日本の警備をベトナムへ。2009年に進出し、2019年から新体制となったアルソックベトナムセキュリティ。機械警備へのシフトやAEDの普及などと共に、ベトナムでの警備の意識を変えたいと藤島洋社長は語る。
警備に関連する4つの事業
―― ベトナム進出後について聞かせてください。
藤島 綜合警備保障の独資で、2009年にALSOKベトナムをホーチミン市に設立しました。業務は工業団地全体のセキュリティなどのコンサルティングと、監視カメラなど警備関連機器の販売です。当時は外資規制で警備員の派遣ができなかったため、常駐警備業務はローカル企業に委託していました。
その後、2016年にハイフォンの現地警備会社を買収し、連結子会社としてALSOKベトナムセキュリティを設立します。ここで初めて自社での警備事業をスタートしました。そして、ALSOKベトナムの業務をこの会社に引き継いで、2019年4月にアルソックベトナムセキュリティ1社に統合。現在はハノイとダナンにも拠点があります。
―― 現在の業務内容を教えてください。
藤島 大きく分けて、常駐型の警備サービス、空間センサーや赤外線センサーなどを使った機械警備サービス、監視カメラ等の警備関連機器の販売、コンサルティングになります。
常駐型警備は名前の通り、工場やビルなどの入口や内部に警備員が常駐するサービスで、売上の割合が圧倒的に大きいです。弊社の社員は約1650人で、そのうち警備員は1500人以上です。
以前は工場の警備が多かったのですが、近年はホテル、小売店、オフィスビル、高級レジデンスなどに広がりました。ベトナムは小さなビルや店舗の前にも警備員がいるように、警備会社の数も多く、約2600社あります。こうしたローカル企業より価格は高いのですが、入居者や居住者の方に日本式の丁寧なサービスを提供しており、そのクオリティでもお客様に支持されています。
警備員の教育にも力を入れていまして、自社の研修所が北部はハイフォン、南部はビンズオン省にあり、宿泊施設や食堂も併設されています。警備員は資格制なのでその取得のためと、新人研修やリーダー研修も行っています。
ただ、警備員の人件費上昇や効率化などの面から、徐々に機械警備を増やそうとしています。
―― 機械警備とは何でしょうか?
藤島 建物の内外に空間センサーや赤外線センサーを取り付け、異常を感知すると警報が出てガードセンター(自社の監視センター)に信号が届き、警備員が駆け付けるサービスです。お客様や警察にも通報しますし、警備員到着までの盗難、破損などを想定して、保険会社とタイアップしています。
このようなシステムは日本では広く知られていますが、ベトナムでは警備員による監視や見回りが一般的で、まだまだ認知度は低いです。ただ、最近は飲食店などベトナムのお客様が増えていまして、警備員を置くより安全で、コストダウンにもなるといった評価をいただいています。
現在、常駐型警備、機械警備のお客様の大多数が日系企業ですが、もっとベトナムのお客様にご利用いただきたいです。
警備関連機器の販売では監視カメラが多く、お客様は飲食店、オフィス、工場、ショッピングモール、小売店、ホテルなど幅が広いです。売って終わりではなく機器の設置やメンテナンスにも対応していて、こちらもローカルのお客様が増えています。
日本式の警備をベトナムに
―― ベトナムの警備事情をどう考えますか?
藤島 警備の考え方は国ごとに大きく異なります。私はナイジェリアの日本大使館と米国ボストンの総領事館で、主に在外公館の警備に従事する在外公館警備対策官を務めました。日本とベトナムを含めた4ヶ国で説明します。
アフリカのナイジェリアは非常に危険で、移動は防弾車、武装警察官は常に同行といった地域もあります。市民はその危険性を熟知しており、高い危機意識を常に持っています。
アメリカはテロの恐れがあり、多様な人種が住む国です。場所によっては最高レベルの警備体制が求められており、警備への意識も普通以上です。
日本ではテロの危険はあまりなく、市民の危機意識も高くありません。警備員の業務は荷物検査などが多く、ただし、相手への丁寧な接遇が求められます。失礼のないホスピタリティが必要になるのです。
ベトナムも治安は悪くないですが、警備のためには人がいれば十分という考え方です。しかし、警備員になりたい人も多くないですし、彼らの警備への意識は低く、トレーニングも受けていない。これでは警備をしていないのと同じです。
そんなベトナムの警備を、日本式のホスピタリティのある警備にするのが私の希望です。そのためにはまず、警備に対する考え方を変えなくてはいけません。
―― どのようなことでしょうか?
藤島 警備員の処遇を向上させること、そして警備業者の意識を変えることが大切です。私が赴任して3年が経ちますが、残念ながら弊社でもまだ意識改革が足りません。そこで年に1回は幹部を日本に派遣して、考え方を改めようとしています。そうでないと警備員も変わらないからです。
また、日本で品質向上コンテストに参加させたり、日本や他国での研修も計画しています。今後は優秀な若手に日本で半年~1年の研修して、幹部候補生として育てる方法もあるでしょう。
AL:SOKには私のような在外公館警備の経験者が約800人おり、各国の経験を警備事業に生かしています。海外には2007年にタイ、2009年にベトナム、2013年にインドネシアに現地法人を設立しています。このような知見もありますので、ベトナムの警備を変えられると信じています。
―― 御社はAED(自動体外式除細動器)の普及活動もしています。
藤島 はい。ベトナムでもマラソンやスポーツの最中に心臓発作を起こす人がいますが、AEDの認知度はまだまだ低く、医療関係者にも知らない方がいらっしゃいます。以前の日本も同様でしたが、今では病院だけでなくオフィスや公共施設にも設置され、日本人の多くがその存在を知っています。
弊社では以前からCPR(胸骨を圧迫する心肺蘇生法)のセミナーも開いており、AEDとCPRをベトナムに周知させたいと啓蒙活動をしています。
心臓発作を起こした人がいたら、まずはCPRの応急手当を施し、その後AEDを装着して、必要なら電気ショックを行います。弊社ではAEDの販売と一緒に座学と実技のトレーニングを提供しており、定期的なセミナーも開催しています。
2018年のベトナム着任以降、毎年売上げを伸ばすことができました。もちろんうれしいことですが、警備会社と警備員のイメージを大きく変えて、ベトナム社会の安全・安心に貢献したい気持ちが強いです。