最低賃金が5%引き上げられた2020年に、1万5000人の従業員を抱えるニャーベー・ガーメント社は、年間の人件費が数千億VNDも増加した経験があり、今回の最低賃金引き上げにも戦々恐々としている。
最低賃金の引き上げを2年間延期した後、最近になって全国賃金評議会は、最低賃金引き上げに関する第1回目の会議をおこなった。具体的な引き上げ額については、まだ明らかにされていないが、今回の会議では、主に最低賃金引き上げの時期を今年の7月からとするか来年1月からとするかが話し合われたようだ。例年、最低賃金の引き上げ額と時期は3回目の会議で決定されるが、双方が合意した場合は2回目の会議で決定されることもある。
ニャーベー・ガーメント社の試算によると、最低賃金が5%増加すると全従業員の基本給の引き上げとそれに伴う社会保険、健康保険、失業保険、労働組合費、残業代の上昇によって、人件費が少なくとも10%は上昇する。
同社のフイン・ティ・ホン・クック会長によると、2020年に地域Ⅰ(ホーチミン市、ハノイ市など)の最低賃金が418万VNDから442万VNDに24万VND引き上げられた際、同社の賃金体系で8段階で最低レベルのレベル1に該当する労働者の基本給が470万VNDから500万VND近くに引き上げられた。
さらに、月間残業支払額が88万5000VNDから93万6000VNDに増加し、社会保険料も一人あたり49万5000VNDから52万4000VNDに増加した。同社の労働者でレベル1に該当するのはわずか2500人だが、工場の年間人件費は115億VNDに増加し、そのうち96億VNDが給与で、17億VNDが社会保険料などであった。
ニャーベー・ガーメント社は、1万5000人以上の従業員を抱えており、基本給は8段階にレベル分けされている。同社の最低レベルの賃金でも最低賃金を上回ってはいる。しかし、政府が最低賃金を引き上げると、企業も一律に給与を引き上げなければならない可能性がある。
「最低賃金引き上げによるプレッシャーがあります。」とクック会長は話す。もし、ルール通りであれば、企業は最低賃金以下のグループの労働者の給与だけを引き上げればよいことになる。しかし、そのようにすると、それより上のレベルの熟練労働者が不満を抱く。
ドンナイ省のバウセオ工業団地に入居するポウスン・ベトナム社のレー・ニャット・チューン労働組合長は、労働者の代表として、最低賃金の引き上げを支持すると述べた。しかし、今年の引き上げ率がいくらであったとしても、工場の経営に圧力を与えることになる。2022年の初めごろから受注は安定し、生産は回復しているが、まだ、昨年のCOVID-19による損失を補填できるほどではない。
ポウスン社では、長年にわたり政府が最低賃金を改定した際に現行の給与係数をアップすることに加え、17段階の給与レベルを全体的に底上げしていた。例えば2020年に地域Ⅰの最低賃金が24万VND上昇した際には、工場の最低レベルの給与にこの金額をプラスし、その他の従業員については、給与係数に基づいて、最大60万VND給与をアップさせた。同社の2万2000人以上の労働者のうち、給与額が最低賃金以下だった人はいないが、それでも全員が昇給した。
さらに、労働者には定期的な昇給制度もある。この2つの昇給による給与額は、基本給として扱われるので、社会保険、残業代、組合活動費、テトボーナスにも影響を与える。現在、ポウスン社では、毎月社員の給与を2000億VND以上、社会保険関連で510億VND以上支払っている。もし、今年最低賃金が7%上昇すれば、毎月の人件費は150億VND増加し、年間では1800億VND増加することになる。
チューン氏は、理論上は、企業は既に最低賃金以上の給与を受け取っている労働者の給与をアップする必要はないが、労働者たちが不満を持つので、実際には、賃金をアップしないということは不可能に近いと指摘する。一方で、企業は長年にわたって、労働者のやる気を高め定着率を挙げるために昇給制度を実施しており、企業側は昇給に対する最善の解決策を常に探している。
労使関係研究センターの調査によると、最低賃金が引き上げられた場合、企業には3つの賃金調整方法がある。1つ目は、最低賃金より低い賃金の労働者の基本給だけを挙げる。しかし、この方法では、賃金レベルの低い労働者とレベルの高い労働者の差が縮小し、長年働いてきた労働者が不公平感を感じる可能性がある。
2つ目の方法は、全ての従業員の基本給を同じ割合でアップする方法だ。時間で給与を計算する企業にとって、この方法は大幅な人件費のアップにつながる。一方で出来高制の給与の場合は、社会保険と組合費にのみ影響が出る。
3つ目の方法は、既に最低賃金を上回る給与を支払っているとして、給与の調整をおこなわないという方法だ。これは、毎年の最低賃金引き上げに対して、企業が受け身にならずに済む最善の方法だと考えられている。
ホーチミン市工業団地管理委員会のグエン・ボー・ミン・トゥ副会長は、政府が最低賃金を引き上げた場合、多くの企業が全員の給与を一律に引き上げるという2番目の方法を選ぶだろうと述べた。そのため、もし最低賃金が5%上がれば、それに応じて企業の給与負担が増加し、社会保険費用、残業代、テトボーナスなども増加する。
ホーチミン市食品協会のチューン・ティエン・ズン副会長は、人件費を確保するために、工場は製品単価を上げる必要があると指摘する。製品価格が上がると消費者物価指数が上昇し、インフレ圧力が高まることになる。企業が、製品価格をすぐに上げられない場合は、労働者の削減を検討するしかない。国会が残業時間枠の引き上げを承認したので、企業は経費削減のためにその制度をフル活用するとみられている。
また別の意見として、メコンデルタ開発研究所のグエン・ビエット・クーン副所長は、最低賃金の引き上げは、企業のコストに対して短期的にしか影響が出ないと指摘する。また、短期的に見ても、最低賃金の引き上げは、基本給の部分にのみ影響を与えるだけで、手当や労働者の総収入にはそれほど影響しない。
クーン副所長によれば、賃金の上昇に対して、企業は労働時間を短縮して人件費を一定に保つ傾向にある。「労働時間が減って給与が変わらないということは、労働生産性が向上したことを意味します。これは、最低賃金の引き上げが経済にもたらす良い影響とも言えます。」とクーン副所長は話す。
さらに、最低賃金の引き上げは、COVID-19によって生活が苦しくなった低賃金労働者にとって特に意味がある。2020年に最低賃金の改定の際に、最低賃金未満の給与で働いている労働者の割合が以前から大幅に増加した。具体的には、最低賃金未満の給与対象者は、2019年には5%だったが、2020年には7.8%となっている。これらの対象者は、最低限の生活水準を維持するのに必要な収入すらない。
クーン副所長は、政府は、融資支援、減税措置などの多くの企業支援策を実施しており、低賃金で働いている労働者を救済するために最低賃金の引き上げを早急に実施する必要があると述べた。
出典:07/04/2022 VNEXPRESS
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