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特集記事Vol160
カーボンニュートラル2050
ベトナムと企業が動き出す

2050年までのカーボンニュートラルを表明しているベトナム。今年5月にはPDP8(第8次国家電力基本計画)が承認され、これからいよいよ温室効果ガス削減に向けて本格的に動き出す。日系企業の取組みと共に情報を先取りしていこう。

2015年のパリ協定が転換点
気温上昇を1.5℃に抑える

 2021年にイギリスのグラスゴーで開催されたCOP26(第26回国連気候変動枠組条約締約国会議)において、ベトナムのファム・ミン・チン首相が、2050年までの温室効果ガス排出量実質ゼロ(カーボンニュートラル)を目指すと発表した。

 前後して先進国のみならず多くの新興国や途上国がカーボンニュートラル目標を宣言し、2021年11月時点で表明国は150ヶ国以上となった。地球温暖化対策への世界的な潮流はなぜ起こったのか。発端は2015年にフランスのパリで開催されたCOP21で採択されたパリ協定にあるという。

「前身である京都議定書では先進国のみが削減義務を課せられましたが、このパリ協定では途上国を含む約200ヶ国すべての締結国が削減目標を掲げることが求められます。大きな転換点となったのです」

 産業革命以前に比べて世界全体の平均気温は既に約1℃上昇しており、今後1.5℃と2℃上昇した際の悪影響には明確な差があると、IPCC(気候変動に関する政府間パネル)が2018年に取りまとめた。

 そして、「1.5℃未満」に抑えるためには、世界のCO2排出量を2050年頃までに実質ゼロとする必要が確認され、「カーボンニュートラル2050」(国によっては2060や2070を表明)への努力が世界共通目標となったのだ。

 この動きは民間企業の取組みも加速させた。企業が気候変動対策を経営上の課題として取り組む「脱炭素経営」という言葉が使われ始め、気候変動への対応を含むESG(環境・社会・ガバナンス)要素を投資判断に加えることが一般的となっていく。気候変動のビジネスに与える影響が大きいからだ。

 日本でも2022年4月、東証市場再編後のプライム市場上場企業に対し、気候変動によるリスクへの対応情報の開示が実質的に義務付けられた。

「気候変動の影響に適切に対応していなければ、財務への影響も懸念されます。脱炭素はもはやCSRではなく、企業経営にも大きな影響力を与えつつあります」

あなたの会社は大丈夫?
排出量算定報告が義務化

 ベトナムは石炭火力発電も多く、さらに経済成長を背景にGHG(温室効果ガス)排出量が急増し、2021年にはASEANでインドネシアに次いで2番目の排出国となった。そして上記のCOP26ではカーボンニュートラル宣言に加え、石炭火力発電所の段階的な廃止も表明している。

 そのため、2021~2030年の国の電力マスタープランであるPDP8は改定を重ねることとなり、今年5月に約2年ぶりに承認された。その内容は再エネ発電に大きく舵を切るものとなった。

 ベトナムが同時に進めていたのが環境保護法の改正だ。新たな環境保護法は2022年1月から施行されており、「GHG排出削減量の測定、報告、検証」や「一定規模以上のGHG排出事業所に排出量の算定報告の義務化」が規定された。

 また、改正環境保護法の細則を定める「GHG排出量軽減とオゾン保護に関する政令」(政令6号)では、事業所レベルのGHG排出量の算定報告や国内炭素市場の設立について規定され、2022年1月発行された首相決定第1号では義務対象となる事業所リストを公表した。日系企業も含まれている。

「対象は発電所、製造業の工場、貨物輸送会社、商業ビル、廃棄物処理場等で、条件に当てはまる1912事業所が、GHG排出量算定報告の義務対象としてリストされています」(表参照)

 政令6号によれば、義務対象企業は今後2024年1年分のGHG排出量の算定結果を2025年3月31日までに各省人民委員会に提出。その後は2年ごとの提出となる。

「ベトナムの法律や通達はベトナム語で記載されていることもあり、義務対象であることを気づいていない日系企業も多いようです」

 特に製造業の工場は、ベトナムの省エネ法によってエネルギーレポートの提出対象となっている事業所と同じ基準で選定されている。GHG排出量の算定方法を示すガイダンスは今後各省庁から発出される予定だが、エネルギー起源のGHG排出については、多くの企業はエネルギーレポートで報告している内容と共通する。まずは、首相決定第1号を確認してはいかがだろうか。

投資も必要となる排出削減
2028年には国内炭素市場

 その後はGHG排出削減計画の報告となる。2026~2030年末までの事業所のGHG排出削減ための計画を作成して、2025年12月31日までに各省の人民委員会に提出する。必要に応じた変更は毎年できるが、新たな投資も必要になるだろう。

「排出量の削減には屋根置き型太陽光発電、LED照明、高効率空調などの導入や回収排熱の再利用、バイオマス発電、製造プロセスの効率化など、省エネと再エネを組み合わせて取り組まれる企業さんが多いです」

 3番目はGHG排出削減結果の報告で、上記の計画に基づいて実施した結果を前年度の年次ベースで作成し、2027年3月31日までに各省の人民委員会に送付する。以降は毎年の報告となる。

 こうした「GHG排出削減量の測定、報告、検証」はMRV(Measurement, Reporting and Verification)と呼ばれる一般的なプロセスで、先進国だけでなく東南アジアを含む世界中で広がっている。

 ベトナムの動きに対してJICAでは、GHG排出量や削減量の算定方法等の研修を開催しており、石井氏も講師を務めている。セメント、廃棄物、食品・飲料が既に実地済みで各百人単位が参加、7月に紙・パルプ、10月に繊維・縫製が予定されている(取材時)。

「投資家や取引先、消費者などステークホルダーからの企業の地球温暖化対策に対する関心は、ますます高まっています。特にグローバルサプライチェーンを担う企業が多いベトナムでは、既にGHG排出量の開示や削減行動を取引先からも求められている場合も多いです」

 今回の政令6号への対応に関わらず、GHG排出量の把握と削減行動は、特にグローバル企業とのビジネスでは必須の要件となってきているのだ。

 そしてベトナムは今後、2025~2027年末を試験運用期間として、2028年には国内炭素市場の本格導入を予定している。

「ベトナムが2028年に炭素市場を作るのはとてもアグレッシブな計画と言えます。2050年まで残された時間が少ない中、脱酸素への真剣度が伝わります」

調査から発電まで一気通貫
大手電気工事会社と協業

 ラオスと接する北中部のクアンチ省。約10㎞四方の中で3工区に分かれ、1工区に12台、3工区合計で36台の風車が山間部に建てられている。2021年10月に商業運転を開始した陸上風力発電所で、発電容量は風車1台で4MW、1工区で48MW、3工区合計で144MWとなる。

 送電線や変電所を建設・設置する地場大手の電気設備工事会社PC1 Group JSC (PC1グループ)と、太陽光、風力、バイオマス、地熱、水力など複数の再生可能エネルギー(再エネ)発電事業を手掛ける日本のレノバとの合同プロジェクトだ。出資比率はPC1グループが60%、レノバが40%。

 レノバは2018年からベトナムで太陽光や風力の事業調査を始め、その過程でPC1グループと接点ができた。PC1グループは風力発電事業への参入を当時模索しており、パートナー企業を探していた。

「クアンチ省を紹介されて現地調査をしました。有望地であり、工事も可能とわかって、パートナシップを組んだのです」

 レノバは再エネ発電事業の調査、計画から発電までの事業を一気通貫で行い、現在は日本で26ヶ所、海外はベトナムとフィリピンの合計2ヶ所を運営、あるいは建設・開発している。

 同社の事業の流れを簡単に説明すると、まず「事業性評価」。有望地域を探して太陽光発電なら日照データ、風力発電なら風況調査などの基礎的な情報を収集し、事業の実現性と採算性を検討する。発電した電力を送る送電網や変電所までの距離、送電可能な容量、設置場所の地形や地質などを調べた上で現地視察などを通じて行う。

 その後は地域住民への説明や、発電施設を建設するパートナー企業の選定をプロジェクト単位で行っていく。同時に、電力会社と送電線や電力売買に関する協議を行い、FIT(固定価格買取制度)認定取得、その他の許認可や設備認定を取得する。

 ベトナムであれば商工省(MOIT)に発電事業が承認されると、ベトナム電力総公社(EVN)と交渉することになる。

 また、銀行融資などの資金調達もプロジェクト単位で個々のケースに合わせて行う。クアンチ省の風力発電所の場合はアジア開発銀行(ADB)を中心に、国際協力機構(JICA)や民間銀行などと融資契約を締結した。発電事業は売電契約が20年前後と長期にわたるため、融資期間もそれに合わせた期間となる。

「ここまでを開発期間と呼んでおり、およそ2~3年、長くて5年や10年になります。その後の設備輸送、土木工事、電気工事、試運転などの工事期間は、太陽光でおよそ1~2年、陸上風力で2~3年、バイオマスで3~4年ぐらいです」

 運転開始の後は運転状態の監視や設備の保守点検を行う。クアンチ風力発電所は運転開始以来順調に操業を続けている。

自然エネルギー資源の宝庫
特に有望地が多い風力発電

 今回のプロジェクトでのレノバの役割は、主に技術面と資金調達面だ。技術面では風車の品質や価格の評価、風車の建て方や並べ方、方角や間隔などの設定を同社のエンジニアが主導した。資金調達面では全体的なアドバイスのほか、ADBとの交渉やJICAへの支援の要請も行った。

 2019年にレノバはホーチミン市に駐在員事務所を設立し、2020年にRenova Vietnamとして現地法人化した。既にEVNとの協議や説明は済んでいたため、2020年5月から一部を着工。風車はデンマークの大手メーカーVestasから輸入し、工事はPC1グループが担当した。約18ヶ月で完工して、ベトナム政府からFITの認定を受けた。

 風車のタワー(支柱)の高さは105m、ブレード(羽根)の長さは75mで、地上にあるコンテナや事務所と比較するとその巨大さが良くわかる。ブレードの背面にあるナセル内に発電機があり、電力は地下のケーブルへ送られ、その先は送電線につながる。

 レノバは熊本県の天草郡苓北町など、複数の風力発電事業の開発を日本国内で推進しているが、商業運転を始めたのはクアンチ省が初めてだ。運転開始からトラブルはほぼなく、順調に発電を続けている。

 風力発電は風車の購入や設備工事などで初期投資が嵩むが、一般的に7~10年で投資分を回収できるという。出資比率に応じた売電利益が主な収益となる。

 ベトナムの豊富な自然エネルギー資源と経済発展を見据え、レノバはベトナムでの再エネ発電事業を今後も拡大していく。様々な発電方法を検討しているが、現時点では風力発電が最も有望ととらえている。

「ベトナムは風が強く吹く地域が多く、地形も気候も風力発電に向いています。北中部だけでなくニントゥアン省、ビントゥアン省、ダクラク省など有望地が多く、工事にも適しています」

 太陽光も事業調査をしているが、参入障壁が低いために競合が多く、自社の強みを活かすのがやや難しいという。また、地熱資源はベトナムの場合には限られ、バイオマスや水力は大規模発電参画への障壁がやや高いそうだ。

海外5拠点で新規事業推進
ベトナムは海外最大拠点

 今年発表されたPDP8を読んで斉木氏は、ベトナムは2025年、2030年までの発電計画で陸上風力に注力していると感じたという。上記のように豊富な自然エネルギー資源があり、経済成長と人口増で電力の需要増が見込まれ、FITやカーボンニュートラル政策など政府の支援も積極的であるため、事業拡大のポテンシャルは高いと見る。

 現在、レノバはベトナム、フィリピン、インドネシア、韓国、シンガポールの5ヶ国に海外拠点を持つ。11人のスタッフがいるRenova Vietnamは日本に次ぐ海外最大の拠点で、クアンチ風力発電所のメンテナンスやトラブル対応のほか、ホーチミン市では風車の稼働や発電量などのモニタリング、複数の新規案件の事業開発を担当している。

「弊社には日本とアジアで合計28ヶ所のマルチな再エネ発電事業の知見があり、国内外に50人以上の経験豊富なエンジニアを擁しています。このような強みを最大限に活かし、早くベトナムで第2、第3のプロジェクトを始めたいと考えています」

製紙工場へガスタービン
排熱ボイラで蒸気も作る

 バリアブンタウ省のフーミー3特別工業団地にあるKraft of Asia Paperboard & Packaging (KOA)。丸紅が100%出資するこの段ボール原紙製造会社で2020年8月、天然ガスを燃料とするコージェネレーションシステム(CGS)がベトナムで初めて稼働した。

 CGSとは、1次エネルギー(燃料)を使用してガスタービンを駆動し、複数の2次エネルギー(電気や蒸気)を連続的に作り出すシステムのこと。

 ここでは天然ガスの燃焼でタービンを駆動して、パワーの約3割で電気を作る。その際に出る高温の排気ガスを利用し、残りの約7割で排熱ボイラで蒸気を作る。製紙の生産工程で大量の紙の乾燥が必要となるため、ここで蒸気を使用している。

 工場建設においてCGSの検討が始まったのが2013年。当時も今もベトナムの製紙工場では石炭ボイラでの発電が一般的だが、KOAはCO2削減を重視してCGSを選んだ。なぜなら、天然ガスは石炭に比べて燃焼時のCO2排出量が圧倒的に少なく、発電だけでなく排熱による蒸気を大量に作り出せるからだ。

 その結果、KOAのCO2排出量は石炭火力発電と比較して約40%も削減。このシステムのカギとなるガスタービン、および排熱ボイラを納入したのが川崎重工業だ。

「当初のヒアリングで使用する電力や蒸気の量を計算できたため、工場に必要なエネルギーはほぼすべてCGSで賄っています。製紙工場なら必要な電力と蒸気のバランスに合わせて供給できるのが特徴です」

 使われているガスタービンは発電出力6.7MWの「GPB80D」が2台で、合計で13.4MWの発電が可能。GPB80DはGPBシリーズの中規模クラスで、最も人気のある製品という。排熱ボイラもそれぞれ2台あり、蒸気は1時間当たり合計70~80t供給できる。

 ベトナムでは主にガスタービンを担当する川崎重工業、グループ会社で排熱ボイラを担当する川重冷熱工業、商社として動くKAWASAKI TRADING、輸入や輸送などロジスティクスを請け負う“K” LINE LOGISTICS (VIETNAM)の4社が、「チーム・カワサキ」として活動している。

ランニングコストが低減
安全性や建屋サイズも魅力

 川崎重工業は民間工場用の発電施設を得意とし、特に製紙工場のような蒸気を使う製造業向けが多い。日本国内ではタイヤ、ゴム、化学品、食品、飲料などのメーカーが主な顧客で、東南アジアにも約90台のガスタービンを納入している。

「2013年にご相談を受けてから基本設計をし、ご契約が2018年。そこから詳細設計に入って、オーダーメイドでガスタービンと排熱ボイラを完成させるまで各1年程度。2020年に稼働しました」

 CGSはベトナムでも注目され始め、カーボンニュートラルのためだけでなく企業ブランドを高めようとCO2削減に取り組む企業も増えてきた。同社にも欧米系企業を中心に問合せが増えているが、石炭ボイラに比べた設備のコスト高などから躊躇する企業も多いという。

 実際、CO2削減だけを目的に巨額の投資を決断するのは難しい。ただ、発電と蒸気の両方を作り出せること、総合的なエネルギー効率の高さなどから、ランニングコストが抑えられることがCGSの特徴だ。早い段階での初期投資の回収がCGS導入の説得力となっている。

「お客様へのヒアリングの段階で、『初期投資の回収まで5年程度となるよう提案してほしい』と言われることが多いです」

 製紙工場は年間を通してフル稼働させることが多く、CGSは設備の安全性や簡単な運転操作もメリットとなる。また、ガスタービンや排熱ボイラが比較的小型なので発電システムをコンパクトに設計できる。石炭ボイラは大型で、石炭の貯蔵場所や廃棄した灰の処理場も必要となるが、KOAの場合でCGSの面積はおよそ26m×15mだ。

 鳥居氏は2013~2019年にマレーシアに駐在しており、東南アジア市場向けにガスタービンCGSに関する技術提案、販売、マーケティングを担当していた。KOAのプロジェクトを含めたベトナム市場へは出張ベースで参加していた。

 マレーシアでは2012年よりカタールからの液化天然ガス(LNG)輸入が始まり、天然ガスの使用が拡大。天然ガスを使ったガスタービン発電がローカル企業で増えていると語る。

 ベトナムでもバリアブンタウ省に建設したLNG貯蔵ターミナルで、7月からLNGの輸入がスタートした。

「ベトナムでも天然ガスによるガスタービン発電は増えそうですが、ベトナム企業まで広がるかは不明です。ただ、初期費用を第三者に負担してもらうなどの仕組みもあります。ソフト面での提案も必要と考えて、パートナー企業を探す予定です」

神戸市でも実証実験中
将来は水素ガスタービンへ

 ベトナムのカーボンニュートラル政策について鳥居氏は、「しっかりと枠組を決めて、ロジカルに進めている」と見ている。近隣諸国では先行しているマレーシアと似ているという。2050年に向けてさらに加速度が付くとして、長期的には水素ガスを燃焼させるガスタービンを提案したいと考えている。

 川崎重工業ではCO2排出量ゼロの水素を使ったガスタービンも製造しており、水素と天然ガスの混焼、水素100%で利用可能な燃焼システムも完成させた。兵庫県神戸市のポートアイランドでは実証実験の最中で、ベルギーやドイツでも展開している。

「ビジネスとして動き始めるのは2025~2030年になると思います。化学プラントなどで発生する副生水素を再利用したいという企業もあり、将来は『水素活用』がキーワードになると思います」