ベトナムと日本を結ぶ直行便を運航する全日本空輸(ANA)。ただ、旅客の約7割は日本経由の米国便が占め、利益の出し方も航空会社独特という。ホーチミン支店長の上阪克之氏が知られざるベトナムビジネスを語る。
強敵は台湾の航空会社
―― 御社の航空旅客事業で、どの便にお客さんが多いのでしょうか?
上阪 ホーチミン市から羽田・成田へのホーチミン線が1日2便、ハノイから成田へのハノイ線が1日1便あります。ホーチミン線の場合、日本乗継ぎで米国行きのお客様が最も多く、旅客の構成比で約7割を占めます。経由地は羽田と成田があり、米国の様々な都市に飛んでいます。
お客様はほとんどがベトナム人かベトナムにルーツを持つ米国人などです。ベトナムは特に南部から米国に移住した方が多いため、その方々の里帰りや、ベトナムから親戚や友人を訪ねる方々、留学生の需要もあります。ビザの関係もあり、一般的な米国へ観光旅行はまだ少ないと思います。
旅客構成比の残り3割ほどが日本へのお客様で、お客様の約6割が日本人、約4割がベトナム人で、ベトナム人の方はビジネスと観光利用が多いです。
これら旅客運送が事業全体の約8割で、残りは貨物運送になります。ホーチミン線は旅客便だけなのでその中の貨物スペースに積んでいますが、今年9月からはハノイ発・成田着の貨物専用機の運航を始めました。週に2便です。
北部は電子部品などの生産拠点が多くあり、こうした輸送の需要に応える形でスタートしました。現在の計画はありませんが、ホーチミン市からも実現したいですね。
―― 日本経由米国行きで選ばれる理由は何でしょう?
上阪 まずはダイヤ、運航のスケジュールですね。2~4時間くらいで乗り継げるようにしていますし、米国各都市への路線も豊富です。また、質の高い客室サービスや新しい機材なども評価されていると思います。
そのためベトナム発米国行きの経由便ではシェアトップクラスと思いますが、手強い相手がいます。台北経由の米国行きを運航する台湾キャリアです。
主に大手2社がありまして、我々の数字に肉迫しています。台湾の航空会社は機内の客室乗務員や、経由する台北の空港の地上スタッフに、ベトナム人などベトナム語ができる人材を配置しています。ベトナム人の方は英語が苦手でも安心して利用できるわけです。
ベトナムには台湾系企業や台湾人が多く、航空会社はベトナムを重要な市場と認識しているのでしょう。残念ながら弊社はまだそこまでサポートできていませんので、対策を講じねばならないとの意識を強く持っています。
一方、日本へのお客様を増やしたいと考えています。米国行きと日本行きの7:3の割合を5:5程度まで引き上げ、中でもベトナム人の方の割合を上げたいです。
ただ、個人での観光ビザ取得が難しく、LCCと価格で張り合う気持ちはありません。また、お陰様でロードファクター(1機の総座席数に対する有償旅客の割合)はかなり高く、平均的な利用率が8割などもあります。お客様をさらに増やすのは一筋縄ではいきません。
―― 増便などの方法はあるのですか?
上阪 いえ、羽田発着枠の制限などもありますし、1~2年先の短期的な予定で便を増やすのは難しいです。今の総座席数のキャパシティの中でお客様を増やすには、全体的な視点で各路線の座席を管理する必要があります。
航空会社は在庫の効かないビジネスです。航空機が飛んでしまえばそれで終了し、在庫一層処分などもできません。1便に200席あればそれをいかに満席にして、かつ最大の収入を得るか。ここが増産や減産ができるメーカーさんの収益構造とは違う点で、簡単に言えば座席のお客様数×単価の積算が収入ですので、全体のバランスを最適化して利益を上げることになります。
それと同時に私の役割は、ベトナムでの知名度を上げることだと思っています。ベトナムの一般社会でANAを知る人は少ない。知名度や存在感を上げて、米国や日本に行かれる際には選択肢の一つとしていただき、購入に結びつけたいです。
そのため、存在感のある企業さんとのコラボでキャンペーンをしています。昨年は日系企業さんと組んで、ANAの会員登録した方に抽選で航空券や商品をプレゼントしました。今後も日系やベトナム企業にこだわらず、トライアンドエラーを続けながらコラボ企画を進めたいです。
自社でのお得なキャンペーン販売は定期的に開催していまして、一定期間先の時期を対象とした「HELLO BLUE SALE」というWebでのセールを毎月行っています。
1チームが生み出す信頼感
―― 近年の業績はいかがですか?
上阪 先程お話したようにキャパシティに上限がありますので、急激な右肩上がりは望めません。ただ、2019年の業績はかなり良好でしたが、新型コロナ期に売上が激減し、現在では回復して2019年の数字を超えています。
その要因はお客様の増加もありますが、有難いことに座席の単価が新型コロナ前より高くなっています。いわゆる戻り需要を含めて全体的な需要が拡大しているのです。
ビジネス需要では日本からのお客様は新型コロナ前以上に戻っていますし、ベトナム発はビジネスも観光もお客様が伸びています。需要が最も戻っていないのが日本からの観光客でして、ベトナムへの観光客数が減っているというより、円安などが原因で海外旅行をする日本人が少なくなったのでしょう。
―― 支店長として心掛けていることはありますか?
上阪 私はホーチミン支店のトップですが、ナンバーツーが空港所長で、彼がタンソンニャット国際空港の部門を統括しています。航空会社にはほかにも支店の営業、予約、総務、貨物の営業やオペレーション、空港での接客、パイロットとやり取りをする運航管理など多様なスタッフがいて、この1チームでホーチミン市・東京間を飛ばしています。
路線は夜発と朝発の便のため、空港では夕方6時頃から早朝2~3時のナイトシフトと、朝の3時頃から昼頃までのモーニングシフトで動いています。私が言うのも変かもしれませんが、皆、大変です。しかも、中々顔を見られない仲間が数多くいます。
そこで1年に何回かは、ランチタイムの前後を使ったチームビルディングをしています。同じアクティビティを楽しみ、一緒に食事をして、一体感を育てています。空港の早番のスタッフは勤務後、遅番は勤務前、土曜日開催なので市内支店のスタッフは休日での参加です。先日は社員ほぼ全員の約30人が集まりました。
私はこのチームワークを大切にしています。ANAは英国の格付機関SKYTRAX社から11年連続で5スターを獲得していますが、お客様からの信頼感もチームワークが成せることだと思います。