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ベトナムで活躍する日系企業|
リーダーたちの構想 第37回
ベトナムワコール

ベトナムワコールは1997年に進出。その工場はグループ最大の基幹工場へと成長した。新型コロナ対策では徹底した感染防止とデジタル化を進め、将来に向けて自立型人材の育成を図る、片山雅敏社長に取材した。

F1の発見から一気に転換

―― 世界にあるワコールの生産拠点の中で、ベトナムが最大規模だそうですね。

片山 そうです。ワコールのベトナム進出は1997年と早く、従業員200人から始まりました。最初の10年を品質の確保に試行錯誤した創業期とすれば、次の10年は量的な拡大期。世界的にも中国のコスト上昇からASEANに工場をシフトした時代であり、弊社の生産量も増えていきました。
 当時は、創業メンバーの活躍が本当に原動力になったと思います。現在は2工場を合わせ約2500人がおり、部課長クラス17人のうち9人が創業メンバーです。勤続10年以上のマネジャーや現場リーダーも多く、勤続20年以上の従業員は全体の7%です。彼女たちが日本本社からの信頼と、愛される企業文化を創ってくれたと感謝しています。
 現在、製造品の輸出先は約9割が日本、他はヨーロッパ、台湾、韓国などです。生産しているのはブラジャーとショーツが多く、他にはランジェリー、スポーツウェアも一部あります。総生産数は1年間で約1千万枚、日本の百貨店、量販店向け商品の約2~3割を占めています。

ベトナムワコール工場内の作業風景

―― 下着の生産は手作業の縫製が多く、労働集約型と聞きました。

片山 サイズが多く、生産工程数も多い、非効率なビジネスモデルです(笑)。
 ブラジャーで説明しますと、色が3色、カップサイズがB、C、D、Eの4サイズ、アンダーバストが65、70、75の3種類とすれば、3×4×3で36SKU(在庫管理の最小単位)になります。また、パーツ数は40ほどで、完成までの工程は40~50あります。
 1つのラインで約20人が働いているので、1人の担当は2工程ほど。ただ、品番やサイズが変わると別の工程にもなり、材料の種類によって伸度なども異なるため縫い方も変わります。自動化が難しいのです。加えて品質管理に厳しいので、縫製で1人前になるには1年はかかるでしょう。

ベトナムワコールの製品

―― 新型コロナ対策はかなり厳格にされているとか。

片山 昨年8月の第2波の時に、工場の従業員にF1(感染者の接触者)が見つかり、それ以降大きく仕組みや体制を変えました。第一に従業員の安心のため、また、操業停止になれば日本市場への影響も大きいからです。
 5Kの中でもマスクと手洗いを徹底しました。マスクは全従業員にすべて会社支給とし、絶対に着用。手洗いは現場のリーダーが1時間に1回、消毒液のボトルを持ってスタッフ全員を回ります。
 また、2工場の操業エリアを計4つに分けました。壁を立て、人の行き来を遮断しました。どこかのエリアで問題が起きても、従業員は安心でき、他のエリアで操業を補えるからです。
 幹部クラスも4ヶ所に分かれて、原則的に他のエリアには行けませんし、行く必要もありません。なぜなら、情報はオンラインで共有し、トラブルは動画やビデオで即確認、Webミーティングを常時使用しているからです。
 マネジャークラスはパソコンを使い、現場にはタブレットを200台ほど渡しました。今後のコミュニケーションはすべてオンライン、マニュアルも紙から動画へ変えると伝え、変更していきました。今では通常業務になり、日本とも同時にやり取りしています。必然的にデジタル化が進められました。
 動画などを使うことによって、メンバーも理解しやすく、判断も速くなりました。例えば、以前は物の写真を撮影してメールで送信し、何度もやり取りをしていたのが、今ではビデオカメラをつないで全員が動画で確認するなどです。オンラインはリーダークラス以上が対象ですが、今後は全従業員に広めて、勤怠やトレーニングにもつなげたいです。

同じ環境で10年後に売上2倍

―― 先ほどは創業期、拡大期と続きましたが、現在は?

片山 改革期だと思っています。赴任前から数回出張でベトナムに来ていて、この拠点の課題を考えたとき、内的な課題として幹部メンバーの自立型人材への育成を感じていました。赴任してからも一番注力していることで、3年計画で進めました。
 トレーニング方法は部課長クラスと現場のリーダークラスで異なります。前者はマインドセットとエンゲージメントで、将来を考えた時の変革のベースになります。ただ、私からの指示は、「10年後に今と同じ人数で、アウトプットを2倍にしよう」だけでした。
 10年で人件費が2倍以上になると想定して、それを克服するための環境をどう作るか、どんなふうに仕事がしたいか、どんな会社になっていたいか、そのために何をすれば良いのか、10年後の夢を皆で考えてもらいました。今年で3年目ですが、既に出来上がり、ある程度のスケジュールも決まって、今は実現方法を議論しています。一歩前進です。
 一方、現場のリーダーは士気管理が大切です。一般的に生産現場でトラブルが発生するととかく原因追及や、機械の故障の課題解決に向かいますが、人の問題には当てはまりません。自分たちがなりたい理想と実現可能な第一歩に焦点を当てた、解決志向型のトレーングを徹底しています。コミュニケーション方法を変え、現場のメンバーに気持ち良く仕事をしてもらうことで、業績アップにつなげていきたいです。
 こちらは2ヶ月に1回、日本から講師を呼んでいましたが、今はオンラインに移行しました。講義の内容を皆で考えて実践し、その中で課題を見つけ、徐々にアップデートさせていく。この繰り返しです。

ベトナムワコールの社員

―― 今後の計画を教えてください。

片山 良い会社には良い先輩やトレーナーがたくさんがいて、きちんと教えてくれます。外部講師に頼るだけでなく、自前で人を育てる仕組みを作ります。それができれば本当に強い会社になると思うからです。
 そして、工場をスマートファクトリー化すること。かなりの投資や業務フローの変更が必要ですが、将来の姿を自分たちで見つけることに注力してきたので、幹部メンバーがやりきってくれると信じています。10年後の夢の実現に向け、スピードを加速させ、走っていきたいです。
 また、10年後のアウトプットが2倍になるとして、その増加分は国内販売で担いたい。ブランド価値を高めて、ベトナムでの売上を増やすことです。国内販売は2008年から始めて、約20店舗を運営していますが、高価格帯なので購買層が限られてしまいます。
 一方、自分たちのブランドや誇りがほしいとの声が従業員から出ています。国内で売れれば従業員の満足度も高まり、雇用や離職の問題解決にもつながります。
 例えばですが、購買層をホーチミン市やハノイのオフィスで働く女性全般に広げる。彼女たちが求める価格帯の商品とバリエーション、サービスを揃え、それを自社で企画し、自社で生産する。ECチャネルも自社で創り上げたい。
 こんな感じに、やりたいことがたくさんあるんです。一人駐在では限界ですかね(笑)。

ベトナムワコールの外観

VIETNAM WACOAL CORP
片山雅敏 Masatoshi Katayama
大学卒業後、株式会社ワコールに入社。ブランドのマーチャンダイザー、他社との小売合弁事業、ピーチジョンの海外事業の立上げなどを経て、2010年に香港ワコールに副社長として赴任。帰任後、2018年4月より現職。