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特集記事Vol158
将来性に期待大
この国での新ビジネス

日本や先進国では革新的なサービスでも、ベトナム市場では機が熟していないと判断される場合がある。ならば、こうした事業をいち早く立ち上げた企業の真意や見込みはどこにあるのか。当地で新ビジネスを始めた3社に取材!

心臓外科医を辞して起業
生活期のデイサービス施設

 脳梗塞で寝たきりになった祖母をきっかけに、在宅リハビリの大切さを実感した森氏。心臓外科医という職を辞して2002年に設立したのが、自立支援に特化したデイサービス施設「ポラリスデイサービスセンター」だ。

 日本では世界でも高い水準の医療や介護が受けられるが、病院でのリハビリを終了、あるいは成果が出ないまま退院した後、自宅でリハビリを続けられない人が多い。結果として寝たきりとなってしまうケースもある。

「回復期を経て、自宅で暮らしている生活期の人は、デイサービスでリハビリを始めるのが一番です。そのための自立支援介護施設です」

 要介護や寝たきりの人はすぐに歩けないので、まずは阻害要因を取り除く。そのため、脱水状態を防ぐ十分な水分や、必要な栄養を補給できる食事を提供し、薬を使わず生理的な排泄を促す。そして、モチベーションを高めて徐々に運動を始める。この身体的自立が精神的自立、社会的自立へと広がっていく。

 運動は「パワーリハビリテーション」として専用のトレーニングマシンを使うが、筋トレではない。太極拳に似た動きで上半身、体幹、下半身に軽い負荷をかけて、使われなくなった神経や筋肉を活性化させる。また、安全免荷装置付きの歩行マシンを使い、利用者を吊るした状態で歩く練習もする。歩行が安定したら外出しての歩行訓練に移る。

「複雑な動作をマスターしたいならその動作を繰り返すこと。自転車や水泳、ピアノだって同じでしょう。従来のリハビリは歩行のために筋トレを推奨してきましたが、実際に歩行しないと歩けないのです」

 料金は送迎付きで半日コースが4000円~6000円、1日コースは6000円~1万円で、食事代やドリンク代は別途。介護保険のタイプにより実際は1~3割の負担となる。

 ポラリスデイサービスセンターは関西を中心に70以上。また、「自立支援クラブ」として開業をサポートしており、起業した自立支援介護施設は約30になる。日本は2016年に介護の軸足を自立支援に移しており、今後のニーズ増は確実視されている。

「高級ホテル内や世界一周の客船内に施設を作って、3ヶ月などの滞在中や旅行中に利用していただくプランもあります。寝たきりでも要介護でも、元気になりたくない人はいないんです」

世界にメソッドを広げたい
今後はフランチャイズ展開

 自立支援介護のメソッドを世界に知ってほしい。そのためのモデルとなる国を作りたい。選ばれたのがベトナムだった。今後は日本以上に急速な高齢化が進み、介護保険は始まっておらず、平均所得が高くない国だからこそ、こうした施設がいち早く必要と考えた。介護のための施設や人材の不足も理由となった。

「色々な国を視察しました。アジアではタイやインドネシアは進んでいて、逆にミャンマーやラオスは未成熟。JICAや経産省の方々とも協力して決めましたが、実は私はベトナムが大好きなのです(笑)」

 2022年9月に地場の医療リハビリサービス運営会社のRemedyと業務提携をして、ベトナム初の自立支援介護施設「ポラリスリハビリテーションセンター」をハノイに開設した。

 専用のマシンによるリハビリや歩行訓練などのプログラムは日本と同じだが、異なるのはクリニックの併設。ベトナム保健省の管轄となったためだが、日本では企業でもデイサービスを提供できる。今後はセンター単独での展開を考えている。

「ベトナム国内にフランチャイズで増やす予定ですので、医師が必要となってはハードルが上がります」

 日本の半日、1日コースではなくベトナムは2時間が基本で、食事、入浴、送迎は提供していない。そのため、利用者は家族が送迎したり、自分で来られる人に限られる。送迎サービスは提供したかったが、施設がハノイ中心部にあって渋滞がひどいので断念した。

 サービスの提供時間は年末年始を除く月~土で、60歳以上が対象。料金は何度でも利用できて1ヶ月840万VND、3ヶ月で1800万VND。現在(取材時)の利用者は10人で、アッパーミドル層もいるが富裕層が中心だという。スタッフはクリニック含めて8人、ポラリスからは3人だ。

「労働集約性が高いので、スタッフにはオンラインを中心にしっかりと研修をしています。現在は日本のベトナム人スタッフがハノイで研修する仕組みを作っているところです」

ベトナムで介護人材を育成
日本への送出しも進出理由

 ポラリスは現在、スタッフを育てるための研修制度を整えている。フランチャイズのための準備もあるが、ベトナムに進出した目的の一つが、自立支援介護を学んだベトナム人を日本に送り出すことだからだ。

「技能実習制度の介護職種で多いのはベトナム人ですが、介護も日本語もベトナムで十分に学んでいる人が少ないと思います」

 そこでポラリスがベトナムで自立支援介護と日本語を教育・研修して、指導者レベルで日本に送り出す。日本で3~5年の期間を終えてベトナムに帰国する人、日本に滞在し続ける人に分かれるだろうが、彼らが日越の自立支援介護を広げていく。帰国組には身に付いたスキルを無駄にさせないため、ベトナムでの受け皿を用意する。それを見据えたフランチャイズ展開でもあるのだ。

「その前段階としてハノイの施設を郊外に移して、利用者の宿泊施設やスタッフ用の寮も作り、フランチャイズ本部も立ち上げたいと思います。自立支援の輪が広がるなら、将来はベトナム資本に入ってもらうのも良いですね」

町工場はサプライパートナー
現場とデジタルで課題解決

 2017年設立のスタートアップであるキャディは、主に金属加工部品を求めるメーカーと供給したいサプライヤーをつなぐ「調達・製造のワンストップパートナー」だ。単なるマッチングではなく、彼らがサプライパートナーと呼ぶ町工場と一緒にモノづくりをしながら品質を担保し、調達の窓口となってメーカーに製品を納入する。キャディは自らを「Virtual Factory」(仮想工場)と呼ぶ。

「キャディの社員がパートナーの工場に出向いて、製造、オペレーション、コスト計算、生産改善などの課題解決をサポートしています」

 多くの工場との横断的な連携から生まれる知見、図面解析やコスト計算などの自動化を進めて、多忙で新たな取組みが難しい中小製造業を支援している。一方のパートナーは独自の技術や経験を持つので、切磋琢磨する中で同社が学ぶことも多いという。こうした企業は100社を超えている。

 CADなどでデジタル化が進む設計と異なり、調達は現在でもアナログが中心だ。その課題をリアルとデジタルで組み合わせて変えていく。顧客メーカーへの販売差額が収益となるが、支援の良し悪しと収益構造が一体化しているのが特徴だ。

 製品は板金、切削、製缶などの金属加工から樹脂やハーネスまでと多彩。顧客の業態は幅広く、日本の大手産業機械メーカーの7~8割と何らかの取引があるそうだ。その中で比較的少ないのが自動車業界。量産品かつ系列企業や協力会社と既にサプライチェーンを築いているからで、キャディは半導体製造装置、工作機械、食品・包装など多品種小ロットで、サプライチェーンが弱い分野を得意としている。

「産業装置の部品は何千何万とあり、皆さんが調達に苦労していました。そのため話を聞いてくれて、手を付けていない分野から一緒に分析していったのです」

 目的は部品の完成度よりも顧客企業の事業の成長。そのため、特定の部品を使わない設計変更でのコストダウンを提案するなどもある。また、部品の仕上がりなどは暗黙知で語られることも多いが、それでは新しいパートナーに発注できない。合理的な説明での期待値の調整も大切な仕事になる。

ベトナム、タイ、米国に新拠点
製造知見とIT開発が国の魅力

 創業時から海外展開が目標。日本の製造業の悩みは世界共通の課題なので、世界レベルでの解決を考えていた。2022年3月にホーチミン市、11月にタイ、2023年1月には米国、2月にはハノイと現地法人を次々に設立し、従業員は全世界で約700人に増えた(取材時、以下同)。

「ベトナムを選んだ理由は一定の技術力を持つ製造業と、日本では難しいIT人材の獲得です。ITはグローバル開発なので英語人材の多さも理由です」

 キャディは2022年6月に提供を始めた図面データ活用クラウド「CADDi DRAWER」をはじめ、ソフトウェアを自社開発している。CADDi DRAWERはメーカーがPDF等の状態で保管している大量の図面から部品名、加工方法、図番などのテキスト情報を自動で抽出・構造化。形状の類似性を独自開発のAIで判定できるほか、発注先や価格等の情報と紐づけすることで、「過去の図面がすぐに検索可能」な環境を作る。自社用に開発したが顧客の反響が大きくて外販した。

 ベトナムにはIT開発チームと現地工場向けのチームがあり、総数は50~60人。ベトナムとタイは部品の調達先であり、市場である日本と米国に輸出している。タイを選んだ理由は製造業が一大産業で日系企業も多いことから、日本品質への理解と仕事の幅が広いと考えたからだ。

 ベトナムでのパートナーである町工場の開拓は、日系公共機関のサプライヤーリストや紹介などから始めた。多いのは板金・溶接と機械加工の2分野で、パートナーは現在数十社。案件の立上げ時には日本人が来越し、出張やオンラインミーティングもあるが、基本的に当地のベトナム人が工場を支援している。

 彼らは日本メーカー出身など優秀な人材が多く、課題の深刻さに共感していて、ベトナムやこの国の製造業を伸ばしたい人が中心となっている。

 日本では人材不足から生産性向上などに取り組むが、人手が多いベトナムではその人数ゆえに改善策など選択肢が増やせるという。製造ノウハウがあってエンジニアの多いタイは日本とベトナムの中間にあり、人口が減少しているので日本のノウハウのほうが活かせるそうだ。

精度の高い品質は難しいが
ベトナムからの輸出は増加

 設立1年でベトナムからの出荷は増加傾向にある。全体最適を図るための世界展開なので、自動化しにくいものは人手の多いベトナムで作るのが望ましい。ただ、この数年で技術力が向上しているとはいえ高品質な部品はまだ難しく、この解決が今後の課題だ。

「ベトナムには工場で働いて5~10年の人が多く、国全体が勉強中です。その分だけ改善余地が大きく、やりがいがあると思っています」

 昨年から今年にかけて3ヶ国に拠点を設立し、現在は地固めの時期。新たな事業を始める予定はないが、ホーチミン市、ハノイ、バンコクの3拠点を管理する武居氏は語る。

「個人的にはこれだけ成長しているベトナム国内で部品を販売したいですね。また、図面管理で困っているのは皆さん一緒なので、CADDi DRAWERをベトナムとタイで提供したいです」

 ベトナムにおいては「キャディっているね」と製造業関係者の話題に上るような存在になりたい。そうなれば現在は数十人規模の従業員が2~3年後には数百人規模になって、事業が一層拡大すると信じているからだ。

これから伸びる製紙のニーズ
資源の古紙は回収率30%

 JUNK & Coグループは日本では関西圏を中心に16ヶ所の工場拠点を持ち、古紙リサイクルを中心にプラスチックやスクラップなどを再資源化している。

 古紙であれば回収後に混入物を分別し、大型プレス機で圧縮・加工して、製紙工場に販売する。製紙工場の溶解処理などを経て再生紙に生まれ変わるのだ。

「異物を除去して比重を上げます。紙なら容積はあっても重さがないので、圧縮などで比重を出し、再生に利用しやすい形にして、原材料に付加価値を付けるのです」

 日本の古紙回収率は約80%と世界トップクラス。捨てる側がきちんと分別し、ごみの種類で回収日が異なるなどが大きな理由だ。だから古紙の再生率も64%と高いのだが、ペーパーレス化や新聞など紙媒体の減少もあって、供給増となってしまった。

「この20年ほどは中国や東南アジアへの輸出が増え、しかもこちらのほうが高く売れたのです」

 しかし、古紙の一大市場だった中国は徐々に輸入規制を強めて2021年には全面禁止に。日本のリサイクル業者は台湾、韓国、タイ、インドネシア、マレーシアなどへの輸出を徐々に増やし、特にベトナムが伸びた。中村氏の目に留まる。

 ベトナムは約1億人の人口で、経済発展による所得増で購買が増え、ごみも増加している。2019年のごみ(生活廃棄物)は1日に約6万5000t。その約70%以上が埋め立てられてリサイクルは進まず、古紙回収率も30%程度だ。

 一方、紙の生産量では段ボールに使う板紙で年産約600万t。日本は約1000万tだが、2025~2028年には日本を超えると予測されている。段ボール1000万tには原料である古紙が1000万t以上必要になる。

「需要が伸びても古紙の回収率が低いため、製紙メーカーは品質の良い日本などから輸入しています。しかし、リサイクルや環境、ビジネスの面でも地産地消が一番です。先行者利益を取りたいと思い、設立の2年前から市場調査を始めました」

「おばちゃん軍団」を組織化
資源の発生元は個人や企業

 2020年8月にJUNK & Co. Vietnamをハノイに設立。古紙の販売先である製紙メーカーがハノイ近郊のバクニン省に集中しているためだ。中村氏によれば多くは家族経営で、ベトナム全土の製紙メーカーの約20%がここにあるという。

「製紙メーカーの製品は段ボール、キッチンペーパー、トイレットペーパー、コピー用紙、化粧品などの箱と様々です。ローカル企業が99%で外資系の製紙工場もあり、販売先は困らないと思いました」

 課題は資源となる古紙の回収だ。同社の回収先は法人が工業団地、商業施設、オフィスビル、マンションなどで、個人として注目したのが、生計のためにごみを回収しているジャンクバイヤーだった。ハノイに1万人ほどいると言われ、そのほとんどが女性。この「おばちゃん軍団」と一緒に仕事ができれば、新しい風が吹くと感じた。

 彼女たちは広範囲でごみ回収をしているので、何ヶ所かの集積所に運んでもらい、同社のトラックでまとめて集めて倉庫へと持っていく。中村氏を含めた約20人の社員が数百人というジャンクバイヤーに仕事を教えるが、思い通りにいかないことも多々ある。それでも回収効率や分別教育などを伝えてネットワーク化していった。

 企業は1ヶ所からの回収量は多いが、移転や撤退でゼロになる可能性もある。デリバリーコストは高くなっても家々から回収する個人は継続性があり安定すると、両者のバランスを考えている。実際、これまでの多忙期は新型コロナ禍のロックダウン期間で、企業や工場は閉鎖が続いたが、家庭からのごみは急増した。

 古紙の価格は先物取引のように毎日変わる。同社の場合は様々な情報と経験値から中村氏が決めており、ジャンクバイヤーへの支払い価格も変動する。この単価は今年、昨年対比で大幅に下がったという。

 ベトナムでの社会課題はこうした個人業者が回収するので、安くなれば仕事を辞める人が出てくること。結果として資源回収量が減って生ごみは増える。そこで中村氏は仮に1ヶ月に5tを集めていたら2倍の10tとする方法を教えるという。単価が戻れば収入も倍増する。

「こうしたサポートをわかってもらえないこともありますが、それも楽しみながらやってます(笑)」

ビジネスの相手はベトナム人
ゴミ分別のイベントも開催

 同業他社は増えていて、南部に多い。回収先となる商業施設や工業団地、顧客としては大手の外資系製紙メーカーも集まっているからだ。ただ、同社は仕入れも販売先もほぼローカルなので北部に根を張る。

 市場調査中にはジャンクバイヤーからごみを買い、タクシーのトランクに積んで、製紙会社に売込みに行ったことも。売り手と買い手がベトナム人で、本当にビジネスになるかを試したのだ。

 また、中村氏が先頭に立って、ショッピングセンターなどでゴミ分別のイベントを開催している。家庭ごみの分別方法だけでなく、分別で何が変わるかの意義から伝えており、こうした草の根活動を行うことが未来のベトナムでの環境対策になると信念を持つ。

「ベトナム人は分別を知らないだけです。それを私たちが可視化して、実務として教えています」

 工業団地に社屋を移転して1年が経った。回収量は当初の計画通りだが、工場の稼働率をもっと高めて、将来は工場を20ヶ所程度に増やしたいと語る。目指すはベトナムの資源集荷ダントツのナンバーワン。

「私たちが資源を集めればジャンクバイヤーの職務の地位も向上すると考えます。ごみが減って悲しむ人はいないですし、ごみが減れば皆が笑顔になります。だから私たちは発展できるのです」