新型コロナのピークを乗り越えたタインホア省出身のトゥーンさんは、ホーチミン市こそ自分の”運命の場所”だと考えたが、それから4年、毎年高くなる生活費を賄うことが出来なくなり、ホーチミン市を離れることにした。
2021年、当時22歳だったレ・バン・トゥーンさんは、ハノイの観光イベント会社で1年以上働いた後、ホーチミン市に移住することにした。Z世代のトゥーンさんは、ホーチミン市は活気に溢れ、オープンで若者に適した仕事が沢山あるだろうと考えていた。
「ホーチミン市に来てみたら仕事を見つける前に街がコロナで封鎖されてしまい衝撃を受けました」とトゥーンさんは振り返る。宿泊費と食費を賄うためにトゥーンさんは配車アプリのドライバーに登録し、コロナの期間中、配達の仕事をつづけた。隔離の3か月を乗り越えトゥーンさんはこの街に長く留まることを改めて誓った。
コロナ禍の後でトゥーンさんは平均月収1500万VNDのイベント会社での営業の仕事に就いた。しかし、コロナが明けても2年間は景気が悪く、会社はコストカットに乗り出し、顧客が見つけられないと月に500万VND程度の収入にしかならなかった。
「お客さんに会ってカフェでコーヒーでも飲めば6万ドンくらいかかります。家賃、食費、友達との遊興費で給料を使い果たし、貯金も出来ませんでした」とトゥーンさんは話し、ホーチミン市で働いて貯金するのは非常に難しいと付け加えた。物価が上昇する中で収入が追い付かず、トゥーンさんは都会に住むという夢を諦めざるを得なかった。
「私はホーチミン市に親戚がいませんし、両親は子供と一緒に南部へ行くのは嫌がりました。テトに帰省するときに多少なりとも残ったお金は交通費に消えるでしょう」とトゥーンさんは話す。1週間ほど考えた末、先月トゥーンさんは友達からホーチミン市の仕事より20%も給料の高い仕事を紹介されたことをきっかけにハノイへ戻ることに決めた。ルームシェアしていたチャビン省出身の友人も長年住んだホーチミン市を去ることを決めていた。
トゥーン氏をはじめとする何十万人もの地方からの移住者は、何十年にもわたって出生率が全国最下位であるホーチミン市の労働力不足を補ってきた。2019年の統計総局のデータによれば、全国の出稼ぎ労働者の11.5%がホーチミン市にきており、南部ではビンズン省の26.3%に次いで2位だった。国際移住機関(IOM)によれば、全国からの出稼ぎ労働者は、過去20年にわたって特にホーチミン市の輸出加工区、工業団地及び、都市の発展に貢献してきた。
しかし現在、彼らはホーチミン市を理想的な目的地として選択することが無くなり、ホーチミン市を去りつつある。
ホーチミン市人口・家族計画局のファン・チャイン・チュン局長は、ホーチミン市に来る出稼ぎ労働者数は2022年と2023年の2年連続で減少したと話す。特に2023年は、初めて社会増加率(都市の流入人口と流出人口で算出)が0.68%となり、自然増加率(出生数と死亡数で算出)の0.74%を下回った。
2015年から2021年までホーチミン市の人口の社会増加率は常に自然増加率を上回っており、年によっては2倍以上の差があった。毎年平均でホーチミン市には17~18万人の人口が流入し、都市の人口を拡大させてきた。しかし2023年の社会増加率は0.67%に留まっており、これはホーチミン市に流入した人口が6万5000人程度にすぎないことを示している。
流入人口の減少についてズン氏は、例えばビンタン区は多くの工業団地に隣接しており、ホーチミン市で最も多くの労働者を抱える企業もこの地域に所在しているが、企業の受注量減少による人員削減などにより、多くの労働者がこの地域を離れたと説明する。
社会生活研究所のグエン・ドゥック・ロック所長は、数十年前のホーチミン市は国内で最もインフラ、雇用、収入、成功といった魅力を備えた磁石のような存在だった。しかし、最近は地方の競争力が向上し、ホーチミン市の相対的な魅力が薄れてきた。都市の魅力が低下する一方で、物価の上昇や渋滞などの問題が増え、企業は雇用を削減し、労働者は移住し辛くなっている。
ベトナムの地方自治パフォーマンス指数(PAPI)に関する報告書によれば、2023年においてもホーチミン市は地方在住者にとって最も移住したい場所(21.68%)となっている。ホーチミン市への移住を希望する人の理由で最も多いのはより良い仕事に就くため(31.5%)となっている。
専門家によれば、これは地方の住人が依然としてホーチミン市を移住先の有力候補だと考えている一方で、移住した多くの住民が満足いく結果を得られず地方に戻っていることを意味している。その結果、2022年と2023年のホーチミン市の社会増加率は急激に減少しており、ホーチミン市は地方の人を引き付ける力よりも地方へ流出させる圧力の方が強まっていることを示している。
2022年にVCCIとIOMがホーチミン市、ドンナイ省、ビンズン省で働く出稼ぎ労働者1200人以上を対象に実施した調査で、15.5%の人が将来的に故郷へ帰ると回答し、44.6%の人がどうするか悩んでいると回答し、39.9%が特に予定はないと回答した。
この調査に協力した労働者の殆どは結婚しており、子供を田舎に預け、食費、医療費、教育費などを賄うのに十分な収入を得るために遠くから出稼ぎに来ている。しかし、将来的に故郷へ帰ると回答した人のうち38%以上が現在の収入は支出を賄うのに十分ではないと回答している。そのため、もし田舎で条件の良い仕事があれば、家族の近くにいるために故郷に帰りたいと答えた人が47%以上に上っている。
”2030年を見据えた2023年から2025年までのホーチミン市における雇用と技能開発の戦略的方向性”に関する報告書によれば、ホーチミン市が出稼ぎ労働者を惹きつけたり、定住させることを妨げている要因は生活費が高すぎることだ。ホーチミン市は国内で最も物価が高いグループに属している。一方で、ホーチミン市の一人あたりの平均月収は最も高いグループと最も低いグループで3.5倍も差がある。貧富の差は、住居、仕事、教育、医療など社会サービスへのアクセスにおいて不平等を容易に引き起こす。
ビエックラムトット社のホアン・ティ・ミン・ゴック社長は、地方からの出稼ぎ労働者にとって仕事と収入は最も重要な要素であり、次いで生活環境、交通、教育、医療、会社の福利厚生などの要素が続くと話す。
昨年末にアンカーリサーチインスティテュートが公表した生活費に関する調査結果では、ホーチミン市などの大都市での生活に必要な給与額は861万VNDだった。一方で、統計総局のデータによれば、2023年のホーチミン市の労働者の平均月収は651万VNDで、ビンズン省、ハノイ市、ドンナイ省に次いで国内第4位だった。
「生活費を下回る収入グループは単純労働者であり、最初にホーチミン市を離れていく傾向にある」とゴック社長は話す。生活費を超える所得水準の労働者は、ホーチミン市にいても仕事や生活がこれ以上向上しないと感じた場合、自分に適した別の場所を探すようになる。特に最近のように科学技術が発展すると何処にいても仕事をすることが出来るようになり、ホーチミン市に住むことにこだわる必要がなくなる
「地方の住民の中でホーチミン市の地位は低下しています」とロック所長は述べ、もし政府が適切に対応しなければ、この傾向はますます加速し、出稼ぎ労働者に依存しているホーチミン市は労働力確保において問題を抱えることになるだろうと付け加えた。
出典:2024/11/11 VNEXPRESS提供
上記記事を許可を得て翻訳・編集して掲載