今年で設立25周年を迎えるミツビシ・モーターズ・ベトナム(MMV)。昨年8月に販売したエクスパンダーに予約が殺到し、アウトランダーの現地生産も始めるなど新しい動きが多い。堀之内兼一社長が今後の展開を含めて語る。
エクスパンダーが絶好調
―― 7人乗りの小型多目的車(MPV)、エクスパンダーが好調ですね。
堀之内 ありがとうございます。昨年8月から発売を開始したのですが、3ヶ月で約5000台の予約注文が入りました。2017年の販売台数が全車種を合わせて約7000台ですから、かなり大きな数字です。昨年10月、11月は約500台を先行販売し、12月と1月で2000台を販売するつもりです。
インドネシア工場からの輸入販売でして、現在(取材時)は予約注文をこなすのが精一杯の状態。そのため、納車を待っているお客様のために、昨年末より数多くのパーティでお詫びの乾杯を続けています。
―― インドネシア工場はご自身で計画されたとか。
堀之内 2012年に三菱重工業から三菱自動車に移りまして、インドネシアの新工場、新車種立ち上げのプロジェクトリーダーとなりました。そこで生産しているエクスパンダーがベトナムで好評価を得ているので、余計にうれしく感じます。
それまでベトナムでの弊社のシェアは2%ほどでしたが、単月で5%超と伸びてきました。エクスパンダーの人気が理由と思いますが、もうひとつは昨年1月から現地生産を開始した、アウトランダーの販売増もあると思います。これらの効果で、MMVのブランドイメージが上がったと実感しています。
また販売増には、ベトナム人消費者の購買意欲の高まりが大きいですね。
―― どのようなことでしょうか?
堀之内 2015年からベトナムの経済力が上がり、自動車の購買意欲も上昇してきました。三菱自動車もベトナム市場により注力するようになってきました。ただ、2017年は購買力は高まったものの、結果的に年間の販売台数は伸びませんでした。(輸入完成車に車両品質証明書のVTAを義務付ける)政令116の影響があり、消費者が購入を手控えたという事情もあるのでしょう。
2018年は1月から施行された政令116により、完成車の輸入が実質的にストップしました。その後自動車メーカー各社は徐々に輸入を拡大しましたが、上半期は販売台数が増えませんでした。本格的な輸入が始まったのが昨年の7月~8月からです。これに市場が敏感に反応し、溜まっていた購買力に火が付いたのだと思います。エクスパンダーの売行きにも直結したのでしょう。
エクスパンダーは今年1年で1万台を売りたいと思っていますし、アウトランダーは8000台くらいと見ています。エクスパンダーは日本円で約300万円、アウトランダーはもう少し高い価格になりますが、少し裕福な人たちが家族や大人数での移動用に購入しているようです。キャッシュで買う人が半分以上いるんですよ(笑)。
2倍のスピードで進むベトナム
―― 昨年はトレーニングセンターをオープンするなど、意欲的です。
堀之内 弊社社員や販売会社スタッフのためのトレーニング施設で、8月に開設しました。サービスの品質向上が目的で、サービスのトレーニングコース数を17から28に、セールスのトレーニングコースを6から21に増やしました。自動車には触ってみなければわからない部分があり、そうした機会をもっと増やしたいと思います。
また、トレーニングセンターに隣接する部品倉庫も広くして、より多くの部品を保管できるようにしました。今年で設立25周年になりますから、これを機会に設備も工場も新しくしたいと考えています。本社もこのビンズン工場内にあるのですが、こちらもリニューアル、あるいはホーチミン市中心部への移転を考えています。
―― 第2工場を作る計画があるそうですね。
堀之内 第2工場の建設は考えていますが、場所も規模も未定です。ただ、新工場では新しい車種の生産や生産台数の増加を考えています。ベトナム政府は裾野産業の育成や現地調達率の向上を主要命題と考えていますが、第2工場ができて車種や生産台数が増えれば、それだけ現地サプライヤーの育成にもつながると思います。
今時点の現地調達率は決して高くなく、技術力や品質管理を重視すると、サプライヤーはどうしても日系企業が多くなります。ベトナムの裾野産業育成に関しては、各社に薄く広くインセンティブを付けるのではなく、より車種や対象部品を絞った形にしてもいいのかと考えます。そのほうがローカル企業も育つでしょう。
―― ベトナムの自動車産業はどうなると考えますか?
堀之内 今のベトナムは日本の20年前に近いと思います。当時日本では核家族化や単独世帯増加で、個人使用の小型車が売れていました。ベトナムでも核家族化が進みつつありますが、一方で家族や親戚など大人数で移動するニーズも強い。前者なら小型車、後者ならMPVが売れ筋になると思いますが、我々は後者を考えてMPVを選んだわけです。
同時にこれからは、車を所有する喜びを味わう人が増えてくるでしょう。現在は20年前の日本と言いましたが、成長スピードは2倍早いと思いますので、10年後には現在の日本と同じになっているかもしれません。
―― ベトナム独自の自動車メーカーについてはいかがでしょうか。
堀之内 最初は欧州ベースの、それなりの自動車が出てくると思います。様々なメーカーのノウハウが集合されて、ある程度の車になるかもしれません。ただ、その次が課題です。初代をベースに改良を加えたくなるものですが、これを完成させるのが難しい。例えば、剛性を高めると衝突安全性が下がるなどの、トータルエンジニアリングの経験がないからです。
しかしその後は、5年くらいで改良が進む可能性もあります。普通なら10年以上かかるでしょうが、先も言いましたように2倍のスピードで進むと思いますから。
―― 25周年の意気込みを聞かせてください。
堀之内 施設のリニューアル、第2工場の建設、車種や生産台数の増加、現調率アップと、やりたいことは山ほどあります。長期的には基礎的な開発力や生産技術力のために、「日本のモノづくり」を根付かせたいですね。言われたことに従うだけでは伸びませんし、こうした技術力が備われば将来はベトナムで良い車を安く作ることができます。日本の工場に人を送るなどして、まずは人材交流を高めたいと思います。
1月からは新車種であるピックアップトラックのトライトンを輸入販売する予定です。新しい車をどんどんベトナムに紹介し、ベトナム自動車産業の発展に寄与しながら、三菱の存在価値をずっと高めていきたいと思っています。