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ベトナムビジネス特集Vol140
投資と市場が急拡大! 再生可能エネルギー

太陽光、風力、バイオマス……ベトナムでは再生可能エネルギーによる発電プロジェクトが続々と生まれ、市場が急拡大している。政府も積極的にその後押しをしており、今後もますます盛んになるはずだ。その実際を取材から明らかにした。

シャープエネルギーソリューション株式会社 黒澤 氏

FITの開始で普及を察知
2018年から7案件を完工

 世界各地で大規模太陽光発電所を手掛け、設計、調達、建設(EPC)を一括して請け負うシャープエネルギーソリューション株式会社(SESJ)。日本をはじめアジアやヨーロッパに多数の太陽光発電所を建設しており、2017年にベトナムに参入した。わずか4年前だが、当時は1メガワット(1MW=1000kW)以上の発電容量を持つ太陽光発電所、メガソーラーは1つもなかった。

「ベトナムでもFIT(固定価格買取制度)が始まると知って乗り込みました。太陽光発電の市場はまだなく、EVN(電気事業者の国営ベトナム電力グループ)やMOIT(ベトナム商工省)が主催する展示会や発表会への参加から始めました」

 FITとは太陽光などで発電された電力を、国が定める価格で電気事業者が一定期間買い取る制度。普及を加速させる時限的な優遇政策で、ベトナムは2017年に始まった。

 展示会などには発注者となる発電所のオーナーや同業他社も集まる。コミュニケーションが生まれ、ネットワークを広げて、第1号案件を受注した。トゥアティエン・フエ省で2018年10月に運転が開始された、ベトナム初のメガソーラーだ。

「建設業のライセンスがなかったので、建設はベトナムのパートナー会社に委託しました。2020年にこの会社と合弁会社のSHARP NSN Energy Solutionを設立しまして、これからは建設もここで担当する予定です」

 太陽光発電のルール作りや法整備でEVNやMOITに協力しながら、次々と案件を受注。既に7つのプロジェクトが完工しており(表参照)、現在は8号目を手掛けている。オーナーは全てベトナム企業で、受注方法は全てが入札。入札の競合はベトナム企業だけでなく、日系を含めた外資系の建設会社も含まれる。

「信頼のある日本ブランドとリーズナブルな価格が優位に働くようです」

現地での設置作業

管理業務と調達業務
スペア40枚の高品質

 設置場所の現地調査をして、設計、見積もり。これで入札に臨み、受注後に着工する。SESJは50MWクラスが多く、その場合はおよそ1km×1kmの土地面積が必要となる。

 造成工事をして架台を設置し、その上に太陽光発電モジュール(太陽電池のパネル)を乗せる。電気の配線工事、送電線に電力を送る特高変電所を建設して、EVNの送電線につなぐ。試運転をして、パフォーマンステストを完了し、オーナーに引き渡す。50MWクラスで着工から運転まで約6ヶ月だ。

「日本からの日本人が3人、現地雇用のベトナム人が3人の場合が多いです。工事中はつきっきりになりますが、1号目から入っているベトナム人スタッフなので、頼もしく成長しています」

 工事を担当するパートナー会社への設置指導、品質管理、運転の指導などのマネジメント業務が中心で、各国からの調達業務も重要。対象は変圧器、インバーター、ケーブル、架台など多様で、太陽光発電モジュールはシャープ製だ。

 これまで設置したすべてのオーナーから言われるのが、「太陽電池が壊れない」。約50MWとなると太陽光発電モジュールは十数万枚も使うが、SESJがスペアパーツとして渡すのは40枚程度。一方、競合のとある外資系企業は300枚も提供する。不満に思うオーナーもいるようだが……。

「しばらく経つと納得していただけます。シャープ製は年間で4枚しか割れてないが、外資系メーカーのモジュールは300枚でも足りなかったという事例も聞いています」

ベトナム初のメガソーラー

電力の直接売買に商機
ベトナムの再エネに貢献

 ベトナム政府は産業用太陽光発電のFIT価格を引き下げ、風力発電やバイオマス発電のFIT価格を上げている。一方、電気事業者と企業などが売買契約を直接結ぶPPA(電力販売契約)の法整備を進めており、送電にはEVNの送電線を使う計画だ。

「フィジビリティとして来年度に、合計1GWクラスの太陽光発電で始めるようです。案件数はわかりませんが、うまくいけば継続的に横展開させるのでしょう。ここでベトナムの日系企業に新しいニーズが生まれると見ています」

 日本政府は2050年までに、温室効果ガスの排出量と吸収量を均衡させるカーボンニュートラルを目指している。加えて、企業の使用電力の100%を再生可能エネルギーとする国際的な「RE100」には、日本をはじめ世界の企業が参加している。

 つまり、PPAが始まれば、RE100を達成したい日系企業が興味を示すはずだが、どんな基準で契約する発電所を選ぶか。太陽光発電モジュールの品質、建設の信頼性、発電所の維持管理能力、電力単価などを考慮すれば、シャープの実績とブランドは非常に魅力となる。

「FITを目的とした場合、コスト優先で設置業者を選ぶオーナーさんもいます。しかし、直接の売買となれば、太陽光発電所の寿命と言われる20年は維持管理しながら、電力を供給し続けなければならなくなります。オーナーさんの意識も変わると思います」

 太陽光発電所は日照時間の長い中南部に多い。こうした場所で、近隣に送電線がある、1km×1kmの土地が選ばれるわけだが、既に南部の多くは埋まっているという。今後は中部や、沿岸部でない山側の土地が候補になりそうだ。

「ベトナムは日本と比べても太陽光発電に適した土地柄です。ベトナム政府もしっかりした計画やビジョンを持っており、ぜひ協力して、太陽光発電を一層普及させたいですね」

 これまでの7案件の出力規模は合計で約340MWとなる。これを超える規模の太陽光発電所を設置するのがこれからの目標だ。

年間総発電量
翔栄クリエイトの岩本氏

通常8ヶ月が5ヶ月に
調印翌日から工事開始

 太陽光、バイオマス、風力発電所のEPCを手掛ける翔栄クリエイト。海外初受注となったロンアン省のメガソーラーは100MWの大出力、初年度年間予測発電量は14万9270MWhで、約7万9000世帯分に相当する。これを5ヶ月、テト休暇を除けば実質4ヶ月半という短期間で建設した。

「2019年6月25日までの引渡しがオーナーの強い要望でした。なぜなら、6月30日までに商業運転すればFIT価格は9.35セントですが、それ以降は7.09セントに下がるからです。完工は6月24日でした」

 大手商社出身の岩本氏は東南アジアに人脈が広く、海外での太陽光発電事業を探っていたところ、2018年10月に情報が入った。10月4日にベトナムに飛び、書類を整えて入札、2019年1月28日に契約した。

「当時のベトナムの大型案件は中国企業が多く受注していましたが、低い評価を受ける会社もあって、多少割高でも責任感のある日本企業が良いという風潮がありました。それが追い風になったと思います」

 1月28日の調印翌日から4万本のコンクリートパイルを打ち込む。材料は事前に、業者に納入準備をさせていた。その上に軽量で丈夫なアルミ製架台の設置と順調に進むが、肝心の太陽光発電モジュールが届かない。

「1社では生産が間に合わないため、中国のメーカー2社にそれぞれ50MWのパネルを発注していました」

工事現場での記念写真

保証発電量を超えて稼働
ラオスでも大型案件を受注

 機器の輸入にはL/C(信用状)が必要で、輸入国であるベトナムの銀行2行、輸出国の中国の銀行、日本の銀行も経由されたため、書類の調整に時間がかかったのだ。ホーチミン市の港に到着しても受け取れず、結局第1回目のパネルの現地納入は5月9日、その後39日間でパネルの設置を完了した。

 工期中、翔栄クリエイトは日本人やタイ人の経験豊富な主任技術者、ベトナムの大学で土木や建築を学び、英語や日本語が話せるベトナム人3人を派遣して、現場のマネジメントに奔走。岩本氏は日越を往復しながら顧客企業と進捗管理、L/Cのサポート、多方面との交渉に当たった。最初のパネルの据付けからは連日600人以上の作業員が動員された。

「1ヶ月に2~3週間ベトナムに滞在し、週に2~3回は現場に通いました。まさに『走りながら考える』です(笑)。お客様が積極的に協力してくれたのが大変助かりました」

 太陽光発電所は現在も順調に稼働しており、保証した発電量を大きく上回っているそうだ。こうした実績が評価され、今年3月にはラオスでの太陽光発電所建設のEPCを受注した。2ヶ所の合計で出力規模が981MWとなる、東南アジア最大級のメガソーラーだ。

「ベトナムは日本より日射量が多くて太陽光発電に向いた土地柄で、優秀な労働力があり、人件費も安価。日本の政府系金融機関からサポートの話もあり、良い案件があればEPCに限らず発電事業にも参画したいです。今後はベトナム、ラオス、カンボジアが楽しみな市場ですね」

SOL Energyの青山氏

実質3社で合弁会社設立
合計1万kW以上を予定

 大手総合商社の双日が屋根置き型の太陽光発電市場に参入する。双日と大阪ガスの共同出資会社であるSojitz Osaka Gas Energy(SOGEC)と、再生可能エネルギー事業を手掛ける株式会社Looopは、今年10月21日に合弁会社であるSOL Energyを設立した。

 SOL Energyは双日がドンナイ省で運営するロンドウック工業団地において、入居企業の屋根に太陽光発電設備を設置する予定だ。その出力規模は合計で1万kW以上。SOGECのGenraral Directorを兼任する青山氏は語る。

「双日グループではフーミー3特別工業団地やロンドウック工業団地に天然ガスを供給しており、SOL Energyで太陽光発電事業に参入します。日本や海外で実績を持つLooopが技術面を担務します」

 双日は2009年に太陽光発電事業に取り組み始め、日本や海外で実績を積み上げてきた。今回の会社設立は、世界的な脱炭素意識やクリーンエネルギー利用へのニーズの高まりが起点。現在は複数の入居企業と契約交渉中であり、2022年中にも発電開始を見込むという。

「双日は工業団地へ入居いただいている取引先企業様に対し、より付加価値の高いサービスの提供を目指しています。屋根置き型太陽光は国の送電網を経由せず工業団地内でグリーン電力を生産、消費できるサービスであり、入居企業様の脱炭素化ニーズを満たすと共に、BCP対策としても意義のある取り組みになると考えています」

ロンドゥック工業団地

屋根置き型に多くのメリット
蓄電池も視野に

 ベトナムでの太陽光発電のFIT価格は下がりつつあり、地域によっては送電網の容量は埋まりつつある。向かい風の状況とも呼べるが、屋根置き型太陽光は電力公社への売電を目的とせず、工業団地内で電力が地産地消されて送電網の影響も受けない。

 また、顧客によって余剰電力が出る場合は、工業団地内で融通することもできる。顧客にとってのメリットだけでなく、工業団地全体としての脱炭素化へもつながる。

「分散型電源の普及拡大が予想され、市場成長性は十分あると見ています」

 今後はベトナム全土を対象にほかの工業団地や産業・商業施設向けの事業展開を目指し、日系のみならず環境意識の高い外資系や地場企業を取り込み、2025~2030年までに累計で5万kWまで増やしたいという。

「低炭素ソリューションとしての天然ガス供給や高度利用に加え、今回の屋根置き型太陽光サービスを開始しました。今後も蓄電池導入によるさらなるグリーン電力の利用拡大等、マーケットイン発想に基づきお客様、およびパートナー企業と共に、より付加価値の高い総合的なエネルギーソリューションを共創していくことを目指しています。ベトナムは法制度が徐々に整いつつあり、脱酸素やSDGsの潮流が見え始め、顧客のニーズも膨らんでいる。推進には困難も伴いますが、今後が楽しみです」

ONE-VALUEのPhi Hoa氏

太陽光発電がシェア3位
FITの開始で投資が急増

 日本企業のベトナム進出を支援する、ベトナムに特化した経営コンサルティング会社のONE-VALUE株式会社。多くの業界が対象だが、最も注力している分野の1つが再生可能エネルギー発電だ。

「ONE-VALUEがベトナムの再生可能エネルギーに注力する理由は、ベトナムの将来を支える産業のひとつが再生可能エネルギーだからです。再生可能エネルギーの政策の最新動向も調査しています」

 再生可能エネルギーとは太陽光、風力、バイオマス、小水力などで、ベトナムでは太陽光発電による発電量が多い。2020年の総発電容量は約6万9000MW、電源として最も多いのは水力発電の2万700MWで約30%、次が石炭火力発電の2万400MWで29.5%、そして太陽光発電の1万7000MWが24%だ。再生可能エネルギーでは風力発電が2番目に多くて630MW、次がバイオマス発電の570MWとなっている。

「ベトナム政府の計画以上に投資が過熱した太陽光発電はプロジェクト数が多く、弊社の案件でも一番に多いです。ただ、最近では風力やバイオマス、廃棄物の案件が増えています。特に今後はバイオマス、廃棄物の発電が有望な市場と考えています」

 太陽光発電所の建設が進んだ大きな理由はFITの導入だ。2017年の開始当時、1kWh当たりのFIT価格は9.35セントだった。電気事業者はこの価格で太陽光発電所から電力を買い取ることが義務付けられたため、新規参入者でも作った電力の売り先が担保され、国内だけでなく日本など海外からも投資が加速した。

「収益性があり、CO2削減に取り組む日本企業にとっても取り組みやすい。加えて、国際的なトレンドになっているSDGs(持続可能な開発目標)や環境保護、脱炭素の影響もあると思います」

諸外国の太陽光発電に適する土地面積比較

風力とバイオマスを優遇
屋根置き型太陽光に注目

 ただし、このFIT価格は2年間の限定的な優遇措置であり、2019年11月23日以前に承認を受け、2019年7月1日~2020年12月31日に商業運転を開始する太陽光発電所については、価格が引き下げられた。設置場所で差が出て、地上は7.09セント、洋上は7.69セント、屋根置き型は8.38セントとなった。

 一方、風力発電でもFITが採用されており、当初は1kWh当たり7.8セントだったが、2018年11月に陸上発電が8.5セント、洋上発電が9.8セントに引き上げられた。2021年10月までに送電網に接続し、商業運転を開始する風力発電所が対象だ。

 同様にバイオマス発電もFIT価格が引き上げられた。当初の5.8セントから2020年3月にコジェネレーション(熱電供給)で7.03セント、その他のバイオマス発電は8.47セントとなった。

 これらは太陽光発電の導入を抑制し、風力とバイオマスの普及を促進させるような措置だ。そのため、今後は風力、バイオマス、廃棄物発電への投資が進むと考えられる。

「FIT価格は下がっても太陽光発電での投資の採算は取れると思います。開発や生産のコストが下がっていますし、魅力的な市場であることは変わりません。ただ、今後は徐々に、100MW以上の大型案件と1MW未満のルーフトップ(屋根置き型)の小型案件に二極化していくと思います」

 屋根置き型とはビル、工場、住宅などの屋上に設置する太陽光発電システムで、売電のほか、自社や自宅の電力を賄うことが目的だ。上記のように屋根置き型のFIT価格は比較的高く、1MW未満なら許認可の取得が簡素化される。ベトナム人は環境や省エネへの意識が高いので、企業や個人がブームを起こすかもしれない。

「二極化は以前から始まりそうでしたが、太陽光発電所の案件の承認が遅れていたために進まなかったのです。PDP8が正式に承認されたら加速すると思います」

ベトナムの風力発電のポテンシャル

再エネが電源開発の中心
外資系企業の参入は続く

 ベトナム商工省は2021年9月、第8次国家電力マスタープラン(PDP8)の草案を公表した。2021年2月版が修正されており、今年末にかけて首相が承認する見通しだ。以前のPDP6、PDP7では、主に水力、石炭火力、ガス火力などの電源が中心だったが、PDP8では再生可能エネルギーが中心の電力開発計画となっている(タイトル下のグラフ参照)。

「石炭火力発電所は今後、計画している以外の新たな開発を認めない方針です。また、2月版よりも送電線の開発に投資する金額の割合を大幅に削減し、電源への投資金額を大きく増加させました」

 将来の商用電力需要は北部が南部を上回ると予想し、そのために北部の電源と送電網の開発を増やすこと、太陽光発電が供給過剰となった地域の開発を制限すること、再生可能エネルギーの将来の政策はFITから入札制度に変わること、なども盛り込まれているとホア氏は語る。

 風力とバイオマスにも期待が高まる。約3600kmの長い海岸線を持つベトナムは、太陽光だけでなく風力発電に適した気候と風土を持つ。また、農業と林業が盛んなため、バイオマス発電の燃料となる木質ペレット、もみがら、サトウキビ残渣などが安価かつ長期的に調達できる。

「一般的に風力発電は太陽光発電よりも建設の期間が2~3倍長く、投資金額も多くなりますが、案件が増えれば太陽光発電のようにコスト削減が進むと思います」

 一方のバイオマス発電も有望だ。ベトナム産の木質ペレットは日本国内のバイオマス発電所に向けて輸出しているほどで、燃料の不安はまずない。日本企業からの投資も増加している。

 外資系企業では欧米、韓国、中国、タイ、日本などが投資しており、正確な統計はないとしながらも、欧米系企業が多くて日系はまだ少ないという。ただ、同社への相談数は1年前に比べると1.5倍ほど増えているそうだ。

 ベトナムの再生可能エネルギー市場はポテンシャルが高いが、進出に当たってはベトナムの政策など十分な調査がカギとなる。同社での案件は最近ではM&Aが多いが、事前の情報を精査しないと失敗にもつながりかねないという。

「ベトナムの事情に精通していることがベトナムの再生可能エネルギー投資の大きな成功要因になります。有望な現地パートナーの探索はベトナムでネットワークがある専門家に依頼することが有効な方法です」

ベトナム国内の太陽光発電関連グラフ