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特集記事Vol163
切削工具の技術力
見えるベトナム製造業

ACCESS Vol.163
ACCESS Vol.163

工作機械に取り付けて金属を加工する切削工具。ドリル、エンドミル、リーマー、タップ……製造業に欠かせない逸品であり、その性能が高精度、高品質、高効率なモノづくりを実現する。切削工具からベトナム製造業が見えてくる。

多品種かつ少量生産
設計・製造の高いハードル

 金属を削り(エンドミル)、穴を開け(ドリル)、めねじを作り(タップ)、おねじを作る(ダイス)などで高精度に加工する切削工具。総合工具メーカーのオーエスジーは世界シェア30%以上というタップを柱にドリル、エンドミル、ダイスなどを製造販売する。

 材料となる丸棒、加工(研削)する生産設備、耐久性を高めるコーティングを独自に開発・製造しており、一般的な標準品のほかにオーダーメイドの特殊品も提供している。

 1968年に初の現地法人をアメリカに設立し、現在は世界33ヶ国に製造、販売、技術サポートの拠点を持つ。ベトナムでは2008年にOSGベトナムを設立した。

「進出した理由はどこの国も一緒で、お客様と共に加工するからです。製品を納品して終わりでなく、その後の問題解決もサポートします」

 切削工具は一般的に多品種少量生産だ。様々な形状に加えて径が0.1mm違うと別の製品になり、長さ、仕様、材料の差でも製品が増えていく。オーエスジーのマザー工場であるNEO新城工場はドリル、タップ、エンドミルなどを生産しており、月産でおよそ70万本、8000ロット、生産品種は6000種類に上る。

 また、製造時の公差(許容される範囲内の誤差)がミクロン単位と要求が厳しく、設計においても困難が伴う。

「ドリルなら穴を開けていくので切るところが見えなくなります。切削の結果だけを見て推測を重ねて設計を変更していくわけですが、確かな答えがないのです」

 顧客は機械加工をしている製造業全般で、自動車メーカーやそのサプライヤーを中心に重工業、建設機械、航空宇宙、エネルギーなど幅広い産業が含まれる。これら製品の品質や性能の向上に伴い、切削工具の精度や能力も高度化を続けている。

人気は日本製の標準品
右肩上がりで成長中

 OSGベトナムの本社はハノイにあり、ホーチミン支社、バクニン支社、ハナム工場を持つ。スタッフは合計で35人程度で、工場では約10人のエンジニアが工具の再研磨などのアフターサービスを担当している。

 世界拠点としては南アジアのグループに属し、本社はシンガポールでその下にベトナム、タイ、マレーシアなどを置く。メイン工場はタイにあり、標準品と共に特殊品も生産。ベトナムは主に日本から輸入した日本製の標準品を販売している。

「標準品も特殊品も製造原価はさほど変わらず、特殊品はロット数が数本などと少ないために、どうしても価格が高くなります。弊社では標準品が基本です」

 その標準品はインドでローカル向け製品を生産しているが、ベトナムでは多少価格が高い日本製が人気。これはオーエスジーが切削工具のプレミアムメーカーとして知られていることが大きいだろう。OSGベトナムの顧客の半分以上が日系企業で、ほかには韓国系、中華系、ベトナム企業など。業種では2輪や4輪の関連メーカーが中心だ。

 製品はタップ、エンドミル、ドリル、ダイスが全体的に良く売れており、その販売数は合計で月に約5万5000本。これは南アジアグループで中位の規模で、概ね右肩上がりで成長を続けてきた。今年のベトナム製造業は世界不況や輸出に減少もあって元気がないが、景気停滞が終われば再び伸びると期待されている。その製造業をどう見ているのか。

 上記のように切削工具を使う多くの産業界では製品が高品質化を続けている。そのため切削工具も進化を遂げているわけだが、逆に高品質な製品を生産しないなら、最先端の工具は必要ない。

「ベトナムは製造業が盛んですが、全体的なレベルはさほど高くありません。ミクロン公差ではなく標準公差のオーダーが主流です」

ベトナム製造業成長のカギ
高付加価値な製品を作る

 その理由の一つに、同じ製品を量産するベトナム企業が少ないことを挙げる。長期間で大量生産を続けると精度の高さや耐久性など切削工具の良し悪しが実感できる。すると仕上がりや作業効率などを考えて良いものが欲しくなる。

 青山氏はアメリカに9年赴任していた。日本人もアメリカ人もベトナム人もエンジニアのマインドは変わらないが、生産する製品が異なるのでベトナムの状況は仕方がないと言う。製造業を伸ばすポイントは「高付加価値な製品を作れるか」で、現在の設備では難しいようだ。

「中国の製造業がレベルアップしたのは、優秀な日本人を雇い入れて技術やノウハウを吸収したから。ベトナムでは似たようなことが起きていないので危機感を感じます」

 また、オーエスジーはグローバル企業なので世界の情勢がわかるが、ベトナムの製造業はその情報が不足していると語る。世界三大工作機械見本市として日本ではJIMTOF(日本国際工作機械見本市)が開催されている。ここまで大規模な製造業の展示会はまだベトナムになく、地場展示会への出展者も来場者も少ないという。

「20ドルの製品を作っていて、それが工夫次第で100ドルになることを知らない。そんなイメージです」

 一方、世界の切削工具のニーズは増えており、分野で異なるが最終仕上げでの要求精度が厳しくなって、微細加工が求められているという。3Dプリンターが切削に置き換わるとも言われるが、ここまでの精度は出せていない。

「3Dプリンターが進化すると荒取り用工具のニーズは減るかもしれませんが、その分、仕上げ用工具の重要性が増すでしょう。各市場にアンテナを張って情報収集をして、敏感に方向修正することが大切です」

ベトナム人エンジニアが研ぐ
複合工具「KAIZENツール」

 2009年に創業し、2014年に欧州最大手の切削工具メーカーSandvik社の子会社であるDormer & Pramet社と業務・技術提携したAnmi Tools。特殊ツールの製造販売を事業の柱としており、鋼材を欧州各国から輸入し、切削工具へと加工後、コーティングまでを一貫生産している。

「切削工具の製造会社として、ベトナムで唯一の大手企業と自負しています。お客様の約90%が日系企業で、ほかは韓国系、台湾系、ベトナムなどの企業です」

 特殊ツールとは切削工具の複合版で、例えば標準的な工具4本分の4工程、下穴加工、面取り加工、上穴加工、上座面加工を1本で可能とするオーダーメイド工具。加工や工具交換などの時間が大幅に短縮でき、同社では「KAIZENツール」と呼んでいる。

「特殊ツールは日本などで製造すると輸入もあって納期まで2~3ヶ月かかりますが、弊社は地産地消なので約2週間、価格は半値程度です」

 鋼材である丸棒を円筒研削盤でミクロン単位で削る。径を整えて、刃先を3~10mm幅の砥石で研ぎ、切りくずを排出する溝を切っていく。この作業は日本刀の刃研ぎにも似ており、同社は「研磨屋のプロ」を自認する。

 ハノイが本社で、ハイフォンとホーチミン市に支社、フンイエンに工場がある。フンイエンがメイン工場で、特殊ツールの製造と摩耗した刃先の再研磨も行う。従業員数は全国に約170人、工作機械やコーティング機は約120台を保有する。

 特殊ツールは月産で約7万個、再研磨は月産約2万個。設備を増設したいがウクライナ紛争で欧州からの物流が滞っているという。また、チタンなどのPVD窒化コーティングでは月産で約20万個だ。

 顧客は北部が圧倒的に多く、2輪メーカーとそのサプライヤーがメイン。自動車メーカーはノックダウン生産が多いため部品の製造が少なく、南部では食品、木材加工、医療系など金属を加工しない業種が多いそうだ。

 Dormer & Prametなど欧州製の標準ツールの販売もしている。その中にはASEAN向けの廉価版などもあるが、日系企業は日本製を選ぶようで、価格勝負だけでは難しいようだ。

競合の販売会社は数十社
二ッチ市場で勝つには?

 同社の切削工具の販売シェアは、標準と特殊を合せた数字で7~8%程度と推測している。ベトナムでは日系、韓国系、台湾系、中国系などアジア系の切削工具が多く使われており、アメリカ系、イスラエル系、欧州系などもある。切削工具の販売会社は数十社あるとも言われる。

 ただ、外資系企業は輸入品を販売するケースがほとんどで、Anmi Toolsのように生産工場を持つ企業は稀だ。その理由は先進国や工業国に比べてベトナムで作る製品が少なく、切削工具市場が小規模なため、輸入のほうが安くなるからだ。

 その中で同社は新型コロナ禍であっても売上を伸ばし、2023年度の年間売上目標は400億VND(約25億円)だ。特殊ツールという二ッチ市場でなぜ可能なのか。

「超精密部品を扱うなど要求精度の高い企業しかターゲットにしないからです。お客様に日系企業が多いのはそのためで、安価な標準ツールを好む企業は顧客になり得ません」

 Anmi Toolsは2輪関連企業の獲得後、複合機、工作機械、ミシンなどのメーカーやサプライヤーへと受注を広げた。逆説的な言い方になるが、同社の知名度の低さも武器に変えているようだ。

 コーティングでは欧州系企業も獲得してきたが、日系企業はまだ弱かった。ある時、コーティングだけを日本に委託してベトナム企業に提供していた日系企業と知り合う。価格が安く、輸出入の手間も省けるため、月に数十万個単位の受注に成功した。

「弊社はベトナム企業なので無駄な経費も使いません。工場は太陽光発電、約30人の営業部はマーケッターも兼ねており、コピー機はモノクロのA4のみです。カラーが必要な時は印刷所に頼んだほうが安いんです(笑)」

進出する大手メーカーに期待
2030年までに180億円企業

 切削工具業界はベトナムの産業界の動向に左右される。特に2輪、4輪、携帯電話、複合機、工作機械など金属部品を多く使う業種であり、各社の生産動向で切削工具の消費量が変わる。

「それぞれの業界で波はあっても、今後10年間のベトナム経済はGDP5~6%の伸びで推移するでしょう。この10年間が会社を大きくするチャンスです」

 ただ、精度への要求が高い企業が顧客となるため、今後はベトナムで電気自動車(EV)の生産・組立てを計画中と伝えられる中国EVメーカーのBYD、同じく通信機器やEVの部品の製造・組立てを発表した台湾の電子機器受託生産Foxconnなどを潜在顧客と見る。ベトナム製造業の成長は期待したいが、発展するまで待っていられない形だ。

 同社は2025年までに年間売上1兆VND(約60億円)、2030年までに3兆VND(約180億円)企業となることを目指す。従業員数で300~400人の技術集団だ。開拓できてない新規顧客や新業種が多いと考えており、その発見と技術力向上で実現できると語る。

「日本でも100億円企業を目指す中小企業が多いのは、会社の安定を考えてのことだと思います。大きな競争相手がベトナムに来る前に、資本力を上げたいです」

 全自動で24時間稼働する工具製造ラインの開発を進めており、今後は日本やASEANの切削工具メーカーや販売代理店と協業して、ブランドツールのOEM生産なども拡大させる予定だ。

特殊ツールを設計・製造
高付加価値品の輸入が拡大

 自らを「メーカー機能を持った商社」と呼ぶKamogawa(カモガワ)は、商社として切削工具を販売する一方、工場で自社ブランドも製造している。

 事業は大きく3つあり、幅広い商品を物流を含めてワンストップで供給する「生産財総合卸事業」、切削工具や濾過装置などの生産財を自社ブランドとして企画、製造、販売する「PB(プライベートブランド)事業」、切削工具の再研磨や販売設備のメンテナンスを行う「リノベート事業」だ。

 2004年に商社としてホーチミン市に進出。ベトナムに進出した顧客から現地での工具調達を求められたことが理由で、2006年にはハノイにも商社として進出。2013年にはハノイに工場を竣工した。

「当時ベトナムには日系の切削工具商社がほぼなかったので重宝されました。それでお客様の基盤ができてハノイにチャンスを求めて進出し、当地でも多くのお客様を得て、そのニーズに合った刃物の製造や再研磨を行う工場も作りました」

 現在はハイフォンとダナンにも事務所を持ち、従業員数は合計60人に増えた。商社としては主に総合切削工具メーカーの製品を取り扱い、小型部品加工向けの切削・研削工具が多い。物流サービスの充実にも注力しており、ほぼ毎日航空便や船便の出荷があり、長納期の製品に関しては自社倉庫、保税倉庫、顧客の倉庫(委託在庫)などで保管し、顧客に製品を早く届ける調達代行の提案にも力を入れている。

「2輪、4輪、半導体装置の部品加工を中心に多岐に渡る業界向けに販売しており、日系企業が8割強です。近年は同業種でのベトナム企業のお客様が増えています」

 PB事業では自社ブランドでドリル、エンドミル、リーマなどの特殊工具を製造。加工工程を短縮できるような特殊なツールで、顧客の加工内容に合わせたオーダーメイド品だ。切削加工でネックになるバリ取りなどを機上で完結できるツールなど、顧客のアイデアを図面に起こしたり、自社から提案することもある。

 ベトナムでの製造が高度化する中で、日本の工場で製造している高付加価値工具の販売もしている。高精度の穴明け加工工具や独自の特殊表面処理で寿命を2~3倍延ばしたエンドミルなどで、ベトナムでのニーズが高まっているそうだ。

「安価な製品ではないですが、日系企業と日系企業向けの加工をしているベトナム企業を中心に引合いが多く、高付加価値製品への需要が日系とベトナム企業共に高まってきています」

 リノベート事業はアフターサービスで、自社ブランドと各メーカーの切削工具の再研磨をしている。対象はドリルやエンドミルなどが多く、大手切削工具メーカーから「再研削認定工場」とされた技術力を持つ。

 工場を建設した2013年当時はダイヤ、超硬工具の両方を再研磨する企業は少なく、特にダイヤモンド工具の再研磨ができなかった。そのため受注量が多かったが、現在は競争が激しくなり、最近は良い設備を揃えたベトナム企業が増えているそうだ。

ベトナム企業の技術力
驚異的な伸びを実感

 これら3事業を連携させながら進めていけるのがKAMOGAWA VIETNAMの強みだ。商社として標準工具の販売、メーカーとして特殊工具、自社開発品の提案ができ、刃先が摩耗してきたら再研磨のサポートができる。

 実際、自社製品はニッチなので切削工具全体でのシェアは低いが、商社機能を含めるとかなりの顧客がいるという。販路を広げてきた秘訣は、精度や技術の難しさはあっても、顧客が困っている情報を回収して提案に結び付けること。

「情報収集できるかがカギです。弊社は日本本社を含めて取り扱う製品が幅広くて、対象となるお客様も多い。自社でのノウハウを持っているため、ベトナムにおいても幅広く個別に提案できます」

 日系企業向けの市場と比べるとベトナム企業は「価格勝負」という風潮だが、日系企業やほかの外資系企業向けの仕事が増えているために、切削工具に求めるクオリティが年々高まっているという。中内氏は工作機械についても同様に感じており、実際にベトナム企業への高品質な工作機械や切削工具の販売数が増えている。

 日本で開発している高付加価値な自社製品の販売はベトナムで本格化しつつあり、今後の主力製品となっていく可能性が高いと見ている。なぜなら、ベトナム製造業の技術力は驚異的に伸びていると実感しているからだ。

多くの業界でレベルアップ
高品質ニーズが高まるか?

 日系企業の金属加工だけでなく、北部では大手日系企業や大手韓国系企業向けに部品加工や治具加工、装置の組立てなどを請け負うベトナム企業がある。高価な研削設備や測定機器を導入する企業もあり、この数年で加速してきたという。

 その顧客となる業界は上記と同じく2輪、4輪、半導体装置が3本柱で、射出成型用などの金型製造でもベトナム企業が力を付けているそうだ。高度な製品を製造するベトナム企業も増え始めており、良い意味で野心的、真面目で向上心が高いベトナム人が多いのでまだまだ伸びると語る。

「どうやってベトナム企業にも貢献して仕事を拡げていくかが課題です。ベトナム製造業の発展に注目しつつ今後の重要なマーケットとして取り組み、日系企業、ベトナム企業を問わずに目の前のお客様に喜んでいただく。そのために会社のスローガンとなっている『そんなとこ・ことまで考える』を実行して、きめが細かくて付加価値の高い提案とサービスの提供をしていきたいです」