ベトナム労働・傷病兵・社会省(労働省)は、労働法に定められている月40時間、年間300時間を超えてはならないという残業時間に関する規定を見直すために、関係団体へのヒアリングをおこなっている。
9月30日にベトナム労働省は、残業時間規定の改定に関する政府への報告書草案が完成しており、今後国会の常任委員会へ提出して検討することを明らかにした。
この草案では、月間の最大残業時間が40時間を超えないという枠を廃止し、特定の業種に偏ることなく全ての業種において年間の最大残業時間を200~300時間以内とする方針だ。
現状の法令では、月間の最大残業時間は40時間、年間の最大残業時間は200時間までと規定されている。雇用者が労働者に残業を依頼する場合は労働者の同意が必要で、残業時間は通常の1日の勤務時間の50%を超えてはならないとされている。つまり一般的な労働時間を適用すると1日の通常労働時間と残業時間のトータルが12時間を超えてはならず、1ヶ月で40時間を超えてはならないことになっている。
現行の労働法では、縫製関連、革靴製造、農林水産業、電力業者、通信事業、石油精製事業、給排水処理、塩業、電気・電子産業など特定の産業でのみ年間の残業時間の枠を300時間に拡大している。
労働省によるとこの規定を長期の感染拡大によって疲弊した企業に厳格に規定することは、経済に重大な悪影響を及ぼす可能性がある。特に農業と水産業は、収穫時期に集中的に作業する必要があるが労働力が不足している。そのため、今回の改定は、生産活動を回復させサプライチェーンの混乱を防ぐことを目的としている。
上記の残業時間に関する規定の調整案は、2024年12月31日まで有効とする見込みだ。これは、企業の回復に必要な期間であり、長期にわたって継続的に残業することによる労働者で負担をかけすぎないことを考慮して設定された期間だ。
この草案についてベトナム水産加工協会(VASEP)は、月間の残業時間の上限を廃止することは、製造活動の柔軟性を向上させるとして賛成の意思を示している。加えて協会の代表は、各企業が深刻な労働力不足に見舞われているとして、業種に関係なく年間の残業時間を300時間から400時間に増加させることを提案している。
VASEPはさらに、残業を実施する際に管轄当局へ報告しなければならないという規定を一時的に廃止し、労働者との合意のみで実施できるように提案している。企業は、残業を法律の規定通りに実施することに責任を負う。現行の法令では、もし企業が年間200時間以上300時間までの残業を実施する場合、企業は、本社と工場が所在する地域の労働局に、残業実施から15日以内に報告する必要があるとされている。
VASEPの分析によると、各省と市が首相指示16号を適用したことによって、約70%の水産加工企業が2か月間の活動停止状態となった。残りの30%の企業も”3つの現場対策”又は、”1ルート通勤”によって細々と生産活動を維持した。各企業は、省をまたいだ移動の制限によって、労働力、原材料、補助資材などの深刻な不足に直面した。これらの要素によって、企業は納期を守ることが難しくなり、サプライチェーンの破壊と顧客の喪失につながっている。
ベトナム労働総同盟は、月間および、年間の残業時間制限の拡大に対して同意しているが、あくまで企業が回復するまでの時限的措置であるべきだと強調している。労働総同盟では、政府当局に対して残業時間拡大法案の期限を、現在の2024年末までではなく、2022年1月1日から2023年12月31日までとすることを提案している。
労働総同盟では、もし月間40時間以内という残業時間の制限を取り払うと、労働者の月間残業時間は、これまでの2.5倍以上となる最大104時間になると試算している。その根拠は、この規定に照らせば企業は、残業時間を合わせた労働時間が12時間を超えない範囲で、労働者に毎日、最大4時間の残業を要求できることになるからだ。COVID-19によって苦境に陥っている一部の労働者は、収入を確保するために、最大限の残業時間を受け入れる可能性がある。しかし、このような状況が長期に渡れば、労働者の安全性や健康に被害を及ぼす可能性があると労働総同盟は危惧している。
労働省では、各産業協会、企業と労働者の代表などからの意見を聴取してから報告書を取りまとめて政府に提出した。
2019年11月20日に国会で可決された改正労働法案においても残業時間の問題は物議をかもし、様々な意見が寄せられた。国会に改正労働法の草案を提出した時、政府からは、特別な場合の年間残業時間数を300時間から400時間に拡大する案が盛り込まれていた。企業の代表者からは、「これは現実に適した人道的な案だ」という声が出た。
しかし、他の多くの団体の代表者はこれに同意せず、残業時間の拡大は”進歩に逆行する”行為だと指摘した。各団体の代表者は、労働者が残業を求めるのは、そもそも現行の給与が最低限の生活を賄うにも満たないからであるとして、「労働者は自発的に残業を望んでいるのでなく、生活のために仕方なく残業しているのだ」と述べた。
2021年1月から8月までの統計によると8万5500社以上の企業が市場から撤退し、その1/3をホーチミン市が占めている。ベトナム南部では約250万人の労働者が仕事を失い、全国の失業者数の70%を占めている。グローバルサプライチェーンに参加している企業の50%が、感染防止対策のためであったり、原材料の調達が困難であることを理由に操業を停止した。南部各省の数万人の労働者が感染を避けて帰省しており、各省で規制が緩和され生産が再開されても労働者が不足する状況が続くとみられている。
出典:30/09/2021 VNEXPRESS
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