仕事のプレッシャー、経済的な負担、生活水準の維持、自分の時間を持ちたいなど、様々な理由から子供を生まないという選択をする女性がホーチミン市で増えている。
ホーチミン市タンビン区在住のグエン・ホン・ズエンさん(36歳)は夫と小学5年生の長男から「お母さんに弟か妹を生んでもらいたい」とお願いされるが、これ以上子供を産む気はない。ズエンさんが子供を産みたくないのは、彼女自身の問題や夫婦関係の問題など多く理由がある。
ズエンさん夫婦は長男が大きくなるにつれて子供の生活や教育方針について意見が合わなくなっていった。子供の生活や教育の世話は、殆どズエンさんがおこなっている。ズエンさんは子供を早く自立させたいと考えているが、夫は子供のわがままをすべて聞き入れてしまう。子供を守るために、夫は明らかな子供の間違いにもかかわらずズエンさんを叱ったこともある。父親が過保護なために、子供はますますわがままで、甘えん坊で、怠け者になっていく。
「夫婦の意見が対立して一番被害を受けるのは子供です。夫と私の子育てや教育方針が一致しない限りこれ以上子供を産むつもりはありません」とズエンさんは話す。
彼女が出産を恐れるもう一つの理由は、彼女がかつて産後鬱を患ったことにある。長男が生まれてから1年以上にわたって常に睡眠不足で、子供の病気や泣き声に悩まされ続けた。夫が仕事に行ったあとで子供が熱を出してベッドで激しく泣いていても、ズエンさんは気持ちが動揺してイライラした気分になり、子供をあやしたりミルクを与えることができなかった。ズエンさんは自分がなぜ子供を産もうと思ったのか分からなくなり、「これ以上耐えられない」と思い自殺を考えるようになった。幸いにもズエンさんは自分で自分の抱える問題点に気づき治療を受けたが、子供に危害を加えてしまうのではないかという恐れは今も残ったままだ。
経済的負担も夫婦にとって大きな問題だ。毎月、子供の食費、授業料、家庭教師代などで約1000万VNDが必要で、この金額はズエンさんの給料の大半を占めている。その他の生活費は夫の給料に頼らざるを得ず、貯金は数千万VNDしかない。もし子供を産めば、ズエンさんは、厳しい競争にさらされている今の職場を6か月間も休まなければならなくなる。ズエンさんは仕事を失うこと、子供をうまく育てられないこと、夫に重荷を負わせることのすべてを恐れ、夫婦の対立はますます酷くなる。
レ・タイ・ビンさん夫婦は、どちらも28歳で1か月の収入は二人合わせて4000万VNDある。この夫婦がリプロダクティブ・ヘルスチェックを受けた時に、医者から出産に最も適した年齢は30歳前だと言われた。二人は子供好きではあるが今のところ出産は考えていない。
ビンさんは地方の田舎出身だ。田舎から出てきて都会での高額な生活費を賄える程の成功を収めることは、決して容易なことではなかった。6年間仕事に没頭して、ようやく今の地位と安定した収入を得た。ビンさんは若くて健康な今の時期にキャリアを伸ばすチャンスを失いたくないと考えている。
ビンさんは、子供を出産する前に、まず家を購入する必要があると考えている。現在、郊外で60㎡程度のマンションの購入価格は15億VND程度で、その50%を前払いする必要がある。さらに妊娠から出産には3000~5000万VNDが必要で、その後もミルク代やおむつ代、洋服代に幼稚園の学費、子供が病気になった時の備えなどに毎年数億ドンかかる。また、ビンさん夫妻はお互いの年老いた両親に毎月500万VNDの仕送りをしなければならない。この様な事情からビンさん夫妻は、出産よりも貯金を優先することに決めた。
ビンさんは、子供の成長過程には、親でも予測できない交通事故、誘拐、いじめ、暴力、性的虐待、素行不良、薬物中毒など多くの落とし穴とリスクがあり、自分には子供を守り育てていく十分な自信と能力が無いと考えている。
「子供を産んで育てることには、非常重い責任があります。両親に安定した収入があり精神的に安定していてこそ、子供を立派に育てることができると思っています。」とビンさんは強調する。
産婦人科クリニックで23年間助産婦の仕事をしてきたホアンさんによると、ホアンさんの病院における妊娠中絶患者数は、過去5年間で既婚者が大半を占めるようになった。中絶の主な理由は、望まない形での妊娠、母親が仕事が忙し過ぎる、既に子供がいてこれ以上の子供を望まないなどだ。
「現代の女性は、避妊や中絶方法について徹底的に調べており、昔に比べてはるかに知識が豊富です。妊娠中絶を望む女性に出産するよう説得することは非常に困難なことです」とホアンさんは話す。
ホーチミン市人口・家族計画局のファン・チャン・チュン副局長によると2019年4月時点のホーチミン市の人口は約900万人で、ベトナムで最も人口規模と人口密度が高い都市となっている。しかし、ホーチミン市の出生率は、2000年から下落を続けており、現在では国内で最も低い出生率となっている。
「2019年のホーチミン市の女性一人当たりの出生率は1.39人と非常に低く、2.0〜2.1人という目標を達成するには、まだ長い道のりが残されています。」とチュン副局長は話す。
チュン副局長によると、ホーチミン市は出生率の低下と労働力の減少という2つの人口問題を抱えている。現在の低い出生率を改善するために最も手っ取り早い施策は、夫婦に2人以上の子供を産んでもらう事だ。出生率が上がれば、人口は増加し将来の労働力不足の問題は解決できる。現在のホーチミン市は様々な政策によって地方からの労働力を確保して、何とか労働力不足を補っている格好だ。
チュン副局長は、出生率が低すぎるために、ホーチミン市の少子高齢化問題が予想以上に早く表面化するのではないかと危惧している。この問題が解決できなければ、将来的にホーチミン市は、人材不足、消費減退、貯蓄減少といった問題に直面する。これは、ホーチミン市の継続的な経済発展にとって大きな障壁となるだろう。
出生率を改善するため、ホーチミン市人口・家族計画局は、保健省とホーチミン市人民委員会に対して、2人目以降を出産する夫婦に対して健康保険以外の出産費用の補助と、2人以上の子供を持つ家庭に対する住宅購入補助という2つの対策を提案している。
出典:29/03/2021 VNEXPRESS
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