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ベトナムで活躍する日系企業|
リーダーたちの構想 第19回
JFEスチールベトナム

2011年に駐在員事務所を設立し、2013年に現地法人化したJFEスチールベトナム。鉄鋼の消費量が増え続けるベトナムで新規開拓を行うと同時に、様々な手段で技術力をアピールしている。福島社長がその実際を語る。

ダイナミックなベトナムの市況

―― JFEスチールにとってベトナムはどのような位置付けでしょうか?

福島 JFEスチールでは東南アジアを「主戦場」として、とても重視しています。日本からの遠隔地でなく、日系企業が多く進出しており、ホームグラウンドと言っても良い地域です。

 中でもベトナムは鉄鋼のニーズが拡大中ですし、JFEスチールが5%弱出資するハティン省のFHS(フォルモサ・ハティン・スチール)の高炉も稼働しています。大きな市場かつ生産地という意味でも大切な拠点です。

―― ベトナムの鉄鋼使用量は増えているのですね。

福島 はい。国の鉄鋼の需要量を鋼材見掛消費量と呼びますが、ベトナムは毎年伸びており、2018年は約2200万tでした。数年前にタイを抜いてASEANでトップとなっており、現在のベトナムは一大鉄鋼消費国なのです。この数年は少し伸び悩んでいますが、その前は2桁成長でした。

 直近で言えば、昨年は夏頃から市況が急落して、11月からは持ち直してきました。特に熱延鋼板は従来は中国からの輸入が多かったのですが、インドやロシアからの安価な製品が増えたために値が下がったのです。ベトナムで熱延鋼板の市場は元々大きいのですが、国内で生産できるのは最近稼働したFHSくらい。多くを輸入に頼っている状態です。

 このようにベトナムは価格が上がるのも下がるのも早く、市況の動きがダイナミックです。一方の日本は年間の見掛消費量が7000万tを超える市場ですが、伸び悩みが続いています。弊社はいわば日本のJFEスチールとベトナム市場との調整役であり、日本では経験できない躍動感を感じながら、その変化の中で日々悩んでいます(笑)。

―― 御社の事業内容を教えてください。

福島 鉄鋼製品のマーケティングを中心に、需要の開拓、お客様のケア、技術サービスが主な業務です。需要開拓は日系企業に限らず外資系やベトナム企業も対象で、新商品や新技術をアピールしています。お取引が始まると日本から商品を輸入します。

 お客のケアとはアフターサービスで、トラブル対応やアドバイスなどがあります。また、エンジニアによる技術サポートも行っています。今日も日本からエンジニアが出張していまして、連携してお客様にご対応することも多いです。

 お客様の業種はゼネコンなどの建設業、建設プロジェクトでのファブリケーター(鉄鋼製品の組立て業)、鋼材加工・メッキメーカー、機械部品メーカーなどです。ベトナムの特徴は、鉄鋼の用途的に建材向けの汎用分野が多く、タイやインドネシアのように自動車や電機製品向けの高級鋼のニーズが比較的少ないことですね。

地道に広げる新技術の理解

―― 先程、安価な輸入品が増えたとありましたが、日系企業の製品価格はやはり高めでしょうか?

福島 他国の鉄鋼に比べると技術力は高く、価格も高いです。それを理解してもらうのが我々のミッションでもあり、技術力をアピールしています。

 例えば、錆に強い耐候性鋼は塗料を塗らなくても腐食しにくいので、完成後のメンテナンスが軽減できます。初期投資は高くなっても、メンテナンスのコストや人手が減るので、長いスパンで考えれば安くなるわけです。

 こうした新しい技術を理解して、試してみようというマインドの方はいるものの、決して多くはありません。そこで大学と共同研究をして先生方に内容を知ってもらったり、大学や役所とガイドラインを作るなどをしています。「大切なのは値段は高くても品質の良いもの」を、ベトナム側から発信してもらうためです。

 また、経済産業省の予算による、人材育成にも取り組んでいます。

―― どのような内容でしょうか。

福島 ハノイとホーチミン市それぞれの1大学で、鋼構造の技術者養成講座を開き、建築や土木の学部の学生たちに教えています。ベトナムでは建築物に鉄筋コンクリートを使うことが多いのですが、日本ではビルの骨格を鉄骨で作る鋼構造が普及しています。

 鋼構造は耐震性に優れ、建設の工期が短く、柔軟なデザインにも対応できます。ベトナムには地震がほぼないので鉄筋コンクリートが多用される面もあるのでしょうが、将来的にはメリットの多い鉄骨に変えたほうが良いと考えます。

 そのためには、ゼネコン、設計会社、関連省庁などに鋼構造を知るエンジニアが必要で、その育成を目的に講座を開いているのです。これまで4年間続けてきて約300人が受講し、その中には学生だけでなく若手の教師も含まれます。

 インターンシップとして日本のJFEスチールの製鉄所や研究施設の見学なども行い、この取組みをバックアップしています。

―― 講座の今後はどうなりますか?

福島 2019年度が最後の年でして、その後は講座が正規の授業になる予定です。学生に教えるのは講義を受けた若手の先生方で、弊社のエンジニアも協力します。インターンシップなどの受け入れは続けます。

 長い目で見た取組みになりますが、このような人材が育って社会に出れば、その後は長期間に渡って鋼構造や新技術を周囲に知らせてくれると期待しています。

 建設労働者が不足している日本とは反対にベトナムでは人手が豊富で、人件費も安い。そのため工期にはあまり頓着せず、鋼構造の特徴である工期の短縮は魅力的でないという考えもあります。ただ、商業施設の建設などでは、投資資金を早く回収するために開業を早めるケースもあり、チャンスはあると思います。

―― やりたいこと、始めたいことはありますか?

福島 ビジネスとしては小さいのですが、メコン地域の支流に小さな橋を架ける事業があり、鋼材を供給しています。小さな川でも、現地に暮らす人たちは橋が架かることで移動が楽になったり、子供が安全に学校に通えたりします。

 地方の省や公共団体、委託された民間企業などからの発注になり、予算不足で進まないこともあるのですが、少しでもこの国の役に立ちたいと思っています。

 鉄鋼のニーズは今後も拡大するでしょう。現在はマンション、ビル、工場などの建築系と、港湾、発電所、橋梁などの土木系が用途の中心ですが、ぜひ製造業向けの高級鋼材の市場を開拓したいです。日本で使っている材料がほしいという日系企業が少しずつ増えていますし、鋼材の高度化はベトナムでも必ず進むと思っています。

JFE STEEL VIETNAM CO., LTD.
福島 功 Isao Fukushima
大学卒業後に川崎製鉄株式会社(当時)に入社。人事・労務部門に長く携わり、海外事業統括部門では主に韓国を担当、グループ企業の経営管理部門も経験する。2017年にベトナムに赴任して現職。