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特集記事Vol169
冷凍倉庫が増加中!
コールドチェーンの未来

ベトナムで低温物流が急拡大している。特に水産品、食肉、果物などを保管する冷凍・冷蔵倉庫の建設がこの数年で急増しており、日系企業の参入も続く。コールドチェーンが本格的に始まっているのか、企業の戦略と併せて取材した。

 日本でチルド食品物流に強みを持つ名糖運輸は、ベトナムを海外初進出先に選んだ。

 日本市場の今後の拡大は難しいとASEANに注目し、ベトナム地場企業のToda Industriesと合弁会社MEITO VIETNAMを2014年に設立(2019年に独資化)。元国営企業の倉庫を取得する形で事業をスタートした。

「場所はビンズン省のソンタン第2工業団地で、倉庫の荷物とお客様、従業員も引き継ぎました」

 倉庫の規模は9000パレット収容可能。パレットとは輸送や保管用に荷物を載せるマテハンのことで、同社の場合は1000×1200mmサイズを使用している。

 倉庫の内訳は、冷凍倉庫(-23~-20℃)が4室と冷蔵(チルド)倉庫(0~10℃)が1室で、保管品は魚や畜肉を中心とした原材料が多い。

 顧客はほぼベトナム企業で、輸入した魚介類を保管して水産加工後に輸出、輸入した畜肉を保管後に輸出や国内市場に流通、といった使われ方が多い。この第1倉庫がほぼ満床だったため、2018年には近隣に第2倉庫を竣工。1万8000パレット収容と2倍の規模にした。

「大きくしすぎたとすぐに後悔しましたが、約1年で埋まりました。全く想像できなかったスピードです」

 チルドに切り替えられる冷凍倉庫が4室、温度管理ができる定温倉庫が1室。保管品はやはり食品の原料系が大半で、顧客も同じくベトナム企業が中心だ。

 そして今年3月18日、ロンアン省のタンドゥック工業団地に第3倉庫を竣工した。第1と第2の合計と同等の保管能力となる2万6000パレット収容と大規模で、冷凍倉庫が5室、冷凍・冷蔵に温度切り替えのできる部屋が3室ある。

 立地の候補は2つあった。1つは新国際空港が完成予定のドンナイ省ロンタン県。地域の物流が変わると期待したが、食品加工業などの潜在顧客が少ないとわかった。もうひとつはロンアン省で、食品加工会社が多く、メコンデルタからの果物や魚介類の取込みが見込めた。

「ロンアン省に低温倉庫を持つ企業が増えてきたと思います。また、低温倉庫を持つベトナム企業が増えています」

 事業を順調に拡大してきた背景を深川氏は、「タイミングが良かった」と振り返る。進出当時、特にベトナム企業は低温事業にあまり参入していなかった。そのためか空きがほとんどなかった第1倉庫では依頼を断らざるを得ないケースもあり、客離れの危機感から第2倉庫を急いだ。

 ASEAN進出でタイは後発になると見送ったが、ベトナムでは逆に市場が伸びる時期だったのだ。加えて、同社のベトナム人トップは低温倉庫業界にネットワークを持ち、新規顧客を開拓できたことも大きかった。

 第3倉庫もある程度の受注はあるが、大倉庫なので満床ではない。競合他社も増えており、積極的に顧客獲得に動く。そこでは倉庫事業の差別化が求められるが、同社では商品の取扱いや作業スピードなどで日本品質を前面に出している。

「ベトナム特有の習慣ですが、トラックドライバーは搬入・搬出などの作業をせず、倉庫側が請け負うのです」

 そのため、荷物を出す、運ぶ、積み込むなどの丁寧さや確実さ、作業スピードの速さなどが問われるという。これらの実現のために社員教育もしている。

 一方、投資回収に時間がかかることから本腰でなかったベトナム企業が、近年は利益が出る事業と見て冷凍倉庫を建設している。

「考えられない単価で荷物を預かるケースも耳にしており、正直強敵です。これからは価格競争も本格化すると思います」

 ブルーオーシャンからレッドオーシャンへ徐々に移りつつあるのかもしれない。

 それでもベトナムの低温物流市場は成長しており、伸びしろも十分にあると見ている。食品原材料などの保管だけでなく、コンビニやスーパーなどモダントレード用の保管と配送も増えそうだ。後押しするのはベトナム人のライフスタイルの変化。

 都市の中心部は別として、多くのベトナム人は市場で当日分の食材を購入して調理している。これがスーパーなどで何日分かをまとめ買いして冷蔵庫で保存するような生活習慣になれば、モダントレードでの冷凍・冷蔵の需要が広がる。

 ただ課題もあり、ひとつは物流だ。同社はToda Industriesと2016年に、貨物運送業の合弁会社T&M Transportationを設立した。コールドチェーンの需要に応えるために作った企業で、大小を含めた冷凍・冷蔵トラック15台を持つ。

 日本ではこうした車両が冷凍・冷蔵商品の配送に使われるのが当たり前だが、ベトナムでは低温倉庫から工場や店舗に運ぶ車両が、通常のトラックやバイクの場合が少なくないという。常温で運んで再度冷凍や冷蔵するため、実質的にコールドチェーンが途切れてしまう。

「インフラの整備も必要ですね。特に速くて効率の良い物流のための高速道路の整備です」

 同社はホーチミン市とハノイ間の低温定期便を始めている。ドライバー2人によるノンストップのトラック輸送で、一般道を使って片道3日かかるそうだ。都市間をつなぐ高速道路はコールドチェーンのベースとなる。

「ベトナムのコールドチェーンは少しずつ確立されるでしょう。今は第3倉庫の運営で手一杯ですが、第4倉庫は中部や北部に考えたいですし、ベトナム事業の成功でほかのASEAN諸国への進出もあり得ます」

 双日と国分グループ本社はベトナムの物流大手New Landと共同で、合弁会社New Land Vietnam Japan(NLVJ)を2016年に設立した。

 この3社はベトナムの大手食品卸会社のHuong Thuy Manufacture Service Trading Corporation(Huong Thuy)を共同運営しており、その物流機能を強化するためだった。

 NLVJはビンズン省のビンアンテキスタイル工業団地にあり、常温、冷温、冷蔵、冷凍の4温度帯の倉庫を持つ。保管するのはHuong Thuyだけでなく双日グループの商品、グループ外の荷物と多岐に渡り、配送も請け負っている。

 この倉庫が手狭になってきたと、ロンアン省のタンドゥック工業団地にて2023年8月に新倉庫の商業運転を開始したのが、NEW LAND VIETNAM JAPAN LONG AN(NLVJ LA)だ。NLVJの運営主体がベトナム企業であるのに対し、NLVJ LAは日系企業が担っている。

 また、NLVJの保管能力が1万6000パレットなのに対して、同じ4温度帯倉庫のNLVJ LAのそれは3万9000パレットと3倍弱の規模だ。4温度帯とは常温(室温)、一定の温度で保管する定温(10~25℃)、冷蔵(0~25℃)、冷凍(-25~0℃)となっている。

「双日・国分としてビンズン省のノウハウを生かそうとこの倉庫事業を始めました」

 ロンアン省としたのは主な需要地ホーチミン市の北東にあるビンズン省の反対側の立地であるのと、カントーなどメコンデルタからの物流が増えるだろうと考えたからだ。

 保管しているのは国内のスーパーマーケットなどモダントレード向けの商品や、先進国に向けて輸出される冷凍水産品や果物など。後者は主に原材料で、水産品なら輸入した魚介類を水産加工用に保管する。

 漁獲量は季節で差があり、果物なら旬があるので、最適な時期に仕入れて冷凍で保管し、その加工・生産計画に応じて徐々に出荷していくことが多い。

「双日グループ企業と外部のお客様の商品とがあり、今後はどちらも増えていく予定です」

 同社には商品ごとに仕分けて店舗に配送するなどのディストリビューションセンター(DC)機能がある。届いた野菜や果物を仕分けて包み、その日のうちにスーパーの各店舗に送るなどだ。そのため、常温倉庫だけでなく冷蔵倉庫にも広い作業場を設けている。

「DCサービスは日本では一般的ですが、今後はベトナムでもモダントレードなどからニーズが出てくるでしょう。それを前提に冷蔵環境下で作業できるスペースを作りました」

 今後の事業拡大の中にこの作業も含まれており、現在約80人のスタッフを今年中に2倍弱にする予定だ。

 冷蔵・冷凍商品のDCサービスなど他社にあまりない事業を行うのは、差別化を図るためだ。常温倉庫は参入障壁が低いが、近年は日系を含めた外資系もベトナム企業も、低温倉庫の建設を増やしている。

 倉庫には価格、立地、サービスなど差別化の要因は複数あるが、これから同社が特徴付けようとしているのは脱酸素経営だ。

 ベトナム全体ではまだ重視されていなくても、日本や欧米に輸出する企業ならその意識が高く、機運が高まっているという。既に脱酸素経営に舵を切った企業もある。

「我々のお客様も気候変動の影響を直接・間接的に受ける中、太陽光発電の導入、各種ISO認証取得・これに基付くハイクオリティなサービスの提供、CO2排出量の見える化など、できることは進めていくつもりです」

 CO2排出量の見える化とは、スタッフのバイク通勤、保管物の配送、冷凍のための使用電力などからのCO2排出量を算出することで、そのためのシステムを持つ企業と協業していく予定だ。

 ベトナムではかなり先進的な取組みでも、将来はこれらに対応できない企業は取引からの除外もあり得ると考えており、先手を打っているのだ。

 大型倉庫ならではの工夫もある。同社に限らず倉庫には、荷物を出し入れする際にトラック後部と倉庫をつなげるドック(ドックシェルター)がある。虫やホコリ、外気などがトラックや倉庫に入らないようにする気密装置でもあり、同社の倉庫にはトレーラー用から一般トラック用など大小合わせて62ものドックが並ぶ。

「ドックの先に5度の置き場があり、そこから冷蔵や冷凍の倉庫内に荷物を運びます。ドックの数が少ないと結果的に配送が滞るボトルネックになるので、数を増やしたのです」

 課題はあってもベトナムの低温物流やコールドチェーンは拡大すると考えており、その証拠が近年増えている競合他社を含めた業界プレイヤーの増加だ。顧客側では、常温から低温の商品開発を考慮している食品メーカーなどもある。

 昨年設立されたNLVJ LAは現在は保管業務の積み上げに重きを置いているが、今後は依頼が増えるであろう配送業務の自社比率を高める予定だ。こちらも他社との差別化を図る一つの要素となる。

 トラックでの配送業務は倉庫会社により差があり、自社で持つ一気通貫型もあれば、外部への委託、一部は自社で請負うなどがある。地場の配送業者も多いことから低温物流での競争も厳しくなっているという。

 ビジネスとして別の視点もある。、商社の双日はグループ企業が多いので、自社の顧客とつなげる役目も担えると考えている。上記の脱酸素経営で協業や協力する企業とグループ企業との間に接点が生まれるかもしれない。

「自社の利益にはならなくても、倉庫業を通じて新しいビジネスが生まれる可能性もある。それもまた面白いと思います」

 通常の倉庫のほか日割りで保管する「Day倉庫」など、ユニークなサービスを提供する月島倉庫

 市場調査にベトナムを訪れた社長が冷凍車両や冷凍倉庫がほとんどなく、麻袋に入れた氷をバイクで運ぶ光景を見て、ベトナムの発展性を実感。海外進出先を中国からベトナムに変更し、2013年にホーチミン市に駐在員事務所を設立した。

 地場大手物流会社のTRA-SASをパートナー企業として、バイク便での「路地裏物流」として保冷剤配送や蓄冷剤レンタルの市場調査を進めた。保冷材はケーキの持帰り用などに使われる小さなタイプで、蓄冷剤は低温を維持する業務用で保冷期間が長い。

「板状の蓄冷剤を作る急速冷凍機を日本から2台取り寄せて、飲食店や食品のサプライヤーを回りました」

 凍った蓄冷剤を朝方に届けて、使い終わったものを回収し、再度届けるといったレンタル業だ。思うようには普及しなかったが、保冷剤は飲食店や寿司店のテイクアウトなどで利用された。

 2020年5月に月島倉庫ベトナムとして現地法人化。事業の継続を考えたが、外資系100%なので輸送業の規制から車両を持てずに断念。しかし、飲食店などとの付合いが続く中、冷凍や冷蔵の相談が増えてきた。自社倉庫がないので考えた手段は、倉庫会社の倉庫を借りる提携倉庫という事業だった。

 提携倉庫は倉庫業界では一般的だそうで、貸す側のメリットは倉庫の空いているスペースを有効活用できること。一方の借りる側は多様な立地の倉庫が選べるので、会社や工場に近い倉庫を顧客に提案できる。

「あるお客様からは『もうすぐ港にコンテナが着くんです。冷凍倉庫が必要です』というSOSが入ったことがきっかけです」

 輸入した魚介類を水産加工して輸出していた顧客は、鮮魚が安価な時にまとめて購入するため、その量が予測できなかった。その時は大量に仕入れたので冷凍倉庫が急遽必要になったのだ。そこで本格的に冷凍倉庫を探して、2020年末くらいから冷凍倉庫事業が始まった。

 その後、提携する冷凍倉庫はホーチミン市、ビンズン省、ロンアン省、ドンナイ省など5ヶ所に広がり、倉庫会社はほぼベトナム企業。保管温度は-20~-18℃程度で、魚介類や肉など食品の原材料を中心に、飲食店がコンテナで仕入れた調味料なども保管している。

「お客様は日系企業がほとんどで、自社倉庫があっても保管量が増えたり、温度帯が特殊なケースなどに使うことが多いです」

 荷物の量に合わせて倉庫を探すことが多く、候補となる倉庫に連絡して対応を確認する。コンテナで運ばれた荷物を2~3パレット、10パレット単位から提携倉庫で保管。多い場合は約120パレットになる。

 商品の仕分け作業などは委託する倉庫会社が担当し、配送を依頼された場合は配送会社を手配する。同社は窓口として機能している。

「新しいプロジェクトとして考えているのは、日本からベトナムに入る冷凍コンテナ(リーファーコンテナ)の混載便です」

 日本からベトナムへの常温コンテナでは、何社かの商品をまとめて運ぶ混載便があるが、冷凍コンテナはまだないという。そこでTSUKISHIMA SOKO VIETNAMが輸入元となって、コンテナをシェアできる混載便を作る考えだ。

 通常なら荷物が少量でもコンテナ1本を借りることになって費用が割高になるが、数社でシェアできれば物流費が下がる。冷凍小口の取扱いを実現したいと語る。

 数年前から日系を含めた外資系企業やベトナム企業が冷凍倉庫を建て始めて、今後完成する冷凍倉庫も多い。倉庫内の搬送が自動化された6万パレット規模のベトナム企業や、最新設備の冷凍倉庫を稼働させた韓国系企業もあり、同社はこうした企業とも提携している。

 顧客が気にすることで一番多いのは、配送を含めたトータルでの倉庫の価格。また、古い設備や外観はあまり良い印象がなく、やはりきれいで新しい倉庫が人気だそうだ。

 立地などの条件にもよるが近年は価格が上昇しており、ホーチミン市内では施設や設備が古くても上がっていたり、出入れの回転が早いビンズン省は埋まりやすいなど特徴が出ている。これは常温倉庫でも同じとのことだ。

「単純な値上げのほか、料金はパレット単位とt(トン)単位があり、t単位のほうがお得な場合が多いのですが、パレット単位に切り替わるなどもあります」

 ベトナムのコールドチェーンは、日本ほど温度管理が徹底されていないケースが目立つ。最新の冷凍倉庫でもそこから店舗や工場までの間、その前段階ならコンテナからの積み下ろし時、冷凍倉庫までの配送、トラックから冷凍倉庫への搬入など、注意すべきポイントはいくつもある。

「日本のようにパリッとしたアイスクリームやアイス最中を、ベトナムでまだ食べていないのです(笑)」

 トラックから一旦荷物を置く倉庫内の置き場は冷凍状態ではなく、ここから冷凍倉庫に運び入れる。そのためいかに早く倉庫に入れるかが重要なのだが、置き場に長く置かれればアイスクリームが溶ける可能性もある。そのため、金城氏が立ち会いに倉庫まで行くケースもある。

「こうした理由から自分たちで管理できる自社倉庫を持ちたがる企業も多いです。現在のベトナムの低温物流市場は過渡期であり、課題はあるものの成長を続けると思います」

 同社は新しい事業として、化学品などを保管する危険物倉庫との提携倉庫を始めた。従来のパートナーであるTRA-SASの倉庫で、1万6000㎡あるISO 9001:2015認証取得の危険物倉庫である。

 先進国に近づくベトナムで、今後は冷凍倉庫のように広がっていくかもしれない。