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ベトナムで活躍する日系企業|
リーダーたちの構想 第08回
Ernst & Youngベトナム

Big 4と呼ばれる国際会計事務所の一角、Ernst & Young(EY)。そのEYベトナムで日系企業を担当するのが公認会計士(日本)の小野瀬貴久氏だ。悩める日系企業の「駆け込み寺」を自負する彼に、ベトナムでの実際を語ってもらう。

事前にできる準備をする

―― EYベトナムのパートナーとはどんな存在ですか?

小野瀬 パートナーは出資金を出し合って会社を作っている人たちで、株主兼取締役のようなものです。EYベトナムには30人ほどいて、日本人がパートナーになったのは私が初めてです。これまでの成果が認められた結果だと感じています。

―― ジャパンデスクは売上もスタッフも増加しているそうですね。

小野瀬 ありがとうございます。日系企業様の売上が増えています。また、スタッフも私の入社時(2011年)はホーチミン市に私だけで、ハノイも日本人が1名でした。それが現在では日本人とベトナム人を含めてホーチミン市に7名、ハノイに6名、カンボジアに1名、ラオスに0名(遠隔)がおり、私はこれらインドシナ地域のジャパンデスク(EYではJapan Business Service)を統括しています。スタッフは今後も増やす予定です。

―― なぜ成長しているのでしょう?

小野瀬 私たち日本人は基本的に日系企業の窓口となって、ベトナム人スタッフと共にお客様の問題を解決していきます。緊急対応を求める方もいらっしゃいますから、言わば駆け込み寺のような存在ですね。こうした仕事では日本人だけではなくベトナム人のナレッジ、経験、関係各所とのリレーションが重要で、これも弊社の強みの一つとなっています。

―― 業務内容を教えてください。

小野瀬 大きく分けて、会計監査、税務アドバイス、M&A、アドバイザリー、会社設立・進出支援です。3~5年に一度ある税務調査を例にしますと、会社レベルでは頻度が少ないので、ベトナム人のチーフアカウンタントでも経験したことがない人やノウハウが少ない人がいます。提出すべき書類を知らないこともあります。

 すると社内に解決策がありませんから、弊社に相談される方もいます。私たちは様々なアドバイスをして、例えば追徴金などのペナルティが課せられそうなら、その金額を減らしたり、なくすように努力します。

 ただ、事前にしておくこともかなり多く、税務調査であれば必ずその時は来るわけですから、事前の準備をしっかりしておくことが重要です。

―― どのようなことでしょうか?

小野瀬 日本人は脱税などの悪いことはしません。だから問題はないと思って、何の準備もしない人、もしくは十分な準備ができていると考えている人が多いのですが、書類の不備などで「引っかかる」ことがあります。ベトナムの税務局は真っ当なことを言っており、むしろ企業側に脇の甘さを感じることもあります。

 準備の一つとしては、サポーティングドキュメントをしっかりと用意しておくこと。支出等の税務関係の内容を証明する書類です。税務調査員は口頭でも説明を求めますが、返答だけでは証拠となりません。そのためにこうした書類が必要となるのです。

 チーフアカウンタントにも経験の差があり、全ての事態に対応できるとは限りません。ですから、予めサポーティングドキュメントの作成を依頼することで、彼らがその仕事に習熟し、スキルアップにもつながります。

―― 会計監査はいかがでしょうか?

小野瀬 私は日本の公認会計士なので、自分のバックグラウンドですし、日本でも会計監査に携わっていました。日本でもベトナムでも会計監査は、法定で実施が義務付けられています。ちょっと話がそれますが(笑)、日本での会計監査は、あまりお客様から「ありがとう」と言われる仕事ではありませんでした。

 ベトナムでは違います。日々お客様に感謝をしていただけます。会計監査だけではないのですが、私には「ありがとう」がとてもうれしく、仕事のやりがいになっています。長期のお客様と数回のお客様を合わせると、現在では数百社の日系企業様とお取引をしています。

活躍できるベトナムの地

―― 最近増えてきた案件はありますか?

小野瀬 M&Aです。日本企業がベトナム企業を買収するケースが多く、ベトナム現地法人というより日本本社からの依頼が多いです。買収先が決まっていることもあれば、買収先を探すことから始める場合もあります。

 業界としては以前は製造業が多かったのですが、現在ではすべての業界と言ってよいほど幅広いですね。ベトナムの市場を取りたい。そのためには現地法人を作って一からというよりも、現地で存在感のある企業を買収する。スピードを求めているのだと思います。M&Aに関する日本の企業の案件数は、東南アジアの中でもべトムがトップクラスだと思います。

 対象企業の調査内容では、税務や財務を調べるデューデリジェンスが多いです。すべての書類を迅速に出さない企業もある一方でM&Aには時間軸もあり、上記のようにスピード感を求めるお客様もいて、限られた期間の中での迅速な対応が求められるケースがほとんどです。

―― 8年いて、ベトナムの税務をどう感じますか?

小野瀬 日本、インドネシア、ベトナム、カンボジア、ラオスを経験して感じるのは、日本はもとよりインドネシアもある意味で先進国なんですね。そのため、財務省や財務局のトップクラスと交流したり、お願いごとはあまりできませんでした。一方、カンボジアは先進国ではありませんが、お偉方へのお願いは難しいのです。

 その点、ベトナムでは活躍できる場が多いです。実際に財務省や税関総局、税務総局のトップクラスの方々と会って、意見を交換し、お願いすることもあります。私はホーチミン市日本商工会議所(JCCH)の金融・税務・通関委員長を務めていますが、EYとしてもJCCHの立場でもこうした機会が多く、充実感があります。

―― その例を教えてくれますか?

 以前は、ベトナム赴任前の期間にも個人所得が課税されていました。日系企業の赴任は4月が多いですが、赴任前の日本にいた1~3月分も課税の対象だったのです。JCCHとして当局にそのことを伝え、理解してもらい、この分の課税はなくなりました。JCCHでは会員企業のため、EYでは個社のために動いています。

 これからもベトナムで奮闘している日系企業を応援したいですし、それが私の幸せにもつながっています。もっと言えば、人生を一緒に走ってくれる妻や息子は元より、近くにいてくださる人たち、友人、同僚、お客様など全ての人たちを幸せにしたいと思っています。

Ernst & Young Vietnam Limited
小野瀬貴久 Takahisa Onose
大学卒業度に会計専門学校に入学。2002年に公認会計士となり、外資系会計事務所に入社。その後海外で働きたいとEY Japanに転職し、2006~2010年にインドネシアに出向。2011年にEY Vietnamに入社し、2016年からパートナー。