2011年に工場を竣工したサッポロベトナム社。現在は生ビールに力を入れ、取扱店は全国約1500店にまで広がった。2年連続過去最高益を成し遂げ、今年と来年でブランドに投資する、臼井勝彦社長が戦略を語る。
生ビールは店舗との協働作品
―― ベトナムへの進出理由を教えてください。
臼井 日本市場がシュリンクする中で北米、ヨーロッパにおいては進出を早期に行っており、次のターゲットとしてアジアの重要性を感じていました。その中で東南アジアの中心エリアにある、ビール消費の多いベトナムを選びました。
日本のビール会社で海外にビール工場をゼロから立ち上げたのは、サッポロのベトナム工場が初めてです。業界としても大きなインパクトがあったと思います。
現在の年間生産量は約6万klで、これは日本の大きなビール工場の半分の規模です。工場では約60人の社員が働いています。
進出当時はベトナム人全般がターゲットでしたが、現在はコアターゲットとして28~35歳の男女で、自分を持っている、また社交的かつアクティブな方に飲んでいただくことを戦略としています。対象もベトナム人だけでなく、欧米人やアジア人へと広げています。
―― どのような販促活動をしていますか?
臼井 日系の飲食店はもちろん、我々が「インターナショナルレストラン」と呼んでいる欧米系やアジア系など海外からのレストランやバーが主な営業先です。こうしたお店の外国人在住者や観光客にまず飲んでいただきたいです。
ベトナム人が経営するレストランも大きな対象ですが、ブランディングに相応しい、やはりこだわりのある店舗が中心となります。
具体的には、新規オープンなどで工事中のお店への訪問、お取引のあるお客様からのご紹介、アンテナを張って見つけた繁盛店に連絡するなどです。
営業担当に伝えているのは、「担当地域の真ん中に立って、あなたのために情報を渡してくれる人を、いかに周囲に作れるか」です。情報をもらえる人間になる。例えば、食材の会社さんとリレーションができれば、最近の流行店や生ビールに興味がある店などを教えてくれるかもしれない。営業にとって情報とご紹介はとても大きい存在です。
主力商品として推しているのは生ビールで、10lと20lの樽を店舗に届けています。私は社内で、「まずは生ビール、今こそ生ビール、とにかく生ビール」と言っています(笑)。
ベトナムでは冷蔵庫が普及していなかった時代から、常温のビールに氷を入れて飲む文化が根付いています。それを一般的なビールの飲み方に変えていきたい、日本ビールの特徴である生ビールの美味しさを伝えたいという強い想いを持って活動しています。
―― 生ビールにはサーバーや注ぐ技術が必要ですね?
臼井 はい。サーバーを使った注ぎ方、お客様に提供する形、サーバーの毎日の洗浄方法、グラスと食器は別に洗うなど、必要なことはいくつかあります。ですから弊社ではこれらの方法やルールを教え、サポートもしています。生ビールはビール会社とお店との協働作品なのです。
欧米系やアジア系のレストランも納得してくれています。お客様である欧米人やアジア人の方も生ビール自体は知っており、かなり浸透していると思います。現在はベトナムのビールに氷を入れる文化の方にも理解を進めています。
現在、生ビールを置いていただいている店舗は全国に約1500あり、早い段階で倍の3000店に持っていくつもりです。店舗はインターナショナルレストランのほうがベトナム系より多く、日系の飲食店は100%がお客様です。
ホーチミン市とハノイの割合はおよそ6:4です。ハノイはブランドに対する意識が高く、一度気に入ったら使い続ける方が多いので、とても良い反応をいただく場合があります。ほかにはビンズン省、ドンナイ省など都市部の周辺省、ニャチャン、ダナン、フーコックなどの観光地や海外在住者が多い都市でも展開しています。
生ビールの美味しさでサッポロのプレミアム感を伝えて、そのお客様が店頭でサッポロの缶ビールを見かけて、購入していただく。このサイクルを生み出したいです。
生ビールの売上は伸びており、昨年は缶・瓶ビールとほぼ同じ比率で、今年は生ビールが抜く見込みです。これは同業他社ではまずないケースです。なぜなら他社でも生ビールは提供していますが、サーバーや洗浄などのレクチャーが負担になるので、さほど力を入れていないのです。
むしろこの流れを我々の追い風にして、こだわりを持って生ビールをご提供していきます。
今年と来年はブランディングに投資
―― 今年4月にサッポロプレミアムビールのデザインをリニューアルしました。
臼井 はい。以前と比べて低光沢で落ち着きのある色調かつシンプルなデザインにし、日本語で「サッポロプレミアムビール」と縦に入れ、プルリングを黒にしました。これは弊社だけでなくサッポロプレミアムビールの世界統一デザインです。
サッポロビールは今年から「Legendary Biru」(レジェンダリービール)というタグラインを前面に打ち出して、世界的にデザインを揃えました。
このリニューアルと共に今年と来年は、ブランド力の向上に投資する予定です。生ビールの売上と輸出の増加で、2年連続過去最高益となりました。輸出も大切な事業で、ベトナム工場から世界中にビールを輸出しており、米国ではアジア系ビール部門で38年間シェアトップとなっています。
この機会にベトナムでもっと強いビジネスができる環境を作るために、2年間の投資でブランドを浸透させたいです。具体的にはSNSとデジタルサイネージを中心に、ターゲットとなる方にヒットする場面に徹底して広告を出していくなどです。
―― 今後の計画を教えてください。
臼井 2030年を目途に売上を今の2倍、利益を3倍にすることが目標です。国内事業が形になりつつあり、サッポログループに貢献できる会社にしていくのが最終的な目標ですね。
そのために今年と来年でブランド力を高め、2024年~2026年で売上と利益を伸ばしていく。東南アジア市場、さらにはアジア市場でサッポロプレミアムブランドをどう見せていくかも動いています。
そのためにも大切なのが当地の市場。ベトナムという国の習慣や文化、ベトナム人を理解することが大前提で、この国でビジネスをさせていただいている気持ちは忘れません。
年に数回、業績発表などで全社員と対話をする場があるのですが、そこで我々のミッションを「ベトナムの豊かな食文化に貢献する」と伝えています。ビールを売ることは目的ではなく手段です。生ビールの美味しさを知っていただき、お客様の食事との相性が良くなり、豊かな食文化をより一層豊かにします。サッポロプレミアムビールの機能的価値は「ベストバランス」ですから。
お客様の持つサッポロのイメージと会社がやりたいことが同じになるよう目指しています。それを創っていくという意味で「IKKAN KEIEI」(一気通貫した経営の略)という言葉を会社の大きな柱として、拠り所として掲げています。