ホーチミン市クチ郡にある工場で働く労働者を募集するためにアンザン省に出向いたグエン・タイン・アンさんは、以前の従業員に出会ってホーチミン市の戻ってくるように誘ったが「ホーチミン市はもうこりごりです」と断られた。
アンさんは、靴製造を専門とするベトナム・サムホ社の労働組合長で、今年6月に労働者を募集するために地方へ行った時のことを話してくれた。今年になって、同社は受注が回復し、新たに1500人の労働者を採用する必要が出たため、様々な媒体で求人をかけたが思ったように応募者が集まらなかった。経営陣をサポートするため、アンさんはこれまでの関係を活用して地方へリクルートに出かけた。
「工場側では、宿泊施設も準備してあり、当面の生活費と交通費として一定額を前払いし、送迎の車も手配しましたが、地方の労働者はサイゴンに行くことをためらっています」とアンさんは話す。コロナ禍の時代に帰省した元従業員たちを探して話をしたが、多くが「ホーチミン市での生活はもうこりごりです」と勧誘を拒否した。
「労働者不足は、物価高やDX、GXの促進とともにホーチミン市の企業が抱える3つの大きな課題の1つです」とホーチミン市ビジネス協会のグエン・ゴック・ホア氏は話す。市内の製造業は来年に向けた注文を受注するために様々な困難を乗り越えなければならなかったが、受注が回復してきた現在は労働者が不足している。新型コロナの流行時に多くの労働者が地元に帰り、戻っていない。ホーチミン市の流入人口は減少しており、企業の活動に影響が出ている。
ホーチミン市人材需要予測・労働市場情報センターが2000社以上の企業を対象におこなった調査によれば、熟練労働者を必要とせず多くの単純労働者を必要としているのは、縫製、革靴製造、電子部品、貿易サービス、宿泊サービス、飲食サービス、建設などの業種だった。このような企業では、出稼ぎ労働者が全体の60%以上を占めていることも珍しくない。
ホーチミン市労働・傷病兵・社会局のレ・バン・ティン局長は、以前、ホーチミン市は常に出稼ぎ労働者を惹きつける地域に属していたと話す。しかし、近年は出稼ぎ労働者が減少傾向にある。これには多くの理由が考えられるが、最近では各地方にも工業団地や経済区が開発され、多くの企業がホーチミン市と同様に投資して製造活動をおこなっており、労働者が地元で働くという選択肢を持てるようになったことも大きな理由の一つだ。
ティン局長は、ホーチミン市への流入人口減少は、労働集約型の企業が慢性的な人手不足に陥っていることからも明らかだと述べた。企業は、人員不足を補うために残業を増やしたり、製造ラインを改善したり、最新のテクノロジーや設備によって単純作業の自動化を進めている。また多くの企業が活動を維持するために工場を地方に移転させている。
人材紹介サイト”ビエックラム・トット”の調査によれば、2024年1月から8月までの同プラットフォーム上の単純労働者採用需要は昨年同期から30%増加した。しかし、同サイト運営会社のホアン・ティ・ミン・ゴック社長は、企業側の労働需要の増加とは裏腹に、求職者の登録数はあまり伸びていないと指摘する。ビエックラム・トットによれば、求人企業の85%が人材探しに苦労していると回答している。実際、人材不足は製造業だけでなく他の業種にも広がっている。
社会生活研究所のグエン・ドゥック・ロック所長によれば、ホーチミン市に移住する労働者で最も多いのは、単純作業、サービス業、フリーランスで働く人々だ。これらの人々の貢献度はデータ上で明確にされることは少ないが、彼らがいなくなればホーチミン市は機能不全に陥る可能性がある。
例えば、Eコマースの力強い発展は、配達員の貢献に依存している。卸売市場は24時間体制で働いてくれるポーターチームのおかげで夜間も営業することが出来る。細かい路地の多い市内中心部の住宅修理サービスは、個人業者に頼らざるを得ない。多くの労働者を抱える露天商や雑貨店も迅速かつ利便性の高い都市活動のスムーズな運営に貢献している。
「彼らは体の毛細血管のようなものです。彼らがいなければ都市は健全に活動することが出来ません」とロック所長は述べ、出稼ぎ労働者が流出すれば、ホーチミン市の供給力が低下し、市民は都市生活により多くのコストを支払う必要が出てくると指摘した。出稼ぎ労働者がホーチミン市から流出することの影響を想像するには、新型コロナの際に数十万人の地方出身者がホーチミン市を離れ、市内の一連の活動がほぼ停止したことを思い出してみるとよい。
専門家らは出稼ぎ労働者を定住させるためには、ホーチミン市は直面する様々な課題に対して解決策を講じる必要があると指摘する。「現在、ホーチミン市を出ていくのは大部分が単純労働者やフリーランスの労働者に集中しているが、長期的にはこれがあらゆる職種に広がり、新たな人材の流入も減少していくことになるでしょう」とロック所長は話す。
2025年から2030年までのホーチミン市の発展計画によれば、年間平均8.04%の成長率を達成するために、ホーチミン市の労働者供給能力を600~700万人まで増加させる必要がある。現在、ホーチミン市内には約500万人の労働者が存在し、そのうち270万人以上が正社員として企業で働き社会保険を納めている。
一方で”2030年を見据えた2023年から2025年までのホーチミン市の労働雇用と技能開発の戦略的方向性”に関する調査報告書では、2027年以降は雇用需要が供給を上回る可能性があると指摘している。ただ、ホーチミン市が労働力を引き寄せるためには、環境問題、気候変動による洪水、ゴミ、交通渋滞、大気汚染などの問題、周辺の省や都市との競争、激動する国際情勢と人口黄金期の終焉などを解決する必要がある。
ベトナムの地方自治体管理効率指数(PAPI)によれば、2023年の実態調査では別の地域からホーチミン市へ行きたい理由は、仕事のチャンスがある(35.1%)、親族に呼ばれたから(35.4%)が上位だった。一方で、他の多くの指数ではホーチミン市は他の主要都市に大きく後れを取っている。例えば、公共サービスは、ハノイ、ダナン、カントーよりも下で、ライフスタイルもダナン、カントーより劣っており、自然環境はダナン、ラムドン、カントーより下位だった。
ロック所長は、何十年にもわたってホーチミン市は自然な形で出稼ぎ労働者を引き寄せ続けてきた。しかし、現在では他の多くの省や市が労働者を地元に維持しようとしており、新たな工業団地が誕生し、科学技術も発達し、給料も都市部の水準に近づいてきている。新たな状況においてホーチミン市は魅力的な選択、つまり誰がホーチミン市に来たいと望むのか?やホーチミン市は彼らに社会保障、医療、教育などの面で他の地域とは異なるどのようなメリットを提供できるのか?を検討する必要がある。
「人材を惹きつける企業や国に目を向ければ、どうすればよいのかがわかるでしょう」とロック所長は話す。例えば、企業が先進国から優秀な技術者をベトナムに招聘したいなら、正当な対価を支払い、子供の教育や住居を保証し、場合によっては配偶者のケアまでおこなう。ヨーロッパやアメリカは、優秀な人材を集めるために人材が不足している分野の学生に奨学金を支給している。
ホーチミン市は、行政上の境界を超えて近隣地域とのつながりを強化して発展を強化する必要がある。近隣の省や市がホーチミン市発展の原動力やパートナーとなるのだ。ホーチミン市は、革新的な産業、優れた科学技術の拠点として、近隣地域の発展をサポートする。「そうなれば、労働者はホーチミン市にいなくてもホーチミン市の発展に貢献することになるでしょう」とロック所長は述べた。
ベトナム商工会議所(VCCI)ホーチミン市部とIMOによれば、ホーチミン市への出稼ぎ労働者の流入を維持するためには、行政と民間の双方の努力が必要とされる。
具体的には、行政は出稼ぎ労働者の光熱費、低所得者向け住宅、託児所、子供向け学習施設などを支援し、40歳以上の女性労働者の雇用サポートを実施する。企業もインフレを改善し、労働者の福利厚生を充実させる。また民間簡易宿泊施設の所有者は、物件の修理や低価格で入居者へのサービスを充実させるために優遇融資を受けられるようにする。
様々な支援策が期待される中で、ベトナム・サムホのような企業は、不足を補うために依然として労働者の確保に苦労している。地方での採用活動、手当の増額、通勤送迎、住宅の提供など様々な施策と何か月にもわたる努力によっても、ベトナム・サムホ社は依然として数百人の労働者が不足している。来年、同社はホーチミン市に進出した外資系企業の第1世代として創業30周年を迎える。「我々は出来る限りのことをやりましたが、企業努力だけではどうにもなりません」と労働組合長のグエン・タイン・アン氏は述べた。
出典:2024/11/12 VNEXPRESS提供
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