当初予定していたのは美容やコスメの展示会「Vietbeauty & Cosmobeauté 2022」の取材。しかしSECCに入るととにかく人が多く、登録カウンターにはいくつもの長い列ができており、その先には地味なロゴマークで「Vietfish」。未経験の展示会でもあってこちらに切り替えた。
魚、魚、魚! ホーチミン市7区のSECCで8月24~26日、水産業の大型展示会「Vietfish 2022」が開催された。世界15ヶ国から約200社が約370のブースを出展。初めて参加したが、こんなに盛り上がってるとは知らなかった!
派手な演出の水産加工業者
予備知識もないまま入ってみる。この数ヶ月で数多くの展示会が再開され、私も参加しているが、これほど来場者が多いのは久しぶりだった。
出展者はベトナム企業がかなりを占めるが、来場者には外国人が意外に多い。日本人も数組見かけたが、目立つのは欧米系とインド系だ。出展品目は魚介類全般の水産品や水産加工品から水産工場で使われる設備、機器、備品までと幅広い。
ホールに入ってすぐ右手の目立つ場所。横に長いテーブルの上にクラッシュアイスを敷き、多種多様な鮮魚を展示していたのが「THAIMEX Seafood」。ファンティエットで魚の缶詰工場からスタートした、60年の歴史を持つ水産加工業者だ。国内だけでなくアジアや欧米へも輸出している。
メインの商材は「イカ」で、様々な種類と加工方法を提案している。ほかにも魚の切り身、エビ、タコ、貝類などの冷凍パックを並べており、興味深げに見る人など注目度も高く、商談もちらほら。
「ベトナム産の魚を、代理店、輸出業者、一般消費者にもアピールしています」
こちらも入口近くの好立地に出展していた「Mekong Seafood Connection」(MEKSEA)。広いブースの中心に鮮魚を並べてアピールし、周囲は小さなテーブルとイスを並べた商談スペースだ。
2010年設立の水産加工に特化した若い卸売業者だが、有能な生産者を集めてベトナムの国際的な知名度を高めることが社是。100以上の工場と協力して、世界80以上の市場に輸出している。
その事業の広がりは商談を見ると察せられた。開催2日目の午前中なのに10程度の商談スペースが満席で、展示者と参加者が真剣な表情で話す。顧客はベトナム人のほかに欧米人やインド人、韓国人らしきアジア人など外国人が多い。品目や値段など具体的なフェーズに入っている席もあった。
こうした業種では商品を加工して提供する場合が多く、エビの唐揚げが美味しかった。
日本企業の主力はマグロ
HAI NAMは8つの加工工場と2つの子会社を持ち、欧米、アジア、アフリカなどに広く輸出している水産加工の大手企業。国内ではスーパー、コンビニ、レストランチェーンなどへの卸業のほか、ECや店頭での直売もしている。
扱う魚介の種類は幅広く、加工方法も様々だが、今回のメインの展示は多彩な「干物」だ。サケ、アジ、キス、ハゼ、イワシ、カワハギ、イカ、エビなどで、手軽に手を伸ばせることから多くの人が試食していた。
食べ比べてみるとそれぞれの素材の味の差がわかり、美味しさが倍増。こんなきっかけから商談が始まるのかもしれない。
日本企業のEVERTRUST FOODS。ベトナムで捕れたマグロを主力商品として、国内販売と日本に輸出をしている。鮮度にこだわり、巨大なフリーザーで-30度以下に急速冷凍、加工したマグロは-45度以下の超低温冷蔵庫で保管しているそうだ。
パンフレットと一緒にA4用紙7枚にもなる商品リストを配っており、マグロのスライスやネギトロ、サーモン、サバ、日本産のマグロやキンメダイなどが豊富に掲載。着物姿のベトナム人スタッフを見るのは久しぶりだった。
「昨日の開催初日もお客さんが多かったのです。Vietfish 2022に出て満足しています」
斬新な商品&伝統の商品
素材に付加価値を付けた商品化を強調していたのは「Van Duc Tien Giang Food Export Company」(VDTG FOOD)。2007年設立の輸出向け食品メーカーで、食用ナマズのパンガシウスを主とした魚の皮の唐揚げやチップス、魚のジャーキー、切り身のカレー揚げ、ハンバーガーも提案。魚皮のスナック菓子が棚を埋め尽くす展示が興味を引かせる。
欧米人が好きそうな調理法やパッケージデザインで、やはり欧米に輸出しているそうだ。試食品とパンフレットがなかったのがちょっと残念。
ベトナムの魚醤であるヌクマムが好きな方ならご存じかもしれない。原料の名産地として知られるフーコック島にある、創業100年を超える大手魚醤メーカーの「THANH HA FISH SAUCE」だ。レストラン、ホテル、大規模スーパーなどで広く販売されているほか、欧米やアジアなど世界各国に輸出している。
小さめのブースだがライティングに工夫するなどおしゃれなデザインで、棚に並ぶのは何種類ものヌクマム。これほどの種類があるとは思わなかった……。店頭では4種類のヌクマムを揃えた試食サービスをしており、気に入ってその場で購入する来場者もいた。
ほかの調味料も展示しており、どんな商談がなされるのか知りたくなった。
マシン系にも興味津々
A1ホールのメイン入口から中ほどまでは花形(?)とも呼べる水産加工品のブースが多く、奥に進むほど設備や機械など製造業の展示が増えていった。
「Song Hiep Loi」は2台の異なる包装機を並べて展示。壁際のブースだがその細長いスペースをうまく活用していた。ここもそうだが機械や設備に注目する来場者は多かった。
一般的な包装機以外にも真空包装機、魚介類の重量選別機、異物を見つける検査装置、重量計などがあり、日本の大手計量・包装機メーカーのIshidaはX線検査装置を出展、日本やアメリカから輸入した装置を販売するベトナム企業もあった。
「HOANG GIA LAM」はベトナム全国でフォークリフトの販売、レンタル、修理を専門とする企業で、欧州大手Lindeのフォークリフトの正規代理店。
広い展示場にはLindeのフォークリフトが置かれ、ブースのデザインもその色に合わせた赤と黒で統一。イスやショーケースも赤、女性アドバイザーも真っ赤なアオザイ姿とこだわる。
フォークリフトはドイツから輸入しているとのこと。顧客となる来場者は限られてくると思いきや、想像以上に人が集まっており、商談も盛んに行われていた。
これは何に使いますか?
最初は何が展示してあるのかわからなかった。1つはフォークリフトなどが倉庫に入るときのドア代わりとなる自動巻取り式のカーテン。もう一つはトラックが倉庫に荷物を搬入する際のスロープとなる、自動で上下するナビドック。「Saigon Nam Phat」は産業機器業界のドアシステムと昇降装置に特化した企業だ。
「うちの製品は説明しにくいんですよ。パンフレットにQRコードが載ってますから、ここを見てもらうのが早いかな」
「Greenpan」は軽量建材の断熱パネルに注目した企業で、水産品の工場や倉庫で使われるようなドアをいくつも展示。ドアが並ぶ様子は非日常的で、来場者の質問に若いスタッフが熱心に答えていた。
調べてみると2017年に8人のエンジニアでスタートした企業で、現在のスタッフは70人以上だそうだ。グリーンで持続可能な建物を作ることが目標で、軽量不燃の建材で「ベトナムの建設方法を変える」としている。
「SCHAEFER SYSTEMS INTERNATIONAL」はドイツの大手自動搬送機メーカーであるSSIシェーファーの子会社。モジュラー型倉庫、ロジスティクス、自動化のソリューションやソフトウェアも提供している。
会場ではサンプルのラックが組まれて倉庫内の実際をイメージ。それなりに準備が必要だろうが、そのサイズからも人目を引く効果は高いはずだ。こうしたマテハン(マテリアルハンドリング)の自動化や効率化がベトナムで進めば、類似の出展企業が増えてくるのだろう。
話を聞くとやはり倉庫関連が主な顧客であり、「パンデミックが収まってようやく人がたくさんやってきました」と笑顔で語っていた。
活況ゆえに企業と人が集まる
水産品輸出の大手企業で、水産工場などで使用するユニフォーム、キャップ、マスク、グローブ、長靴などのメーカーでもあるVINASEA。今回は後者にフォーカスした出展だ。
ユニフォームは食中毒や異物混入を未然に防ぐ国際的な衛生管理手法のHACCPに対応しており、水産品同様こちらも世界に輸出している。
展示品の数々はカラフルな色使いが特徴。工場内ではしんどい作業もあるだろうから、特に女性にとってはうれしいのではないか。
ほかにもコンベア、プラスチックモジュールベルト、プラスチックパレットなどのサプライヤー、輸出入業者、コンテナ輸送業者など多くの業種があり、関連する調理用エプロン、包丁、調理器具などの会社が共同ブースで展示するケースもあった。まとめて見てもらうための工夫だろう。
また、声をかけられてパンフレットを渡された。内容を読むと魚も扱うがメインは野菜とフルーツのようで、ブースの場所を聞くとないとのこと。社名は「Pico Agriviet Fruit & Vegetable Viet Nam」。こんな営業の仕方だってある。
Vietfish 2022を通してベトナムの水産業はかなり活況な業界だと実感した。もう少し調べたくなった。