不動産市場に与えた影響は大きく、下半期の低迷が始まった。

 ベトナム政府は不正を働く不動産デベロッパーの一掃に取り組んだ。社債市場の安全性や透明性の確保にも動き、財務省は発行企業の社債の償還能力の監督を強化した。企業各社は社債の新規発行を控えると共に社債の買い戻しを強化し、商業銀行は不動産融資に慎重になってマンション購入のための住宅ローンなどに消極的に動いた。

「業界内では噂があり、いつか起こるとは思っていました。ただ、不動産市場が低迷した理由には外的な要因もあります」

 主にアメリカの政策金利の上昇で、相対的に見てUSD通貨の価値が上昇し、ほかの先進国やベトナムを含めた新興国の通貨価値が下落した。ベトナム国内でも金利、主に住宅ローン金利が大きく上昇するのではないかという疑心、そして外国からの不動産投資の減少が同時期に起きたため、より市況が悪くなっていったのだ。

 ただ、建物や土地の不動産価格が全て下がったたわけではない。資金繰りを急いでのマンションのファイヤーセール(投売り)などで局所的な急落はあっても、ベトナムのマクロ経済は成長しており、価格が上がっている物件もある。

「レジデンスもオフィスも一般的に価値があると思われる物件の価格は下がっておらず、逆にバブル期のように極端に価格が上昇した物件は、買手が付かずに下がる傾向にあります」

 ちなみにファイヤーセールでお買い得になっても、デベロッパーの経営が破綻すれば完成や引渡しが危うくなる。買手もそれを理解しており、売れ方は微妙なようだ。

バブル価格は値下がり傾向
住宅用購入に根強いニーズ

 2023年のベトナム不動産業界はどう動くのか。まず外的な要因として米ドルの金利は高いまま推移するだろうから、海外からの一部の投機的なベトナムへの投資は増えず、そのような不動産売買は減ると山口氏は見ている。その意味で不動産市場はむしろ安定化に向かう。

 国内では2022年後半の傾向が続く。極端に値上がりした物件、特にハイクラスマンションなど住宅物件の価格は調整が進み、値下がりする物件も出てくるだろう。オフィスでも高価な物件は同様になる。

 都市中心部の中間的な物件は安定して価格は現状維持。一方、ベトナム経済の成長に合わせて、投資ではなく居住用に住宅を購入するなど実需的なニーズは、跳ね上がりはしないまでも堅調に続いていく。

「私はそう見ています。そして、最後の実需での購入者が弊社の住宅開発のターゲットです」

 こうした住宅用のマンションは少し前ならホーチミン市で20億VND(約1100万円)程度だったが、現在は20~30億VNDが下限だそうだ。

 これらも供給が増えないと価格が上がるはずだが、住宅ローンの借入れが難しくなっていること、不動産販売へのネガティブなイメージなどから、2022年以前のような爆発的なニーズは見込めず、価格は安定するだろうと語る。

 この傾向は2023年一杯続くかもしれないと山口氏。しかし、不動産はインフラの一部でもあって開発が止まることはなく、他国を見ても経済成長を続けている限り不動産価格が全般的に下がることはないという。

「短期的に見れば急成長は難しいかもしれませんが、中長期で見れば開発は進み、価格は着実に上昇していきます。また、どの新興国でもこのような調整の時期を迎えることは、将来の成長においてプラスに働くと思います」

金余りから資金が不動産へ
昨年は転換点となった1年

 2022年後半から2023年は、特別な企業の不祥事をきっかけにして、特別な物件の値上がりに対しての調整が入っていると感じている。投資が対象の購入者は減っているが、一般的な住宅やオフィスの価格は下がっておらず、中間的な物件や実需のニーズは安定している。

 どの業界でも同じだが、本当に必要な需要に対する供給はなされるはずで、今後もベトナムの経済成長は続いていく。ベトナムの不動産市場はターゲットを見極めることができれば、投資の対象としても相変わらず魅力的だ。

「何年かに一度はこのような波が来るのも不動産業界の特徴です。資金に余裕のない人、安直に考えて投資をする人は止めたほうがいいですね」

 新型コロナが始まって、世界中で「金余り」が起きて、その一部が不動産投資に向かった。それが決して良い方向ではなかったことを2022年に気づかされたのではないか。同じことがベトナムにも言える。

「今後の政策などを含めて2022年は転換点になったと思います。2023年は正常化に向かうことに期待します」