アメリカがベトナムからの輸入品に46%もの相互関税を課すとのニュースは、ベトナム国内の縫製業界に大きな衝撃を与えた。縫製関連の多くの国内企業は、ベトナム政府がアメリカ政府との協力関係に基づいて、相互関税制度が緩和されることを期待している。
専門家によれば縫製業はアメリカにとって主要な産業ではなく、またアメリカが国内回帰を目指す分野でもないとされている。そのため、4月9日の相互関税発動を前に調整が可能なのではないかと縫製業界は期待している。
政府間交渉への前向きな期待
アメリカへの輸出が売り上げの大半を占めているある大手縫製企業の経営者は、今回の相互関税措置の行方をアメリカの取引先企業とともに息をのんで見守っている。この経営者は、もし46%の相互関税がそのまま発動すれば多くの縫製関連企業が困難な状況に陥るとの見方を示す。ベトナムの縫製関連企業の中には、売り上げの80%以上がアメリカ市場向けの輸出という企業も存在しており、今後の相互関税の行方が大きな影響をもたらすと考えられている。
一方で別の縫製関連ベトナム企業の経営者は、今回の出来事は柔軟に対応し効果的な交渉を行うことができれば、ベトナムにとって大きなチャンスになるとの見方を示す。トランプ大統領は何度もベトナムについて言及しており、これは交渉の余地がまだ十分残されていることを示しているとこの経営者は考えている。
そもそも縫製関連産業はアメリカにとって重要な産業ではなく、アメリカ国内に取り戻したい製造業にも当てはまっていない。今回の相互関税措置も、アメリカ国内の縫製業を保護することが目的というよりもベトナムとの貿易赤字を縮小するための政治手手段と考えるほうが妥当だ。
専門家はベトナムは地政学的なメリットがあり、アメリカとも良好な協力関係を構築しているため、両国の交渉が上手くいく可能性は十分にあると指摘する。アメリカが世界各国に相互関税を課したことで以前の特恵関税の枠組みが崩壊しており、もしベトナム政府がアメリカとの交渉を順調に進め、周辺国よりも低い税率適用を勝ち取れば、ベトナムにとって大きなチャンスになると専門家は指摘する。
柔軟に対応し、積極的に取り組む
アメリカ向けの輸出が全体の20%を占めている企業のCEOは、最悪のシナリオにも対応できると自信を見せた。「実際、新型コロナ流行以降、ベトナムの縫製業界は多くの困難に直面し、それを乗り越えてきました。現在も我々は新たな課題に直面し、市場に対応するため変化を続けています」とこのCEOは話す。
業務の効率化と製造プロセスの自動化を進めることで、手作業に依存せずに生産性を向上させることが可能になる。また、中東、シンガポール、ロシア、タイ、アフリカなど新たな市場の開拓にも力を入れている。中国やバングラディシュからの製造移管の流れがベトナムを成長させており、2025年に入ってからもこの流れは続いている。
ホーチミン市縫製・刺繍協会のファン・バン・ビエット副会長は、多くの企業が生産性向上に向けた設備投資を積極的に進めていると述べ、これまでは市場拡大、製品の多様化、GX、DXなどは長期的な戦略目標だったが現在では、喫緊の課題になっていると指摘した。
競争力を高めるための原材料調達
ベトナム縫製協会の統計によれば、アメリカは長年にわたるベトナム繊維製品の主要輸出先市場だ。2025年1月と2月の縫製品の輸出総額は前年同期比14%増の70億USDとなり、その役40%がアメリカ市場向けとなっている。
ベトナム縫製協会は、今回のアメリカの相互関税政策は、アメリカがベトナムを狙い撃ちしているわけではないとして、ベトナム企業が原産地規則を厳守すれば技術的な障壁をクリアし、アメリカで安定した市場を維持できると考えている。
つまり原材料の管理を徹底し、原産地の偽装を厳しく排除できれば、ベトナム製の縫製品のアメリカへの輸出にはそれほど大きな問題は発生しないことになる。ただし、現実問題として多くのベトナム企業は依然として中国からの原材料調達に大きく依存しており、もしこれらの原材料を適切に管理できなければ、関税のリスクはさらに高まる可能性がある。そのため専門家は、企業はサプライチェーンの透明性と追跡能力を強化するための技術投資をおこなう必要があると指摘している。
また、ベトナム政府に対しても現地調達率を向上させるために、国内での裾野産業の育成を支援する政策が求められる。
木材加工業界も戦々恐々
ホーチミン市手工芸協会(HAWA)が約50社の会員企業(FDI企業を含む)を対象に実施した緊急アンケートでは、50%以上の企業が主要な輸出マーケットがアメリカだと回答しており、今回のトランプ大統領の相互関税政策発表によって、厳しい状況に追い込まれつつある。
実際、相互関税政策が発表された直後から注文のキャンセルや延期といった連絡がきており、一部で混乱が生じた。木材加工企業は、人件費や原材料費が上昇している中で製品価格の引き下げ圧力に直面し、利益率が縮小している。輸出の停滞は、在庫の増加を招き、倉庫保管コストや利息の支払い負担が増加し、企業のキャッシュフローに圧力がかかっている。
ベトナムの木材加工業者の一部は労働力を削減したり、操業を停止する必要に迫られており、長期的には高い相互関税によって、タイ、マレーシア、メキシコなどの競合国に市場シェアを奪われる可能性がある。この状況に対応するため、一部の企業は国内市場を開拓するとともに、EU、日本、中東、カナダなどの新たな市場の開拓に取り組みつつある。また、コスト削減やデザインの改善、品質の向上に取り組む企業も増えつつあるが、アメリカ市場に大きく依存している企業も多く、十分に対応できているとは言えない。
ベトナムの木材加工業界は、政府に対してアメリカ政府との外交交渉によって、ベトナム企業が競合国企業との競争において不利とならないように相互関税率を引き下げることを希望しており、少なくとも相互関税の適用開始時期を45~90日程度延長することを求めている。さらに、各企業はベトナム政府が企業が新たな市場を開拓し、他国との競争力を高めるための支援策を迅速に実施することや税制優遇措置を講じることなどを求めている。
※本記事は、各ニュースソースを参考に独自に編集・作成しています。