今年6月にベトナム商工省が公表した「ベトナム裾野産業データベース」。地場や外資系の製造業が約3500社登録されたWebサイトだ。ACCESS編集部ではこのDBを使って検索し、ベトナムのサプライヤー2社を訪ねてきた。
製造業の底上げとなるか
ベトナム裾野産業データベースへは以下からアクセスできる。
前号の特集記事『How To 現地調達 ベトナム製造業を活用!』で紹介したこのサイトは、ベトナム商工省が世界銀行グループの国際金融公社(IFC)と協力して制作したものだ。
その目的は裾野産業と製造業の底上げであり、ベトナム企業に加えて日系を含めた外資系企業も数多く登録されている。9月上旬現在で約3500社の企業情報を持ち、英語版があるので簡単に検索や閲覧ができる。
前号でも紹介したが、ベトナムにおける日系企業の現地調達率は36.3%と低く、特にベトナム企業からの調達率は全体の13.6%だ(JETRO調査 2019年)。そのため、日系企業は優秀で頼りになる地場製造業を探しており、このデータベースが一助になると期待される。
そこでACCESS編集部では実際にこのWebサイトから企業を検索し、製造現場を訪ねて、トップから話を聞いた。技術力が向上しているベトナム企業が増えていると聞くが、実際はどうのだろうか。
条件設定で企業を絞込み
トップページにアクセスし、言語を英語に切り替えたら、下へとスクロールしていく。「総企業数」、「総工業製品数」、「総完成品数」の数字があり、データベース全体の目安となる。
その下にニュース記事があり、次に 「機械エンジニアリング」、「自動車」、 「繊維・縫製」、「皮革・履物」、「電子」など7つのカテゴリーが見える。それぞれ、例えば「機械エンジニアリング」をクリックすると、「プレス加工」、「金型製作」、「機械加工」などの細かな分野が表れ、登録された企業数がわかる。これらをクリックすると企業の社名、住所、HPアドレスが一覧表示される。
社名をクリックすると詳細情報が表示。設立年、従業員数、業種、資本金などの一般情報から、主な取引先、輸出国、製品、技術要素などがあり、概要を知るには十分だろう。気になる企業があったら深掘りしていけば良い。
他にも機能はあるが、これが大まかなサイトの構造だ。ただ、企業の検索ならカテゴリーの下にある「SEARCH FOR ENTERPRISES」を使うのが便利。サイト全体から個社を絞り込む方法であり、ACCESS編集部でもこのように取材先を見つけた。
私たちは条件として、「ENTER KEYWORDS」に「JAPAN」と入力した。日系企業との取引経験や日本語が通じることを期待してのことだ。幅広く見たいので「SECTOR」は指定せず、「PROVINCE」は「Ho Chi Minh」、「Dong Nai」、「Binh Duong」、「Long An」を選択した。弊社がホーチミン市にあるためだ。
右下の「+」をクリックすると、より細かな設定ができる。ここでは「NUMBER OF EMPLOYEES」のみを条件として、従業員数を選んだ。企業規模の異なる2社を取材しようと思ったからだ。
従業員数を「1000人以上」にして検索すると、社名、住所、HPアドレスの3つのセットで、29社が表示された。社名を見ていくと「GARMENT」が多く、大規模な縫製業だろうと見当がつく。日系企業らしき名前も見つかるが、今回はベトナム企業を探した。
HPのアドレスが載っていない企業もある。検索エンジンを使っても本当になかったりする(笑)。また、クリックしてもHPがNot Foundの場合もあった。今回は「ポテンシャル顧客へのアピール」に積極的な企業にしたいので、HPの表示された企業を取材候補とした。
大手のゴム部品サプライヤー
すると意外に候補が少なくなり、最終的にゴム製品を製造するTHONG NHAT RUBBER(RUTHIMEX)社に取材依頼をした。HPにはしっかりとした英語版があり、製品の用途は建設、自動車、電子機器、水回りなどと幅広く、沿革を読んでM&Aを繰り返してきたことに興味を持ったからだ。
THONG NHAT RUBBER CO., LTD.
取材先はホーチミン市中心部から車で1時間程度のクチの工場。クチに2工場と事務所があり、訪ねたのは約6万㎡の敷地にあるメインの工場だ、従業員は全社でワーカーが約900人、事務職は約70人という。
広々とした敷地内には大きな建屋が並び、工場を案内してもらうと余裕のある配置で設備や機械が設置され、多くの人が働いていた。Vice General DirectorのMr. Nguyen Duc Hongは語る。
「商工局の管理下にある企業です。そのため、ベトナム裾野産業データベースに登録しました。輸出が中心で95%あり、ベトナム国内向けが5%。世界中に150社のお客様がおり、そのうちの約10%が日本・日系企業です」
1978年設立の老舗企業。輸出先は世界40ヶ国ほどで、その70%はアメリカ、オーストラリア、ニュージーランドなど。自動車、電気機器、農業機器などで使う、約1500種類のゴム製品を作っている。
日本企業は日本の商社や公的機関、ベトナム商工局などのルートで開拓しており、車載用部品、FMCG製品の容器用部品、歯科用椅子のゴム製品など、100種類ほどを輸出しているそうだ。顧客からの図面を元に作ることもあれば、各種のISO認証を取得した技術力での自社設計もある。
「研究室に35人、技術部に30人のスタッフがいます。多くのベトナム企業は金型を外注していますが、弊社では自作もします。ISOと共にお客様から信頼される理由でしょう」
現在、多くの日本企業が中国からベトナムに工場を移し始めており、タイ、マレーシア、インドネシアからも同様だという。タイならミャンマー人、マレーシアならインド人、スリランカ人、バングラデシュ人などが働き手となっており、ベトナムではベトナム人が労働者であることも強みだと語る。
日本企業の見学もあるが、見学から注文までに数年かかることも。また、来社前に製造工程や品質管理がびっしりと並んだ、150の質問票を送られたこともあった。このように条件は厳しいものの、パートナー企業となった時には誇りに感じたという。
「日系企業からの注文は大歓迎。まずは希望を聞かせてほしいですし、特に知りたいのは数量です。企業規模や業種はまったく気にせず、納入先が完成品メーカーでなく、サプライヤーや商社であっても問題ありません」
中小企業のスプリングメーカー
もう1社は従業員数を「100人以下」としてWebサイトから検索。77社が見つかった。1社目がゴム製品のサプライヤーだったため、違う分野の企業を探していく。幅広い業界で使われている部品メーカーが良いと、スプリングメーカーのTHANH PHAT SPRINGを選んだ。
HPはシンプルだが見やすく、英語版と中国語版もある。商品のスプリングは写真付きで載っていて、かなりの種類がありそうだ。
THANH PHAT SPRING CO., LTD.
場所はホーチミン市中心部から車で40分程度のビンチャン区。最後はヘムの中を迷うようにして到着した。日本では東京都大田区や大阪府東大阪市に見られるような町工場で、1階が工場で2階が事務所。まだ若いDirectorのMr. Nguyen Thanh Nghiaが対応してくれた。
「特別なものではなく、一般的なスプリングを製造しています。用途は自動車用や機械用、ペン内のスプリングや、ヘアバンドを動かすバネまで、用途もサイズも様々です」
顧客はベトナム企業がおよそ40%、日系が20%、韓国系が10%、残りはアメリカやオーストラリアなどの欧米系で、顧客の総数は言えないとのこと。ベトナム裾野産業データベースに登録したのは商工省のメンバーだからで、掲載すると外資系企業から問合せがあったそうだ。特にアメリカ系と韓国系のメーカーとは契約まで進んだという。
「従業員はオフィスが3人、工場は15人。マシンはCNC旋盤などが30台あります」
アメリカや韓国などの外資系企業は95%の完成度を求めるが、日系企業は100%。技術力があるのは確実にわかるという。ただ、他の企業からは図面とサンプルをもらうが、日系企業は図面だけで、守秘義務なのかサンプルを渡してもらえないことが多いという。
また、サンプルを作るときは企業から料金が支払われるが、日系企業は違うという。日本スタイルなのかもしれないが、イメージダウンにつながらないかと心配になった。
「長いスパンで付き合えて、共に成長できる企業と一緒に仕事をしたいですね。金額と数量が折り合えば問題ありません」
あまりアップデートがされていないようなのが、ベトナム裾野産業データベースの残念な点だが、他の製造業リストや会社情報と比べても使い勝手が良いと感じた。登録社数の増加を期待したい。