1994年に駐在員事務所を開設、ベトナム市場の拡大から2010年に富士ゼロックスベトナムを設立した。6年連続でA3複合機販売のシェアトップを継続し、2桁成長を続ける要因を、営業畑出身の柳谷社長が語る。
販売と保守の「コト売り」
―― 御社の事業について教えてください。
柳谷 富士ゼロックスの複合機の販売と保守サービスです。ただ、売って終わりではなく、そこからが本当のビジネスの始まりであり、オフィスの生産性を上げたり、業務の作業効率を高めることが目的です。
例えば製造業のお客様では、設計図面をFAX送信ではなく、スキャンして複合機から複合機にメールで送る。画像はより鮮明になりますし、時間や紙を節約できます。また、図面には修正がつきものです。最新のクラウドサービスでは、、新旧2つの図面を重ねてスキャンして変更箇所を確認するなどの、ソリューションも提供しています。もちろん、情報漏洩防止のために暗号化して送受信するなど、セキュリティ対策もアドバイスします。
もう一つ大切なのは販売後のサポート、保守です。弊社には約40人のエンジニアがおり、日本と同じトレーニングを受けていて、日本での研修にも参加しています。彼らの存在が弊社にとってとても重要であり、富士ゼロックスではモノを売るだけではなく保守などを含めた、「コト売り」と表現しています。
―― 複合機はA3がメインですか?
柳谷 その通りです。ハイフォンと中国の深センが富士ゼロックスの2大生産拠点で、そこから世界各地に輸出しています。ベトナムでの販売価格は日本とほぼ同じです。
ベトナム全体ではカラー複合機の割合が全体の10%程度とまだ少ないのですが、お客様に大手企業が多いこともあり、弊社が販売する複合機の半分はカラー機になっています。
商業印刷用のプロダクションプリンターも販売していて、印刷所やデザイン会社などが主要なお客様になります。このショールームにもいくつか置いています。
―― ずいぶん大きなプリンターです。
柳谷 はい。機器によりかなり違うのですが、数百万円から数千万円します。例えば、小冊子やパンフレット、アパレルなどの商品タグ、結婚式の豪華な招待状や式のアルバムなどは、現在ではプロダクションプリンターで印刷されることが多いです。印刷の世界にもデジタル化の波が押し寄せています。
どれも小ロットなので、従来のオフセット印刷機では印刷単価が高くなりますし、プロダクションプリンターの精度や仕上がりは従来より格段に上がっています。例えば、商品のタグにはブランドのロゴが入りますが、使われている色は厳密に指定されており、その色合いが異なるとタグとはなりません。大手メーカーの厳しい基準に耐えられる印刷ができるのです。
販売については、以前は代理店経由でしたが、現地法人化してからは日本と同様の直接販売にしています。
シェア1位と2桁成長を維持
―― ベトナムでA3複合機のシェア1位と聞きました。
柳谷 自慢になりますが(笑)、6年連続でシェアトップです。直販体制かつ人材教育に力を入れているので、どうしてもコストがかかります。ですが、その価値をお客様にも丁寧にご説明し、理解いただいていると思っています。
シェアが高い理由の一つは、早くから日系企業と韓国系企業への浸透を戦略的に進めてきたことです。現在の売上の割合は日系と韓国系のお客様で約半分となっており、台湾系企業も増えてきています。ベトナム企業は中古を使うことがまだ一般的ですので、こちらは大手企業が中心です。
もうひとつの理由は、お客様の保守への満足度が高いことだと思います。一旦シェア1位になっても、サポートの評価が低ければそれを維持できません。日系企業も韓国系企業も要望のレベルが高いので、それにエンジニアが鍛えられたという面もあるでしょう。
全体的に見てベトナム市場はまだ小さく、ASEANではGDPや一人当たりGDPに沿った形の市場規模となっています。つまり、インドネシア、タイ、シンガポールなどが大きく、下はフィリピン、ベトナムの順です。
―― 大きな成長余地があると?
柳谷 今後は爆発的に拡大すると感じます。そのため、ベトナム企業への浸透が現在の課題であり、ローカライズがそのカギを握るととらえています。
私は、ベトナム人は適応力が高いと思います。赴任当時、社員たちは細かく出された指示に従って、きちんと仕事をしていました。高い適応力を活かして、そのように自分を変えていったのでしょう。しかし、激しく変化する市場ではより積極性を出すべきであり、特に営業体制でベトナム人の主体性が必要になります。
そこで、重要なポストの日本人を減らして、ベトナム人を抜擢しました。すると、彼らが部下をリードするようになったのです。これも適応力が高いためでしょう。これからはらもうひとつ新たな会社を創るという気概を持って、ベトナム人社員と一緒に変化を出していきたいです。
―― やるべきことは数多くあるわけですね。
柳谷 他の製造業でも見られますが、複合機もコモディティ化が進んで、他社との差別化が難しくなっています。弊社はお客様へのソリューション提供や保守サービスに強みがあると思いますが、競合他社が同じようなアプローチを始めています。優位性を保つには、トップ自身が変わり続けて、市場をリードする必要があります。
そのためには変化に対応して市場の先読みをすること。タイ、マレーシア、中国など少し先を行っている市場を参考にして、前例からニーズの動きを読むことが重要です。そして、社員の能力を最大限発揮できるような制度や環境を作る。これが私の主業務です。
弊社は対前年比の売上で、約10%の2桁成長を続けています。このGDPの成長率以上の成長を維持し、高めていくことが目標です。また、この地でビジネスをさせていただいている我々の使命として、ベトナム人従業員、そしてこの国の成長にも寄与していきたいと考えています。