ホーチミン市が模索する「産業観光」の可能性
ホーチミン市では、工業団地や工場を観光資源として活用する「産業観光」の新たな取り組みが注目されている。鍵となるのは、工業団地と旅行会社との連携である。
専門家や投資家向け観光商品の不足
ホーチミン市のガイドであるグエン・ティ・トゥイ・チャン氏は、約10年の経験の中で、海外からの観光客を工場に案内したのはわずか1度だけだったと語る。ビンズン省の陶磁器企業と旅行会社が連携し、工場見学や展示室体験を組み込んだツアーを実施したことがあったのだ。
また、リアンバン旅行社のトゥ・クイ・タイン社長も、かつて外国人客をハイテク工場へ案内したが、その後工業団地側の協力が得られず継続には至らなかったと述べる。工場や工業団地側にとっては、メリットが薄く、手続きも煩雑で、工場見学ツアーは魅力的な商品になりにくいとされている。
経済・観光開発研究院のズーン・ドゥック・ミン副院長も、現状では専門家や投資家、都市型工業団地で働く労働者を対象とした産業観光商品が乏しいと指摘する。背景には、柔軟な運営メカニズムの欠如があり、需要や消費文化に合致するサービスを提供できていないという。
「観光と産業」の超連携モデルが必要
産業観光とは、既存の工場や展示施設を観光資源とし、体験型プログラムと組み合わせて複合的な観光商品にする仕組みである。しかしホーチミン市では関係者の温度差が大きく、本格的な展開には至っていない。
ベトトラベルのフイン・ファン・フーン・ホアン副会長は、旅行業界だけで産業観光を発展させることは不可能であり、工業団地や都市開発側、そして行政機関が連携して初めて成立すると指摘する。
ミン副院長は、知識労働層が集積する新工業都市の形成に合わせ、観光サービスを再設計すべきだと主張。「迅速に対応しなければ、高い支払能力を持つ需要を逃すことになる」と警鐘を鳴らす。そのためには、観光を単なる付随サービスとせず、産業と観光を「対等な価値連鎖」に統合する必要があると強調した。
工業団地ごとに観光モデルを構築可能
科学技術省によれば、産業観光は工場見学や技術体験を通じて、過去から未来に至る産業のプロセスや知見を紹介する仕組みである。
専門家は、実現のためには「ソフトインフラ」の整備が不可欠だと指摘する。具体的には、情報提供システム、製品選別機能、文化消費を支援するセンター、デジタル技術を活用したスムーズな移動サービス、そして感情に訴える体験要素などが必要とされる。
各工業団地は、それぞれ独自の観光モデルを構築し、産業と観光を結びつける「地域の起点」となり得る。産業観光は、ホーチミン市の未来型都市戦略の一部として重要な役割を担い始めている。
※本記事は、各ニュースソースを参考に独自に編集・作成しています。
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