海外の製造業、特に中国企業のベトナムへの移転や製造拠点の拡大によって人材採用需要が増えている。
人材紹介および給与計算サービスを提供しているアデコによれば、2024年上半期における製造業関連の人材需要は、前年同期と比べて10%増加している。採用ポジションには、品質や購買の専門家や管理者が含まれている。人材採用における最も多い条件は、中国語を理解出来ることだ。
「ベトナムが海外からの投資を強く引き付けており、さらに海外との取引を増やすために英語とその他の言語、特に中国語に堪能な労働者の需要が高まっています」とアデコの担当者は話す。
同様に中・高レベル人材の紹介をおこなうナビゴス・サーチは、中国からベトナムへの製造業の移転と拡大投資が増加傾向にあると指摘する。中国企業は多様な人材を求めており、特に豊富な経験(68.3%)と管理スキル(22%)が重視されている。
業界に関しては、中国企業は、ハイテク産業、工業生産用の部品、エレクトロニクス、自動車などへの投資にシフトしている。その中で、中国語が出来る人材への需要が高まり、人材市場が活性化している。
「企業側で中国語が出来る人材への需要が高まっているが、供給人材は限られています」とナビゴス・サーチ北部エリア担当部長は話す。
人材紹介会社によれば、最近になって製造業の求人需要は高まっており、海外企業によるサプライチェーンのベトナムへの移転傾向が明確に示されている。中でも、中国企業は、製造拠点を中国国内以外の場所に設立する”チャイナ+1”の動きを活発化させている。
2024年7月までに62の国と地域からの投資プロジェクトがベトナムで新たに認可され、世界第2位の経済大国である中国からの投資が最も多くなっている。具体的には香港からの投資額が13.1億USD、中国本土からの投資額が12.2億USDとなっており、両方を合わせると新規海外直接投資額の23.4%を占めている。
中国以外にも様々なグローバル企業が新たな製造拠点としてベトナムを選択する傾向も顕著になってきている。統計総局によれば、2024年1月から7月までの海外直接投資総額(新規と追加)は、180億USDを超えており、前年同期から11%近く上昇している。実行投資額も125.5億USDで、2020年以降で最高水準に達している。
新規登録と追加投資プロジェクトは、北部の工業団地に集中している。2024年第2四半期においても、フォックスコングループによるナムソン-ハップリン工業団内の14.26ヘクタールの土地に対する投資額3億8300万USDの回路基板工場設立を筆頭にバクニン省に多くの新規プロジェクトが投資された。また、イエンフォンⅡ-C工業団地にAmKorが投資した半導体材料と設備工場の投資額は10億USDを超えている。
ハイフォン市では今月初め、KCN VietnamグループがDEEP C工業団地内に第2期レンタル工場・倉庫建設を開始し、8万㎡以上の複合レンタル工場と高品質倉庫が提供される見込みだ。KCN Vietnamでは、ハイフォン市が2024年上半期において国内でのFDI誘致先トップ3に入っており、その中でハイテク産業、加工業、物流業が93%を占めていることを受けて、この地域にビジネスチャンスがあるとみている。
また、まだ認可が下りていないにもかかわらず既に問い合わせが来ている工業団地も存在する。2024年の株主総会でキンバック都市開発公社(KBC)は、ある韓国企業からハイフォン市のチャンズエ3工業団地内の20ヘクタールの土地に電池製造工場を建設したいとの相談を受けており、また別の中国企業からは60ヘクタールの土地を借りて電磁調理器を製造したいと連絡があったことを明らかにした。チャンズエ3工業団地は、現在、投資承認申請の最終段階となっている。
HSBCが発表した7月のベトナム概況レポートによれば、ベトナムは、製造拠点を移転させるトレンドの中で他の東南アジア諸国よりも優れたFDI投資先という評価を受けている。これは、ベトナムにコスト競争力や労働者の基礎教養レベルという優れた基盤があることによるものだ。
実際、ベトナムは過去20年間で世界の主要な製造拠点としての地位を確立し、グローバルサプライチェーンに深く参入している。輸出額は2007年以降毎年平均13%以上増加しており、その多くを外資企業が担っている。
これまでの海外投資の流れは、サムスンを中心とした韓国からのものが主流であった。これらの企業が早期に市場に参入しようと努力した結果、他の大手テクノロジー企業もベトナムへの投資を促進させるようになった。昨年、新規登録された外国直接投資プロジェクトの総投資額の20%弱を中国の製造業が占めた。
”チャイナ+1”の流れの中で、コスト競争力があり、投資支援政策を有するベトナムが最も魅力的な国となっている。アジアでコストを比較してみると工員の賃金は中国をはじめとした周辺諸国よりも低くなっている。一方でPISAの調査によれば、ベトナムの一般教養レベルは高く評価されている。PISAは、15歳の生徒の知識とスキルを評価する国際学生評価プログラムだ。
ベトナムは、エネルギーなどのその他のコストも競争力がある。ベトナムの事業用電気料金は、東南アジアで2番目に低い。様々な製造業で広く使用されているディーゼルオイルも比較的安価である。さらに、ベトナムには5月時点で交渉中も含めて19の自由貿易協定(FTA)が存在する。
HSBCによれば、ベトナムが製造拠点の移転先として有望なもう一つの理由は、政府による積極的な税制支援策にある。ベトナムの法人税率は20%で十分な競争力があるうえに、ベトナムには企業を支援するための様々な減免税措置が存在している。
「実際、ベトナムのグローバルバリューチェーンへの参入レベルはここ数年で急激に進んでおり、現在ではシンガポールに匹敵するレベルに達している」とHSBCの報告書には記載されている。
しかし、ベトナムは依然として、原材料を輸入して加工・組立する立場から抜け出せていない。したがって、HSBCは、ベトナムが強力な投資の流入を維持するためには、国内の製造チェーンを引き上げ、付加価値を高める必要があるとしている。
それに加えて、専門的な知識とスキルを持った労働者の不足が外資誘致の課題になっている。これは半導体などのハイテク産業における製造能力の発展において不利な条件となっている。
HSBCによれば、インフラの質、貿易プロセスを円滑化するためのデジタル化能力、安定したエネルギーの確保なども今後、多国籍企業が
ベトナムへ投資を検討するうえでの重要な要素となっている。
出典:2024/08/09 VNEXPRESS提供
上記記事を許可を得て翻訳・編集して掲載